【完結】おっさんはエロいだけの生き物だと思ってた?これでも一途に絶賛トキメキ探し中!!

天羽 華月

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8日目 気分はジェットコースター!?

21ー2

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「颯、ちゃん……?」


 揺れる瞳は不安そうで、吐息交じりに名前を呼ぶ声は愛しいと思った颯は再び口付けようと目を閉じた時。


「ちょっとストップ!」

「……嫌なのか?」

 悠人は花火セットを自分の唇にあてて壁を作る。

 止められた颯は瞼を持ち上げ、眉を寄せて不貞腐れた。


「ここ、外だから。色々問題が……」

「あ……」


 沸き立つ感情に飲み込まれていた颯はすっかり忘れているが、人通りはほとんどないとはいえ、ここは外だ。


 パッと離れても時既に遅しである。


 けれど、まだ余韻の残る唇は、ほんのりと熱かった──


「ダサすぎる。ちょっと今見ないで」


 羞恥心に駆られ真っ赤になった顔を悠人に見られたくなくて、数歩先を早足で進む。


 後ろを歩く悠人も負けないくらい赤い顔をして、指先でそっと唇をなぞった。


 コンビニに着くと、颯は真っ直ぐアイスコーナーに向かう。

 約束していたチョコモナカを持ち会計をしようとすると、悠人に袖を掴まれた。


「ねぇ、他にも買っていい?」

「いいけど、何を買うん?」

「これに使う物!」

 颯の目の前に花火を出した悠人は、横からひょっこり顔を出して笑った。


「帰りが遅くなるから全部は無理だけど、線香花火だけやってみない?」

「うし、少しだけやってみるか!」


 こうしてアイスとライター、水を購入してコンビニを出た。


 悠人はすぐにアイスを開封して半分に割って取り出すと、残った方を颯に渡した。

「はい、半分こ」

「おー、お裾分けだ」


 静かな夜道、カランコロンと二人の下駄の音が響く。

 悠人はパリッと音を立ててアイスを囓り、ぽつりと呟いた。


「颯ちゃんがやきもち妬きなんて思わなかった」

「見せないようにしていたからな」

「なんで?」

「ダサいだろ。いい歳してとか言われるのも嫌だし」

 目を丸くして話を聞いていた悠人だが、急に口元を押さえた次の瞬間、勢いよく吹き出した。


「ぷっ……!格好つけたがりだね、颯ちゃんは」

「男はくだらない意地とプライドがあって大変なんです」

「まあ、分かるけど」


 そんな話をしているうちに到着したのは河川敷。

 春は桜並木が美しく、散歩やジョギングコースにしている人も多い場所だ。

 残念ながら花火は木々が邪魔をして欠片程度しか見えないが、キャンプイベントや地域の交流の場としても使われている。


「ここなら花火が出来るでしょ」

 そう言うと、悠人はペットボトルの水を飲んだ。

 半分以下になったボトルは、バケツ代わりにするつもりだったようだ。


「お、天才」

「線香花火だけだからね。持ち帰って処分出来るし」


 悠人は花火セットの中から丁寧に線香花火を取り出して、颯に一本手渡した。


 そして悠人はライターで手に持つ花火に火をつけて、先端には火の玉が浮かび、パチパチと音を立てて火花が散り落ちる。

 ザァーと流れる水の音が暑さを和らげ、心地良い風に頰を撫でられると悠人は瞳にチリチリと舞う赤い光りを映して言った。


「ごめん、颯ちゃん。俺、颯ちゃんが妬いてるなんて思いもしなかった」

「別に悠人が謝る事じゃねぇだろ」

「ううん。知ってたら、心配させないように出来たと思う。俺さ、颯ちゃん以外の男を好きになる対象として見た事がなかったから、そんな心配させてると思ってなかったんだ」

「……嫌じゃないのかよ」



 ポッ──

 火玉は地に落ちて、すぐに光を失った。


 終わった花火をペットボトルに入れて、ジュッと底に沈むまで見届けると、悠人は顔を上げ澄んだ眼差しで見つめて言った。


「なんで嫌だと思うの?」

「嫉妬深い男とか面倒だろ」

「俺は別に、嫉妬しない人がいいと思って颯ちゃんと一緒にいるわけじゃないから。颯ちゃんが嫉妬深いと知っても、それだけの理由で面倒だと思うわけないじゃん。そんな半端な気持ちで一緒にいるわけじゃねぇし。ずっと一緒にいたいと思ってるよ。この先もずっと」

「悠人は……ズルい。そうだ、悠人はいつもズルいんだ」

「突然なに?」


 悠人は軽快に笑って颯が手に持つ線香花火に火をつけた。


 颯は勢いよく弾ける火花が悠人によって掻き乱される自分の感情のようだと、思いを重ねて眺めていた。


「颯ちゃん」

「ん?」

「来年は二人きりで祭りに行こうね。約束」

「うん、約束だ」


 小指を絡めたその時、線香花火は静かに燃え尽きた。


「帰るか」

「うん。早く帰って寝ないと」

「え?今日は眠れない一夜にするんじゃねぇの?」

「広大なバカなの?寝るよ、普通に。明日仕事だって忘れたの?」

「ヤベー。休み明けから遅刻したら親父さんに何言われるか分かんねぇ……」

「何も言わないと思うけど」

「無言の圧は逆に恐ろしい」


 冗談を交わして後始末を終えると、悠人は片手を差し出した。

 少し小さいその手をしっかりと握り締め、颯は後ろ髪を引かれる思いで自宅に向かって歩き出す。


 余計なものが何もない自然豊かな真っ直ぐな道を並んで歩いた。

 人の声が聞こえない静かな夜も、二人一緒なら心地いい時間に変わる。


 毎日のように連絡を取り合っていた日々、離れている時間は切ないと感じた夜、遠回りをした帰り道。

 どれも今はない懐かしい過去の思い出。


 だけど、今しかないものもあり、今だから知った事もある。


 この連休が二人にとって、かけがえのない濃い時間だった事は言うまでもなかった。
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