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3話《フィン目線》
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長い廊下に響く足音。
僕は早足で父である王の元へと歩みを進めている。
「フィン兄さん!」
「ウィル?」
前には僕を待っていたかのように壁によりかかったウィルが小走りできた。
僕の弟であり第2王子のウィル。
窓から入り込むそよ風にピンクのショート髪がサラサラと靡いている。
「先に行っててって言ったじゃん」
「やだよ~! 一緒に行こ! 父さん怖いし……」
ウィルが父さんに怯える理由はよくわかる。
ネイサン家が潰れてからというもの職を失った人が多々出て、経済状況も不安定になった。
元々は公爵家の中でもダントツでトップのネイサン家。潰す前にこうなることは誰だって予測は出来たはずだ。
それでも王様は庶民を選んだ。
国を潰す覚悟で。いやもしかしたら溺愛し過ぎてそんな簡単なことすらわからなかったかもしれない。
そんなバカをやって王様は1人で焦って僕たちに八つ当たりしている。
大人しく当初の予定通りルイスの妹を婚約者にすればよかったのに。
まぁ、庶民が虐められてたのを見て黙ってられなかったんだよね。たぶん。なんだかんだ言って最終的に煽り立てたのは僕だけど。
「ほんと、父さんに会いたくないなぁ……今日の朝からかなりご立腹だし」
「今日の朝から?」
「うん。ボクもよわかんないけど、10億がどうとか言ってたよ」
僕は思わずギョッとし、表情を強ばらせた。
もうバレた? いくらなんでも早すぎない?
10億は昨日僕がルイスを買った金。かなりお金持ちのこの国でも一晩で10億を使うなんてお祝いごとやよっぽどの事がない限りありえない事。
さすがに金額が出かかったかな……
そんな会話をしながら2人出歩いてると仄かに石鹸のいい香りがした。
それと同時に軽い足音が聞こえたと思ったら背後から茶髪のストレートの少女が僕達の前に周りこんだ。
さっきまで王様に対して怖がってたウィルは頬を赤く染めだらしなく表情を緩ませてる。
アリス……か。
「フィン様ウィル様! おはようございます!」
太陽さえ霞んでしまうくらいの明るく穏やかな笑みに反射的に目を細めてしまった。
彼女こそこの国の中心となりつつある人物。アリス。
ネイサン家の令嬢から婚約を略奪し、いじめられ、そして潰すというなんとも悲惨な事を彼女は間接的にやっていた。
この女もこの女でかなりとち狂ってるよね。
猫かぶり感が隠しきれてなくて僕は嫌いだけど。
「アリスはこんな朝早くからどうしたの?」
「私は王様からお呼ばれになって……おふたりももしかして同じですか?」
「そうだよ! もしよかったら一緒に行こうよ!」
ウィルの明るい誘いにアリスは満面の笑みで首を何度も縦に振った。
飾り気のない天然の女の子。
王様もウィルも誰も彼もが彼女のそういう所に惹かれたのは言うまでもない。
「それじゃあ! しゅっぱーつ!」
上機嫌になったウィルはずんずんと先に進んでいき、僕とアリスは不本意にも取り残された。
「クスクスッ。ウィル様ってほんと無邪気で可愛らしいですね」
「そうだね。ウィルにはずっとあんな感じに素直でいてもらいたいよ」
「フィン様は素直な方がお好きなのですね」
「まぁね」
僕の言葉にアリスは微かに冷たい笑みを浮かべた。
「だから、10億を払ってまでルイス・ネイサンを買い取ったのですね。究極の素直人間ですものね」
「え?」
「あ、早く行かないと王様に怒られちゃいますよ!」
アリスは惚けるように大きな声でそういうと早足で廊下を歩いた。
僕は1人でただただその後ろ姿を眺めることしか出来なかった。
……あいつ……なんで知ってんだよ……
僕は早足で父である王の元へと歩みを進めている。
「フィン兄さん!」
「ウィル?」
前には僕を待っていたかのように壁によりかかったウィルが小走りできた。
僕の弟であり第2王子のウィル。
窓から入り込むそよ風にピンクのショート髪がサラサラと靡いている。
「先に行っててって言ったじゃん」
「やだよ~! 一緒に行こ! 父さん怖いし……」
ウィルが父さんに怯える理由はよくわかる。
ネイサン家が潰れてからというもの職を失った人が多々出て、経済状況も不安定になった。
元々は公爵家の中でもダントツでトップのネイサン家。潰す前にこうなることは誰だって予測は出来たはずだ。
それでも王様は庶民を選んだ。
国を潰す覚悟で。いやもしかしたら溺愛し過ぎてそんな簡単なことすらわからなかったかもしれない。
そんなバカをやって王様は1人で焦って僕たちに八つ当たりしている。
大人しく当初の予定通りルイスの妹を婚約者にすればよかったのに。
まぁ、庶民が虐められてたのを見て黙ってられなかったんだよね。たぶん。なんだかんだ言って最終的に煽り立てたのは僕だけど。
「ほんと、父さんに会いたくないなぁ……今日の朝からかなりご立腹だし」
「今日の朝から?」
「うん。ボクもよわかんないけど、10億がどうとか言ってたよ」
僕は思わずギョッとし、表情を強ばらせた。
もうバレた? いくらなんでも早すぎない?
10億は昨日僕がルイスを買った金。かなりお金持ちのこの国でも一晩で10億を使うなんてお祝いごとやよっぽどの事がない限りありえない事。
さすがに金額が出かかったかな……
そんな会話をしながら2人出歩いてると仄かに石鹸のいい香りがした。
それと同時に軽い足音が聞こえたと思ったら背後から茶髪のストレートの少女が僕達の前に周りこんだ。
さっきまで王様に対して怖がってたウィルは頬を赤く染めだらしなく表情を緩ませてる。
アリス……か。
「フィン様ウィル様! おはようございます!」
太陽さえ霞んでしまうくらいの明るく穏やかな笑みに反射的に目を細めてしまった。
彼女こそこの国の中心となりつつある人物。アリス。
ネイサン家の令嬢から婚約を略奪し、いじめられ、そして潰すというなんとも悲惨な事を彼女は間接的にやっていた。
この女もこの女でかなりとち狂ってるよね。
猫かぶり感が隠しきれてなくて僕は嫌いだけど。
「アリスはこんな朝早くからどうしたの?」
「私は王様からお呼ばれになって……おふたりももしかして同じですか?」
「そうだよ! もしよかったら一緒に行こうよ!」
ウィルの明るい誘いにアリスは満面の笑みで首を何度も縦に振った。
飾り気のない天然の女の子。
王様もウィルも誰も彼もが彼女のそういう所に惹かれたのは言うまでもない。
「それじゃあ! しゅっぱーつ!」
上機嫌になったウィルはずんずんと先に進んでいき、僕とアリスは不本意にも取り残された。
「クスクスッ。ウィル様ってほんと無邪気で可愛らしいですね」
「そうだね。ウィルにはずっとあんな感じに素直でいてもらいたいよ」
「フィン様は素直な方がお好きなのですね」
「まぁね」
僕の言葉にアリスは微かに冷たい笑みを浮かべた。
「だから、10億を払ってまでルイス・ネイサンを買い取ったのですね。究極の素直人間ですものね」
「え?」
「あ、早く行かないと王様に怒られちゃいますよ!」
アリスは惚けるように大きな声でそういうと早足で廊下を歩いた。
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……あいつ……なんで知ってんだよ……
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