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しおりを挟むグラナートは昨日と同じ時間に食堂へ向かうと、ちょうどエルツがお茶とケーキをテーブルの上に置いているところだった。
「今日のケーキも香ばしい匂いがしてとても美味しそうだね」
「ありがとうございます」
椅子に座り目の前のケーキを見ると、昨日よりも大きいような気がした。
「どうぞお召し上がりください」
エルツはそう言うとグラナートのことをじっと見る。
グラナートはエルツ視線を感じながらケーキを口に入れた。
やわらかい食感なのにしっとりとしていてとても美味しかったが、少し噛んだだけで口の中から消えてしまい、グラナートは寂しいような悲しいような気持ちだった。
「しっとりふわふわしていて、とても美味しいよ」
「……お口に合ってよかったです」
エルツはテーブルに視線を落とすとケーキを食べ始めた。
昨日よりも食べるスピードが早いエルツを見て、グラナートは慌てて話しかける。
「あのさ、エルツのことを教えてくれないかな」
エルツは食べる手を止めるとグラナートに聞いた。
「私の何を知りたいのですか?」
「好きなものとか——」
嫌いなものとか、と続けようとしたが、グラナートは以前同じ質問をしたときに、『グラナート様のことが嫌いです』と言われてしまったことを思い出し口篭った。
エルツはグラナートの言葉の続きを待っているのか、グラナートのことを見つめている。
グラナートは、エルツにもう一度嫌いだと言われたら立ち直れないと思い、質問を変更した。
「エルツの好きなものとか、好きなことが知りたいんだ」
「好きなものや好きなことですか……」
エルツはしばらく考えこんでいたが、なかなか思いつかないようだった。
質問がアバウトすぎたのかもしれない。
グラナートはもっと答えやすいように聞きなおすことにした。
「エルツは落ち着いた色の服を着ていることが多いよね。鮮やかな色よりも淡い色の方が好きなの?」
「……色の好き嫌いはありませんが、派手な服は似合わないので地味な服を着ています」
「そんなことないよ。ベリル嬢の家に行くときに着ていた服はとても似合っていたし……」
グラナートがそう言うと、エルツは何かを思い出すように目を下に向けた。
グラナートは、どうしたのだろう、と思いながらエルツのことを見ていたが、数分経ってもテーブルに視線を落としたままピクリともしないエルツが心配になり声をかけようとしたとき、エルツがパッとグラナートのことを見た。
「……あの服を着た状態でグラナート様とお会いしましたか?」
「あ……。いや、その……」
グラナートは動揺を隠せなかった。
あの日エルツとブラウを尾行していたことは知られたくなかったが、上手く誤魔化すことはできない思い、観念して正直に話すことにした。
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