鮮明な月

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間章 ちょっと合間の話

間話1.羞恥プレイ?

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恭平の高校時代の先輩でもある宇野智雪の恋人が、突然行方不明になったと真夜中に連絡があったのは今から三日ほど前。宮井麻希子という彼女は、恭平も何度か顔を会わせたこともあるが、おっとりした小柄な可愛い少女で親に心配をかけるような子ではない。しかも、行方不明になった当日に仁聖がホワイトデーのお返しを渡そうと連絡していたこともあって、仁聖の心配は更に大きかった。二時間程約束の場所で待っていたが宮井麻希子は姿を見せず、来ないなら必ず連絡があるはずなのにと帰宅してからも落ち着かないでいた最中の連絡だったのだ。止める間もなく駆け出していった仁聖に騒ぎにして何かあると困るから表だって騒ぐな、そしてお前は目立つから探すなと厳命したのは、行方不明の発覚した当日家まで仁聖を送り届けた土志田悌順だ。恭平の先輩でもあり仁聖の先生でもある土志田悌順から口止めされ厳命されていたものの、仁聖も恭平も心配で落ち着かないここ数日だった。よく分かっているが人が一人行方不明になるなんてそう簡単なものではないのだ。
そんな最中、予想外の相手から電話がかかってきたのは昨夜というより実はほんの数時間前の事だった。

『あー。えっと、夜中に悪い、恭平。』

夜半過ぎ近くの不躾な電話な上に、相手はもう二度と自分と交流がなくなるだろうと思った成田了。本来ならレイプした相手の電話なんて出たくもない。出たくはないのが本音だろうが、数日前墓参りに仁聖と二人で出掛けた時、墓地で一人で泣いていた姿が実は酷く気にかかっていた。
正直なところ成田了が誰かのために泣いている姿なんて、実は長く付き合いのある恭平も篠も一度も見たことがないのだ。悲しいなんて感じたことがないんだとしょっちゅう篠に揶揄されていたくらい何事にも平然としている成田了。そんな了が墓地で一人で泣いていて、しかもその直後に見たことのない長身の男性が姿を見せあっという間に抱き締められる。

正直、どう判断していいものやら。

成田了は確かに以前からバイセクシャルだと当然のように公言していたけれど、受け身の人間ではなく基本抱くほうと言っていた。だけど正直なところ彼氏だという男には、考えたら一度も出会った事はない気もする。勿論やったという男も女も噂は聞いたし同級生の松下とかといちゃついてたとかは聞いた気もするが、恭平が直に見たわけでもない。松下なんかはあっという間に休みがちになって、留年したから余計記憶が乏しく今どうしているかも知らない。
了が泣いている相手を抱き締めるなら兎も角、了が泣きながら抱き締められるような相手がいるなんてというのが正直な感想なのだ。
しかも、あの人物はどう見ても了を探しに来たようだったが、そんな存在がいるとは聞いたこともなかった。でも、あの光景はどう見ても相手が恋人で寄り添っていた……風にも見えなくもない気がする。そこが風なのはなんとなく如何わしい雰囲気が漂った気もした……ような気がするのはここだけの話で、了だからそう感じたのかとも思った訳だ。

『えーっと。あの時は本当に悪かった。申し訳なかった。』

口火を切った電話口の了のしおらしい謝罪に、恭平は目を丸くして自分が聞いた言葉を放っているのが本当に了なのかと訝しがってしまう。いや、謝られたらいいと言う話ではないが、あの後答えとして寄越したカードで二人の縁は完全に切れたと思っていたし、了が謝るなんてないだろうと考えていたのだ。

『もう、お前にも相手にも手は出さない。それは約束する。』
「え…と、わか…った。」

そう答える以外になんと言えばいいのか、互いにそう感じているのだろうから言葉にしようがない。その謝罪は受け入れたとして、なんでこの時間に電話をしてくる必要性があるのかと恭平は黙り込んでしまう。

『あー、えーと、あのな?今働いてるとこの、何て言ったらいいんだ……えーと。』

やっぱり何か用があるからかけてきたらしいのは分かったが、どうにもなんだか了の歯切れが悪い。了自身の用な訳ではなさそうだなと算段をつけながら、やむを得ず何のようなんだ?と問いかけてみる。

『いや、あのさ、お前の……彼氏?……に話があって…。』
「なんで?」

恭平が思わず剣呑な声で即答してしまうのは仕方がない。流石にさっきの謝罪にはわかったとは言ったものの、仁聖を拉致された上に怪我をさせられたのを全面的に許せるわけではないのだ。

『……恭平が…そう言うのは分かってる。でも、話があんのは俺じゃなくて…。』
「誰?」

バッサリ切り返される言葉に了が言葉に詰まるのと同時に、電話口の向こうで掠れた笑い声が微かに響くのが聞こえた。その声でどうやらあの時の長身の男性だろうか、誰かが了の傍にいるらしいと気がつく。何だか妙な気配の電話に気がついた仁聖が、先に入っていたベットから這い出してリビングに顔を覗かせる。

「仁聖、了がお前に電話。」
「は?なんで?」

恭平より更に不信感を隠しもしない仁聖が、剣呑な顔で電話を受けとる。仁聖にしてみても、実際了は許しようがない行動をした男な訳で。

「何かよう?恭平は俺んだから。」

あ、もう手出ししないと言ってきたのを伝えてなかったと恭平が思った瞬間、電話口から了の流石に苛立ちにまみれた声が響いた。

『お前らの事なんかなんか、もう何とも思ってねえ!!こっちは鬼畜で変態の下の世話で忙しいんだよ!!』

途端電話口の背後で掠れた声が大爆笑しているのが聞こえ、予想外の言葉に仁聖もキョトンしている。恭平としてみれば、ああやっぱりあれは恋人だったのかと納得するが、恋人を鬼畜で変態呼ばわりはないのではと思う。あの了に鬼畜で変態呼ばわりされる程の男がどんなものなのか、内心だが少しだけ心配になったり。

「鬼畜…変態のしも……?」

素直に仁聖が繰り返すものだから、電話口の了が脱力した風なのが目に浮かんで思わず恭平まで吹き出してしまう。

『悪かった、こっちの話だ。わりいけど、電話変わるから話し聞いてやってくれ。』

そう脱力した声が『元生徒』と言いいながら電話を手渡した相手が、あの時の男性なのだろうが、相手は穏やかな口調で予想外の事を話しだしたのだった。
外崎と名乗ったその人物は、宇野の彼女の捜索に協力しているのだと説明した。どうも宇野が暴走しそうだから、土志田悌順に連絡をとりたいのだと言う。唐突な話ではあるが外崎の話は、キチンと筋が通っているし、全員の名前を間違いなく話していてこの時間にする冗談でもない。しかも、宮井麻希子がいなくなってから何時間たっているかも知っているところ、作り話とも言いきれない。仁聖はその言葉に未だに不審げだが、恭平としては納得するしかなかった。何しろ今でこそ穏やかな風に見える宇野だが、高校時代の宮井智雪はキレさせたら悌順か信哉を連れてこないと誰も止められなかったのだ。十年たったからそれがなくなったとは、恭平としては正直思えないし、これが作り話だとしても宇野を巻き込んだ嘘をつくほど無謀な事はしたくない。
それでも素直に仁聖に相手に悌順の連絡先を伝えるように言い、その後恭平が自分でも早々に信哉に連絡先をとったのは言うまでもなかった。



※※※



「見つかった?!マジで?!」

そうして、その連絡が来たのは真夜中というよりも明け方近く。電話の音で飛び起きた仁聖が慌てて電話に出て大きな声をあげたのに、眠っていた恭平もつられて体を起こした。

「モモ、見つかったって……。」

悌順からの宮井麻希子発見の連絡電話を切った後。
仁聖から宮井麻希子は暫く入院になりそうだが、見た目的には殆ど怪我もしていない様子なのだと聞いて胸を撫で下ろす。仁聖も安堵に大きな溜め息をついて、思わず項垂れてしまっていた。それにしても外崎という男がどういう仕事をしている男なのか分からないが、随分有能な情報源だったようだと認めるしかない。

「良かったな、後でお見舞いにいこうな……?」

恭平が仁聖の頭を撫でてやると、ホッとした様子を浮かべた仁聖がモゾモゾとベッドに再び潜り込んでくる。
仁聖にとって宮井麻希子は妙に気が合うらしく、お気に入りの妹みたいな存在のようだ。しかも、どうやら最近では料理の相談相手でもあるようなのだ。自分との約束の直後に行方が分からなくなって酷く心配していたから、安堵して緩んだ仁聖の顔に恭平も頬を緩める。何も怪我がないなら何よりだったなと言うと、うんと頷き潜り込んで肌を擦り寄せながら仁聖が思い出したように呟く。

「それにしても…どうやって探したのかな…あの外崎って人。」
「……そうだな。」

確か墓地で見た姿はかなりの長身で濃いサングラスをかけていたし、杖を片手にしていた気がする。遠目でハッキリはしなかったが、歩み去る時僅かに足を引き摺っていた風にも見えたから足が悪いのかもしれない。呆気にとられて余り記憶にはないが、上背のしっかりした体つきだったような気もする。

「あの人、目が見えない人なんだよね?持ってたの白い杖だったし。」

そう言われれば確かにそうだったかもしれない。了に気をとられていたが、あの後確かに外崎という人は了に手をとられて歩いていたような記憶もある。
盲目なのに人探しが上手くて、しかも鬼畜で変態?なんて妙な表現をされている人だなと恭平が呟くと、仁聖は見つかったんだしまいいかと安堵した様子で改めて恭平を抱き寄せてきていた。



※※※



「了。」
「ん……なんだよ……、まだ眠い……。」

ウツラウツラしながらそう呟く了をキスと囁きで揺り起こしながら、宏太が了の事を抱き上げる。散々抱かれて腰もたたないくらいなのに、宏太は相変わらずの元気のよさだ。こればかりは射精出来るようになったら変わるかどうかも分からないし、少なくとも一緒にいることになり始めたばかりの今はどうしようもないのかもしれない。しかも、宏太は至って真剣に了を嫁にする気なのだ。指輪と養子縁組の宣言には唖然としたが、どう見ても本気なのは疑いようもない。

「了、起きろ。」
「起きてる……なに?」
「悪いが、一緒に出てくれないか?頼む。」

腰に手を回されてしおらしく耳元で囁かれたのに、つい絆されて頷いたのが失敗だった。この前に顔を会わせた友人に改めてキチンと紹介したいから、一緒に出かけようと頼まれたのだ。あの時なんで紹介しないんだよと不貞腐れると、可愛いお前の裸見せられるかと呟かれて逆に赤くなってしまう。素直に了が着替えて準備すると、宏太は当然のように手を握り歩き始めた。目が悪いから手を握り歩くのにはそう抵抗がないが普通はあんまり手を繋いで歩くことなんてないし、盲目でもこの繋ぎ方はしてないよなぁと何気なく見下ろす。腕をとるとかだし、普通宏太の方が少し後ろにならないか?早朝の街中だから、それほど人気もなく歩くのには問題ないが。

「外で会う方がいいのかよ?」
「いや、向こうが自営業なんでな。」

それに家で会わせるとお前が裸の可能性が高いと平然と言われて、そこは宏太が自嘲すればいいんじゃないだろうかと皮肉めいた顔で眺める。仕事の関係でもこれから顔をあわせることも多いだろうと言われる久保田惣一と内縁の妻の志賀松理は、外崎宏太とは友人でもあるが宏太の仕事でも協力してくれるのだという。
態々会いに連れ出されたことに何となく引っ掛かりを感じつつも、素直に頷いた了は自営業と言われた店に近づくにつれ嫌な予感を感じ始めていた。

「宏太?あのさ……。」
「あっちの角だ。今の時間なら殆ど客もいねぇから安心しろ。」

平然とそう言われ手を捕まれたまま、半分引き摺られるようにして『茶樹』に連れ込まれたのだった。そうして了はカウンターのスツールに座らされ、今すぐ逃げ出したい気分でいる。何しろ自分が恭平を拉致したのに使った喫茶店の店主が、マンションに来た男性と同一人物だとはチラリとも思わなかったのだ。あのウェイトレスが今日はまだいないのは幸いだけど、正直恥ずかしさに頭を抱えてしまう。隣に腰かけた黒髪の美女・志賀松理も、久保田から聞いているのだろうあの時の事を知らないわけではない。

「いや、どうかなとは思ったけどね。」
「失敗しちゃったんでしょ?駄目よねー、せめて拉致るなら夜とかにしなきゃ、真っ昼間のサ店って切羽詰まってる感ありありよね?惣一くん。」
「そうだねぇ、どうせなら監禁場所も考えないとね。」

しかもこの二人ときたら穏やかな顔して、宏太と同様で平然として了の傷をズバズバと切りつけ抉ってくる。あのリビングでの了と宏太の恥態を見ても動じないし、拉致したという事自体にも全く平然としていてこの会話だ。

「しかも薬って駄目よ、そんな素人手段。了ちゃんてば。」

しかも松理ときたら平然とそんなことを言ってのける。どうせならメンタルから絡めとらないと金の切れ目で簡単に縁が切れるわよと言われて、まず頭に浮かんだのは結城晴で。あまりにも的確すぎる指摘に、了は心が折れる。

「駄目だよ?松理。彼に新しいやり方教えたら、トノがキレるからね?」
「えー、別にキレてもいいんじゃない?」
「キレるとね、了君が酷い目にあうからね?」
「あら、酷い目って拘束して玩具で連続絶頂とか?」

やっぱりこの二人、宏太の友達だったと打ちのめされて俯いてしまう了を、宏太は笑いながら呑気に了の頭に手を置く始末だ。二人は宏太が調教師だったのも知っているし、なんで調教師になったかも知っていて、宏太の性癖自体も知っているのだという。勿論宏太が今どんな体なのかも知っている。

「了は玩具は好みじゃねぇんだよ、可愛いだろ?」
「あら、生が好きなの?了ちゃんたら可愛いこと。」

何を隠そう宏太が《random face》から死にかけで電話をしたのは、この久保田なのだ。つまり久保田惣一が元SMバーのオーナーだった訳で、内縁の妻の松理だってその時には既に居たということはそっちの話に理解が効かない筈がない。

「それに了のお陰で、つかいもんになりそうでな。」
「へえ、起ったのかい?それは何よりだね。」
「勃起したの?了ちゃん、テクニシャンね。」
「射精もできるのかい?」
「リハビリ中。嫁が頑張ってる。」

いや、もうこの会話なんなんだろう。生々しい上に女性が中に混じってるとは思えない。赤裸々な会話過ぎて恥ずかしくて了は堪えられないっていうか、こんなあからさまな会話をこんな長閑な喫茶店でしないで欲しいのは了だけだろうか。

「それにしても嫁って表現が本当に似合わないわぁ、トノって。」
「うっせぇ、マツリ。嫁に貰うんだ、嫁って言って何が悪い。」
「貰うってことは、もう手続きしたの?」
「いや、これから外堀埋めるとこ。」

この間はさっさと引き剥がしてベットに隔離した癖に、なんで今日はこんなに包み隠さず全部喋るんだと了は思わずカウンターにグッタリしてしまう。絶対宏太はこれを了の横で喋りたくて、ここに連れてこられた気がするのはなんでだろうか。

「全部喋んな…、頼むから。」
「諦めた方がいいわよ、了ちゃん。こいつが執着するなんて、世にも稀なんだから。」
「そうだねぇ、トノは案外淡白だと思ってたんだけどねぇ。」

松理に慰められるように頭を撫でられていたら、世にも恐ろしいことを聞いてしまった。淡白?!あれで?!そう思った途端、松理が了の頭を撫でていたのに気がついた宏太が無造作に了を引き寄せる。

「あらぁ、お触り禁止?器の狭いダーリンね?了ちゃん。」
「お前は興味持つとあぶねぇから駄目だ。」
「やぁねぇ、人のお嫁さんを食べたりしないわよ。しかも、トノの奥さんでしょ。」

突然スツールの上で上半身を抱き寄せられては、不安定この上ない。慌てて了が体勢を立て直そうともがくと、宏太にはそれが不満だったのかヒョイと抱えあげられ宏太の膝に座らされてしまう。

「ば、馬鹿っ!離せって!」
「ああ?大人しく座ってろ。グダグダ言うと犯すぞ。」

それでも了がジタバタしていると、腹を立てたように宏太が了の顎を掴み突然唇を奪ってくる。店内に他に客がいないから良いようなものの、いや、よくはないが、有無を言わさず舌を捩じ込まれ大人しくなるように口の中をねぶられてしまう。

「店内は露出調教は不可だからね?トノ。」
「トノがキスするのって見たことなかったわねぇ。」

二人して呑気なことを言ってないでやめさせてくれないか、と心の中で懇願したくなる。グッタリと抵抗する気力が失せる迄散々口の中を舐め回され、脱力した了を宏太が満足気に膝の上に抱きかかえ直す。それとほぼ同時に深碧のドアが押し開けられ、客が入ってきたのかと顔を上げた了はギョッとしたように目を丸くする。

やられた……この変態、そのつもりでここに連れ出しやがった。

思わず素知らぬ顔で自分の腹の前で腕を交差して了を抱きかかえる腕に力を込める宏太を了はキッと睨みつけた。
扉を開けて姿を見せたのは、榊恭平と源川仁聖。二人ともスツールの上で男の膝に抱えられた了の姿にポカーンとしている。宏太は最初から自分の友達二人ではなく了が拉致したという二人に、了が宏太のものにされたのを見せつける気で連れ出したのだ。失敗だと言っているのに拉致の話を宏太はまだ根にもってやがったと、了は呆れて口が塞がらない。

「あ、あんたなぁ!何考えて裏工作してんだ!この変態!」
「あ?なんの事だ?なんだ?可愛い奴だな、もっかい口塞がれたいか?ん?」

ジタバタし始める了に宏太は全く気にした風でもなく、楽しそうに動きをいなしながら抱き上げている。松理はあらまぁと笑いながら眺めているだけだし、久保田の方も二人がくるのがわかっていた風で気にした様子もない。どう考えても絶対に最初からここに恭平達を呼びつけていて、恥をかかせるために誘い出された。

「くそ、この鬼畜!しらばっくれてんじゃねぇ!あんだけ滅茶苦茶やったくせに、まだ根に持ちやがって!」
「あ?あれはリハビリだろ?射精するまで付き合うのが嫁の勤めだろうが。お前がしたいって言ったんだろ?」
「嫁って言うな!しかも、余計なことまで言うな!」

そんな二人の痴話喧嘩を、恭平と仁聖は暫くポカーンとしたまま眺めていたのだった。結局埒が明かないと、宏太に再び口を塞がれて脱力するまで唇を奪われ抵抗する気力すら奪われてしまう。
恥の上塗りで不貞腐れた了を他所に、外崎宏太は正によそ行きの顔で昨日は協力して貰えて助かったと二人に告げる。一見マトモな経営コンサルタントとかかれた名刺を差し出す姿は、どう見ても敏腕なサラリーマンとか営業職っぽい。でも中身は鬼畜で変態で最悪なんだからなと横に座らされた了は、不貞腐れてそっぽを向いたままだ。呼び出された二人は最初は驚いた風ではあったが宏太のよそ行きの顔に絆され、宏太の方も何かあった時は連絡をくれれば力になると話す始末だ。

「ま、うちの嫁がだいぶ迷惑かけたみたいだからな。」
「人前で嫁って堂々と言うなよ!変態!」

平然とそんなことを言う宏太に、真っ赤になりながら了が遮ろうとするがかえって逆効果だった。意地悪く笑顔を浮かべた宏太が、見えないのを強調するように了を突然抱き寄せたかと思うと口を開く。

「で、どっちが拉致ってものにしたかった方だ?了。」

ギョッとしたように三人が宏太の顔を見たが、当の宏太は全く悪びれた風でもなく了を抱き寄せたままだ。プルプルと羞恥に頬を染めた了が、限界と言いたげに声を荒げた。

「あのなぁ!宏太、分かってて聞いてんだろ!どんな羞恥プレイだ!この鬼畜!」

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