異世界で予言の巫女になりました

青野滝エリ

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不思議な出来事

5. 突然の訪問者(レナード視点)

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853年 イリーニ帝国

神が帝国を作ったと言い伝えられているイリーニ帝国は、
建国の神の末裔とされる皇帝と5公爵家が国を統治している。


この年、謎の疫病が蔓延していた。


大陸の病ではないか、家畜の死骸から病が移ったなど様々な噂が広がったが、病の解明も治療薬の開発もままならず国中に疫病が蔓延していた。

5公爵家の一つギタレス家では、屋敷の使用人達だけでなく夫人も床に臥してしまい、跡取りのレナードは止むを得ず別邸で暮らしている。


「・・・結局、母上の葬儀にも参列できなかったのか」

父親からの手紙で、彼の母の葬儀が無事終わったこと知ったレナードは手紙を力一杯握りしめる。


「メイヤーズ家はいったい何をしているんだっ。
 ヴァネッサ皇女も協力しているというのに・・・」

誰もいない屋敷で、レナードはやりきれない気持ちを抑えながら呟いた。

医療に精通しているメイヤーズ公爵家は、イリーニ帝国の医療の発展や公衆衛生の普及に尽力してきた家門だ。
そして、メイヤーズ家と共に治療薬の開発に協力しているヴァネッサ皇女も医学に精通している。

彼らが治療薬の開発や、病人たちの治療に尽力していることは知っていても、どうすることもできず、疫病が収まることを待つしかないこの状況に彼は悔しさを滲ませていた。


「ギタレス家は、ただ耐えて収まるのを待つしかないなんて・・・
 軍事を司る神の末裔なんて名前だけだな」

ソファに座り込みそう嘆く彼は目を閉じて天を仰いだ。


「・・・素振りでもしに行くか」

広い室内に1人でいるより、身体を動かした方が気が紛れると思ったのかレナードは練習用の剣を持ち庭へと足を進める。

誰もいない屋敷はどこに居ても、広く感じてしまう。
いつもと変わらない景色の庭を歩きながら、適当な場所で素振りしようと思った時だった。


「・・・なっ!」

レナードの目の前に、突然人が現れたのだ。
音も気配もなく突然現れた女性に、警戒することも忘れ呆然としてしまう。


「・・・だれ?」

「お前こそ誰だ」

寝巻きのような格好をした女が寝ぼけ眼でレナードを見ている。
見知らぬ女は、レナードの姿を見ても驚きもせず何やら考え込んでいる。


“こいつは何者だ・・・まさか、間者か・・・?”

「・・・疲れすぎて、頭がちゃんと寝れてないのかな。」

「お前、どこから入ってきた」

「えぇと。私、神影 千佳って言います。
 君は誰かなぁ?もしかして、迷子とか?」

噛み合わない会話に少し苛立ちを覚えるレナード。
そんな彼に気づいていないのか、女は自分の名前を名乗りレナードに名を聞いてくる。


「・・・お前は、言葉が通じないのか?
 それとも馬鹿なのか?」

「・・・えぇと、きみはどちらさま?」

明らかに不機嫌になった女は、イラついたような顔をしながらレナードと目線を合わせ再度同じことを聞いてきた。


”ここはギタレス家の敷地で、どちらさまはお前の方だろう。
 丸腰の弱そうな女が僕に何かできるとは思わないが、本邸の警備に引き渡そう”

そう思ったレナードは、
「・・・・・・お前に答える義務はない」
とだけ答えて、この場を去ろうとした。

背を向けた瞬間、後ろで女の気配が揺らいだ気がした。
慌てて振り返ると、神影千佳と名乗った女性は突然音もなく消えていた。


「・・・今のは一体」

夢を見ているのだろうかと思ったレナードは、自分の頬をツネって確認する。


「・・・夢じゃ・・・ない。
 次現れたら、何が目的か聞き出してやる」

不可解な現象に首を傾げ、手にしていた剣を持つ手に力を込めた。
しかし、警戒しているはずのレナードの表情はどこか嬉しそうにも見える。


「それにしても、久しぶりに見知らぬに人と話したな」

レナードは無意識に、人と会話することに嬉しさを感じていたのかもしれない。

彼が別邸に来てから、会話で病が感染るかもしれないと噂が広まり、食事を持ってくる使用人とも会話をすることがなくなっていた。


「・・・それより、素振りをしなくては」

一瞬賑やかだった庭園は、静まり返りレナード独り。
1人でいる事を自覚させられたような気がした彼は、頭を切り替えようと素振りを始めた。



・・・・・



それからというもの不審者 神影千佳は、頻繁にレナードが住んでいる屋敷の庭に現れ、いつの間にかレナード自身も名前を名乗り千佳の名前を呼ぶ間柄になっていた。


「・・・おかしな話だ」

最近では千佳が現れるであろう時間帯に、レナードはガゼボにティーセットを用意する。
おかしいのは自身の行動か、それとも突然現れる千佳の方か。
自分でも理解し難い行動に苦笑しながらも、今日も千佳が現れるのを待っている。


「あ、いたーー!」

突然声が聞こえたかと思えば、噴水の近くに千佳が立っている。


「今日のお茶は何かなー。
 レナードが入れてくれるお茶、美味しいんだよね。」

「・・・僕が入れたんだから当然だろ。」

「ふふ。いただきます」

千佳の国では毒見をする概念がないらしい。
何の疑いもせずに紅茶を口にする彼女もどうかと思うが、美味しいと言って飲む彼女に嬉しさを感じつつレナードも口をつける。


「今日は・・・あ!レナードの国のことを教えてよ。」

「僕の国は・・・」

千佳が訪れた時は、お互いの国の話をしたり他愛無い話をする。
自分以外誰もいない屋敷で、いつの間にか、この時間がレナードにとって大切な時間になっているようだ。



千佳とのお茶会が日課になったある時、
「このお屋敷って他に人いないの?」と尋ねられた。

人の気配がしない屋敷を不思議に思ったのかそう尋ねる千佳に、レナードはこの国で起こっている事を伝えるか迷った。

“話を聞く限り、千佳が住む国の方が医療は発展していそうだ”

けれど、医者でもない彼女に聞いたところで手がかりになりそうな情報は得られないかもしれない。
そう考えたレナードは「今はいない」とだけ答えた。


「偉いね。」

そう言って微笑みながら立ち上がった彼女は、レナードの頭にぽんっと頭に手を置いて優しく撫で始める。


「・・・っ」

酔っ払った千佳に抱きしめられたことはあったが、それを除けばこうやって誰かから触れられるのはいつぶりだろうか。

そんな事を思ったレナードは、嬉しさのような何とも言えない気持ちが湧き上がるのを感じた。


「・・・仕方ないんだっ。」

「そっか。」

「寂しくなったら、いつでも胸に飛び込んでおいでー」

目から涙が出そうになった時、千佳がそう言ってニヤニヤしている。
出そうだった涙が引っ込み、思わずレナードは距離をとった。


“・・・一言余計だ”

そう思っていれば、千佳が真面目な顔をして「世話する人もいないのか」と尋ねてくる。


「自分のことくらい自分でできる。
 それに、食事は日に3度届けられる。」

さほど困っていない事を伝えれば、「まだ幼いじゃない。」と言われた。
千佳から見れば、レナードはまだまだ幼いらしい。


「幼く無い!これでも、14歳だ!!」

「私からすれば幼いわ!」

“チカは何歳なんだ。”
と言おうとして、女性に年齢を聞くのは失礼だということを思い出す。

「僕は偉いからな。自分のことくらいちゃんとできるんだ。」
そう言って胸を張った。


「私の知ってる14歳はここまでしっかりしていないよ。偉い。」

千佳の世界の14歳はどれだけ幼いんだろうか。
それとも、見た目よりも千佳が歳をとっているんだろうか。

千佳に関するいろいろな疑問が湧いてくる事に心の中で苦笑したレナードは、話題を変えるため気になっていた事を尋ねる。


「それより千佳。
 お前、日に日にここにいる時間が長くなってる」

「言われてみればそーだね。」

千佳は顎に手を当てて、何やら考え込み思いついたようにこう言った。

 
「そのうち、レナードの世界に居座ったりして」

「・・・僕は世話しないからな。」

まるでレナードが世話をするかのような言い方をする千佳に、反射的に“世話しない”と答える彼は満更でもない表情をしていた。



「本当に千佳が居てくれたらいいのにな・・・」

“もしそんな事があったら、面白いかもしれない。”

いつものように消えていく千佳を見送り、ティーセットを片付けながら先程の言葉を思い返すレナードはそんな事を思い願っていた。


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