婚約者は元アイドル〜まったり過ごすつもりが波瀾万丈⁈〜

こと葉揺

文字の大きさ
9 / 44

8.

しおりを挟む


 ミラーさんと共に玄関の方へ行くとアテニャンさんが訪ねてきており、モモトセがそれを迎えているところだった。

「はぁ~い♡久しぶり、モモちゃん」

「え、何でここに」

「私が呼んだんですよ」

 ミラーさんはアテニャンさんがこの近くでファッションショーの仕事があるとのことで1週間ここの家を拠点にしたいとここに住むことになったとモモトセに説明した。

「そんな…相談してくれても良かったやん」

「家の主は私ですので、決定権は私にあります」

 この家、ミラーさんのだったんだ。知らなかった。明らかに拗ねているモモトセとそれを諭しているミラーさんが見えた。それをニコニコと優しげな顔でアテニャンさんは見守っていた。

「ごめんなさいねぇ。大事な恋人と過ごしてるところ悪いとは思ったのだけど、モモちゃん少し頼まれてくれるかしら?」

 アテニャンさんはものすごくお洒落な服を纏い優雅にお願いしていた。仕草も丁寧で美しい。デザイナーと聞いたがモデルもできそうだ。

「……まぁ1週間なら。ツヅリはそれでええ?」

「はい、もちろんです」

 モモトセとミラーさんの間を割ってアテニャンさんがキラキラした顔で私を見てきた。

「きゃー♡かわいい!この子がモモちゃんのいい子?スタイルいいわ~あたしの服着せてあげたい」

 アテニャンさんは私の前に立ち優雅に挨拶をしてくれた。動くたびにローズの香りがしていい匂いだ。

「アンリ・アテニャンです。ファッションデザイナー兼モデルです。“Doux”っていうブランドをやってます。よければ仲良くしましょ」

 アテニャンさんは手を出してきたので私はその手を握り返した。モモトセはそれを見て私たちが繋いでいた手を無理に解いた。

「そういえば、テスト終わったで!ほら採点して」

「おや、40分で解いたのですか?では拝見します」

 アテニャンさんはテスト?って顔をしていたがその場でミラーさんは採点をし始めた。

「…100点です。モモトセさん私が思っているよりかなり勉強ができるかもしれませんね」

「あの褒めてもらって悪いんやけど、さすがに小学生レベルは解けるねん。中学生がわからへんねんよ」

 どうやら難易度は易しめだったらしい。ミラーさんは無表情でモモトセの頭をヨシヨシと撫でていた。

「では、私は次の仕事がありますので失礼いたします。モモトセさん、ツヅリ様、アンリさんをよろしくお願いいたします」

ミラーさんは素早く立ち去っていった。玄関にいつまでもいるのもなんなのでとりあえずリビングで集まることになった。

「1週間もどこに寝泊まりしたらええかなぁ…」

 そうなのだ。この家の寝室は1つしかない。お客様なので同室は気が引けてしまう。が、他に適切な部屋がない。

「あら、3人でねましょ。ルークちゃんから話は聞いてるわ」

 さも当然というように寝室に雑魚寝を許してもらえた。良かったが申し訳ない気もした。

「楽しみだわ~♡モモちゃんってば現役時代は心を閉ざしててあんまり仲良くしてくれなかったじゃない?今のモモちゃんは何だが普通の男の子みたいで嬉しいわ」

「てか、先輩はいつからそういう話し方なん?俺らがアイドルしとる時は男っぽい話し方やったやん」

「あら?そうだったかしら?でもファッション系で自分が上に立つとどうしたって女性的な方が周りの反応がいいのよねぇ」

 周りに適応したからとのことだった。なんと柔軟な人なのだ。逆に以前の話し方を聞いてみたいまである。
 あとは2人で決めたルールをあらかた話して対応してもらうことにした。







 
 あれから3日経った。アテニャンさんがきてからは3人で過ごすか、それぞれで過ごすかになっていた。ご飯も出来るだけ一緒に取ってくれるし、アテニャンさんは私に美容のことやファッションのことをたくさん話してくれた。本当に人柄のいい人だ。モモトセもアテニャンさんに戸惑いつつも仲良くしているみたいだった。
 なので、最近はモモトセと2人で過ごすことは無くなっていた。

「ツヅリー?どうかした?」

 今日もいつものように午後は施設の子供たちの勉強をみていたら、アースィムが声をかけてきた。どうやら早番を終えて帰るところだったらしい。

「へ?なんかおかしかった?」

「なんかボーッとしてる」

「そうかな?」

 この前にモモトセが顔を近づけてきたことを何度も思い出していた。ミラーさんが言ってたように“異性“としての興味で近づいているのかもしれないが単純に嬉しかった。でも贅沢を言うなら私を好きになって欲しいと考えていた。


「もしかしてアイツと喧嘩した?」

「へ?いや、してないよ」

「ふーん、喧嘩でもしてたら面白かったのに。てかアイツいつもサングラスとマスクしてるけど家でははずしてるの?」

「外してるよ」

「どうせ顔バレてるのになんであんな隠すかな」

「なんか皮膚が弱いから光に当たると痛いらしいからつけてるんだって」

「ふーん…」

 そういうと最後に残ってた子が宿題を終えて見せにきていた。

「……はい、よくできました。最後まで頑張ったね」

 そうして頭を撫でると嬉しそうにしていた。私とアースィムにバイバイと言うとその子は部屋から出ていった。するとアースィムは私が座っているところの前に座った。

「あのさ、僕この前児童指導員の資格取れたんだ」

「すごい!おめでとう!試験受かったんだ!本当にすごい」

 アースィムは努力家で一生懸命だ。出会った頃はよくしにたいと言っていたことを考えると自分で居場所を見つけて頑張っている姿を見るとホッとする。

「次は介護士の資格をとって、いずれは経営の勉強とかもしようと思ってる」

「そっかそっか、良かった!」

「だからさ、僕とツヅリの2人でお祝いしない?もう2人ともお酒飲めるし」

 18歳で成人なのでそれに合わせて後で飲酒・喫煙も18歳からしてもいいということになった。ここ1ヶ月はモモトセと過ごすことが多かったのでアースィムが寂しそうにしているのは知っていたのでちょうどいい機会だった。

「いいよ。いつにする?」

「じゃあ4日後の夜でいい?」

 4日後は午前中にアテニャンさんが旅立つので見送り予定だが午後はいつも通り施設の子勉強を見てそのままアースィムと合流していけば良いか。幸いにも次の日は休みだしゆっくりできるかもしれない。

「いいよ。楽しみだね」

「……うん。久しぶりにゆっくりしたい。ね、僕資格とってえらいでしょ?あの子みたいに僕のことも褒めてよ」

「褒める?さっき大絶賛の嵐だったよ!……アースィムは天才!なんでもできちゃう!神!」

 思いつく限りの褒め言葉をアースィムに言ったがどうやら言って欲しいことを言えていないのか少し不満気だった。

「さっき“あの子みたいに“って言った。僕も撫でて欲しい…」

「えっ、触ってもいいの?」

「いいって僕が許可してるんだからいいよ、ほら早く」

 頭を撫でることを急かされたので私はアースィムの頭を撫でようとすると、窓側から声が聞こえた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

肉食御曹司の独占愛で極甘懐妊しそうです

沖田弥子
恋愛
過去のトラウマから恋愛と結婚を避けて生きている、二十六歳のさやか。そんなある日、飲み会の帰り際、イケメン上司で会社の御曹司でもある久我凌河に二人きりの二次会に誘われる。ホテルの最上階にある豪華なバーで呑むことになったさやか。お酒の勢いもあって、さやかが強く抱いている『とある願望』を彼に話したところ、なんと彼と一夜を過ごすことになり、しかも恋人になってしまった!? 彼は自分を女除けとして使っているだけだ、と考えるさやかだったが、少しずつ彼に恋心を覚えるようになっていき……。肉食でイケメンな彼にとろとろに蕩かされる、極甘濃密ラブ・ロマンス!

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

独占欲全開の肉食ドクターに溺愛されて極甘懐妊しました

せいとも
恋愛
旧題:ドクターと救急救命士は天敵⁈~最悪の出会いは最高の出逢い~ 救急救命士として働く雫石月は、勤務明けに乗っていたバスで事故に遭う。 どうやら、バスの運転手が体調不良になったようだ。 乗客にAEDを探してきてもらうように頼み、救助活動をしているとボサボサ頭のマスク姿の男がAEDを持ってバスに乗り込んできた。 受け取ろうとすると邪魔だと言われる。 そして、月のことを『チビ団子』と呼んだのだ。 医療従事者と思われるボサボサマスク男は運転手の処置をして、月が文句を言う間もなく、救急車に同乗して去ってしまった。 最悪の出会いをし、二度と会いたくない相手の正体は⁇ 作品はフィクションです。 本来の仕事内容とは異なる描写があると思います。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

処理中です...