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4日目 ダブルデートは地獄絵図!?

6ー1

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 会計を済ませて店を出ようとした時、どこからか聞き覚えのある声が聞こえて颯は周囲を見回した。


 するとそこには見慣れた後ろ姿を見つけて近付くと、先に会計を終えた悠人が振り返った。


「あれ?颯ちゃん?」


「え?悠人?」


 美容院に行くと言っていた悠人がこんな場所にいると思ってもいなかった颯は、目を丸くして首を傾げた。

 そんな二人の間に優雅な足取りで入ってきた、サングラスをかけた男が一人。

「よぉ、悠人!元気してたかい?」


 この男は距離感という言葉を知らないのかグイグイ距離を詰めて、悠人の肩に手を置いて爽やかに笑った。


 しかし、悠人は不信感いっぱいの顔で後退りをしている。


「……誰?」


 自分と同じ反応をする悠人を見て、颯は頭を抱えた。

 そんな反応にも全く動じない、ある意味強いメンタルを持った翔は一歩も引かない。

 サングラスを外し、顔を近付けて言った。

「俺だよ、俺!後輩にまで距離を取られるなんて、流石の俺でも傷つくぜ」

「え、翔先輩!?」


 サングラスを外した顔をじっくり眺め、悠人もようやく翔だと分かったようだ。

 それでもまだどこか半信半疑で、目を細めたり距離を取って翔を観察している。


「そんなに見つめられたら、俺の体に穴が空いちまうぜ。今の俺は城ヶ崎。悠人も気軽にジョニーと呼んでくれ!」


 髪を掻き上げてキメ顔で言う翔に、悠人は無言でポケットからスマホを取り出した。


「颯ちゃん、お巡りさん呼んでいい?」

「いいぞー」

「おいおいおい!ちょっと待てぃ!!」


 芸人顔負けの早さで突っ込みを入れる翔を、悠人は何とも冷ややかな目で見つめている。


 このままここにいては周りに迷惑がかかるかもしれないと思い横目でチラリと悠人を見ると、視線に気付いて大きく頷いた。


「タカちゃん、ごめん。早く出よう」


 それまで後ろで黙って見守っていた貴史に両手を合わせ謝罪して、悠人がそのまま店を出ようとした時だった。


「待って、悠ちゃん!!!」

「!?」


 出口に向かう悠人の腕を掴んで貴史は力任せに引っ張った。
 悠人は後ろに引っ張られ、目を見開いて立ち止まる。


 突然大きな声を出した貴史に近付き、悠人は様子をうかがう。


 俯いて小刻みに震えていた貴史が顔を上げると、何を思ったのか真顔でどんどん翔に近付いていった。


「ヒィ!」


 恐怖に満ちた短い悲鳴を上げて後退りする相手にもお構いなしで迫り、貴史は翔の両手を強く握って言った。


「やっと見つけたわ!アタシの王子様!!」


「「「え?」」」


 綺麗にハモった三人は、どういう事かと視線のみで問いかけても貴史の思いは誰にも分からなかった。



 一先ず颯は会計を済ませ、その隙に悠人が二人を店の外へ引っ張っていった。


 外に出ても貴史は瞳を輝かせて翔に熱い視線を送っている。

 目力の強い射抜くような眼差しに、翔はかたくなに目を合わせようとしない。


 颯と悠人はこの状況を打開する為に二人で目配せすると、互いに反対方向を指差して言った。


「翔、飯行こーぜ」

「タカちゃん、俺らも行こう」


 二人の提案に、ホッとした顔をした翔がサングラスをかけて気取った歩き方で先に進んだ。

 そんな翔を見て、明らかに不満げな貴史は反対方向に歩いて行く背を見つめていたが、突然走り出してスーツの裾を引っ張った。


「えっ!?」

「アタシも行く」

「ちょっ、タカちゃん!」

「アタシ達もこれからご飯に行こうと思ってたし、人数は多い方が楽しいでしょ?颯ちゃんだって二人きりより、悠ちゃんがいた方が楽しいと思うわよね?」

「あ……うん、まぁ……」


 貴史の勢いに押され、颯ははっきり返事が出来ず曖昧な返事をしてしまった。

 それを前向きに受け取ったのか、貴史は満面の笑みで悠人を呼んだ。


「ほら~!行くわよ、悠ちゃん!」


 緩みきった顔で言う貴史に、悠人は大きな溜息を零して渋々ついてきた。


 悠人と翔から非難の眼差しを受ける颯は、せめてもの償いとして料理提供に時間がかからない目の前に看板が見えるファーストフード店を提案した。


 翔がいるならどこでもいいのか、足取り軽く店に入っていった貴史に安堵して見守る二人と、絶望した顔をして後ろからついてくる翔とでは、天と地の差だ。


 店内は人もまばらで、席も十分に空きがあった。

 それぞれ好きなものを注文して商品が乗ったトレーを受け取ると、一番奥の窓側の席に颯を先頭にして向かう。


 颯が窓側、その隣に翔が座った。
 反対側の窓側には悠人、その隣には貴史の順で揃ったところで、何ともおかしな食事会が始まってしまった。


 気まずそうに飲み物ばかり飲んでいる翔は、テーブルの下で軽く颯の足を蹴り、何とかしろとばかりに無言の圧をかけてくる。


 悠人は腹が減っていたのか、ハンバーガーに夢中なようだ。

 舐め回すようにねっとりとした眼差しで見つめる貴史は、獲物を狙うハンターにしか見えず翔が怯えるのも無理はない。


 まずは翔から気を逸らさせようと、颯は他愛ない話をする事にした。


 悠人に会話のパスを出した後は、貴史には悪いが三人しか分からない話で盛り上げるつもりだった。


「あ、あのさ……!」


 颯が意を決して話を切り出した時だった。


「ねぇ~!ジョニーはどこに住んでるのぉ~?」


 先手必勝とはいかず、颯の声は貴史の甘ったるい声に掻き消されてしまったのだ。
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