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得るものと失うもの
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「千紘がこんなにしつこくなかったら、とっくに切ってたのに」
凪は本音を語った。千紘のことをよく知る前なら、いくらでも関係を絶つことができた。もうセラピストを辞めるんだから、千紘の写真をばら撒かれたっていいや。そう思った日にでも連絡先をブロックすることだってできた。
けれどそうはしなかった。千紘が諦めが悪くてしつこかったからだ。凪のことを考えているといいつつも、決して凪のことを諦められなかった。
泣いて縋る程凪に恋していて、健気に凪の人間性を信じた。
いつか千紘は「諦めて俺のモノになりなよ」と言ったが、千紘の方が凪を諦めることは絶対にないのだと凪は感じた。
結局のところ、千紘が望んだように凪の方が諦めるしかなかった。
女性との恋愛も、結婚も、千紘との関係解消も。全てを諦めることで、全ての悩みから解放された気がした。
女性とのセックスを無理してしなくていいと気付いたし、恋愛感情がないのに付き合うことに意味はないと知ったし、子供の頃の家庭環境がネックになって結婚に理想を描けないことを否定する必要もなくなった。
つまり、凪にとって一般的に男性が辿る人生のルートを、他人と同じように自分も選択しなくてもいいのだと気付かされたのだ。
それも全て千紘が影響していた。千紘にとって『男性の普通』は無縁だし、いつだって自分の生きたいように自由に生きている。
凪だってそんなふうに自分勝手に生きてきたつもりだったのに、千紘と比べればこころのどこかで『普通』を追い求めて勝手に苦しくなっていたように思えた。
しかし、それももうしなくていい。自分自身が楽だと思える道を選択していいのだ。それが凪にとっては千紘と同じ空間を過ごすことだった。
「俺は正直、お前が言うほどお前のことが好きなわけじゃない」
「うん……」
千紘だってそんなことはわかっているが、これもまた直接言われるとそこそこ傷付くものだ。
「でも、その辺の女と一緒にいるよりは千紘といる方が楽だと思ったし、触れられるのも嫌じゃないし、追いかけられることにも慣れた気がする」
凪は千紘のことが好きだとは言えないが、少なくとも嫌いではなく、限りなく好きには近付いてきているような微妙なラインに立っていることを不器用ながらに伝えた。
凪は本音を語った。千紘のことをよく知る前なら、いくらでも関係を絶つことができた。もうセラピストを辞めるんだから、千紘の写真をばら撒かれたっていいや。そう思った日にでも連絡先をブロックすることだってできた。
けれどそうはしなかった。千紘が諦めが悪くてしつこかったからだ。凪のことを考えているといいつつも、決して凪のことを諦められなかった。
泣いて縋る程凪に恋していて、健気に凪の人間性を信じた。
いつか千紘は「諦めて俺のモノになりなよ」と言ったが、千紘の方が凪を諦めることは絶対にないのだと凪は感じた。
結局のところ、千紘が望んだように凪の方が諦めるしかなかった。
女性との恋愛も、結婚も、千紘との関係解消も。全てを諦めることで、全ての悩みから解放された気がした。
女性とのセックスを無理してしなくていいと気付いたし、恋愛感情がないのに付き合うことに意味はないと知ったし、子供の頃の家庭環境がネックになって結婚に理想を描けないことを否定する必要もなくなった。
つまり、凪にとって一般的に男性が辿る人生のルートを、他人と同じように自分も選択しなくてもいいのだと気付かされたのだ。
それも全て千紘が影響していた。千紘にとって『男性の普通』は無縁だし、いつだって自分の生きたいように自由に生きている。
凪だってそんなふうに自分勝手に生きてきたつもりだったのに、千紘と比べればこころのどこかで『普通』を追い求めて勝手に苦しくなっていたように思えた。
しかし、それももうしなくていい。自分自身が楽だと思える道を選択していいのだ。それが凪にとっては千紘と同じ空間を過ごすことだった。
「俺は正直、お前が言うほどお前のことが好きなわけじゃない」
「うん……」
千紘だってそんなことはわかっているが、これもまた直接言われるとそこそこ傷付くものだ。
「でも、その辺の女と一緒にいるよりは千紘といる方が楽だと思ったし、触れられるのも嫌じゃないし、追いかけられることにも慣れた気がする」
凪は千紘のことが好きだとは言えないが、少なくとも嫌いではなく、限りなく好きには近付いてきているような微妙なラインに立っていることを不器用ながらに伝えた。
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