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拾壱
しおりを挟むそれからはツヅリと毎日過ごしてはいるが、適度な距離を保とうと頑張った。どうしても我慢できなくて手が出そうになるときは隠れて自慰行為をすることもあった。幸いにもツヅリは俺の変化に気づいておらず、無邪気に接してきた。ツヅリ自体もベタベタ触ってくるタイプではないので穏やかに友人のように過ごすことを心がけた。
俺のようなヤツが触っていい相手じゃない、汚してしまうという気持ちが上まわり、触りたいという気持ちを押さえ込んでいた。
前に見たAVとか見てみたがやはり反応せず、他の女性に目を向けてみようと午後1人で街の方に出てみてもコミュ障と人間不信が発生し特に何も思わなかった。
そもそも結婚を考えてる相手がいるのにこういうことを考える事自体が不誠実なのではと思い、この気持ちを他所に向けるのはやめた。
そんなある日ふと疑問に思った事があった。俺がアイドルしてたことは知っているようだが、話の脈絡から俺のアイドル時代を知らなさそうだった。もしかして気を使って知らないふりをしているのかもしれないと思い、ツヅリに尋ねてみた。
「そういえば、ツヅリはこんな俺見てもずっと態度一緒やけど、画面の向こうと違う~ってならんかったん?」
「あ…そのことなんだけどね」
どうやら芸能に疎かったらしい。施設育ちなら確かに限られたものを分け合って使っているので、必然的に控えめなツヅリは人に譲っているだろう。
でもいい機会だと思った。アイドルの時の俺を見せて、全てを曝け出したら、きっと幻滅する。芸能区にいた時はそうやった。みんな“狡い“や“ショック“と言っていた。嫌われてしまえばこの積み上がった劣情を知られずにツヅリから離れる事ができると思った。
「おおお…!」
俺はライブとMVくらいしか出ていないのでとにかく1番最近のライブ映像を見せることにした。ツヅリは意外にも食いつきがよくキラキラした顔で見ていた。あの時のファンと同じ顔をしてる。
「でもなんか意外かも…。モモトセは王道アイドルって感じなのにクールでミステリアスな感じなんだ。ふむ、モモトセは顔が綺麗系だからこれはこれでありなのでは…?歌声もセクシーな感じなんだ…地声と違うような…」
挙句解説まで始めた。ツヅリは自覚はないが考古学オタクでありロストテクノロジーに興味があり、今は1000年前に使われていた家電に興味があるらしくその話を延々とされた事がある。それに近い何かを感じるくらい饒舌だった。
「なにか思うことある?」
「人気出るのすごいわかる!ってなった。けどモモトセのいいとこを見せれてないのが悔しいなぁってとこかな!でも芸能のこと疎すぎてちょっと的外れなこといってるかも、ごめん」
ツヅリの思ういいところとはどこなのか追求したかったが、本題から外れてしまうのでまたの機会に聞くことにした。どうせこれで最後なのだ。別にどう思ってようがどうでもいい。
「あんな、これ内緒にして欲しいねんけど、俺何もしてないねん」
「何もしてない?」
ここからはアイドルをしてきた時のように心を殺して事実を告げる。
「俺が歌ってるわけでも踊ってるわけでもないねん…。歌は別の人が当ててるし、ダンスも遠隔で動きをリンクされて動かされててん…だから俺って何もすごくないねん。本当の意味でアイドルってしてなかったんよ」
「やから、そんな褒められるもんでもない。ずっとお人形やってん。幻滅した?」
この人気も全て作られたもの。他人を押しのけて立った舞台。他人に動かされ意思のない人形。こんな俺のどこに魅力があるんや。
お願いやからここで拒絶して。
でないと、もうこの気持ちは止められない。
恋と呼ぶにはあまりにも醜く、愛と呼ぶには未完成なこの気持ちを殺してくれ。
この気持ちを抱いてしまえばきっと死に惜しくなってしまう。
なんならどこまでも引きずり込んでしまう。
お願い、お願いお願いだから、俺のことを………。
「幻滅も何もアイドルは仕事。ましてやモモトセはまだ14歳だった。大人の言うことに従うのは当然で、Momoとして舞台に立ってたのはすごいよ」
ツヅリは真剣な顔で答えた。
「……ファンには本当の自分じゃない姿ばかり見せてきて、罪悪感しかなかった」
お願い
「そんなの、キャラクターのブランディングで本当の自分を見せれない人もいるよ。とても真面目で誠実なんだね。モモトセは」
お願いやからやめて…
「モモトセがどれだけ頑張ってきたのかはわからないけど、わかる範囲で言えばそのスタイルの良さの維持は相当努力してたんだなって思うし、真面目な性格はこの1ヶ月でよくわかったよ」
溢れた涙を掬い取ってくれた。ツヅリの目は穏やかだった。
「ほら、私モモトセの笑顔が大好き。こうやって笑ってるのを見るとすごく嬉しくなるし魅力的だなって思う。ファンのみんなはこの笑顔で元気もらってたと思うよ。今のモモトセが好きだけど、それはアイドルのモモトセが積み上げてきたものもあるんじゃないかな」
気づいたら抱きしめていた。拒絶して欲しかったのにただただ嬉しかった。満たされた。愛しい人に受け入れられるなんて幸福、もう死んでもいいと思った。
生きてて良かったと思った。
「モモトセがモモトセでいてくれて良かった」
俺もツヅリがツヅリで良かった。そう伝えようと思ったのに体が勝手に動いていた。
繋がりたいと
完全に堕ちてしまった。好き、好き、大好きツヅリ。我ながら簡単な男だと思った。でもこの感情はツヅリにしか抱いていない。これを恋と言わず何と言うのか。
独り占めしたい。はやく手に入れたい。触りたい。たくさん愛したい。
俺はお見合い相手だからツヅリと結ばれる権利を持っている。
落ち着いてゆっくりツヅリのペースで好きになってくれればいい。
でも絶対に離してあげない。どんな手を使ってでも俺と一緒に生きてもらう。
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