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しおりを挟む「さぁ若者たち。そこにコスモ?君が船で迎えにきている。あのおじいちゃんと共にここから逃げて。おっちゃんはこの邪悪なお年寄りたちと一緒に生まれ変わる儀式するからさ」
トルストイさんは爽やかな笑顔で私の頬にスゥと触れた。その瞬間モモトセは怒っていたがトルストイさんはへらへら笑っていた。
「ツヅリちゃんが幸せになれるように、その体に残るチャームと不老はおっちゃんが貰ったからね。君はこれからは何も特別なことはない、ただの普通の女の子だ。好きな人と同じように歳を取れるよ。だから心配しないで」
私は涙が溢れていた。きっとトルストイさんは両親と共にここで死ぬつもりだ。そして私の不安であることも全て取り除いてくれた。
このままここを立ち去る方がいいことは頭では分かっていたが、どうしても気持ちが追いついていなかった。あんなに人として狂っている場面を見てしまっても、どうしても両親を憎みきれなかった。
「ツヅリ、ここからもう立ち去ろう。ここは俺も譲らんから」
モモトセは私を抱えると船に走っていった。私の両親はホッとした顔をして私を見つめていた。その顔を見ると思わず後ろ髪を引かれたが、なんと声をかけていいかもわからず見つめ返すしかできなかった。
「あ、そうだ。忘れ物」
トルストイさんはハッカイさんをアースィムの方に投げた。
「そいつももう悪いこと出来ないようにしといたから帰ったら本業の作曲頑張れって言っといて~。ハッカイは未来のあるおじさんだからな~」
こわばっていたモモトセの顔が少し緩んだ気がした。彼もきっと私と似たような気持ちを抱いているのかもしれないと思った。どんなに酷いことをされても、それでも親なのだ。微かに優しくされた思い出があればそれだけで良かったのだ。
私たちはコスモさんの運転する船に乗り込み元いた居住区へ向かうことにした。だんだん島から離れると先程までいた島は赤く燃え上がっていた。その光景を私はぼんやりと見つめていたらコスモさんが隣にやってきた。
「ローズヴィは500年前からずっとあの結末を望んでたんだよ。そのためにあの島を買ったんだ」
それから過去の話を少しだけしてくれた。コスモさんと両親、トルストイさんはアンドロイド戦争の英雄の生き残りの4人だった。トルストイさんは少年で戦争を経験し心が疲弊していたのだ。あの島で1人寂しく余生を過ごしていい時にこの世を去ろうとしていたらカタリさんに仮死冷凍されたらしい。
その後コスモさんが5年前に発見し起こしてこれまでの彼らの行動を話して、もうここで4人は次の生に行こうと考えた。
コスモの伝手で生活するにはアイドルしかなかった。運が良ければあの2人の目にはいり接触してくるかもしれないと期待していた。けど、ツムギは別人格でカタリは歓楽区でとてもアイドルに触れる機会はなく過ごしてきたそうだ。
モモトセと同じユニットになったのは仕組んだことであり、関わりがあればきっとツムギさんかカタリさんに辿り着くと信じていたそうだ。
「なんとも言えないですね」
「そうだな。ローズヴィは眠っている時間が長かったから狂わずに済んだが、あの2人はずっと生きていたからな」
コスモさんは私の背中を撫でて励ましてくれた。
「別に慰めるでもなんでもないんだけどな。ツムギは本当に真面目で誠実な男だったよ。カタリだってただ無邪気な女の子だった。でもな無限の時間があるとな狂っちゃうんだ。ツムギも研究を極めすぎたんだ。カタリもチャームで異性から嫌なことをたくさんされたんだ。だから許せとかそういうことじゃない。ただそうだったってことを知っておいて欲しかったんだ」
「話してくれてありがとうございます。私も両親のしたことは許せてませんが、憎みきれないんです…。子どもとか綺麗事って言われると思いますけど、そのお話を聞けて、ちゃんとした人だったんだって思えました」
「いい子だな。いい意味であの2人には似なかったな」
コスモさんは私の頭を撫でてくれた。
「コスモさんはさっきの話で4人で次の日生に行くって話をしたって言ってましたけど、まさか」
「残念だけど、オレはそれ出来なくなったんだよな。遺伝子組み換え技術の件が問題として残ってるからそれの後処理をしてからなんだよなー」
そんな役回りだとボヤいていたが表情は穏やかだった。
「ツヅリの前でこういうのも良くないが、君の両親はあそこで次に行けて良かったと思う。ここでまたあの2人の好きに動いてたらそれこそ世界は滅んでだかもしれない」
それを心の底からはきっと望んでいないだろうと。私たち2人はそう思う事にした。
「モモトセはハッカイさんと少しは仲良くなれますかね」
「どうだろうなぁ。ハッカイは未来予知みたいな能力を持ってたから先読みして動けたんだろうなぁ。ああやってモモトセを突き放したのも悪い未来にならないようにって言ってたしな。だから心の底からはモモトセを嫌っているわけではないからあのツンデレをデレさせれば意外と上手くいくかもな」
ハッカイさんのやったことはとても許されることではないが、彼は生きている。これからより良い関係になればいいと思った。
「長いこと俺らの後始末に付き合わせて悪かった。ツヅリとモモトセ、ついでにアースィムが平和に暮らせる世の中にはに出来るように頑張っちゃうわ」
コスモさんは今までで1番いい笑顔で笑っていた。
コスモさんが立ち去った後も私は船の外で景色を眺めていた。心配したモモトセが上着を持ってやってきた。
「寒くない?これ羽織っとき」
上着を私の肩に被せると同時に後ろから抱きしめられた。
「なんや、色々あったな」
「うん…モモトセ本当にありがとう。モモトセが居なかったら私確実に死んでた」
「俺の方が死ぬかと思った!ツヅリが銃で打たれた時もう頭が真っ白やった。良かった。ほんまに…」
より強く抱きしめられた。生きてることを確かめるように。
「あの時モモトセがずっと私を庇ってくれたから、勇気が持てたんだ。もしかしたら体は生きていても心が死んでたかもしれない」
両親と同じように…という言葉は飲み込んだ。モモトセもきっと辛かったはずだ。
「モモトセが生まれてきてくれて、私とこうして出会ってくれてありがとう」
「そんなん俺のセリフや。本当は死にたいなって思ってたんや。でもお見合いする?って聞かれて、もしかしたら俺のこと愛してくれる人かもしれへんっていう思いが捨てきれんくてお見合いを受けたんや。ホンマに俺はラッキーやな。ツヅリに出会えてよかった。ツヅリに会えたから生きていこうと思えたんやで」
モモトセが頬にキスをした。
「やから絶対ぜったい、結婚しよな?…いや結婚してください」
「ふふ、ありがとう。またモモトセが成人したら素敵なプロポーズしてね」
「あーもうまた子ども扱い…。でも実際そうやしな、ええ男になって絶対夢中にさせたんねん」
これまで起こったことをまだ消化しきれていなかった。しかし、モモトセとのこれからが楽しみで仕方なかった。
楽しいことも悲しいことも全てモモトセと分かち合いたい。この人を好きになって良かったとこれからの日々を楽しみに生きる幸せに希望を抱いていた。
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