婚約者は元アイドル〜まったり過ごすつもりが波瀾万丈⁈〜

こと葉揺

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拾弍

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 恋を自覚したその瞬間元マネージャーとアンリ先輩が訪ねてきた。
 2人きりでいたい気持ちが強かったが、内心ホッとしている自分も居た。

 このままだとツヅリを傷つけかねないと思ったから。

 アンリ先輩はアイドル時代のメンバーの中で1番良くしてくれた先輩だった。あの頃からモデルの仕事が活発でファッションに興味があったようだ。
 あの頃から好きな人がいるとよく聞かされていた。俺より2つ上なのでもうすぐ引退でありそれを機に付き合うのだと言っていた。

 あの頃からなんとなく自分にとっての特別な人っていいものなのだと思ってはいた。

 寝室の件は相談の結果3人で雑魚寝する事になった。俺が真ん中かと思いきや、アンリ先輩が真ん中で寝る事になった。ツヅリは男が横に2人もいるというのに何とも思っていないのか、危機感がなさそうだった。

 午前中に食事を3人で取りそれからは各々が活動して、午後はツヅリが出かけるのでその間にアンリ先輩にツヅリとのことを聞かれては適当に誤魔化していた。

 3日目の朝を迎えるとツヅリが、足りない気持ちになっていた。ここのところ会話がない。2人で過ごしたいと思いながら料理中の姿を後ろから眺めていた。
 ツヅリが料理している姿を見るのが好きだ。調理の音も好きだ。
 そうしているとアンリ先輩が「あらあら♡」と近づいてきた。

「モモちゃん、あなたもしかして」

「?」

「…ううん、何でもないわ。今日の朝食は何かしら」

 ツヅリはアンリ先輩の体型維持のためのメニューで料理を作っていたため毎回2人で相談しながら調理をしていた。
 その間は少し面白くない気分だった。

 今日の午後もみんながいつも通りに過ごしていたが、アンリ先輩は夕方に会議があるとのことでトレーニングルームで仕事をしていた。俺は手持ち無沙汰だったのでツヅリを迎えにいく事にした。




 確かこのあたりの部屋だったはず。外から声をかけた方が真っ先にツヅリに会えるので裏道を抜けて施設の勉強を見ている部屋まできた。
 するとあの“アースィム“とかいうツヅリと仲がいい男とツヅリが話していた。
 窓が空いていたので少しだけ会話が聞こえると、男の方がツヅリに撫でてとお願いしていた。

 その時目の前が真っ赤になって感情のままツヅリを連れ出していた。

 久しぶりに近くにいれて嬉しい、何で他の男と仲良くしているんだとこの2つの感情が入り混じり何とも言えなかった。

 俺には触ってくれへんのに。
 俺はただツヅリと一緒に居たかっただけやのに。どうしてこんな醜い感情に支配されないといけないのか。
 
 あの男は、絶対にツヅリに気がある。取られたくない。渡したくない。そういう気持ちで支配された。その気持ちのまま人に見えにくいように木の影の方へ連れてきた。

「あんな、俺ツヅリともう少し仲良くなりたいねん」

 マスク越しにキスをした。マスクをしていることを忘れていたが、ちょうど良かったかもしれない。これで嫌がっても直接ではない。

 驚いた。ツヅリの目がトロンとして俺だけを見つめていた。まるで好きだと物語っていて、勘違いしそうになる程だった。堪らなくなり直に触れたくなった。

「直接してもえぇ…?」

「……して、ほしっ……ん」

 もうダメやった。待てなかった。本当は優しく触れるだけにしようと思っていたが、一度触れると火がついたように“もっと“と何度も唇を啄んだ。

 俺だけのものにしたい

 そういう気持ちが支配してしまい、ツヅリが欲しくて欲しくて仕方なくなった。

「なぁ、舌もいれてみてもいい?」

 ツヅリも入れて欲しいのか唇が開き始めたその時にアンリ先輩が間に入ってきた。
 アンリ先輩は正論を並べていたが、聞こうと思わなかった。だってそれに従って何になるというのだ。俺はツヅリを愛したい。それだけやのに。

 本当の幸せのためなら俺も自立してツヅリを支えれるようにならなあかんことはわかってる。けど、俺は何も出来へん。何も持ってへん。なら俺自身を差し出すしかない。


 そういう気持ちでいたら、俺はSPに連れられ居住区の裏側の入り口まで連れてこられた。


「離せっ」

 俺はジタバタと抵抗したが2人に抱えられていると動くのは難しかった。
 しゃーないけど、ここは正当防衛ということで許してくれ。そう思い、SPの腹部を殴り、蹴りを入れ2人から逃れた。

 3日でこれなのだ。これ以上離れるとしんでしまう。身が引きちぎれそうだった。俺はツヅリの側に居たい。

 元来た道に戻ろうとしたら次はもっと多くのSPに囲まれていた。


「そこまでよ、モモちゃん。観念なさい」


 流石に10人はこの本調子じゃない身体で戦うのは無理だと諦めて降参したが、眠り薬を嗅がされてそのまま連れていかれてしまった。






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