鮮明な月

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間章 ちょっと合間の話

間話28.長閑な日常?

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目が覚めると大概基本的に何時もガッチリと抱き締められていて、ハッキリ言って必死にもがいても宏太の腕の中から中々出られない。しかも前夜にエッチなしでも気がつくと大体服は全部脱がされてるし、抱き締めてる男の方も全裸なのに最初は何度驚いたことか。
どうやって寝てる内に俺ってひっぺがされるんだろうなぁと考えては見るんだけど、昨日のことも思えば奇術師宜しく宏太の意図も容易くってことなんだろう。本当に合気道には脱衣はないと思うんだけど、宏太って他の何かもやってるらしいから。でも、格闘技って脱衣に関係することってないよな?ヤッパリ元職業柄ってことなのかな。それにしても抱き枕じゃあるまいし、硬い男の体を何が楽しくてこんなにしてるんだよ。結局どうやっても簡単には抜け出せないから、腕の中でどうしてもモゾモゾするわけで。何とか腕から抜け出ようとした途端、またもや腕が伸びてきてキッチリ抱きかかえられて宏太の胸の上に乗っけられてしまった。むぅ、なんだよ、折角あと少しで出られたのに。

「んん…もう少し寝てろ……。」

寝ぼけているような掠れ声が耳元に囁きながら、更に足まで絡めて抱き締めてくる。最初はそうでもなかったが、結構宏太って朝に弱いのかもしれない。パッと眼が覚めるって感じじゃなくなってきてる気がする。

「抱き枕にされてたら、苦しくて眠れない。」
「嘘つけ……ちょっと前までスヤスヤ寝てたろうが。」

ん、前言撤回、ちゃんと寝てんのかな?こいつ。確かに言う通り腕の中でさっきまで寝てたけど、それを知ってるってことは寝てないのか?
宏太は顔の傷のせいで寝る時はいつもきっちりアイマスクしてるし、もしアイマスクを外して寝てても本当の眼じゃないから見てもわからないからなぁと思いながら、延び上がって宏太の顔を覗きこむ。何とか抜き出した手を伸ばして、ピッタリしたアイマスクを捲ってやろうとする。確かに傷痕は酷いんだけどそんなに印象が悪い訳じゃないと俺は思うんだけど。でも、宏太は本当はそうは思ってないから、俺の動きを察して顔を反らして逃げる。

「逃げんな。」
「じゃ、見んなよ。」

ほらな、何回俺が大丈夫って言っても、宏太は傷痕を見せるのに躊躇うんだよ。しかも窓から朝日が入ってるのを肌に感じてるから尚更、今はアイマスクを外されたくないらしい。入院中看護師に最悪だとかグロいから可哀想なんて言われたのを密かに気にしてるらしいけど、俺が言った訳じゃないのに。女に言われてんのだけ気にしてんなとムッとするから有無を言わさずアイマスクをひっぺがして、頬を両手で掴むと傷痕に口付けてやる。チュと音をたてて何度も口付けてやると、見る間に宏太の顔が赤くなっていくのが分かった。

「こ、こら、よせ。」
「何でだよ、散々嫁扱いしてんのに、キスで照れんなよ。」
「照れてねぇ!」
「照れてんじゃねぇかよ。」

傷痕だけでなく唇にも口付けてから、指先でそっとその傷痕をなぞる。他のところとは少し色素の違うひきつれた傷痕、触れる感触は分かるらしいけど他のところに比べると少し感覚は鈍いと言う。それでも

「俺は傷痕があっても気にしないし、宏太は宏太なんだからな?」

そんな当然のことを言ってるだけなのに、宏太はますます顔を赤くしている。普段は自分からキスしまくる癖に、何でそんなに俺に傷痕を見られてキスされるのが困るんだか。ほんとにさ、傷をつけられたのがしんどかったろうなとか痛かったろうなっては思うけど、傷痕がグロいとか可哀想っては思わないんだけどな。それに体の傷痕だって別に宏太さえいいなら、何時でも見せて構わないんだよ。俺は傷痕があってもなくても、宏太がいいんだから。
これに関しては何度も言って教え込むしかないんだろうと思うから、俺はその傷を指でなぞりながらまた口付けていく。

「……ちゃんと顔見せろよ。……俺の……宏太の顔。」

俺が甘えて顔に触れながら強請る声に、体の下の宏太の股間が熱く硬く持ち上がるのが感じる。チュと唇が触れていく感触に宏太の体温がドンドン上がって、俺の腰を抱き寄せている手が戸惑うように腰を撫でていく。変なことに嫉妬するし、変なことに戸惑うし困るし、本当に不思議な男なんだよな、宏太って。

「宏太。」
「なんだ?」
「嫉妬してキレるのは分かったけど、これから怒ってる時は、拘束はなしな?今度やったら暫く俺、ゲストルームで寝るから。」

ガンッて頭にとんでもない一撃を喰らったみたいな顔してるけど、流石に昨日の嫉妬の仕方はガキの嫉妬より酷いんだ。それくらいはハッキリさせておかないと、普通自分に一番に珈琲を渡さなかったぐらいで拘束なんてあり得ないし。しかも高々ゲストルームで寝るってそんなにショックか?晴に今度喧嘩の時はそう言えって教えられてたけど、本気でショック受けてるよな?そんな大したことか?これじゃ暫く出てくなんて、もしもだけど言ったら凹んで泣くんじゃなかろうか。
驚くべき効果だけど、宏太は本気で萎れてシュンとしてて分かったと素直に応じる。それがあんまり素直で可愛いから更に口付けて甘やかすと、宏太の手がオズオズと更に腰を引き寄せてきた。

「これから怒った時はちゃんと説明しろよ、俺だってちゃんと理由があるんだし、納得したら俺だって変えるから。」
「……じゃ、これからは優先。」
「分かったけど……ん……ふ……っ。」

何度も口付けている俺の腰を撫で下ろした両手の指が、淫らな動きで尻に食い込む。拘束にこだわってんのは何でかなと考えた俺は、思い出したように宏太の顔を覗きこんで口付けながら問いかける。

「なぁ宏太って……あ、ん……調教師ってことは、んっ……SM好き?」
「ん?なんだ?今更。」
「いや、SMって……んん、……鞭とか縄ってイメージだし……あ…。」

クニクニと揉まれながら裸の腰を擦り付けあう感触に震えながら、口付けと一緒に吐息を溢す。俺の言葉にやりたいのか?と少し戸惑うような声が返ってくる。
いや、やりたいとか興味があるってことじゃない。ただ散々拘束されて虐められてるわけだけど、他の事に関しても宏太が好きならって事なんだ。もしこの先宏太が俺にやりたいって思った時、突然だと俺も流石に困るから、やりたくなりそうならその心づもりはしておくから。俺が躊躇いながらそう答えるといやらしく揉んでいた筈の手が止まって、予想外にそっと撓る腰に戻る。

「……こぉた?」

宏太の淫らな指のせいで少し熱ッぽく蕩け始めていた声で俺が呼ぶと、宏太は少し困ったように眉を寄せて俺に顔を向けた。そうして考えながら宏太はこんなことを言う。

「元々………強い快感に負ける瞬間を見るのが、好きなだけだ。……ただ痛みを与えてるのを見て、喜ぶわけじゃねえよ………それに。」

そうか、そういわれれば基本的に宏太は高嶺の花が心が折れるとか、強気のものが屈服するのを楽しみにする質だった。つまりただ鞭とかで殴って痛みに悶えてるのとか、縄で締め上げて苦しんでるのに興奮するわけじゃないんだ。ちょっと安心したけど、でも快感に負ける瞬間って……それと拘束は結び付いてるってこと?なら拘束は止めれないってことじゃないだろうか。
それに?と宏太が言葉に詰まるのに問い返すと、宏太は戸惑いのまま俺のことを大事そうに抱き締めて手をとると肉感的で柔らかな唇に押し当てる。男前な仕草でそうして俺の指にそっと口付けながら、困ったように色っぽい掠れた声で囁く。

「俺は………お前に傷をつけるようなことは………したくねぇ…んだよ。」

何気ない仕草とそんな胸にグッとくるような言葉。

「だから、……お前には……絶対、鞭も縄もなしだ。」

もう何でこんな甘ったるい気分になるようなこと、こんな真顔で平気で言うかな。毎回毎回散々に失神するほど俺を抱き潰す癖に、それでも直接体を傷つけるような痛め付けるだけの行為は絶対俺にはしたくないって、どれだけこいつ俺のこと好きなんだろうか。強いSM嗜好の筈じゃないわけ?それを曲げても俺を大事にしたいなんて、ちょっと嬉しくて甘やかしてやりたくなるだろ。また傷痕を撫でて口付けながら、俺も囁く。

「拘束は、する癖に。」
「仕方ねぇだろ。お前が快感に敗けて、喘いで懇願する声が最高にエロい。」

だけど約束したから腹がたった時はしないと素直に言う。あれ?ちょっと待て、やっぱり腹がたった時限定?そう思った瞬間、また指が降りて腰を強く刺激してくる。喘ぎが溢れるのを確かめるように俺の腰を擦らせるように前後に揺り動かしながら、だからたまには拘束させろと強請る声を宏太が耳朶を噛みながら落とす。そうしながら擦られる肌の感触と指の淫らな刺激に、股間の快感が増してあっという間にヌルヌルと濡れ始めていく。

「はぅ……んっ!」
「エロい声だな……了……俺を誘ってるか?ん?」

気持ちいい。蕩けてしまう腰を更に惹き付けるように抱きかかえて、宏太の腕が淫らな体勢に足を開かせる。俺がこんな朝から?と少し不満そうに問いかけると、昨日のが途中だとか言いやがるし。昨日は無しの日だけど?と俺が皮肉たっぷりで意地悪く言ってやると、宏太はその言葉をキスで塞ぎにかかる。甘ったるいよなぁ、こんなイチャイチャしてるのの相手が外崎宏太だってのが、とんでもなく驚きだよな。
やがてそのまま後ろに咥え込まされた熱くて太い怒張の快感に、跨がったまま激しく突き上げられて俺が仰け反り崩れ落ちそうになる。すると宏太の大きな手が抱き止め、更に汗ばんで色気を放つ宏太に俺はヘナヘナと脱力して縋りついてしまうんだ。

「こぉた……これ、やぁ……あ、くるぅ……しんじゃう、ああっ…。」
「可愛い奴だな……気持ちいいか?ん?」
「い、気持ちいい、だめ、ああっ、そこ、やぁ、ああ!」

ユサユサと揺すられ擦られる感触に、自分の体内が止めどなくヒクヒクと痙攣しているのが分かる。優しく焦らされるように何度も気持ちよくされて、こんなに中に沢山注がれて、ダメと言う声すら強請り声にしかならない。しかも俺の声に目の前でとてつもなく幸せそうに微笑まれるのに、見てるだけで完全に腰が砕ける。

狡いだろ、その幸せそうな顔

見えないのが狡いと思うくらい、満足げで幸せそうな微笑みに俺は何度目かの絶頂に全身を強ばらせていた。



※※※



キッチンだってのに後ろから抱きつきまとわりついてくる宏太の手に俺は散々邪魔と言い放つのだが、俺の方も慣れてしまったのか本当はそれほど邪魔にしている訳じゃない。調理中は止めろ・コンロを使ってる!包丁があると何度怒鳴っても、物足りない時は特にこうだ。
物足りない?まあ、色々あるんだよな、勿論エッチが物足りないとかコミュニケーションが物足りないとか、何だか甘え足りないとかさ。いや、ほんと宏太って子供みたいなもんなんだって、最近つくづく理解したんだ。って言うのもあれなのかな、子供の時の足りなかったのを今一気に消化してる感じ?

「了。」
「危ないから、離せって。」
「後五分、抱き締めさせろ。」
「さっきも同じこと言ったろ!ずっと抱き締められてて、やりにくい!」

流石に不満そうに手を離しても宏太は、キッチンから離れる訳じゃなくって直ぐ傍の自分専用のスツールに腰かける。目も見えないのに傍で眺めてるみたいな風にしてるってのも可笑しなことだけど、宏太はすっかりこの位置が気に入ってるらしい。匂いと味が頭の中でも結び付き始めているらしくて、何を料理しているのか分かるようになったのも気に入っている理由。

「真っ昼間からイチャイチャしてんなよー、しゃちょーも了もさぁ。」

呆れ声でリビングに入ってきたのは結城晴。どうやら来て仕事をしてたらしいけど、宏太がそんな言葉に負ける筈もなく、何だ・いたのかなんて暢気に言う始末だ。

「そういえばお前、この間の電話なんだ?何で倉庫の前の店なんか知りたがるんだ?」

倉庫ってのは実は《random face》のあった場所のことだ。何分奥で人が二人も死んでる訳で売り物件にはならないからと、相変わらず倫理観0のうちの宏太は店舗を『耳』の中継機を置いて聞こえる範囲を広げる何て荒業に出た。ついでに言えば前のマンションも今では倉庫その2になっているのは言うまでもない。だけど晴は三浦の事件の時にはまだ大学生だし、ここいらにいないから店のことなんて何も知らない。先日倉庫の機械のセッティングを確認してくると出た後に何でか外から電話を掛けてきたのだ。

「あー、あれ?なんかさぁ若いに~ちゃんが、ここの店どうなったか知ってますかって突然聞いてきてさぁ?前は飲食店かなんかだったのかなぁーって。」

飲食店って……思わず俺が暢気だなぁと呟いたのに晴が首を傾げる。宏太も頬杖をつきながら、晴の方を眺めて元客か?なんて考えてる風だ。気になってたらしい晴が俺達二人を眺めて口を開く。

「なんだ、知ってるんなら教えてよー、なんだったの?前の店。」
「ハプバー。」
「ちょっと待て、一応バー主体だったんだ。ハプバーにしたのは、俺じゃなく客だ。」

よく言うよ、監視カメラ盛り沢山で自分もたっぷり楽しんだ癖に。俺の答えに晴が目を丸くして、マジで?!しかも何?社長の店?!なんて食いついてくる。ほんと、晴の好奇心って危なっかしいと思うんだよな、普通ハプニングバーなんて聞いたら嫌悪感を示すもんだ。晴が飛び付くように寄ってきて、宏太に不満そうに言う。

「社長!なんで、やめたのさー!勿体ない!」

うん、晴ならそう言うと思ったけど。あ、でも理由は聞かないほうがいいんじゃないか。そう思った時には時既に遅しで、平然と宏太が答えてる。

「二人死んだ。出るらしいぞ?暫く肝試しが流行ったからな。」

宏太の返答に、げっ!!って顔で晴が強ばる。実はスリルとサスペンスは滅法好きな晴だけど、ホラーってのはてんで駄目なんだ。つまり死体は平気で、幽霊は駄目って訳。俺にしたらどっちもどっちなんだけど、晴にしたらその二つは天と地ほど違うらしい。青ざめた晴が自分の腕にたった鳥肌を擦りながら、本気で震え上がる。

「マジで?!俺殆ど一人ではいってんじゃん!!どうすんの?!出たら!怖いじゃん!!背後に女が立ってたら!」

しかも何で勝手に女が死んだことになってんのかな?まあ、いいけど。
なんて考えながら料理を盛り付けてる前で、宏太は面白がって、かもな・背後にいるかもしれないな、なんて事を言い始めてる。やめろよって悲鳴をあげてる晴に更にお前の足音がぶれて聞こえるなんて宏太が言うから、晴が飛び上がって怖がっているけど。この二人かなり歳が離れてるのに、こうしてると兄弟みたいなんだよなぁなんて思う。そういえば宏太には右京って義理の弟もいたけど、血の繋がった弟がいるとか言ってた筈。

「ほら、遊んでないで飯にするぞ。」

俺が声をかけるのに、ノンビリした動作で腰をあげた宏太と、自分の後ろを始終気にしながらリビングに向かう晴。そんな情景に俺は長閑だなぁなんて思わず考えてしまっていた。
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