漆黒の大魔将軍は勇者に倒されたはずでした!?

武家桜鷹丸

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第三章 半世紀後の世界。

あり得ない改革。

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 を終えてから翌日。
 ケット・シー達の居住地の近くにハコダンテ軍が使っていたテントが三つ建てられていた。
 エルフ族達はそこで男女に分かれて今は充分な食事と休息を与えていた。

「ああっ……」
「そんな、もう…!」
「や、やめて!これ以上は…!」

 女性エルフがいるテントから多少甘い声が漏れてくるが決してやましいことにはなっていない。
 彼女らは今きっと至福のひとときを送っているはずだ。

「にゃあ~ん。」
「踏み踏みみゃあん。」
「柔らかいにゃぁん。」
『き、き、気持ちいいぃ…!』

 何故なら今ケット・シー達がご自慢の肉球でエルフ女性の背中や顔などをふにふにと押してマッサージという名の至福の時間を与えて癒してあげていた。
 男性エルフのいるテントも同じことになっているだろうがそこは省略させてもらう。 

「昨日はしっかり休めたか?」
「はい、久しぶりに森の恵みを口に出来て皆も喜んでおりました。」

 ハコダンテ軍の隊長が使っていた大きなテントの中で体格上テーブルを椅子代わりにして腰掛ける我の前でパーサーは片膝をついて頭を下げていた。
 彼の左右には女性エルフの年長者ともう一人の灰の一団である男性エルフも同じくいた。
 あれから拠点にエルフ達を連れていけばケット・シー達は一度驚くも我が事情を話してあげれば皆は納得して介抱してあげた。
 パーサーの説得もあってもう反抗的なことはしないと思ったので手錠を外し木の実など与えればエルフ達はケット・シー達にお礼を言いながらたくさん食べてみせた。
 どうやらよほど酷い環境で日々を過ごしてきたようで【情報開示】を使えば全員が衰弱していた。
 そこでエルフ達が食事をしている間に倉庫からこの世界にある薬草を出してエイムに食べさせる。
 食事が終わってからエルフ達を並ばせれば【再構成】による薬液のシャワーをエイムの口から噴霧させ彼らの状態を健全化させてあげた。

「マスター、皆の健康診断終わったよ。」
「うむ、ご苦労である。それで結果は?」
「男性エルフはもう大丈夫だし、女性エルフの方もは取り除いてあげたしね。」

 意味深な発言をするエイムにパーサーは理解して頭を下げて本当にありがとうございますと礼を言う。
 エルフ達が健康になったのならばいずれはケット・シーの作業が難しいところを手伝ってもらうとしよう。
 だがその前に半世紀の経った世界の現状を知ることが大事だ。

「パーサーよ。灰の一団はどうしたのだ?それにエルフ族が何故人間に下の扱いを受けている?双方協力関係ではなかったのか?」

 勇者の仲間にもエルフの名手がいたし、我の知る限りそれよりも前から大国ではエルフと国交を結んで和平を築いていたはずだ。
 それが小国であるハコダンテに奴隷のような扱いを受けていることが我には気になって聞かなければならないと思った。
 我の問いかけにパーサーも他のエルフも少しだけ黙ってからパーサーが口を開いた。

「灰の一団は、壊滅いたしました。それにもはやエルフ族は人間と友好的ではありません。」
「何?ではエルフ族は今人間と戦っているのか?」
「エルフだけではありません。ドワーフ族もフェアリー族も人間を敵視し国交を断絶しました。」

 パーサーに続いて男性エルフから出た話に我は驚く。
 エルフ族は他種族との国交には消極的ではあったが技術の共有をしていたドワーフや積極的に国交していたフェアリー族すら人間を敵視しているという事実がとても信じられなかった。
 だが逆にこうも考えられた。

(やはり人間というのは、敵を失うと新しい敵を求めてしまうものなのか……)

 魔王と魔族という世界の共通の敵が勇者達によって倒されると今度は自分の国を大きくする為にお互いに侵略を始めたのであろう。
 やはりこの世界に存在する種族の中でダントツの欲深さを持っているのは人間ということになるのだろうかと我は内心呆れた。
 しかし女性エルフが次に言ったことが我を席から立たせるほどの衝撃を与えた。

「全ては、全ては[人間至上主義]のせいなんです。それのせいで人間達は私達を奴隷として捕まえ、家畜のように扱い始めたんです!」
「なんだと!?」

 これまで声や身体で反応するほど驚くことなんてダークジェネラルに進化して以降一度もなかった我にとっておそらく一番の驚きとなったであろう。
 あの勇者が、エルフ族やドワーフ族やフェアリー族の危機を救ってみせた我がライバルが、人間こそ全ての種族の頂点であると世界に説いたなんてとても信じられない話だ。

「貴様!虐げられたからと適当な大物を相手に選んだのであれば、我が許さんぞ!」

 つい怒りに魔力の見えない波をパーサー達に向けて発してしまいながら強く言ってしまう。
 それほど我は勇者のことを見てきたし、認めていたからだ。
 あいつは先ほども言ったが旅の仲間にエルフがいたし勇者になる前から友人にフェアリーの少々嫉妬深い女の子がいたからよく小さな喧嘩をしては仲直りしていたのも知っている。
 だからこそ勇者が人間以外を見下すようなことをするとは到底あり得ないからこその怒りであった。

「大魔将軍様!どうか落ち着いてください!先ほど申したことは事実なのでございます!」

波長を受けて左右のエルフが腰を抜かす中、パーサーが止めに入る。
 彼の言う通り今は半世紀経った世界の現状を知ることが優先。
 故にここは気を静めしかとそうなった経歴を知ることが大事だろう。
 我は怒りで漏れ出た魔力の揺らぎを納めテーブルに座り直し何故勇者が人間至上主義を掲げたのかを尋ねた。

「はい、全ては勇者が魔王を討ち取りこの世界と魔界を繋ぐゲートを閉じてから五年が経った頃でしょう。突然とある大国の王となった勇者が声明で人間至上主義を出し全ての国に唱えられたのです。」

 勇者自らがそれを唱えたことによってそれまで国交を築いてきた国々は差はあれど自分達の国土と利益を得る為に行動した。
 さんざん魔族と魔獣によって我慢させられてきた反動があったかもしれない。
 人間の国は次々とフェアリーの住み処である森を奪い、ドワーフから得た技術を独占し、美しいからとエルフを拐かして金に替えていく暴挙にでていった。
 最初は国が勝手にしたことだと国民は不安を抱えて生活していたがそれから十年も経てば人間至上主義の考えはまるで伝染病のように当たり前になってしまい、今では生活費を得る為の手段に農民までも一攫千金にフェアリーを探すようになってしまったという。
 当然人間以外の種族はその蛮行に怒り、国交は断絶しエルフは各地の大きな森を拠点として仲間を集めて閉じ籠り、ドワーフは地下の大帝国に散らばっていた者達を避難させて何者も寄せ付けぬ要塞を築き、フェアリーは精霊王の命令で幻惑の森と呼ばれる場所に仲間達を呼び寄せて姿を消したらしい。
 半世紀経った今でもエルフとドワーフは密猟の被害にあっておりパーサー達も油断したところを捕まってハコダンテ軍の奴隷隊で働かされていたことを語ってくれた。
 毎日毎日雑用や危険な任務を魔法が使えない状態でさせられ食べ物も一日一食分あればいい方。
 さらに美しさから女性は大臣や軍人達の玩具にされ自ら命を絶った者もいた。

「私も友人を多く失くしました。そして父も、私を庇って魔獣に……」
「そうか…半世紀の間に人間は愚かな道を進んでしまったということか。」
「それもこれも全て勇者があんな考えを唱えたせい…!」

 気づいたら我は男性エルフの胸ぐらを掴んで地面から浮かせていた。
 いけないいけない、また怒りで身体が先に動いてしまった。
 我の腕が胴体から離れて飛び男性エルフの首を掴んでしまった。

「貴様らに言っておく。勇者は我にとって戦友ライバルなのだ。貴様ごときが決めつけで勇者を語るな…!」
 
 この瞬間、我に新たな目的が生まれた。
 他者を助けることに全力だった勇者が何故他者を虐げる声明を出したのか。
 それに勇者の仲間達は声明を知ってどう思ったのか。
 そして何より勇者は聖女と故郷で晴れて結ばれたのではないのか。
 沢山の疑問が浮かんだ今森の外に出てその真実をこの兜で確かめねば我の気がすまない。
 男性エルフの首から手を離して元に戻すと腕を組んでパーサー達を見下ろしながら言った。

「お前達がここで生活することはとりあえず許そう。ただし、また不快な発言をしたならばお前ではなく貴様ら全体が責を負うと知れ。」

 悪役としてきつく男性エルフに告げるとパーサー達にテントから出ていくよう言った。
 2人は恐怖にそそくさと出ていったがパーサーだけは残って謝罪してきた。

「申し訳ありません大魔将軍様。ただ苦渋の日々を送ってきた彼らの気持ちも汲んでやってください。」
「わかっておる。故に生活において無下にはしないと約束しよう。」
「ありがとうございます。私達も手伝えることがあれば必ず応えるとお約束いたしましょう。」

 パーサーの言葉に我は頷いて返事し彼を見送った。
 誰もいなくなったテントに我が静かにしていれば地面の一部が波打ち盛り上がると変形してジャージ姿のエイムが現れる。

「本当にあの勇者がそんな暴挙に出たのかな?僕には信じられないよ。」
「我もだ。ここにくる前にあいつは故郷で聖女に結婚の約束をしていたのだぞ。」

 それなのに世界に平和をもたらしてから五年後に王様になって人間至上主義だと?
 かつて魔族に騙された間抜けな第二王子の顔面を殴って鼻を潰したこともあるあの勇者がそんなことをするなんて全くもって馬鹿馬鹿しい話だと我とエイムは思った。

「それでどうするマスター?こうなったら、勇者に直接聞いてみる?」
「うむ、それもありだがまずは拠点を絶対的なものにしたい。だから。」

 テーブルから立ち上がって我が言えばエイムはきょとんとした顔をしてからすぐに冷笑へと変われば口元に手を添えて言う。

「ふふふ、これでまたマスターの記録が更新されちゃうね。」
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