29 / 55
7日目 息つく暇も与えられない!?
14ー2
しおりを挟む「ヒッ……!」
短い悲鳴を上げた颯は思わず後ずさりをした。
後ろで不思議そうにしている二人が近付いてモニターを覗き込む。
「ヒャア!?」
「タカちゃん!?」
画面いっぱいに映る貴史を見て、二人も颯と同じように一歩後ろに下がった。
ピンポーン ピンポーン ピンポーン ピンポーン
インターフォンは鳴り止む気配がない。
三人は丸くなって顔を見合うと、小声で話し出した。
「誰なの、あの人!?警察呼ぶ?」
「いや、俺の知り合いだからやめて。家に来るなんて、よっぽどの何かがあったんだ」
「このまま居留守を使うわけにはいかないよな。俺が出て聞いてくるか?」
「扉を開けた瞬間、変態の扉まで開いて新しい性癖に目覚める展開って事!?いいかも!!ギャップとは違うかもしれないけど、強気な男が色々目覚めて可愛らしくなるのは堪んないし、溜めちゃいけない!!」
「颯ちゃんは取りあえず服着て!説明すんの面倒だから」
「了解」
ハイレグを脱いで着替えている時間はないと判断して、急いで上から部屋着を着て音を立てないよう玄関に続く扉を開いた。
リビングを出て玄関に向かう間も呼び鈴は鳴り続けている。
颯は緊迫感漂う顔で一歩一歩慎重に進むが、その後ろから悠人は駆け出してドアノブを捻り扉を開けた。
力強く押した扉が開いた瞬間、雪崩のように全体重をかけて貴史が倒れ込んできた。
「いてッ!タカちゃん!?」
本日二度目の下敷きにされた悠人は、苦しそうに顔を歪めてもがいた。
そんな悠人をお構いなしで、首に腕を絡めて離さない貴史は声を詰まらせながら言った。
「あ、アタ゛シ゛もお゛タ゛ヘ゛かも……!!」
「待って待って待って!一回落ち着いて!」
首に回した腕には力がこもり、空気が薄くなっているのか顔色が悪い悠人は貴史の背をバシバシと容赦なく叩いて訴えた。
「悠人!?悠人!!」
圧倒されて佇んでいた颯は青い顔をした悠人を見て慌てて駆け寄り、強引に貴史から引き剥がした。
「悠人!大丈夫か!?」
「あー……うん、ありがとう颯ちゃん」
「何なのこのキャラの濃い人!!不法侵入!?」
「雪ちゃんも人の事言えないけどね……」
颯の腕の中でぐったりしている悠人だが、遅れて駆けつけた雪にしっかり突っ込みを入れる元気はあるようだ。
悠人から引き剥がされた貴史は床にひっくり返り呆然としている。
恐る恐る近付いた雪が、曲がらないメジャーを伸ばして貴史の横腹をつついた。
「おーい。大丈夫ですかー?」
その掛け声に反応して、貴史は目を見開いてムクッと起き上がった。
「うわっ!?」
「全然だいじょばない」
雪は跳び上がって驚いて颯の後ろに隠れた。
「タカさん何があったんスか?」
悠人を支えて立ち上がると、颯は真顔の貴史に問いかけた。
すると、止まっていた涙が洪水のように溢れ出し、鼻水を垂らして貴史は大声で泣き出してしまった。
「知らないわよおおぉぉ~!!アタシだって何がどうなってるのか全然分からないのよオオォォ~~!!」
このままでは話は平行線のままだと考えて、悠人に視線を移す。
小さく頷いた悠人は、貴史の両手を掬い取って引っ張り起こしリビングへ連れて行った。
項垂れる貴史を颯は後ろから支え、雪はソファの端にクッションを置いた。
ソファに座らせると、貴史は無気力に倒れて後頭部はクッションに沈んだ。
三人はその前に腰を下ろし、話せる状態になるまで待つ事にした。
沈黙の中、雪がテレビを付けると祭り特集が流れて、打ち上げ花火が美しく夜空を彩っている。
「そういえば、明日はお祭りだよね。悠人くん達も行くの?」
テレビへ体の向きを変えて指差す雪につられ二人も振り返り、楽しそうに声を弾ませた。
「行くよな?颯ちゃん祭りの時に食べるかき氷好きだし」
「そうそう。それと、はしまき食いたいから行く!」
「じゃあ、私も行こー。二人の邪魔はしないから安心して!」
「全然安心出来ないんだけど」
重かった空気は消え、和やかな雰囲気に包まれて、それまで膝を抱えて座っていた三人は足を崩して祭りの話に花を咲かせた。
毎年祭りに行ってる二人は、今年も楽しみにしていたイベントの一つだ。
「この花火みたいに、みんなの恋が消え去ればいいのよ」
闇夜に咲いては消えてを繰り返す花火を画面越しにぼんやりと眺めていた貴史がポツリと呟いた。
恨めしさを込めた低い声に、三人は目を丸くしてゆっくりと振り返る。
「お祭りなんてどうせ幸せカップルばっかりじゃな~い。幸せ臭がする煩わしい場所でしかないわよ」
起き上がった貴史は足を組んでソファにもたれかかり、エア煙草を片手にフゥーと息を吐き出した。
「やさぐれてる……」
「タカさんマジで翔と何があったん?」
幸せカップルを目の敵にする貴史に、翔と何かあったのだと察しがついた颯は眉をしかめて率直な疑問を投げかけた。
貴史は「男心は分からないわ」と吐き捨ててから、今日起こった出来事を打ち明けた。
「それで、アタシも覚悟を決めたのよぉ。好きな人がアタシだけに話してくれたんだもの~。否定するわけないじゃない。それなのにジョニーったら、分からないなんて言って行っちゃったのよぉ~!どうしてだと思う!?」
「それは振られたって事じゃなくて?」
「お黙り小娘が!!!」
テレビを見つめたまま興味なさそうに言った雪に、貴史は素早く反論して奥歯を剥き出し威嚇した。
二人が言い合いをしている隣で、悠人は何か言いたそうに颯を見つめている。
晴哉に紙袋を頼んだ颯は、事件の元凶が自分であると知って顔を上げられず、涼しい部屋の中でダラダラと汗が流れた。
「だいたい普通に考えてムチ持って迫るかなぁー。って、あれ?颯くん具合悪い?顔色悪いよ」
「颯ちゃん。素直に自白すれば、後ろめたさも消えるんじゃない?」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
11
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる