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しおりを挟む翌朝、エルツは自室の窓から朝日を眺めていた。
昨夜は一晩中グラナートのことを考えていたため、一睡もできていなかった。
エルツは昨日ブラウが言っていた、特別な思い、という言葉が気になっていた。
ブラウは憶測だと言っていたが、本当にそうだとしたら、二年前からグラナートはエルツに好意を抱いていたということだろう。
グラナートがエルツのことをただの使用人としか思っていなかったら、骨折までしてゴルトの屋敷に潜入するようなことはしなかったかもしれない。
エルツは自分のせいでグラナートに大怪我させてしまったことを申し訳なく思うと同時に、これから先も同じようなことが起こる可能性があるのではないかと不安を感じていた。
もう二度と危険な目に遭ってほしくない……。
エルツはこんなに自分のことを思ってくれる人はもう二度と現れないだろうし、グラナートの告白を受け入れ恋人になったら、きっと幸せなのだろうと思っていた。
しかし、恋人になったらグラナートはエルツのためならばどんな危険なことでもするようになってしまう気がして、エルツは当初の予定通り告白は断ろうと決心した。
エルツが食堂へ向かっていると、白髪まじりの使用人に声をかけられた。
「おはようエルツ」
「おはようございます」
「実は昨日、突然必要になった書類があるんだが、なかなか見つからなくてね。今日中に探し出さないといけないから、悪いが朝食の配膳と片付けはひとりでやってくれるかな」
「はい」
「ありがとう。あと、今日はグラナート様のダンスの練習は無しにして、朝食の片付けが終わったらエルツも一緒に探してほしいんだ」
「わかりました」
エルツはダンスの練習のときに告白の返事をしようと思っていたため、いつ返事をしようと考えながら食堂へ向かった。
エルツが朝食の配膳を済ませると、グラナートはキョロキョロと食堂内を見渡した。
「ほかの使用人の姿が見えないけど、今日はエルツ一人なの?」
エルツが、はい、と答えると、グラナートの父親は申し訳なさそうな顔をした。
「すまないね。私のせいで……」
「いえ。お気になさらないでください」
グラナートは不思議そうな顔して二人の会話を聞いている。
そんなグラナートにエルツはダンスの練習が出来ないことを告げた。
グラナートは驚いたように目を見開く。
「……どうして?」
その質問にはエルツではなくグラナートの父親が答えた。
「今日中に用意しないといけない書類があるんだが、どこに仕舞ったのか思い出せなくて、使用人たちに探してもらっているんだ。エルツもその手伝いをしないといけないからダンスの練習はできないんだろう」
グラナートは悲しそうな顔をしてエルツを見る。
「……そうなの?」
「はい。申し訳ありません」
「エルツが謝ることじゃないよ……」
そう言うとグラナートは落ち込んだ様子でゆっくりと朝食を食べ始めた。
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