鮮明な月

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間章 ちょっと合間の話3

間話88.おまけ 特別ということ。

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甥の高城光輝が寝ているからとはいえ自宅の寝室ではなく、しかもトイレなんてとんでもない場所。そんな場所で目下結城晴は、後ろから腰を掴まれ狭山明良の怒張を根本まで捩じ込まれた絶頂に身悶えている。そんな強い絶頂にガクガクと震える晴の身体を、明良は強く抱き締めていた。目の前に揺れる先ほど明良に噛みつかれて腫れ上がっている項の噛み跡に、明良は目を細めて改めてそこに優しく舌を這わせる。

「はぅっんんっ!や、んんんっ!」

傷つけたくて噛んだわけではなくて、晴が光輝ばかり優先しているのに嫉妬しただけ。晴は自分のモノだと印を刻み込みたくなって、咄嗟にしたのが目の前の項に噛みつくだったわけだ。

「あ、んんっ!」

微細な刺激なのに舌の這い回る感触に身悶えている晴に、明良は再び興奮して息を荒げながら腰を大きく突き上げ始めた。うねり締め付けてくる晴の体内は寸前に絶頂に達した歓喜で熱く蕩けきっていて、明良の突き上げに甘く甲高い悲鳴をあげてしまう。

「あ、きら、むり、もぉ、あっ、ああんっ!」
「晴、……あんまり……声あげたらダメ……。」

耳元でそう明良に意地悪く囁かれるのに、晴は光輝が寝室で寝ているのを思い出していた。それでも続く明良の突き上げにビクンと大きく身体を震わせて、声を堪えるために口を手で押さえる。

「んっ!んんっ!!あん!」

どんなに晴が必死で口を手で押さえていても、突き上げられて溢れるくぐもった甘い喘ぎは押さえ込めない。それにこの狭い空間では、ほんの小さな声も微かな音も壁に反響して本当のものより遥かに鮮明で大きく聞こえるのだ。明良に腰を掴まれパンパンと腰を打ち付けられながら、必死に声を堪えようとする晴はとんでもなくイヤらしくて可愛い。それに明良は背後から覆い被さるようにして、晴の項に再び口付けていた。

「晴、……晴は俺の…………だよ?……ね?俺だけ……見てて……?ね?」

そう低く響く声で熱っぽく耳元でお強請りを囁かれ、更に激しく音を立ててズコズコと腰を打ち付けられている。それだけで晴は再び強く絶頂に達してしまい、ポタポタと鈴口から堪えきれない蜜を床に向かって吹き出してしまっていた。

「あぁ、……俺の…………チンポでお尻……突かれて……また、いっちゃったの?晴……、ほんとエッチだなぁ…………」
「くぅっ!」

必死に快楽に溢れる声を押さえ込もうと、晴は両手で口を押さえ込むしかない。そんな必死の状態の晴を、明良は思う存分に堪能したのだった。

明良とエッチしたのは決して夢オチではなく、確かに現実だった。

目映い朝日の中で目覚めた晴は、窓辺から射し込んでくる帯のような朝日を眺めてそんなことをボンヤリと考える。正直言うとこれが夢だったらよかったなぁと言う思いが晴の中にだってないわけではないが、そんなことが可能だったら大概の人間はなんでも夢で済ませてしまうと思う。

でも、トイレでって…………もぉ…………

光輝が寝ている真ん前で明良に悪戯されて、服の中で出してしまった晴が咄嗟にトイレに駆け込んだのは間違いだった。いや、晴としてはどうしたらいいか分からなくて先ずは駆け込んだんだけれど、まさか明良が追いかけてくるなんて思ってもいなかったのだ。

…………しかも追いかけてきた明良のあの表情。

自分より遥かに切羽詰まった男の顔で明良に追いかけてこられたら、晴に明良を拒絶するなんて出来る筈がない。明良に熱い欲情しきった男の顔で迫られて触れられて、晴が一瞬で陥落して自ら身体を差し出してしまったのがトイレというわけだ。しかもトイレでの性行為は、久々に晴の被虐性をガンガン刺激してきて堪らなく気持ちよかった。

癖になったらどうすんの…………もぉ…………

駄目と分かっている時にする、しかももしかしたらバレてしまうかもと言うギリギリの感覚。普段はそんなこと匂わせもしない好い人ぶっていて、いざとなったら容易く負ける脆い晴の仮面。目の前に光輝がいたのもちゃんと分かっていて、それでも明良の触れてくれる場所の全てが途轍もなく気持ちよかった。布団の中だけのことなら夢精くらいで誤魔化せたかもしれないけれど、トイレでの行為はハッキリ言えばアブノーマルな世界だ。思わず両手で顔を覆って『はうぅ』と身悶えてしまうのは、あの狭い場所で後背位で捩じ込まれ続けたのが鮮明過ぎるから。

せめて…………風呂場とか…………

いや、これが風呂場だと余計音が響くわ広いわで、後からの問題は更に大きかったかもしれない。まぁ後始末には楽だったろうけれど、確実に更に激しくなって光輝が起きてしまった気がする。とはいえトイレでも結局あの後晴は腰が抜ける程に何度も明良にいかされて、動けなくなったところを抱きかかえられ移動する羽目になった。そのまま二人で軽くだがシャワーを浴びて(そりゃさすがにあの状態でベットに戻れる筈がない。何せ中にはタップリ明良の精液を注ぎ込まれているし、晴の身体も自分の体液も含めてドロドロなのだから。)ベットに戻った頃には、既に冬場より夜の短くなりつつある窓の外は白々と明るくなり始めていて………

うーん…………

今に至る。トイレで身動きとれなくなった晴は流石に殆ど寝る隙すらない状態で。朝になって目が覚めても身体がガタガタというオチで、ベットから身体を起こすことも難しかったのだ。確りと背後から抱き締めたままの明良は、起き上がれない晴にそのまま横になっててと耳元で囁いてサラリと立ち上がりこめかみにキスして朝食の支度に向かったのが解せない。

何で明良は何ともないんだ………………いや、こっちが負担があるのは分かってるけれど、何にもなかったみたいに……助かるけど……

その後もう一度晴が少しウトウトしている内に、目の前で眠っていた光輝も目が覚めたらしい。目の前の空間も背中の空間も空いていて、晴はポツンと大きなベットに一人きりで寝ていたのだ。

「はーるちゃん?具合だいじょーぶ?」

いつの間にか寝室に来た光輝がピョコンとベットの端から元気な顔を見せていて、ポンッとベットの上によじ登って光輝は近寄って心配そうに晴の顔を覗き込んでくる。どうやら中々起きてこない晴のことを、明良は『少し体調が悪い』と説明した模様だ。まぁ半分は嘘ではないけれど。

「うん、大丈夫だよ、光輝。」

きっと疲れた顔してるんだろうなと内心では思いながら晴が微笑むのに、光輝は何故かじいっと穴が開くほどに見つめてくる。



※※※



高城光輝にとって『結城晴』という人は、初めて母方の曾祖父の家で出会った時から特別な人だった。母・由良の家は光輝が生まれる前、ずっとずっと昔から『空手』を教えているのだという。光輝自身気がついた時には曾祖父にあたる狭山高良から空手を習っていて、自分以外でも狭山の子供は全員が習っていた。その中でも狭山明良は誰よりも強いのに、母も叔母達も祖父母も

「明良はまだまだねぇ…………。」

と顔を合わせる度に溜め息混じりに言っていた。でも見ていて光輝には明良が、他の人より段違いに強いのは分かっている。明良は他の人と特別に違う目をしているのだ。明良は身体の動きを見ているだけで、相手がどう動こうとしているのか分かる。光輝も幾らか見ていれば次は足技かな?とか、突きかな?位は分かるが、明良はそれをほんの指先一つの動きで見極められるのだ。

「じいちゃま、明良にぃって凄いよね…………。」
「目はなぁ…………稀に家にはそういうのが出るんじゃがの…………。」

そう師範でもある曾祖父が縁側で茶を嗜んでいる時に問いかけたことがあるのだが、どうやら狭山の家系には明良のような目を持った子供が時々産まれるのだそうだ。産まれつきというよりは空手を習う内に頭角を現すそうで、光輝だってこの後明良みたいになれるのかもしれないということだと教えて貰って光輝も安堵した。

だって、明良にぃみたいになれないと、強くないもん…………

それなのに道場の跡継ぎは佐久良叔母で、明良は表だっての空手は辞めてしまったのはここ数年。光輝にはその理由が理解できなかったけれど、高良も叔母達と同じで『明良は強いけれどそれだけじゃ駄目なのだ』と溜め息をついていた。どうやら明良は特別な目を持っていて誰よりも強いのだけど、それでも皆には分かるもので足りないものがあると言うことなのらしい。

「彼が晴だよ。」

そんな明良が光輝が知る限りでは、初めて家族の前に連れてきて自己紹介までしたのが結城晴なのだ。柔らかな物腰に猫ッ毛の柔らかそうな茶色のフワフワの髪の毛、人懐っこい笑顔は見ているだけで惹き込まれてつられて笑ってしまう。まるで子猫か子犬のように身体がソワソワして自然と心がハワハワってなって、見ているだけで抱きつきたくなる笑顔の青年。光輝が初対面で『晴ちゃん』と呼んでもいいか?と聞くと、心底嬉しそうに優しい微笑みで『いいよ』と言ってくれた。

晴ちゃんは明良なんかよりずっと凄い

優しくて柔らかで、嫌なことなんか何もないよと安心させてしまう笑顔。魔法のように嫌な気分を溶かしてしまう綺麗な声をしていて、光輝の不安や不快なこと迄ワタアメみたいに溶かしてしまう。冬にあった空手の大会で実はどうしても子供の頃から苦手な相手が出場すると光輝は知ってしまい、その相手が出るなら自分は出ないとごねたのだ。

「アイツが出るなら、やだーっ!!!」
「光輝!我が儘いってんじゃねぇ!」
「やーーーだーーーーーっ!!!」

再三両親からいいから気にするななんて言われても、どうしたってアイツがいるところに行きたくないのだとごねていたのだ。そうしたら晴ちゃんに来て貰って光輝が格好いいところ見て貰いたくないの?と母・由良が言ってきて。

「晴ちゃん……?」

基本的に子供の大会だから、親とか親戚以外で大会を見に来るなんてことはない。しかも狭山家の家系は全員空手の関係者でもあるから、光輝が実技していても大概サッと見ているだけで、それほど真剣に見ているわけでもないのはもう分かっている。そこに、結城晴が来て光輝だけを見に来てくれる。それがどれだけ嬉しいことなのか、そしてちゃんと晴は約束通り大会を見に来てくれたのだ。

晴ちゃん!!

大会の会場の中でも晴は別格の綺麗さで、会場の入り口を通った瞬間遠くからでも一目で見つけられた。まぁ残念ながら明良が直ぐ隣にいたのは事実だけど、それでも晴は真っ直ぐに光輝を見つけて視線を向けていてくれたのも知っている。

「こーき、お前さぁ。」
「晴ちゃーーーーん!!!」

光輝が最も嫌いな奴が何時ものごとく意地悪い顔で光輝に話しかけて嫌味を言う言葉を完璧に無視して、光輝はブンブンと手を振り猛ダッシュで晴に駆け寄ったのは言うまでもない。何時もなら相手の言葉にムカムカして嫌な気分になっていた筈の時間を、晴はそこにいるだけであっという間に塗り替えてくれたのだ。

多分じいちゃまが話してた明良にぃには足りないのって、晴ちゃんみたいな事なんだ。

そう光輝は思う。だって晴といるようになって明良は別人のように変わっていて、しかも自分や叔母達ともよく話すように変わった。それは晴がいるからで、晴がいればあの顔の怖い高良ですら知らぬ間に笑顔になるようになったのだ。

晴ちゃん。

そうして光輝は自分が小学生になって、端と毎日のように晴とずっと一緒にいられる明良は狡いと気がついてしまった。晴と明良は少し離れたところで二人で暮らしていると話していて、母・由良は『晴ちゃんは明良の一番大切な人』と光輝に説明してくれたのだ。

「大切ってどれくらい?パパ。」
「おー…………そうだな、パパにとってのママだな。」

暫し考えた結果、仕事帰りでユッタリとリビングで寛ぐ父・高城宗輝はそう答えた。因みに宗輝は建築関係の会社で働いているが、宗輝曰く若い頃の『ヤンキー』だった時期に空手で無敵だった由良と恋に落ちたのだという。義弟にあたる明良の初めての同棲相手が男と知って、大分唖然としたそうなのだけれど世の中にはそういうことが無いわけではない。何しろ宗輝のヤンキー時代の友人にも(相手のために言っておくが、その友人は商社マンでヤンキーではなかった。既に故人なので深くは言わないが、世の中にはそういう人間だっていると言うことだ。)、イケメンで女から掃いて捨てる程にモテていたのに全く女と付き合わなかった男がいる。後年顔を会わせたらイケメンの男前というよりは、泣き黒子の美人といった方が適切な雰囲気に変わっていた友人は好きな男がいるんだと儚げに微笑んで見せたのだった。

パパにとってのママ

そして晴ちゃんはお嫁さんだよと佐久良叔母は言うし、高良も可愛いという晴の立ち位置。それがどう言うことなのか理解するには、まだ光輝は幼すぎると誰もが言うけれど。

そんなこと無い、晴ちゃんが特別な人で大切な人なのは僕だって分かる

ただ明良にだけ特別なのではなく、光輝にとっても晴は特別な人なのだということ。
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