婚約者は元アイドル〜まったり過ごすつもりが波瀾万丈⁈〜

こと葉揺

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「はぁ~楽しかったなぁ」

 商業区から私たちが住んでいる居住区へ帰るために箱型移動車を呼ぼうとターミナルに来ていた。

「そうだね。また来ようよ」

 居住区の外に出たのは生まれてこの方初めてだったがものすごく楽しかった。
車を依頼しようと受付に並んでいるとポンと肩を叩かれた。

「よ!元気?」

 そこに居たのはコスモさんと私服のSPさん数名だった。

「コスモさん!こんなところで会うなんて、お仕事ですか?」

 そうだ、帰ったら彼に聞きたいことが山ほどあるのだ。急に現実に戻された気持ちになった。すると後ろからモモトセが抱きついてきた。

「またお前こんなとこに~もしかして、ついてきたん?」

「そんなとこ」

 悪びれる様子もなくコスモさんはかわいこぶりっ子の顔をしていた。

「いやぁなんか今回の事って仕組まれているような気がしてなぁ、ちょっと心配だからついてきたわけ」

 そんな予感はまさに適中した。今まさに初めて見る金髪碧眼で色の白いスラリと綺麗な女性がこちらに向かって走ってきていた。
 モモトセは危険と察知したのか私を自分の背後にやり、戦闘態勢に入った。それに合わせてコスモさんとSPさんたちも構えてきた。がーーーーー


「ツムギーーーー!!会いたかったよぉ!あれまたナナミと一緒にいるじゃんなんで?相変わらず顔隠してのねアタシは隠したって匂いでわかるっていったじゃない」

 ツムギ?とは誰のことだろう。ナナミはモモトセの叔父さんだ。この人は知り合いなのだろうか。コスモさんは「こりゃ大物が釣れた」と喜びを噛み締めていた。

「あんた誰なん?てかツムギ?ナナミって誰?」

「んんん?おかしいなぁ、ツムギはともかくナナミはアタシの事大好きだったじゃない。もう虜です~♡って感じだったのになぁ~」

 モモトセの胸のあたりをクンクンと匂いを嗅いでいるとモモトセが露骨に嫌そうな顔をした。顔がだんだん真っ青になっていた。

「てか、近くない?なんかちよっと気分悪くなってきたわ…」

「酷いっ!てか匂いはナナミに近いけど違うにゃ~。むしろハッカイって感じ。ハッカイ整形した?」

 ハッカイという言葉を聞いてモモトセはあからさまに厳しい顔をした。

「なに、お父さんのこと知ってるん?」

「お父さん…パパ…おう!君はあのハッカイとチトセのベイビーちゃんか!はぁ~ナナミそっくりに育って…およよ」

「…チトセって」

 モモトセが母親のことを聞こうとした時綺麗な女性はコスモさんの方を向いて目をキラキラさせていた。

「K-50い「カタリ!久しぶり。俺今はコスモって名乗ってるからそれで呼んでくれ」……コスモ、久しぶり~」

 この美しい女性はカタリさんと言うのだそうだ。どうやらコスモさんと知り合いのようでカタリさんの言葉を遮り名前を訂正していた。本名が気になる。

「ねね、後ろにツムギいるんでしょ?学問区から出てるなんて久しぶりだから会いにきちゃった。アタシ商業区か歓楽区しか出入りできないからなぁ~」

 カタリさんはモモトセとコスモさんの間から顔を出して私の方を凝視した。

「ツムギが女の子になってる」

「違うぞ、カタリ。彼女はお前の子どもだよ。愛しいツムギとの」

 お前の子ども…ということは

「お母さん…?」

「ええっかわいい!!!この子がアタシの子?えぇーーーラッキーすぎる。生まれてからすぐ引き離されたからすごく会いたかったぁ~」

 とても母親のように見えないくらい少女らしいカタリさんは私のことをかわいいかわいいと抱きしめてくれた。

「さすがアタシの子。ツムギにそっくりでかわいい~♡匂いまでそっくり」

 父の名前はツムギというのか。母に会えた嬉しさと戸惑いで何とも複雑な気持ちになっていた。

「カタリ…今日はチトセはいないのか?」

 チトセとはモモトセのお母さんかもしれない人である。モモトセはその言葉を聞き少し緊張感が出ていた。

「いるよ~チトセはゆっくりだからそろそろこっちに追いつくんじゃない?ほら、チトセー!」

 カタリさんはチトセさんも呼ばれる女性に向かって手を振っていた。チトセさんはミルクティ色の髪を靡かせてゆっくり歩いてきていた。近くに来てアースカラーのモモトセと同じ瞳でモモトセの姿を捉えた時その美しい瞳が大きく開かれた。

「モモトセ…」

 モタモタ歩いていたら足取りが少しだけ早くなる。素早く動けないようでたどたどしくモモトセに向かっていた。

「モモトセ、モモトセ、会いたかった」

「チトセ珍しくたくさん喋ってる」

 カタリさんは私を抱きしめてぐりぐりしながら感動の親子の初めての対面を見ていた。

「お母さん…って呼んでもええんかな。はじめまして。モモトセです」

「元気?母、私母。会いたかった」

 チトセさんはずっと泣いていた。モモトセは突然の事にただただ動揺していた。

「ごめん。私離された。頑張った。ダメだった」

「カタリ、何でチトセはあんなに話せないんだ?昔はお嬢様みたいに話してただろ?」


 コスモさんはモモトセとチトセさんに聞こえないようにカタリさんに聞いていた。

「あーチトセはモモトセを産んだら用済みって風俗に落とされたからね。生粋のお嬢様だったチトセは心を病んじゃって何年も話さなかったから言葉を忘れたみたい。5年前にアタシの面倒を見るようになってからは少し話するようになったよ」

「…ほら母親のキャラが濃すぎて子どもたちは完全についていけてないぞ。とりあえずゆっくり話せるところに移動するか」


 そう言われてとりあえず商業区の空いているレンタルルームを借りることにした。
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