婚約者は元アイドル〜まったり過ごすつもりが波瀾万丈⁈〜

こと葉揺

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 しにたいと思っていた俺はお見合いが決まった。その相手と生活するためにアイドル現役時代までは無理でも自分のことは自分で出来る様にまでは体力を戻した。

 俺は女性というものをあまり知らなかった。スタイリストに何人か女性がいたが、業務的にしか接してくれず。女性アイドルや女性芸能人と収録が被ることはあってもマネージャーにブロックされるか、ツンケンされていた。

 一度俺の“中の人”をしていた男に呼び出されて性に関することを一通り教えられた。所謂AVを見たのと実際その男と恋人がヤッてる現場まで見せられたが、吐き気を催して体調不良となったため中止になった。やる事が突拍子なさすぎる。恋人がいるのに行為中に俺の方ばかり見て喜んでいた女性が歪んで見えて、その事もただ辛かった。

 しかし、ツヅリはとても優しくていい匂いでかわいい。初めてサングラス無しでツヅリを見た時時が止まったかのように思えた。一緒にいて楽しいし、何よりこのままの俺を受け入れてくれてる。それが心地よかった。芸能区にいた女性は中性的な人が多かったので余計かもしれないが、女性らしいスタイルで思わず目が惹かれた。

 ツヅリと過ごす毎日は穏やかで心地よかった。俺は芸能区にいた頃は“出来損ない”だった。何をしても褒められることはほとんどなかった。人気はあったため売り上げに関してはよく褒められたがそれは自分の力じゃなかったので、嬉しくなかった。
 でもツヅリは家事を丁寧に教えてくれるし、出来たら褒めてくれる。勉強だってそうだ。甘えたいときは甘やかしてくれる。安心する気持ちや心地良い気持ちが大半を占めていたが、ふと笑顔を見た時に胸が痛くなる事があった。
 
 体調が悪い時は元マネージャーから連絡しろと言われていたので連絡するといつ痛くなったのかなど細かく聞かれたので、正直に答えた。すると「異常ありません」とだけ返ってきた。

 ある時午後の施設の子どもに勉強を教えるアルバイトに初めてついて行った時の事。ツヅリが軽く俺を子ども達に紹介した。

「今日はおにいさんも一緒です。サングラスとマスクしてるけど、外で外すと顔が痛くなるからこれは許してあげてね。ではわからない事があったら私かおにいさんに聞いてね」

「ツヅリおねーちゃん!この人はおねーちゃんのなんですか?」

 ヤンチャそうな男の子がニタニタ笑いながら問いかけていた。恥ずかしがる様子を見たがっているようだったが、ツヅリはにっこり笑うとこう答えた。

「私が好きになりたいな、大切にしたいなって思う人です」

 その答えを聞いた男の子は顔を真っ赤にしてそのまま宿題に目を落としてしまった。……思わず俺も赤面したが、顔が隠れているので見えてないやろう。
 そうだ、この気持ちだ。一緒に居ると嬉しいのに物足りなくなる時がある。1番一緒に過ごして1番近くにいるのに、寂しく感じる時がある。
 “コレ“は何なのだろうか。その疑問が生まれたが近くの子どもに声をかけられたのでそれ以上考えることはなかった。

 


 金曜日の夜はいつもゲームをしたり散歩をしたりして過ごしているが、今日はツヅリがやりたい事があると言ってきた。

「今日はね、私を寝かしつけて欲しい」

「寝かしつけ?」

 子どもにするような感じでいいのかなとふと思ったが、どのように寝かしつけているのか分からなかった。遠い記憶を頼りに自分はどのように寝かしつけられていたかを思い出していたが、睡眠導入音楽を流されていただけだった。だがツヅリが言っているのはそういう事ではないだろう。

「あの、どんな感じでしたらええの?」

「私が布団に入るから子守唄を歌うか、絵本を読んで欲しい」

 かわいい。甘え方がかわいい。たまには甘えたいのだろうか。小さい頃にそうしてもらえなかったからだろうか。他の誰にも頼みなさそうなお願いをされて俺は心が満たされた。

「歌は自信ないし、曲もわからんから絵本を読むでええかな?」

 そう言うと嬉しそうに子どものような顔で『おやすみ、ロジャー』という絵本を持ってきた。ツヅリは自分の布団に入り、いつもの仕切りを取り布団をツヅリにかけて俺は上半身のみ起こして絵本を読もうかとすると、ツヅリからの熱い視線を感じた。

「…何?」

「嬉しいなぁと思って、いつもは読む側だったから、初めてこっち側になった!モモトセの優しい声が好きだから安眠できそう」

 子どものようにキラキラとした期待に満ちた目で見つめてきた。

「ほら、寝るんやろ?目つむりましょうね、ツヅリちゃん」

 そう言って手で目を閉じさせてゆっくり優しく絵本を読んだ。絵本を読み終わると規則正しい呼吸が聞こえてきた。

「寝てるとこ初めて見た」

 さっきまで年上なのに女の子のようなあどけなさを感じていたのに、こうして見るとやはり女性なのだと思った。ツヅリが寝返りを打つと布団が捲れたので直そうと近づくと上の服が僅かに緩んでおり、そこからレースの下着と魅惑的な谷間がのぞいていた。
 見てはいけないと思い近づこうとしたのをやめて距離を取って激しく鼓動を打つ心臓を落ち着かせるのに必死だった。


「……女、や」

 思わず呟いていた。頭では理解していた。女性だと言うことを。でもいざその場面に遭遇すると、とても官能的やった。あの性行為を見せられた時とは違うおかしな気持ちが芽生えていた。
 心臓が落ち着いたので布団を離して仕切りをして寝てしまおうと思い、電気を消して、目が慣れた頃に布団の方へ向かうと、より一層布団が捲れておりツヅリの全身が見えていた。
 

「ズボン短かない?こんなんほぼ下着やん…これは、アカン」

 見てはダメだと思っていたが、相手は寝ているのだし今は暗くて見えないので強気になっていたのもあり、ツヅリを近くでマジマジと見てしまった。ツヅリは色が白く全体的に柔らかい。初めて会った時、お風呂で転けそうになったツヅリを支えた時に柔らかくていい匂いでどうにかしてしまいそうな気持ちになった。今もそれに近い気持ちがある気がした。
 右太腿に赤い痕が数カ所あった。孤児ということなので何か辛いことがあったのかもしれない。それを見ると少し胸がチリッと傷んだ。
 

「………え?」


 下半身が熱くて痛かったので視線をそちらに向けると自分自身のモノがそそり勃っていた。


「え、なにこれ」

 パニックになったがこれはツヅリの体をみて興奮したということなのだ。いけないとわかっていたが、思わずソコに手を伸ばして、自慰行為をしてしまった。





「最悪や…」


 やってしまった。ツヅリは結婚を考えてる人やけどきっと“家族“を求めているのだ。いつか子どもは欲しいとなるかもしれないが、今の世の中、性行為をしなくても子どもを作ろうと思えば作れる。
 俺はきっと一生性的な事に関係なく生きていくのだと思っていた。
 と、いうか俺はそこまで考えていなかったのだ。少ししたら嫌われてさようならやと思ってた。…やのに。
 

「最低や…」


 でも本当は触りたかった。



 気持ちも落ち着いたので服も着替えてシャワーを再び浴びて綺麗に洗った手で布団をかけ直して、自分も布団に入った。
だけど、その日は全く眠れなかった。


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