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12 グラナート視点
しおりを挟む俺は細道で時計を見ながら馬車が来るのを待っていた。
もうすぐゴルトが来る時間だ。
耳を澄ましていると、聞き覚えのある馬車の音が聞こえてきた。
……まだ飛び出すには早い。
落ち着け、もう少し待つんだ。
飛び出すタイミングは何回も練習したから完璧なはずだ。
練習と違うのは俺が転んだ後も馬を止めずに走らせるという事だけだ。
そのまま走らせて……
それで……
俺は今になって手を轢かれる事が怖くなってきた。
自分の身体が震えているのがわかる。
怖い。
怖いよ……
でも……
俺はエルツの顔を思い浮かべた。
……大丈夫。
できる。
馬車の音が近づいてきた。
……今だ!
俺は震える足で細道から大通りに飛び出した。
馬車が視界に入る。
タイミングは完璧だ。
後はもう少し進んで朝と同じように転べば……
あっ
俺は足がもつれてしまい、予定より手前で転んでしまいそうになった。
まずい……
そう思った時には俺はもう地面に倒れていた。
転んだ痛みを感じた後に、右手に激しい痛みが走った。
「ゔっ!」
手を轢かれる事はできたようだが、想像以上の痛みに俺は何も考えられなくなった。
ハアハアと呼吸が荒くなり、冷や汗が止まらない。
「…………大丈夫か?」
ゴルトの声が聞こえる。
返事をしないと……
そう思ったが俺は言葉を発する事ができなかった。
するとゴルトは俺の右手の怪我を確認するように強く触った。
「い゛っ!!」
「ああ、すまない。ひどい怪我をしているようだな。医者に診てもらったほうがいい」
「お金が……ない……から……」
「そうか。それなら私の屋敷にくるといい。すぐに医者を呼んであげるから。……ああ、もちろんお金は必要ないよ」
「あ……ありがとう……ございます」
「いやいや、怪我をしている子どもを放っておくなんて私にはできないよ。では急いで屋敷に……あ、いや、少し用事があるんだ。すぐに戻ってくるからここで待っていてくれ」
そう言うとゴルトは大通りを進んで昨日と同じ小路に入っていった。
俺は手の痛みに慣れてきたのか少しずつ冷静さを取り戻していた。
ゴルトは昨日の男性からお金を受け取りに行ったのだろう。
この後は作戦通りゴルトの屋敷に潜入できそうだ。
俺は轢かれた直後の様子は確認できていないが、ゴルトが俺に声をかけてきたという事は父様の姿を見せる事はできたのだろうし、医者に診てもらわないと断定はできないが俺の手も父様の弱みになるくらいの怪我をしているはずだ。
……足がもつれた時は失敗したと思ったが、作戦が成功してよかった。
だが、問題はここからだ。
俺はゴルトの事を調べないといけない。
ゴルトは屋敷の中では外よりも気を抜くだろうが、果たして取引材料になるような事を知る事はできるだろうか……
そう思っていると、ゴルトが小路から出てきて、俺の方に小走りで戻ってきた。
「待たせたね。ではいこうか」
俺はゴルトに連れられてゴルトの屋敷に向かった。
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