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九章 欠けた歴史、欠けた器
38話
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【おもな登場人物】
《テル》
旅の剣士で、風雅な印象の風来坊
《エヌス司祭長》
聖ドリード教団の最高指導者
「はい」
司祭長ははっきりと首肯する。
「──しかし、まさかこれほど早い段階で、かつ業深いものとなるとは」
エヌスの灰色の瞳には、長い間多くの人間を導いてきた者としての、慧眼や先見の明、あるいはほとんど予知に近いものが宿っていた。彼は、かの若者が身の内に宿す素質を見抜き──と同時に、その未来に影が差すであろうことを予感していた。
エヌスは考える。
あの青年は決して不幸ではない。彼の身近には彼を導く者が常に存在していた。幼少期の師しかり、教団においては年長の者、友人。人の縁には恵まれた生まれであった。
持ち合わせた気質を鑑みても、まっすぐな人間に成長したことはなんら不思議ではない。誰に対しても公平で慈悲深く、規律を正しく理解し、教えに対してひたむきであり、困窮する者に迷わず手を差し伸べる心の深さ。
皮肉なことに、まさにそれこそが、彼の決定的な欠陥であり、修行によって補う必要があるものだった。
慈愛、あるいは慈悲。
底の抜けた器は、万人にそれを与えるようでいて、自身の破滅と紙一重である。
だからこそ、ミィラスに降りかかる試練というものは、並外れて大きいものになるだろう──と予感していたのだ。
かの少年が、教団の門を初めてくぐった日のことを思い出す。
「ミィラスと申します。司祭長さま。教団へ受け入れていただき、ありがとうございます」
孔雀色の瞳が印象的な子どもだった。まだあどけない表情の中で、そこだけが鮮烈に輝いており、同時に深い影を宿していた。緑色の奥底にあるのは悲しみであり、自らの身を捧げることへのある種の喜びであり、傷跡の一端であり、知識を求める欲であり、無知であり、無辜であり、善であり悪だった。
「司祭長殿がおっしゃるのだから、そうなのでしょう」
テルナミが相槌を打った。エヌスは回想から引き戻される。
自嘲しながら、茶器を置いて姿勢を正した。
「それが年の功というもの。人間の目は良くも悪くも、本質を映す鏡であり、窓なのだと、老いぼれゆえに、身に染みているのでしょうな」
ミィラスの瞳を見たとき、エヌスはどこかで直感した。この少年を導き、欠けた器を育んだならば、ドリード神の教えの真髄へ至るのではないか──と。
少年は「呪い麦」事件で名を落とした家のために、いわば一族と商会の名誉回復を背負って放り込まれた子どもだった。それまでは優れた師のもとで、家業に生かすための教育を受けていた。だが、教団に入れば、世俗との関係は断ち切られる。少年が期待され、大切に育てられてきた意味もろともに──
そして今、聖典楽師として生きている彼から、存在意義ともいえる〝力ある言葉〟が奪い取られたのだ。しかも「呪い麦」の時と同様、今回も人の命が奪われている。
──この目が甘かったのか?
エヌスは自問する。
──彼はそうと知らずに自ら破滅を生む芽だったのか?
──いや、ただの巡り合わせに過ぎない。彼は導くべき器だ。
ミィラスの器は、まだ柔らかく傷つきやすい。いくら早熟だとしても成長途中の若者だ。彼が魔物を止めようと強靱な覚悟を決めたとして、それは諸刃の刃であり、己を削りきってしまう危険性もはらんでいる。
彼を聖典楽師に任じたのは、素質を信じてこそだった。しかしその素質こそが徒となったのではないか。
「それにしても、初めてここに来ましたが、神に仕えて修道するというのは想像もつきません。誰にでも出来ることではないでしょう。必要な資質や能力などがあるのでしょうか」
テルナミの素朴な問いに、エヌスは「苦悩です」と短く答えた。
「苦悩を厭わず友とする。人を愛し、人に寄り添う。生きることの苦しみを深く考え、生きる喜びを人に説く。神を信じ、己を信じ、人を信じることは、ときに苦悩ともなりえます」
「なるほど、当たり前に聞こえて、実践するとなると困難に思えますね」
テルナミは納得したように頷き、少しの間窓の外へ目を向ける。外は緑の葉が茂り、時折鳥の影がよぎったりした。枝と枝を行き交う二羽は、番いだろうか。
やがてエヌスに視線を戻すと、テルナミは言った。
「私は彼らと短い期間しか同道しなかった。しかし恐らくは、あなたが彼に対して感じるものを、私も感じたように思います。なんというか、不思議な青年でしたよ」
彼の声には、それまでと違った響きがあった。笑い含みとでも言おうか。それは冷笑などではなく、親しみのこもった何かだ。
「そう──神秘とでも言うのか。人間離れした何か。しかし同時に彼はとても人間らしく素朴で愚直な若者でした。私は好ましいと思いました。まあ結局のところ、俗な言葉で言えば、危なっかしいとも」
エヌスは、テルナミの言葉に同意であった。恐らく言葉にしていないだけで、より多くの事を察していることだろう。鋭い洞察もあえて「俗な言葉」にすることで、気取らない彼の性格を表している。
「さて」とテルナミが顔つきを引き締める。
「当初の話題に戻りますが、西翼領の事件の結果如何によっては、ヴァスディ王治世二十年、そしてカミル香国改号百年の祝典の行く末が変わるでしょう。私も帝から直々に依頼を受けている以上、助力は惜しみません。これは貸し借りなどではなく」
「ふむ……」
エヌスはゆっくり立ち上がり、壁際まで歩いて行った。年季の入った壁には、歴代の司祭長、更に遡って古の時代の聖人画などがかかっている。いつかはエヌスも過去の司祭長のひとりとして片隅に加わるだろう。そのときに後悔の無いよう、使命を全うしなければならない。己にはミィラスとは違った意味で、大きく背負うものがあるからだ。
ドリード神の試練は、エヌスにもまた課されているのである。
「有り難い申し出に感謝する。しかし貴公には充分にしていただいた。ミィラスとパルラの動向を知れたことは、この上ない僥倖であった」
丁重に断ろうとしたエヌスが振り返ると、テルナミが奇妙な表情をしていた。何かをじっと凝視しており、眉根がぎゅっと寄っている。
「……どうかしましたかな?」
「ああ、ええと」
テルナミがすっと立ち上がり、エヌスの側に歩いて来た。彼はじっと壁を──かかっている一枚の絵を見つめている。
「この肖像画……」
テルナミが指さしたのは、最も古い絵の一つだった。
彼は言う。
「これと同じものを見ました。西翼領の村で。それと、ここに描かれている黄金のロケットの実物も。もっとも、村に着く前には、既にミィラスもまた、同じ物を持っていましたが──」
「実物? それに同じ物を?」
エヌスは目を見開き、思わず強い語調で問い返した。
テルナミは老人の突然の気迫に驚いたようだった。
「はい。この目で見たものが正しいなら。この肖像画の人物の出身地だという村で、祠の中に隠されるように、保管されていました。例の二人とともに偶然立ち寄り、そこで見せてもらったのですが」
エヌスはつかつかと執務机に向かい、抽斗の下、二重の厳重な小扉を開けた。勢い余って様々な物がこぼれ落ちたが気に留めず、中から古い箱を取り出して、テルナミのもとへ戻る。
その箱には複雑な鍵が取り付けられていたが、エヌスの操作によってほどなく、カチリと音が鳴った。
蓋が開くと同時に、こぼれ出る金属質の光──
そこに収められていたのは、まぎれもない、二枚貝を象った黄金のロケットだった。
エヌスは慎重にそれを取り出して、見せる。
「まさか、これが? 他にも存在すると?」
彼は信じられないような気持ちで呟いた。
「古の時代の聖遺物です。かつての異才が製作したもので──強固な封印がされているゆえ、誰にも開けられない。中に強力な力が宿っていることだけは分かっているのだが」
それを聞いたテルナミは「なるほど……」としばらく言葉を無くしていたが、黄金とエヌスを交互に見比べ、困惑したように告げる。
「彼は、いとも簡単にそれを開けましたよ」
今度はエヌスが絶句する番だった。
「なんですと?」
思わずふらついたのを、テルナミに支えられる。
彼はエヌスを椅子まで運んで座らせると、自分も元の椅子に腰掛けた。
「本当です。その村にあったロケットは、私やパルラが試しても全く開かなかった。ミィラスが触れたときだけ、呆気なく開いていました」
しん、と気まずい沈黙が下りた。
双方ともにどうしたものかという表情のまま、腕を組んだり眉間を揉んだりする。
先に、テルナミが口を開いた。
「私は異教徒なので、確認なのですが、聖遺物というのはつまり、神に関わる宝物という認識で合っていますか?」
「……これの場合、厳密に言うなら、〝聖人〟とされる人物の、としましょう。こうして日の目を見たのは数十年ぶりかもしれませんな」
エヌスは答え、改めて二人分の茶を入れ直した。
一服したのち、気を取り直す。
「……ところで村にあったロケットの中身は見ましたかな?」
「一応は。とはいえ、私には何も入っていないようにしか見えませんでした。けれど直後のミィラスの様子からして、何かあったのは確かなように思います」
「そうですか……」
エヌスは頭を振り、額を押さえた。
「まったく、驚くべき子だ」
独り言のように口にして、ロケットを見つめる。その顔には、自身も知らぬうちに笑みが浮かんでいた。
《テル》
旅の剣士で、風雅な印象の風来坊
《エヌス司祭長》
聖ドリード教団の最高指導者
「はい」
司祭長ははっきりと首肯する。
「──しかし、まさかこれほど早い段階で、かつ業深いものとなるとは」
エヌスの灰色の瞳には、長い間多くの人間を導いてきた者としての、慧眼や先見の明、あるいはほとんど予知に近いものが宿っていた。彼は、かの若者が身の内に宿す素質を見抜き──と同時に、その未来に影が差すであろうことを予感していた。
エヌスは考える。
あの青年は決して不幸ではない。彼の身近には彼を導く者が常に存在していた。幼少期の師しかり、教団においては年長の者、友人。人の縁には恵まれた生まれであった。
持ち合わせた気質を鑑みても、まっすぐな人間に成長したことはなんら不思議ではない。誰に対しても公平で慈悲深く、規律を正しく理解し、教えに対してひたむきであり、困窮する者に迷わず手を差し伸べる心の深さ。
皮肉なことに、まさにそれこそが、彼の決定的な欠陥であり、修行によって補う必要があるものだった。
慈愛、あるいは慈悲。
底の抜けた器は、万人にそれを与えるようでいて、自身の破滅と紙一重である。
だからこそ、ミィラスに降りかかる試練というものは、並外れて大きいものになるだろう──と予感していたのだ。
かの少年が、教団の門を初めてくぐった日のことを思い出す。
「ミィラスと申します。司祭長さま。教団へ受け入れていただき、ありがとうございます」
孔雀色の瞳が印象的な子どもだった。まだあどけない表情の中で、そこだけが鮮烈に輝いており、同時に深い影を宿していた。緑色の奥底にあるのは悲しみであり、自らの身を捧げることへのある種の喜びであり、傷跡の一端であり、知識を求める欲であり、無知であり、無辜であり、善であり悪だった。
「司祭長殿がおっしゃるのだから、そうなのでしょう」
テルナミが相槌を打った。エヌスは回想から引き戻される。
自嘲しながら、茶器を置いて姿勢を正した。
「それが年の功というもの。人間の目は良くも悪くも、本質を映す鏡であり、窓なのだと、老いぼれゆえに、身に染みているのでしょうな」
ミィラスの瞳を見たとき、エヌスはどこかで直感した。この少年を導き、欠けた器を育んだならば、ドリード神の教えの真髄へ至るのではないか──と。
少年は「呪い麦」事件で名を落とした家のために、いわば一族と商会の名誉回復を背負って放り込まれた子どもだった。それまでは優れた師のもとで、家業に生かすための教育を受けていた。だが、教団に入れば、世俗との関係は断ち切られる。少年が期待され、大切に育てられてきた意味もろともに──
そして今、聖典楽師として生きている彼から、存在意義ともいえる〝力ある言葉〟が奪い取られたのだ。しかも「呪い麦」の時と同様、今回も人の命が奪われている。
──この目が甘かったのか?
エヌスは自問する。
──彼はそうと知らずに自ら破滅を生む芽だったのか?
──いや、ただの巡り合わせに過ぎない。彼は導くべき器だ。
ミィラスの器は、まだ柔らかく傷つきやすい。いくら早熟だとしても成長途中の若者だ。彼が魔物を止めようと強靱な覚悟を決めたとして、それは諸刃の刃であり、己を削りきってしまう危険性もはらんでいる。
彼を聖典楽師に任じたのは、素質を信じてこそだった。しかしその素質こそが徒となったのではないか。
「それにしても、初めてここに来ましたが、神に仕えて修道するというのは想像もつきません。誰にでも出来ることではないでしょう。必要な資質や能力などがあるのでしょうか」
テルナミの素朴な問いに、エヌスは「苦悩です」と短く答えた。
「苦悩を厭わず友とする。人を愛し、人に寄り添う。生きることの苦しみを深く考え、生きる喜びを人に説く。神を信じ、己を信じ、人を信じることは、ときに苦悩ともなりえます」
「なるほど、当たり前に聞こえて、実践するとなると困難に思えますね」
テルナミは納得したように頷き、少しの間窓の外へ目を向ける。外は緑の葉が茂り、時折鳥の影がよぎったりした。枝と枝を行き交う二羽は、番いだろうか。
やがてエヌスに視線を戻すと、テルナミは言った。
「私は彼らと短い期間しか同道しなかった。しかし恐らくは、あなたが彼に対して感じるものを、私も感じたように思います。なんというか、不思議な青年でしたよ」
彼の声には、それまでと違った響きがあった。笑い含みとでも言おうか。それは冷笑などではなく、親しみのこもった何かだ。
「そう──神秘とでも言うのか。人間離れした何か。しかし同時に彼はとても人間らしく素朴で愚直な若者でした。私は好ましいと思いました。まあ結局のところ、俗な言葉で言えば、危なっかしいとも」
エヌスは、テルナミの言葉に同意であった。恐らく言葉にしていないだけで、より多くの事を察していることだろう。鋭い洞察もあえて「俗な言葉」にすることで、気取らない彼の性格を表している。
「さて」とテルナミが顔つきを引き締める。
「当初の話題に戻りますが、西翼領の事件の結果如何によっては、ヴァスディ王治世二十年、そしてカミル香国改号百年の祝典の行く末が変わるでしょう。私も帝から直々に依頼を受けている以上、助力は惜しみません。これは貸し借りなどではなく」
「ふむ……」
エヌスはゆっくり立ち上がり、壁際まで歩いて行った。年季の入った壁には、歴代の司祭長、更に遡って古の時代の聖人画などがかかっている。いつかはエヌスも過去の司祭長のひとりとして片隅に加わるだろう。そのときに後悔の無いよう、使命を全うしなければならない。己にはミィラスとは違った意味で、大きく背負うものがあるからだ。
ドリード神の試練は、エヌスにもまた課されているのである。
「有り難い申し出に感謝する。しかし貴公には充分にしていただいた。ミィラスとパルラの動向を知れたことは、この上ない僥倖であった」
丁重に断ろうとしたエヌスが振り返ると、テルナミが奇妙な表情をしていた。何かをじっと凝視しており、眉根がぎゅっと寄っている。
「……どうかしましたかな?」
「ああ、ええと」
テルナミがすっと立ち上がり、エヌスの側に歩いて来た。彼はじっと壁を──かかっている一枚の絵を見つめている。
「この肖像画……」
テルナミが指さしたのは、最も古い絵の一つだった。
彼は言う。
「これと同じものを見ました。西翼領の村で。それと、ここに描かれている黄金のロケットの実物も。もっとも、村に着く前には、既にミィラスもまた、同じ物を持っていましたが──」
「実物? それに同じ物を?」
エヌスは目を見開き、思わず強い語調で問い返した。
テルナミは老人の突然の気迫に驚いたようだった。
「はい。この目で見たものが正しいなら。この肖像画の人物の出身地だという村で、祠の中に隠されるように、保管されていました。例の二人とともに偶然立ち寄り、そこで見せてもらったのですが」
エヌスはつかつかと執務机に向かい、抽斗の下、二重の厳重な小扉を開けた。勢い余って様々な物がこぼれ落ちたが気に留めず、中から古い箱を取り出して、テルナミのもとへ戻る。
その箱には複雑な鍵が取り付けられていたが、エヌスの操作によってほどなく、カチリと音が鳴った。
蓋が開くと同時に、こぼれ出る金属質の光──
そこに収められていたのは、まぎれもない、二枚貝を象った黄金のロケットだった。
エヌスは慎重にそれを取り出して、見せる。
「まさか、これが? 他にも存在すると?」
彼は信じられないような気持ちで呟いた。
「古の時代の聖遺物です。かつての異才が製作したもので──強固な封印がされているゆえ、誰にも開けられない。中に強力な力が宿っていることだけは分かっているのだが」
それを聞いたテルナミは「なるほど……」としばらく言葉を無くしていたが、黄金とエヌスを交互に見比べ、困惑したように告げる。
「彼は、いとも簡単にそれを開けましたよ」
今度はエヌスが絶句する番だった。
「なんですと?」
思わずふらついたのを、テルナミに支えられる。
彼はエヌスを椅子まで運んで座らせると、自分も元の椅子に腰掛けた。
「本当です。その村にあったロケットは、私やパルラが試しても全く開かなかった。ミィラスが触れたときだけ、呆気なく開いていました」
しん、と気まずい沈黙が下りた。
双方ともにどうしたものかという表情のまま、腕を組んだり眉間を揉んだりする。
先に、テルナミが口を開いた。
「私は異教徒なので、確認なのですが、聖遺物というのはつまり、神に関わる宝物という認識で合っていますか?」
「……これの場合、厳密に言うなら、〝聖人〟とされる人物の、としましょう。こうして日の目を見たのは数十年ぶりかもしれませんな」
エヌスは答え、改めて二人分の茶を入れ直した。
一服したのち、気を取り直す。
「……ところで村にあったロケットの中身は見ましたかな?」
「一応は。とはいえ、私には何も入っていないようにしか見えませんでした。けれど直後のミィラスの様子からして、何かあったのは確かなように思います」
「そうですか……」
エヌスは頭を振り、額を押さえた。
「まったく、驚くべき子だ」
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