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 肩を落としながら廊下を歩いていたグラナートは、ある部屋の前で立ち止まった。

 コンコン、と目の前の扉を叩くと、ラフな格好をしたブラウが部屋から出てきた。

「グラナート!? こんな時間にどうしたの?」

「……」

 ブラウは俯いたまま何も答えないグラナートを部屋に入れると、優しく声をかけた。
 
「何があったのか教えて?」

「もうエルツと一緒にケーキが食べられないんだ……」

「どうして?」

 グラナートは、先程エルツが言っていたことをブラウに話した。

「…………なるほどね」

「明日からはダンスの練習の時間しか二人きりになれないんだ。……もうエルツを振り向かせるのは無理なのかもしれない」

「そんなことないよ! 少しずつだとしても確実にエルツとの距離は縮まっているんだし、何か良い方法があるはずだから一緒に考えよう?」
 
 確かに少しずつエルツとの距離は縮まっている気がするが、それはケーキを食べながらゆっくりと話をする時間があったからだ。

 その時間がなくなってしまったらこれ以上親しくなることはできないと思い、グラナートは首を小さく横に振った。

 ブラウはそんなグラナートを心配そうに見つめると、小さい子どもを諭すような口調で話し始めた。

「告白してから今日までの間、グラナートはエルツに振り向いてもらえるように、たくさん努力をしてきたでしょう? それなのにここで諦めたら今までの努力が無駄になってしまうよ」

「……」

「それに、今のグラナートは意気消沈しているけど、このまま諦めてしまうと後で振り返ったときに後悔することになると思うんだ。絶対に無理だと決まったわけではないし、ボクもできる限り協力するから、最後まで諦めずに頑張ろうよ。……ね?」

 グラナートは、どうせ振り向かせることができないのなら最後まで頑張る意味はないと思っていたが、ブラウの話を聞いて結果は同じだとしても途中で諦めるのと最後まで足掻くのでは違うのかもしれないと思い始めていた。

 それに、ブラウの言う通り可能性がゼロになったわけでない。

 まだ時間は残されているんだ。

「……ありがとうブラウ。俺、最後まで頑張ってみるよ」

 ブラウは安心したような顔になると、ニッコリと笑った。

「さっそく明日からどうするか作戦を考えよう」

「……もしブラウが調査の仕事でエルツみたいな人に好意を持ってもらわないといけないとしたら、どうする?」

 グラナートの問いにブラウは、うーん、と考え込んだ。

「たぶんエルツは人に頼るよりも頼られたいタイプだと思うから、自分でできることだとしても、あえてエルツに頼むようにするかな」

「……それだと、エルツの仕事の邪魔をしてしまわない?」

「ちょっとした頼みごとなら邪魔にはならないと思うよ」

 ブラウはそう言うが、グラナートは不安だった。

 告白してすぐのとき仕事中のエルツに話しかけたら迷惑だと言われてしまったことをブラウに話すと、ブラウは哀れむような目でグラナートを見た。

「……そんなことがあったんだね」

「話しかけるのと頼みごとをするのは違うのかもしれないけど、少しでも仕事の邪魔になるようなことはしたくないんだ……」

 ブラウは、そうかぁ、と呟くと腕を組んで眉間に皺を寄せた。

「アドバイスを求めておいて否定するようなことを言ってごめん……」

「謝ることないよ。以前そういうことがあったのなら当然の考えだしね。エルツの仕事の邪魔にならないような方法を考え——」

 ブラウは話している途中で、ピタリと口の動きを止めた。

「どうしたの?」

「……仕事が少なくてエルツが手持ち無沙汰の状態だったら頼みごとをしても邪魔にはならないよね?」

「それはそうだけど……。明日以降は仕事が少ないの?」

「いや。いつも通りだけど、ボクがエルツの仕事を代わりにやればエルツの仕事量を減らすことができると思ったんだ」

 確かにそうかもしれないがエルツに怪しまれてしまうのではないか、とグラナートが言うと、ブラウは、たぶん大丈夫、と返した。

「長期間は無理でも数日ならエルツに怪しまれずに仕事量を減らすことはできると思う。でも、どれくらいエルツの空き時間を作ることができるかはその日によって変わるから、毎朝エルツの仕事のスケジュールを教えるよ。そうしたらグラナートはエルツが暇なタイミングを知ることができるから、そこで頼みごとをしてみるのはどうかな?」

「ブラウに負担をかけてしまうことになるけどいいの……?」

「全然負担じゃないよ。ボクはグラナートの恋愛の手伝いができて嬉しいんだ」

 ブラウは、申し訳ない顔をしているグラナートに優しく笑いかけた。

「……ありがとう」

 グラナートは、ブラウがここまで協力してくれているのだから最後まで絶対に諦めないと強く心に誓った。

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