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4日目 ダブルデートは地獄絵図!?

6ー2

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 誰も予想していなかった発言に、颯と悠人は顔を見合わせた。

 目の前の翔に顔を近付けた貴史を、悠人が止めようとした時だった。


「……日本。住んでる場所は日本」

 翔が俯いたままぶっきらぼうに答えた。


「ブフッ!」

 まるで小学生のような返答にこらえきれず吹き出す颯に、今度は悠人がテーブルの下から脛を蹴って黙らせる。

「いって!!」

 痛がる颯には誰も触れず、貴史の暴走は加速するばかりだ。


「そうなの?あら、奇遇~!アタシも日本なの。これって、やっぱり運命なのかしらぁ~?」


 もはや蚊帳の外である颯と悠人は、このまま翔を見捨てて帰ろうかと遠い目をして空気状態だ。


「それなら~、好きな女性のタイプは?」

「夜になっても髭が生えてこない子」

「やだぁ~!ジョニーったら、ジョークまで上手なのねぇ~。惚れ直したわぁ~!」


 翔は吹っ切れたのか、貴史の質問に淡々と答えていく。
 少し余裕が出てきたのか足を組んでいるが、相変わらず目線は落としたままだ。


「タカちゃん、ちょっといい?」

 見かねた悠人が席を立ち、貴史の腕を引いて強引に連れ出した。

「翔、ちょっと待ってて」

 その場に翔を残し、颯も後を追いかけた。


「もぉ~。どうしたのよ、悠ちゃん!」

 自動ドアが開き暑い空気を受けて外に出ると、貴史は唇を尖らせて目を吊り上げた。


「いやいや、あれは流石にダメだって!グイグイ食いつきすぎでしょ」


 悠人が呆れたように溜息を漏らすと、それまで乙女モード全開だった貴史が不敵に笑って言った。


「分かってないわね、悠ちゃんは。最初はあれくらいでいいのよぉ~!第一印象でバンッと存在感を与えたいの。恋は駆け引きでしょ?これもアタシの作戦なんだからぁ~!見てなさい、悠ちゃん。アタシの魅力をこれからた~っぷり見せてあ・げ・る」


 貴史は顔の前で人差し指を立てて左右に揺らし、唇をすぼめて投げキッスを飛ばしては、上機嫌で店内へと戻っていった。


「なるべく早く終わらせるしかねぇな」

 あの勢いは止められないだろうと、ウキウキとした貴史の背中を見て呟いた。

「仕方ないなぁ……」

 悠人はすっきりした髪に触れて顔をしかめるが、貴史の後を追うしかなかった。


 席に戻ると貴史の質問攻めは止まらない。

「本当にジョニーとは気が合うわぁ~!もっとゆっくり話したいわねぇ。今度は、お酒でも飲みながらゆっくりと」


 酒と聞いた瞬間、翔はハッと顔を上げて目の色を変えた。

「酒?それなら、良い店があるんだけど!」

 それまで暗い顔をしていた翔が前のめりになり、すかさず食いついた。


「あら、アタシお酒を飲めるお店って詳しくないの。ジョニーに任せていいかしらぁ~?」

「も、もちろん!絶対楽しませるから!」

「ヤダ~!楽しみぃ~~!」


 颯と悠人はもう間に入る事を諦めた。

 何やら上手く話が纏まった所で、今日はこれにてお開きとなった。


 別れ際これでもかと両手をぶんぶん振って貴史の背中を見送る翔を、遠くから颯と悠人は見守り、そのまま帰路に就いたのだった。



 家に戻ると、二人はどっと疲れが出てフローリングに倒れ込んだ。


「なんか、すげぇ疲れた……」

「颯ちゃん、なんでカラオケなんかいるんだよ。普段絶対いかないじゃん……」

「悪ぃ。ちょっと一緒に歩くのしんどかった」

「気持ちは分かる」


 何もやる気が起きず、風呂に入るのもかったるかった。

 帰ったら掃除をしようと思っていた颯は、もう一歩も動かないと固い意志でトイレに行きたいのをグッとこらえる。


 悠人は片付いていない部屋を見回して、床に落ちた髪の毛を摘まみ溜息を零すと、気怠そうに体を起こし寝室に向かった。


 リリリリーン、リリリリーン──


 騒がしい着信音が部屋中に響き渡る。


 リリリリーン、リリリリーン


「颯ちゃん、電話鳴ってる」

 なかなか出ない颯に、痺れを切らした悠人が寝室から顔を出した。


 重くなってきた瞼を擦り、ポケットをまさぐってスマホを取り出すと、耳に当てるのすら怠くスピーカーにして電話に出た。


「……はい」

『よぉ、颯!風呂でも入ってたのか?俺だよ、俺!』

「オレオレ詐欺ならまた来週にしてくれ」

『違う違う!俺だぜ、翔!またの名をジョニー!まさか親友の番号を登録してないわけじゃないだろ?』


「うわ、ダル」

 着替え終わった悠人が一連の話を聞いていたのか、ポツリと悪態を吐いた。


「ん、んんっ!」


 颯は大根役者っぷりを発揮し不自然に咳払いをして誤魔化したが、翔は全く聞こえていないのか明るい声で話を続けた。


『実はうっかりして、さっきの奴の番号聞きそびれちゃってさ。悠人に聞いてくれないかな?』

「無理ですよ。一応許可は取らないと勝手には教えられないんで」

『あれ?悠人も聞いてたのか。頼むよ、悠人!俺のホスト人生がかかってるんだぜ!!』

「人の友達をホストクラブに連れて行こうなんて外道しかしないでしょ」

『オイオイ悠人。俺はお前の先輩だぜ?』

「先輩は先輩でも、翔先輩は一度も俺に勝った事ねぇじゃん」

「……そうか。分かった。もういい」


 プツン。プープー──


 そこで電話は切れた。


 普段なら悠人もここまで食ってかからないだろう。

 疲れているのか前髪を掻き上げ長く息を吐いた。


「ごめん、颯ちゃん。今日は寝るよ、おやすみ」

「ん、ゆっくり休めよ。おやすみ」


 暗い寝室に入っていく悠人の背を見送り、一人になった部屋で今日一日の出来事を改めて思い返しているうちに、颯の瞼は再び重くなっていた。


 話に聞いていた貴史が予想以上にインパクトがあって驚いた事、昔は自分の後をついて回っていた翔が40歳のチャラ男系ホストでも目指しているかのような姿。


 考えているうちに全てがどうでもよくなり、そのまま意識を手放した。
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