かつてあったかもしれない語られることの無かった物語

隠里雪樹

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「籠の中にて住まう鳥よ」

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私は彼女を良くみかけた。
護っていた?そんな大層な者ではない。
私は城の庭にて決まった時間に小さな鳥籠のような形をしたガゼボの周りの草木に水を撒くように命じられていた。
その時間帯に我が主人のご子女であるこの方が来られてはガゼボにて侍女の入れた紅茶をゆっくりと飲んではお気に入りなのかわからないがきらびやかな装飾の入った本を読んでは寛いでいる。
何を話すわけでもない。
何をするわけでもない。
私は王に命じられた責務を全うし、彼女はその時間に来ては寛ぐだけだ。
彼女を優先すべきだと思われるかもしれないが…私は王命にて行っている。
いかなる理由かはわからないが王が決まった時間に決まった行動を命じられている以上、ご子女と言えど譲れぬもの。
一度は不敬と侍女に言われたが王命に逆らうは逆賊と逆に叱咤した。
ご子女は何も言わずに居たが侍女を叱りもせず、かといってこちらに何も言わぬとは…きつい印象とは裏腹にお優しいことだ。
叱咤された等と言えば王に首を捧げねばならぬ程の事だと言うのに…さぞこの戦乱の世を嘆いては苦しまれていることだろう。

そんな日々が続けば人間慣れと言うものがおこるものだ。
私は水を撒き、彼女は紅茶を飲んでは同じ本を読む。
側仕えの侍女は最初こそ私を睨んでいたが今では私に毎度紅茶を進めてくる。
申し出はありがたいが王命を優先するために私は断る。
それに関しては本当に申し訳ないが終わる頃には時間がかかりすぎる。
騎士として女性の優しさを蔑ろにするのはいつも申し訳なく思っては丁重にお断りをして頭を下げている。
だがその一連の行動がもはやパターンとなっている。
戦場にて生死の判別があやふやとなりかけていた私にとって、戦場に居ない間の日のこの時間だけは私にとって人並みの幸せだった。

私は今でこそ騎士であるが昔は誉められた人間ではなかった。
孤児であった私は教会が奉仕にて行っていた場にて暮らしていた。
生活は豊かではなく、毎日食べ物にも困る日々。
食べ物をシスターに求めれば汚らわしい目で見られ、運良く与えられるときも慰みものや暴力行為を行われたあとにカビの生えたパンと泥水のようなスープを目の前で食べていた。
まともに食べれる機会など数十回に一度あれば良い方だっただろう…
シスターに隠れて殺人、強盗…人身売買にも手を染めたことはある。
もっとも金が手にはいっても使えることなど無かった。
孤児の私にとって金は何の価値もない。
使わせてくれるところなど無いからだ。
ではなぜ金を求めたのか?そんなものは簡単だ。
騎士見習いの試験を受けるためだ。
立場も関係なく生きていくために最も良かったのは騎士見習いとなることだ。
無論、孤児がなれる確率は低くなれたところでと思っては居たが…ここで人間以下の生活を強いられるより良いと思っていた。
16の頃に私は自分でも嫌悪する程の汚い金を持ってシスター達の目を盗んで試験を受けた。
結果は合格、当たり前だ。
生きるために大人の相手など何回も行った。
同じ年頃の子供、しかも裕福に暮らしていた貴族の子供など相手にもならん。
だが…それが王の目に止まった。
私の試験相手はご子息だった。
故に王に呼ばれ、どのようにして強さを身に付けたのかと聴かれた。
最初は黙ったがやがて近くの騎士が足蹴にして無理矢理吐かせようとして来た。
だが、王やご子息が止める前にゆっくりとその騎士は足をどかせて抱き締めて来た。
訳がわからなかった、暴力を行ってきたかと思えば抱き締められ、耳元で「辛かったな…痛かったな…気がつかなくてすまなかった…すまない…」と大の屈強な男が周りの目も気にせずに泣いているのだ。
わけがわからない。やめろ。お前も同じだ。大人なんてそんなもんだ。痛くしてくる。殺すなら一思いに殺せよ。
俺はありとあらゆる事をその男の背中を殴り続けては罵声を浴びしていた。
それでも優しく、それでいてしっかりと抱き締める男に対してやがて俺は力が抜けていき、そして今までの分を洗い流すかのように泣き初めていた。
その男の言葉が行動が、生まれて初めて与えてくれる優しさに涙が止まらず、疲れはてて眠るまで泣いてしまっていたのだ。

後に聴いたのだが、蹴飛ばされたあの時にシスターから受けた無数の傷後が見え、経歴を調べあげられていたためにその教会の現状と何より死を望む私の心が見透かされたようだった。
せめて人間の状態で死にたい。
騎士であればその死を得られる。得られずとも王の子供に手を出したとして犯罪を起こした人間として殺される。
あの時の私は生きる希望など無く、死に場所を探す亡霊だったのだろう。

余談ではあるがその時に抱き締めてくれた人物こそが王の近衛騎士にして騎士団長…そして私を許可無く養子にしてしこたまこの国最強と言われるまでそれはまぁここが地獄かと思わせてくれるほどしごきやがってくれたのがクソオヤj…失礼、私の義理の…いや…尊敬すべき父である。
しごきはもうホントにキツかったが…いやもうおかげで強くなれるほどにキツかったが、王に使えることなど、私に全てを教えてくれた心優しき偉大な父であった。
過去形なのは…まぁそういうことだ。
私が20の時に敵兵の卑劣な罠にかかり、捕まってしまった私を生かすために命がけで救ってくださった。
その時に致命傷を受けてしまったのだ。
あの時ほど己を呪ったことはない。あの時ほど無知を呪ったことはない。あの時ほど…あの時ほど…考え初めてはもはや後悔しかない。
それでも父の妻…私の母は父を誇りに思い。私を許す。
それでも毎晩泣いているのは知っていた。
王はそのような失敗を置かして自らの親友を死に貶めた私に王太子の近衛騎士になってくれと頼んできている。
だが…5年の月日がたち、王太子と親友とも呼べる中になれども私にその任は重すぎた。
いまだに騎士団長と近衛騎士の席は空席、団員の皆も私になれと言ってくれるが…私はまた大事な物が居なくなるのが怖い。失うならば前線にて私が皆を護る盾になる。
こんなことを言ってしまえば起こるだろうがそれが父無き今の私のあり方、私の戦いだと思っている。
もちろんそんな戦い方は皆気がついており戦いが終われば叱咤を受ける。
特に王太子からは毎度殴られる。
私はそれを甘んじて受け入れるがいつも言われる一言で喧嘩になって止められて仲直りをする。
「生かしてもらって味わえる痛みはどうだ?お前の父はその痛みを早々に感じさせられなくするためにお前を生かしたのか?」
頭では解っている、だが気持ちと行動が全て物語っている。
苦しい、誰か助けてくれ…生かしてもらったのに、私はどうすればそれに答えられる?
自問自答の日々、それを隠しながら過ごす日々。
王にはそれが見透かされていた。
故にこの王命を受けた時は驚いた。
同時に意味がわからなかったが…もはやこの時間は私の楽しみでもあるのだ。

そんなある日の事、いつも通り過ごしているとその日はご子女が一人で来た。
流石に一人はと思いその日は声をかけた。
「侍女が居なくても信頼に値するあなたが居る。であれば私はいつも通りあなたとの時間を楽しめると思ったまでです。」
言っている意味がわからなかった。
私と楽しむ?3人で一緒に居るだけの空間は確かに私は楽しかったが彼女も楽しかった?
「あなたが何に恐れているかは解らないけど私も王族、あなたは意識せずに私の方にも気を回していたでしょ?近衛でもないのに。」
それは当然だ。王の大事な存在を蔑ろにすることはない。
それは私が…私が…
あぁ…父が私を生かせてくれたのはこれなのか…
彼女と彼女の信頼する侍女、何もないけど居心地が良い私の大切な者達。
無茶をすれば叱ってくる親友。
父と同じように我が子のように私を心配してくれる王。
父の死を許し、強く優しい母。
府に落ちて納得すると同時にこの空間の違和感について聴こうとすると先に答えられる。
「大丈夫よ。侍女も後から来る。それでも不安に思われるなら父には私から話すから」
そういって隣に座るように促してくる。
王よ。申し訳ない…そう思って私は近くに座った。
と同時にどこからか侍女が現れて主人である彼女より先に私に紅茶を出してきた。
やられた…私は頭を押さえて困ったように笑顔になりながらその紅茶をありがたくいただいた。
いつからなのかと問えば、最初から。
王に願ったのは自分だと言う。
仕組まれていたようだ。
遠くの窓の影で王とにやけた馬鹿野郎の顔が見えた。
これは観念するしかない…如何なる理由であれ王命を無視したのだ。
慎んでこの優しい策略家の策に乗り、近衛騎士でも何でも受け入れるとしよう。
やることは変わらない、護れば良いのだから。
そう考えている。優しい策略家とその侍女はいつの間にか両隣に座って私の腕を枕に眠り始めてしまった。
いや、待てどうしてこうなった?受け入れるとは思ったがこれは予想外だぞ?思考が追い付かない。
そして何より…動けない。
王は窓から飛び降りそうな勢いだしあの馬鹿野郎は何か知ってるようで王を止めてるし…ホントにいったいなんなんだ?
俺は汚れきってる。この二人が知らないわけがない。その上でこれはおかしいだろう?
この二人が目を覚ます頃には王の血走った眼と剣先が目と鼻の先。
それを必死に止める親友。
それを笑う両隣の花…
やれやれ、苦悩が終わりそうかと思えばまた苦悩の日々のようだ…
そう思っていた私の顔は自然と笑顔になっていたようだ。



父よ、尊敬する偉大なる父よ。
私は今日も生きている。
貴方が生かせてくれた命で大事なものを仲間と共に護り。
貴方が私に与えてくださった縁を大事にしながら。
私は今日も生きている。
いずれそちらにいくことになれど、それは今ではない。
貴方が教えてくれた命の暖かさを胸に。
私は今日も生きていきます。
追伸
近々私に娘と息子ができます。
双子ではありません。
汚れた私がどのようにして接すれば良いのかはまだ解りませんが、貴方を見習い、私なりの愛情にて育てていきたいと思います。
息子は貴方の強さと彼女の優しさを
娘には貴方や彼女のような人を思う優しい心を…彼女の狡いところはあまり受け継がれませんように…
貴方の生きた証を未来に…いえ、私の望む私の生きた証を残していければと思います。

そういえば彼女の本、半分は白紙でした。
前半部分は…子供達に見られる前に私が貰いました。
このページが最後まで行くまで生きることを約束に、貴方より長生きすることになりそうです。

「籠の中にて住まう鳥よ、生を謳歌し自由へ羽ばたけ」
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