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8.
しおりを挟むミラーさんと共に玄関の方へ行くとアテニャンさんが訪ねてきており、モモトセがそれを迎えているところだった。
「はぁ~い♡久しぶり、モモちゃん」
「え、何でここに」
「私が呼んだんですよ」
ミラーさんはアテニャンさんがこの近くでファッションショーの仕事があるとのことで1週間ここの家を拠点にしたいとここに住むことになったとモモトセに説明した。
「そんな…相談してくれても良かったやん」
「家の主は私ですので、決定権は私にあります」
この家、ミラーさんのだったんだ。知らなかった。明らかに拗ねているモモトセとそれを諭しているミラーさんが見えた。それをニコニコと優しげな顔でアテニャンさんは見守っていた。
「ごめんなさいねぇ。大事な恋人と過ごしてるところ悪いとは思ったのだけど、モモちゃん少し頼まれてくれるかしら?」
アテニャンさんはものすごくお洒落な服を纏い優雅にお願いしていた。仕草も丁寧で美しい。デザイナーと聞いたがモデルもできそうだ。
「……まぁ1週間なら。ツヅリはそれでええ?」
「はい、もちろんです」
モモトセとミラーさんの間を割ってアテニャンさんがキラキラした顔で私を見てきた。
「きゃー♡かわいい!この子がモモちゃんのいい子?スタイルいいわ~あたしの服着せてあげたい」
アテニャンさんは私の前に立ち優雅に挨拶をしてくれた。動くたびにローズの香りがしていい匂いだ。
「アンリ・アテニャンです。ファッションデザイナー兼モデルです。“Doux”っていうブランドをやってます。よければ仲良くしましょ」
アテニャンさんは手を出してきたので私はその手を握り返した。モモトセはそれを見て私たちが繋いでいた手を無理に解いた。
「そういえば、テスト終わったで!ほら採点して」
「おや、40分で解いたのですか?では拝見します」
アテニャンさんはテスト?って顔をしていたがその場でミラーさんは採点をし始めた。
「…100点です。モモトセさん私が思っているよりかなり勉強ができるかもしれませんね」
「あの褒めてもらって悪いんやけど、さすがに小学生レベルは解けるねん。中学生がわからへんねんよ」
どうやら難易度は易しめだったらしい。ミラーさんは無表情でモモトセの頭をヨシヨシと撫でていた。
「では、私は次の仕事がありますので失礼いたします。モモトセさん、ツヅリ様、アンリさんをよろしくお願いいたします」
ミラーさんは素早く立ち去っていった。玄関にいつまでもいるのもなんなのでとりあえずリビングで集まることになった。
「1週間もどこに寝泊まりしたらええかなぁ…」
そうなのだ。この家の寝室は1つしかない。お客様なので同室は気が引けてしまう。が、他に適切な部屋がない。
「あら、3人でねましょ。ルークちゃんから話は聞いてるわ」
さも当然というように寝室に雑魚寝を許してもらえた。良かったが申し訳ない気もした。
「楽しみだわ~♡モモちゃんってば現役時代は心を閉ざしててあんまり仲良くしてくれなかったじゃない?今のモモちゃんは何だが普通の男の子みたいで嬉しいわ」
「てか、先輩はいつからそういう話し方なん?俺らがアイドルしとる時は男っぽい話し方やったやん」
「あら?そうだったかしら?でもファッション系で自分が上に立つとどうしたって女性的な方が周りの反応がいいのよねぇ」
周りに適応したからとのことだった。なんと柔軟な人なのだ。逆に以前の話し方を聞いてみたいまである。
あとは2人で決めたルールをあらかた話して対応してもらうことにした。
あれから3日経った。アテニャンさんがきてからは3人で過ごすか、それぞれで過ごすかになっていた。ご飯も出来るだけ一緒に取ってくれるし、アテニャンさんは私に美容のことやファッションのことをたくさん話してくれた。本当に人柄のいい人だ。モモトセもアテニャンさんに戸惑いつつも仲良くしているみたいだった。
なので、最近はモモトセと2人で過ごすことは無くなっていた。
「ツヅリー?どうかした?」
今日もいつものように午後は施設の子供たちの勉強をみていたら、アースィムが声をかけてきた。どうやら早番を終えて帰るところだったらしい。
「へ?なんかおかしかった?」
「なんかボーッとしてる」
「そうかな?」
この前にモモトセが顔を近づけてきたことを何度も思い出していた。ミラーさんが言ってたように“異性“としての興味で近づいているのかもしれないが単純に嬉しかった。でも贅沢を言うなら私を好きになって欲しいと考えていた。
「もしかしてアイツと喧嘩した?」
「へ?いや、してないよ」
「ふーん、喧嘩でもしてたら面白かったのに。てかアイツいつもサングラスとマスクしてるけど家でははずしてるの?」
「外してるよ」
「どうせ顔バレてるのになんであんな隠すかな」
「なんか皮膚が弱いから光に当たると痛いらしいからつけてるんだって」
「ふーん…」
そういうと最後に残ってた子が宿題を終えて見せにきていた。
「……はい、よくできました。最後まで頑張ったね」
そうして頭を撫でると嬉しそうにしていた。私とアースィムにバイバイと言うとその子は部屋から出ていった。するとアースィムは私が座っているところの前に座った。
「あのさ、僕この前児童指導員の資格取れたんだ」
「すごい!おめでとう!試験受かったんだ!本当にすごい」
アースィムは努力家で一生懸命だ。出会った頃はよくしにたいと言っていたことを考えると自分で居場所を見つけて頑張っている姿を見るとホッとする。
「次は介護士の資格をとって、いずれは経営の勉強とかもしようと思ってる」
「そっかそっか、良かった!」
「だからさ、僕とツヅリの2人でお祝いしない?もう2人ともお酒飲めるし」
18歳で成人なのでそれに合わせて後で飲酒・喫煙も18歳からしてもいいということになった。ここ1ヶ月はモモトセと過ごすことが多かったのでアースィムが寂しそうにしているのは知っていたのでちょうどいい機会だった。
「いいよ。いつにする?」
「じゃあ4日後の夜でいい?」
4日後は午前中にアテニャンさんが旅立つので見送り予定だが午後はいつも通り施設の子勉強を見てそのままアースィムと合流していけば良いか。幸いにも次の日は休みだしゆっくりできるかもしれない。
「いいよ。楽しみだね」
「……うん。久しぶりにゆっくりしたい。ね、僕資格とってえらいでしょ?あの子みたいに僕のことも褒めてよ」
「褒める?さっき大絶賛の嵐だったよ!……アースィムは天才!なんでもできちゃう!神!」
思いつく限りの褒め言葉をアースィムに言ったがどうやら言って欲しいことを言えていないのか少し不満気だった。
「さっき“あの子みたいに“って言った。僕も撫でて欲しい…」
「えっ、触ってもいいの?」
「いいって僕が許可してるんだからいいよ、ほら早く」
頭を撫でることを急かされたので私はアースィムの頭を撫でようとすると、窓側から声が聞こえた。
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