ほら、もう諦めて俺のモノになりなよ

雪村こはる

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甘えん坊

04

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 千紘が仕事でいない家で、凪が1人で過ごすことも多かった。仕事の時間が合わなければ当然だった。
 その間、物色するつもりはなかったものの特にどこを触ったらダメと制限されていたわけでもないため、暇つぶしにクローゼットを開けたり洗面所に並ぶスキンケア用品を見たりした。

 そんな中で千紘が勝手にお揃いにした生活用品が目に入る。凪の匂いだからとただ嗅ぐ用に買った香水が大事に保管されていたり、凪がもう使わないと言ったアクセサリーが宝物のように小さな箱に入っているのを見つけた。

 千紘がいなくても、千紘からの言葉がなくても千紘の家にいるだけで凪に対する愛情は沢山伝わった。
 千紘に対する自分の感情に向き合おうとすればするほど、千紘からの愛情を受け取ったらどう返していくべきなのかを考えた。

 自分が傷付けられたとずっと被害者でいたが、自分が千紘を傷付けた自覚もあった。千紘が自分に好意を寄せていることをいいことに、ワガママを言っていることもわかっている。

 それでも千紘は他の男に目移りすることなく、健気に凪の言いつけを守っている。今まで付き合った女性は、凪の気を引くために他の男性の影を匂わせる者もいたし、実際に浮気をすることもあった。
 そんな時は恋人としてどうのという以前に人間として信用できないと思ったし、そんな人間と一緒にいる必要もないと思った。

 凪から別れを告げられ、ようやく泣きながら謝られても到底許せる気にもならなかった。
 しかし、千紘は違う。どんなに凪が突き放そうとも、彼には凪しか見えていない。ゲイであっても同性からモテる千紘にはいくらでも相手はいるだろうが、それでも凪でなくては嫌だという。

 凪は恐らく生涯でこんなにも自分のことを好きでいてくれるのは、千紘くらいのものだろうと思った。
 セラピストの仕事ができなくなって落ち込んだ時も、涙を流した時も、弱い自分を受け入れてくれる。

 女性の前でカッコつけるように、変な見栄を張らなくても素の自分を好きでいてくれる。千紘と一緒にいて妙に心地良いのは、そんな千紘に寄りかかって甘えられるからだと気付いた。
 そして千紘は、凪が甘えたら甘えた分だけ喜んでくれるのだ。

 凪は1人ぼーっとしながら、早く千紘が帰ってこないかなぁ……と待つ日が増えていった。
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