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しおりを挟むブラウは困った顔をしてエルツに話す。
「使用人の中では小柄なほうのボクでも狭すぎて屋根裏では思うように動けなくてね。屋根裏に入れる体格の使用人は数人しかいないから交代しながら物を下ろしているけど、屋根裏で無理な態勢をとるから体のあちこちがつってしまったり、狭いから柱に体をぶつけてしまったりしているんだ。でも、エルツなら屋根裏でもスムーズに動けるんじゃないかと思って……。だから、一度屋根裏に上がってみてくれないかな?」
「わかりました」
ブラウは、ありがとう、と言うとエルツに鼻と口を覆うための布を渡した。
エルツは埃を吸い込まないようにしっかり布を巻くと、梯子に足をかける。
一段ずつ慎重に上がっていくと、徐々に屋根裏の様子が見えてきた。
二、三個置いてあるランプの周り以外は真っ暗だったが、とても狭いということはわかる。
エルツは頭をぶつけないように気をつけながら屋根裏に入った。
布越しでも埃っぽさを感じ、眉をひそめながら四つん這いで少し奥に進む。
「……エルツ、どんな感じ?」
出入り口の方向からブラウの声が聞こえた。
「大丈夫です」
エルツは、ほかの使用人より小柄なうえに体が柔らかいので、狭い屋根裏でも体を痛めることなく動けそうだった。
「それなら出入り口の近くまで運んできてもらってもいいかな?」
「わかりました」
エルツは目の前の箱に手を伸ばすと、蓋の上の埃を軽く手で払う。
本当はちゃんと持ち上げて運びたかったが、狭くてできないので、仕方なく箱を押したり引いたりしながら出入り口まで移動させた。
「助かるよ」
ブラウはそう言うと箱を持って梯子を下りていった。
最初は順調に箱を出入り口まで移動させていたエルツだったが、屋根裏の奥に進むにつれて徐々に動きが悪くなっていった。
呼吸が荒くなり、冷や汗が出る。
窓がない場所の独特な空気と雰囲気が、ずっと閉じ込められていた地下室と重なり、エルツはとうとうその場で止まってしまった。
「……エルツ、どうしたの? 大丈夫?」
急に動かなくなったエルツのことが心配になったのだろう。
ブラウが出入り口から身を乗り出してエルツに声をかける。
「……すみません。大丈夫です」
エルツは自分を落ち着かせるように目を閉じた。
大丈夫。ここは地下室じゃない。大丈夫だ……。
自分にそう言い聞かせながら、埃が舞っていることなど気にせずに何度も深呼吸をした。
エルツはゆっくり目を開けると、目の前の箱を見つめる。
残りはあと少しだ……。
エルツは両手でギュッと拳を握って気合を入れると、再び箱を動かし始めた。
「……これで最後です」
エルツから箱を受け取ると、ブラウはエルツにお礼を言った。
「本当に助かったよ。ありがとう」
「いえ」
エルツがブラウの後に続いて梯子を下りようとしたとき、大きな声が聞こえた。
「見つかった!」
すると、おお! 良かった!と歓声が上がる。
エルツは安堵のため息を吐くと、一段ずつ慎重に梯子を下りた。
「お疲れ様。みんなで休憩にしよう」
ブラウにそう言われたエルツは、自分は埃まみれなので、と断る。
「軽くはたけば大丈夫だよ。ボクたちも服や髪の毛に埃がついているし……。誰も気にしないから一緒に休憩しよう?」
「……わかりました」
エルツの返事を聞くと、ブラウは優しく微笑んで物置部屋を出ていった。
ほかの使用人もブラウに続いて部屋を出る。
部屋に一人になったエルツは入念に埃を払ってから食堂へ向かった。
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