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しおりを挟む夕食の片付けを終えたのでお風呂の準備をしようと思い、クゼさんに声をかけた。初日であるが、一応家事は一緒にするということなので掃除から一緒にしようと思い誘った。
幸いにも2人とも動きやすい格好だったので濡れないようにTシャツとズボンの裾を捲ってもらい2人で浴槽、浴室をブラシで洗った。
クゼさんは手順を伝えるとテキパキとこなしていた。要領がいいのだろう。
洗い終えた後お湯を溜めるために蛇口を捻った。そのお湯を溜める様子をじーっと見つめていた。
「クゼさんはどんなお風呂に入っていたのですか?」
「今までのお風呂は人が入れるだけの部屋があって、そこに入れば頭も身体も洗い終わっとる感じのやつでした」
「なんと便利なんでしょうか…!?一度見てみたいです。そんな夢のようなことがあっていいのでしょうか!!」
私が興奮しているとフフと笑いが聞こえてきた。
「今度また機会があれば入ってみてください」
顔が隠れているので表情はわからなかったが、笑顔になってくれたのだうれしい。お湯が溜まり切るまでお湯の流れを見つめているようなので、私はシャンプーなどを取りに行った。
「これがシャワーで、頭や体を洗ったらこれで流してください」
お風呂にお作法などはないが、シャワーの使い方やシャンプー、コンディショナーの使い方等も知らなかったため一応教えることとなった。
しかし口頭で説明してもイマイチ理解できていないようだった。
「あの、迷惑じゃなければ今日は私が洗いましょうか?」
「え⁉︎‼︎あ、あっえ?一緒に入るってことなん…⁇⁈」
「失礼しました!入浴をのぞくようなことを…セクハラですよねすみません。浴室の外で待機してますので何かあれば申しつけてもらえれば…」
危ない。施設の感じで聞いてしまった。流石に歳の近い子にそんなことを言ったのは初めてであるが、小さい子や高齢の人の介助をするのはたまにあったのでその感じで聞いてしまった。
「セクハラだなんて思ってません!…とりあえず扉のところに居てもらってもいいですか?」
私は一度脱衣室から出てクゼさんが浴室に入ったタイミングで脱衣室に戻った。シャワーが流れる音がするのできちんと使えてはいるようだ。
「……つめたい」
浴室の中から何か聞こえたが、クゼさんからの助けを求める声がないのでとりあえず待機していた。もしや、お湯と水の切り替え間違えているのでは…。少し待ってみてまだ冷たそうなら声をかけようと思った。
「あ、あのツヅリさん」
声がかかったのではいと返事する。
「俺の顔気持ち悪いんで不快な思いするかもしれへんのですけど、ちょっと入ってきてもらえないでしょうか?」
気にするところはそこなのかと思わずツッコミをいれそうだったが、グッと飲み込んだ。
「むしろ裸を見てしまうかもしれませんがよろしいんでしょうか?」
「あぁそれはべつに…。下はタオルで隠してるし、他は撮影で見せてるから周知のことなんで」
よくわからない基準であるが、本人の許可を得たので扉を開けて浴室の中へ足を踏み入れた。
そこにはサングラスとマスクで隠れていた美しい顔が露わになっており、こちらを不安げに見つめていた。
「……綺麗」
思わず口から出た言葉だった。白い髪にアースアイの瞳が人間離れして美しかった。水色の中に茶色の部分があり、まるで海のようだと思った。芸能人なのでそれはそれは綺麗だと思っていたが、予想のはるか上をいく綺麗さだった。
その瞳の綺麗さに吸い込まれそうになってジーッと見つめてしまった。クゼさんもわたしの方をぼんやりと見つめていたが、ハッと意識を戻し目を伏せた。
「…あのやっぱ変ですか?」
「とんでもない‼︎‼︎クゼさんの瞳は海のように美しいです。またジロジロ見ちゃいました。すみません。えっとお湯に変えますね」
クゼさんから目を逸らしお湯と水の切り替えのハンドルを動かそうとするとクゼさんが苦しそうな声を出しはじめた。
「胸痛い…し、あつい…なんやこれ」
「え!大丈夫ですか?どこか体調が悪いですか?」
思わずクゼさんの方に近づくと頬が紅潮し息が少し上がっていた。その綺麗なアースアイも雨に濡れたように潤んでいて色っぽかった。
熱があるのかと思い、おでこに触れようとすると大きくのけぞられた。
「すみません、勝手に触ろうとして。顔が赤いので熱があるのではと思って手が伸びていました」
「大丈夫…大丈夫やから、あのちょっと離れてくれへん…?」
「わ、申し訳ないです。また脱衣所の方で待ってるので何かあったら言ってください!…ではっ…!」
慌てて立ち上がろうとすると脚を滑らせてしまいクゼさんの方に倒れてしまった。完全に覆い被さる感じになってしまった。
「い、いたた、本当にごめんなさい。私は初日からなんということ………」
胸がドクンと跳ねた。男性ってこんなに硬いだろうか。心なしかいい匂いもする。支えられた腕のたくましさや目に写る鍛えられた体に目を奪われた。すると優しく抱きしめられた。
「あの、あのっこれはなんていうてええかわからんけど、ツヅリさんを傷つけるつもりはなくて、でもすごく、すごく触っていたい……」
自信なさそうにそう言うと顔を擦り寄せてきた。まるで大きな犬のようだった。
「なんでやろ。俺、他人に触られんの嫌いやったんですけど、ツヅリさんは違うねん。こうするのが当たり前みたいに落ち着く」
芸能区に入る人は幼い頃から親元を離れて厳しいレッスンに明け暮れると聞く。人に甘えるのが難しい環境だったのかもしれない。今なら肩の力も抜けて身を預けることに安心しているのかもしれないと思った。
しかし、それとは裏腹にわたしの胸の鼓動は激しくなっていた。心地よい、嬉しい、落ち着かないと言う気持ちが混じりあってこのまま触れていたい気持ちと、恥ずかしくて離れたい気持ちが混在していた。気持ちを切り替えようとこう切り出した。
「やっぱり今日はシャンプーとか私にさせてください。結構上手っていわれるんですよ」
「ほんなら、おねがいします」
綺麗な顔から出る気さくな笑顔がわも私の心を掴んでやまなかった。
クゼさんの入浴を終えてクゼさんの髪を乾かし、次は私がお風呂に入ることにした。
男性にあんな風に思うのは初めてかもしれない。周りに男性はいるし、アースィムは男性の友人である。しかしあのようにドキドキしたことはなかった。
クゼさんがいう通り触れ合っていることが当たり前かとように心地よかった。
わたしは親に捨てられてすぐに施設に入れられた。最初の施設は本当に最低限の世話だけして放置のところで女児ばかり引き取るようなところだった。今の施設に移動したのが11歳の頃だったので、その歳になると必要以上に人と触れ合う機会も無かった。
もう少し大きくなると年下の子の面倒を見ていた時期もあるが、その時の触れ合いも嬉しくはあったがそれとはまた違う何かを感じた。
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