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しおりを挟む翌日、グラナートはいつもより早めに大広間に来ていた。
グラナートはエルツに格好悪い姿を見せたくなかったため、入念に踊りの確認をしながら、あと六日でエルツを振り向かせる方法を考えた。
エルツが異性に対して最も重視しているのは賢さで、それは六日間でどうにかなるものではないが、エルツは優しい人がタイプだとも言っていた。
優しい人だと思ってもらうにはどうすればいいだろうか……。
本当の優しい人は、優しいアピールなどしないのかもしれないが、六日という短期間でエルツに好意を持ってもらうためにはアピールするしかない、とグラナートは思っていた。
……エルツが悩んでいるときに親身になって相談に乗ることができれば優しいと思ってもらえるのでは?
もし悩みを解決できれば、頼りになると思ってもらえるかもしれないし、解決できなくても話を聞くだけで少しはエルツの気持ちが軽くなるかもしれない。
本当はエルツの悩みごとを察して、さりげなく相談に乗るのが理想だが、短期間では難しいと思い、本人に直接聞くことにした。
「遅くなって申し訳ありません」
ドレス姿ではなく、いつもの使用人の服を着たエルツが大広間に入ってきた。
「俺が早く来すぎてしまっただけだから気にしないで。……というか謝らないといけないのは俺の方だよ。昨日は本当にごめん。せっかくドレスを着てくれたのに……」
「お気になさらないでください。……ブラウさんは他の仕事があって来られないそうなので、私ひとりですがよろしくお願いします」
「……こちらこそよろしくお願いします」
グラナートは心の中でブラウに感謝しながら、そっとエルツの手を取った。
ブラウとは違う小さくて柔らかい手に緊張したが、グラナートは目を瞑って気持ちを落ち着かせると、エルツと目を合わせて踊り始めた。
グラナートはブラウと踊っていたときより少し体に力が入ってしまったが、ミスをすることなく最後まで踊ることできた。
ホッと一安心しながらエルツに聞く。
「遠慮せず正直に答えてほしいんだけど、一緒に踊ってみてどうだった?」
「……手を握ったりリードをするときの力が少し強いかもしれないです」
「ごめん、痛かった?」
「いえ、少し踊りにくかっただけで痛くはありませんでした。グラナート様はご自身と同じくらいの背格好のブラウさん相手に練習をされていたので、少し力が強くなってしまっているのではないかと思います」
グラナートはエルツの言葉を聞いてハッとした。
緊張のせいで力が入ってしまったというのもあるだろうが、そもそもブラウと踊るときよりも力を弱めないといけないのか……。
「教えてくれてありがとう。次はもっと力を抜いて踊るように意識してみるよ」
そう言うとグラナートは再びエルツの手を取った。
「……もうそろそろ終わりにしようか」
グラナートがそう言うと、エルツは時計をチラッと見る。
「そうですね。お疲れ様でした」
「エルツもお疲れ様。いろいろとアドバイスをしてくれてありがとう」
あれからグラナートとエルツは何回か踊ったが、エルツは踊り終わるたびに女性目線のアドバイスをしてくれたため、グラナートはとても勉強になった。
「お役に立てたのなら光栄です」
「とてもためになったよ。練習に協力してくれて本当にありがとう。……あのさ、エルツに力を借りてばかりだから、俺もエルツの力になりたいと思っているんだけど、何か悩んでいることはない?」
「グラナート様たちのお力になるのが私の仕事なのでお気になさらないでください」
グラナートは無理にでも悩みごとを聞き出すべきなのか迷ったが、強引すぎるとエルツに嫌われてしまうかもしれないと思い、引き下がることにした。
「……そっか。いつも仕事熱心で助かるよ」
「私は他の使用人と同じように仕事をこなしているだけですよ。……もう時間ですね。次の仕事があるので失礼します」
エルツはグラナートに一礼すると、スタスタと歩いて大広間を出ていってしまった。
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