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8月
110.キキョウ
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8月28日木曜日の朝、何だかスッキリした気分で目を覚ました私は、ママから夜の内に木内梓の母親から謝罪の電話があったと教えられた。木内梓は見つかったし、怒鳴りこんで騒がせた事を謝ってきたっていう。何だか凄く誠実に謝ってきたから大丈夫じゃないかしらと、ママが言っていたから私もその言葉を信じることにする。木内梓も見つかってお家に帰ったんだったら、これからは少し従順に親の言うことを聞けばいいんじゃないかなって意地悪だけど考えたりして。
部屋で過ごしながら何気なく苺の花の箱を取り出して、雪ちゃんの冷ややかかな顔を眺める。そう言えば昨日戸口に立っていた雪ちゃんの感情の消えた顔は、この写真によく似ていて思わず考え込む。
まさか、雪ちゃんが何かしたわけじゃないよね?
センセが生徒指導室でしてた電話。あれって雪ちゃんに電話だと思ってるけど、違うのかな?もしかして鳥飼さんだったかな?全然関係ない人だったら、私にあの時入っていいって言わないような気がするから、やっぱり雪ちゃんにしてたような気がする。どちらにせよセンセは雪ちゃんか鳥飼さんに、どうしてわざわざ電話なんかしてたんだろう。木内梓とは関わりなんかないのにって考えたら、段々と訳がわからなくなってきてしまって首を傾げる。
「まーきこー。」
「はぁい。」
ママの声に部屋から顔を出すと、予想外の姿が階段の下にあって目を丸くした。早紀ちゃんと香苗が2人ならんで玄関に立っているのだ。驚きながら部屋に上がってと促すと、香苗が心配そうに私のことを見上げる。香苗は土志田センセから木内梓の事を聞かれてたみたいだから、私が巻き込まれたのも気がついたのかな。
「大変だったんでしょ?大丈夫かなって心配なって。早紀と元気づけに来た。」
その言葉に私は目を丸くして、何処から聞いたのと言うが廊下では話しにくいみたいに香苗が声を落とす。それでも、2人が心配して来てくれたのが分かって、泣き出しそうになりながら笑う。
清楚なワンピース姿の早紀ちゃんとスポーティーな格好の香苗は完全に対照的だけど、2人並んで家まで来てくれたのが凄く嬉しい。部屋の床に3人で揃って座りお茶を飲みながら、昨日の話を香苗が教えてくれた。
「お母さんと買い物して帰る時にさ、駅前で警察官が走って行ったの見たんだよね。そしたら、その後聞いたことある金切り声で遠くから引き摺られてきたのが、梓だったわけ。」
「警察につれられてたの?!」
「うん、多分木内の母親と父親、あと茂木と貞友。」
うへえっと思わずその情景を考える。元々駅の西側に家のある香苗だから偶然みかけたんだろうけど、警察に連れられるって何事?しかも、あの怖い男達まで一緒って何処で警察に捕まったの?
早紀ちゃんも唖然として香苗の話を聞いてる。
「後、土志田と麻希子の従兄さんが後からついてきてたから、現行犯で梓を捕まえたら騒ぎだしたってとこじゃないかな。」
なぬ!?雪ちゃんに土志田センセがいたの?じゃ、やっぱり電話は雪ちゃんにしてたのかなぁ。私が宙を眺めてボンヤリ考えているのに、香苗が溜め息混じりに呟く。
「人のことは言えないけど、案外人の目って何処にでもあるんだね。」
「人の目って?香苗ちゃん。」
「だって、私直前まで同級生と何人か会ってるから、あの子達だって泣きわめいてる梓のこと見てたかも知れないんだよね。」
そっか、香苗は矢根尾と街の中で喧嘩してたとか色々と噂になったんだっけ。でも、案外人の目って本当に何処にでもあるんだ、『茶樹』に3人で行ったのだって松尾さんはとっくに知ってるんだし。つまりは後ろ暗いことしたら、その分沢山人の目に怯えなきゃいけないんだって思う。そう思うと、正直私は怖くて仕方なくなる。
「木内さんのご両親、何も麻希ちゃんに言ってこなかったの?」
早紀ちゃんの言葉に、やっぱり私が木内梓の家出に巻き込まれていたのを香苗から聞いたのが分かった。土志田センセが香苗に、私と木内梓の3人で何回くらい出掛けたのか聞いたみたい。香苗は1回しかないと答えたらセンセはそれ以上聞かなかったって言うけど、その答えで充分だったんだろう。
私はお茶を不味そうに啜りながら、一昨日からの出来事を2人に話す。呆れたように香苗が目を細め、早紀ちゃんは驚いて目を丸くしている。
「夜に木内梓が家に戻ったからって電話で謝って来たけど。怒鳴りこんできた時は怖かったよ、正直。」
「頭おかしーんじゃないの?木内の母親。話が矛盾してるじゃん、何で麻希子が率先して合コンして、店の出禁したり梓を唆したりできんのよ?」
「麻希ちゃんがそんなことするわけ絶対ないのに、怒鳴りこんでくるなんて信じられない!」
2人の言葉にホッとして私の気持ちが緩む。緩んだら泣き出しそうなのに、無償に昨日一昨日の怒鳴りこんできた木内梓の母親のことがおかしく感じて遂に私は笑いだした。私が笑い出したのに香苗が怖くて可笑しくなったと、茶々を入れて3人とも意味もなく笑いだし始める。
「もー、何がおかしいんだか分かんないよ、麻希ちゃんてば!」
「木内のオカンって木内そのまま年取ったみたいなんだよね?!スタンプ!」
「やめてよー、ママが必死に仁王立ちで遮ってくれなかったら、梓みたいに突き飛ばされるとこだったんだから!」
「突き飛ばすってそこまで似てんの!?親子こわっ!」
香苗の言葉に早紀ちゃんまで吹き出してしまった。そう言われれば香苗を庇ったとき、木内梓は突き飛ばして来たんだ。その顔と昨日の木内の母親の顔はそっくりだった。もう、そうなったら3人とも木内梓の突き飛ばす顔が分かるのか笑いだして、皆腹を抱えて転げ回って暫く立ち直れない。箸が転げてもなんて言う例えがあるけど、まさにその状態だ。香苗達がお土産に持ってきてくれたケーキをお皿に並べて、ママが扉を開けても3人とも笑いが止まらない。あらあら楽しそうねとママが嬉しそうに笑いながら出ていってやっと、ひーひーしながら笑いを押さえ込む。
「そう言えば、生徒指導室でお茶したことある?」
私が思い出したように言うと、香苗はあるようでうんと頷いたけど早紀ちゃんは首を傾げた。時々土志田センセがお茶を出してくれるんだよと説明すると、いいなぁって早紀ちゃんが口を尖らせる。香苗が呼び出されない方がいいんだよと訂正するのに、思わずそうかと納得した私の顔が可笑しかったみたいでまた一頻り笑いの発作が起こった。
「あのお茶、センセが水筒に入れてもってきてた。」
「ええ?ペットボトルの麦茶じゃないんだ?!意外!」
「あまりイメージ無いけど、土志田先生って家事できるのかしら。」
「うー、台所似合わないだろうなぁ。でも、金色のでっかいヤカンで麦茶作ってそうな気がしない?早紀。」
「あ、分かる気がする。」
そこで再び土志田センセがでっかい金色のヤカンをもって歩いてるのを想像して、3人に笑いの発作が起きて転げ回る。香苗が笑いすぎてひーひーしながら机にぶつかったもんだから、机の上においてた写真が何枚か床に滑り落ちた。
「あ、ごめん!」
「あ、いいよ、私が出しっぱなしたったの。」
広い集めてくれる香苗の目が丸くなって、思い出したように私の顔を見上げる。
「聞きたかったんだけど、これって土志田の高校の時の写真なの?!」
香苗の勢いにそっか3人の内の一人はセンセだったって思い出す。別に今の3人で隠す事でもないから他の何枚かもテーブルに持ってくると、香苗のキラキラした瞳がとんでもなく可愛い。
「土志田、若い!」
「うちらと同じ年くらいの辺りの写真だよ。前に学校で見たやつが一番新しいの。」
鞄の中の手帳から抜き出す写真を3人で眺める。
「信哉さんてば、全部不機嫌そう。」
「鳥飼さんも自分で凄い顔で写ってるだろ?って言ってたよ。」
「土志田、可愛い……。」
香苗の感涙ものの感想が可笑しくて、早紀ちゃんと私が笑う。何気なく全部広げてみると、桜の時期や水辺にいるのや撮った期間が分かる気がする。
「これって学校の前の桜じゃないかな?桜が咲いてるから、まだ1年生かな?」
香苗が取り上げた写真には背後に桜が咲いていて、雪ちゃんは横顔だけだし、鳥飼さんに至っては土志田センセに掴まれて顔自体伏せてしまっている。それでも楽しげだ。
「こっちは春先かしら、花壇がパンジーみたい。」
次の写真は多分同級生がとったのかセンセが2人を両腕で掴んでいるのに雪ちゃんも鳥飼さんも不機嫌顔だ。
「次はこれじゃない?応援練習っぽい。土志田超ふざけてる。」
背が高い3人がそれぞれに前を向いている写真は、校内の中庭で毎年する応援団の練習風景のようだ。真剣なのか不機嫌なのか鳥飼さんと雪ちゃんは真顔なのに、土志田センセだけおちゃらけてて思わず笑ってしまう。
「あ。これ5月じゃない?5月最初、確か他校と柔道部が交流試合するのよね。」
早紀ちゃんが取り上げた写真は3人が階段状の座席に並んで座って振り返っている。不機嫌そうな鳥飼さんと、何かアピールしている柔道着の土志田センセ。雪ちゃんも笑顔ではないけど、カメラに視線を向けてる。
「これが次かな?」
紫陽花が咲き始めたその写真に、一瞬私は背筋がヒヤリとするのがわかった。その写真の雪ちゃんの瞳がそれまでの写真と違う。不機嫌な鳥飼さんの隣で無反応に立つ雪ちゃんの瞳が、昨日みたいに感情の欠片も見えない。
「これ、次よね?多分学校でで写してるけど、やだ、期末テストのはりだしよね?これ。」
「え?名前見える?」
早紀ちゃんと香苗が覗きこんでいる写真の雪ちゃんの瞳もやっぱり凍ったまま、張り付けたような仮面みたいな無表情だ。不機嫌そうな鳥飼さんの方がよっぽど感情の起伏が見える。
「ねぇ宮井智雪って麻希子の雪ちゃん?」
「うぇ?」
「すっごーい!学年2番!!」
え?なに?そうなのと雪ちゃんの瞳が気になりながらもついつい覗きこむ。ほんとだ!期末テストの学年順位に2番に宮井智雪ってある!
「3番って鳥飼さんだよね?」
3番鳥飼信哉って書いてあるのに私達は大盛り上がりする。流石に全部見える訳じゃないけど、土志田センセが笑いながら自分の順番を指で示している。指は5と4だから45か54なんだろうけど、なんだセンセ結構頭いいんだ。真ん中とか言ってた癖に、裏切ったなと内心考える。そうやって順番にしていくと雪ちゃんの瞳が凍っていたのは、6月位から10月の4ヶ月位なのが分かった。しかも、どんどん目の色が暗く無表情になっていく雪ちゃんは、カメラに写されるのを凄く嫌がっているように見える。撮った人が皆バラバラなんだと分かる写真の中で、確実に雪ちゃんの顔色が悪くなっていくのは見ていて本当は辛い。でも、早紀ちゃんも香苗もそこまでは気がつかないみたいで、私は正直ホッとしていた。
「土志田、高校の時何時も笑ってて可愛い…。」
「香苗ちゃん、土志田先生は今も笑ってる方だよ?」
「いや、そういうことじゃなくて、若い時の顔が可愛いなぁって。」
「土志田センセ、私服だとずっと若く見えるよ?流石に28だもん。」
「ええ?!」
あ、ここにも同じ反応した女子高生が。後で土志田センセに言おう、もうちょっと若い格好しないと、本気でオジンだと思われるよって。
部屋で過ごしながら何気なく苺の花の箱を取り出して、雪ちゃんの冷ややかかな顔を眺める。そう言えば昨日戸口に立っていた雪ちゃんの感情の消えた顔は、この写真によく似ていて思わず考え込む。
まさか、雪ちゃんが何かしたわけじゃないよね?
センセが生徒指導室でしてた電話。あれって雪ちゃんに電話だと思ってるけど、違うのかな?もしかして鳥飼さんだったかな?全然関係ない人だったら、私にあの時入っていいって言わないような気がするから、やっぱり雪ちゃんにしてたような気がする。どちらにせよセンセは雪ちゃんか鳥飼さんに、どうしてわざわざ電話なんかしてたんだろう。木内梓とは関わりなんかないのにって考えたら、段々と訳がわからなくなってきてしまって首を傾げる。
「まーきこー。」
「はぁい。」
ママの声に部屋から顔を出すと、予想外の姿が階段の下にあって目を丸くした。早紀ちゃんと香苗が2人ならんで玄関に立っているのだ。驚きながら部屋に上がってと促すと、香苗が心配そうに私のことを見上げる。香苗は土志田センセから木内梓の事を聞かれてたみたいだから、私が巻き込まれたのも気がついたのかな。
「大変だったんでしょ?大丈夫かなって心配なって。早紀と元気づけに来た。」
その言葉に私は目を丸くして、何処から聞いたのと言うが廊下では話しにくいみたいに香苗が声を落とす。それでも、2人が心配して来てくれたのが分かって、泣き出しそうになりながら笑う。
清楚なワンピース姿の早紀ちゃんとスポーティーな格好の香苗は完全に対照的だけど、2人並んで家まで来てくれたのが凄く嬉しい。部屋の床に3人で揃って座りお茶を飲みながら、昨日の話を香苗が教えてくれた。
「お母さんと買い物して帰る時にさ、駅前で警察官が走って行ったの見たんだよね。そしたら、その後聞いたことある金切り声で遠くから引き摺られてきたのが、梓だったわけ。」
「警察につれられてたの?!」
「うん、多分木内の母親と父親、あと茂木と貞友。」
うへえっと思わずその情景を考える。元々駅の西側に家のある香苗だから偶然みかけたんだろうけど、警察に連れられるって何事?しかも、あの怖い男達まで一緒って何処で警察に捕まったの?
早紀ちゃんも唖然として香苗の話を聞いてる。
「後、土志田と麻希子の従兄さんが後からついてきてたから、現行犯で梓を捕まえたら騒ぎだしたってとこじゃないかな。」
なぬ!?雪ちゃんに土志田センセがいたの?じゃ、やっぱり電話は雪ちゃんにしてたのかなぁ。私が宙を眺めてボンヤリ考えているのに、香苗が溜め息混じりに呟く。
「人のことは言えないけど、案外人の目って何処にでもあるんだね。」
「人の目って?香苗ちゃん。」
「だって、私直前まで同級生と何人か会ってるから、あの子達だって泣きわめいてる梓のこと見てたかも知れないんだよね。」
そっか、香苗は矢根尾と街の中で喧嘩してたとか色々と噂になったんだっけ。でも、案外人の目って本当に何処にでもあるんだ、『茶樹』に3人で行ったのだって松尾さんはとっくに知ってるんだし。つまりは後ろ暗いことしたら、その分沢山人の目に怯えなきゃいけないんだって思う。そう思うと、正直私は怖くて仕方なくなる。
「木内さんのご両親、何も麻希ちゃんに言ってこなかったの?」
早紀ちゃんの言葉に、やっぱり私が木内梓の家出に巻き込まれていたのを香苗から聞いたのが分かった。土志田センセが香苗に、私と木内梓の3人で何回くらい出掛けたのか聞いたみたい。香苗は1回しかないと答えたらセンセはそれ以上聞かなかったって言うけど、その答えで充分だったんだろう。
私はお茶を不味そうに啜りながら、一昨日からの出来事を2人に話す。呆れたように香苗が目を細め、早紀ちゃんは驚いて目を丸くしている。
「夜に木内梓が家に戻ったからって電話で謝って来たけど。怒鳴りこんできた時は怖かったよ、正直。」
「頭おかしーんじゃないの?木内の母親。話が矛盾してるじゃん、何で麻希子が率先して合コンして、店の出禁したり梓を唆したりできんのよ?」
「麻希ちゃんがそんなことするわけ絶対ないのに、怒鳴りこんでくるなんて信じられない!」
2人の言葉にホッとして私の気持ちが緩む。緩んだら泣き出しそうなのに、無償に昨日一昨日の怒鳴りこんできた木内梓の母親のことがおかしく感じて遂に私は笑いだした。私が笑い出したのに香苗が怖くて可笑しくなったと、茶々を入れて3人とも意味もなく笑いだし始める。
「もー、何がおかしいんだか分かんないよ、麻希ちゃんてば!」
「木内のオカンって木内そのまま年取ったみたいなんだよね?!スタンプ!」
「やめてよー、ママが必死に仁王立ちで遮ってくれなかったら、梓みたいに突き飛ばされるとこだったんだから!」
「突き飛ばすってそこまで似てんの!?親子こわっ!」
香苗の言葉に早紀ちゃんまで吹き出してしまった。そう言われれば香苗を庇ったとき、木内梓は突き飛ばして来たんだ。その顔と昨日の木内の母親の顔はそっくりだった。もう、そうなったら3人とも木内梓の突き飛ばす顔が分かるのか笑いだして、皆腹を抱えて転げ回って暫く立ち直れない。箸が転げてもなんて言う例えがあるけど、まさにその状態だ。香苗達がお土産に持ってきてくれたケーキをお皿に並べて、ママが扉を開けても3人とも笑いが止まらない。あらあら楽しそうねとママが嬉しそうに笑いながら出ていってやっと、ひーひーしながら笑いを押さえ込む。
「そう言えば、生徒指導室でお茶したことある?」
私が思い出したように言うと、香苗はあるようでうんと頷いたけど早紀ちゃんは首を傾げた。時々土志田センセがお茶を出してくれるんだよと説明すると、いいなぁって早紀ちゃんが口を尖らせる。香苗が呼び出されない方がいいんだよと訂正するのに、思わずそうかと納得した私の顔が可笑しかったみたいでまた一頻り笑いの発作が起こった。
「あのお茶、センセが水筒に入れてもってきてた。」
「ええ?ペットボトルの麦茶じゃないんだ?!意外!」
「あまりイメージ無いけど、土志田先生って家事できるのかしら。」
「うー、台所似合わないだろうなぁ。でも、金色のでっかいヤカンで麦茶作ってそうな気がしない?早紀。」
「あ、分かる気がする。」
そこで再び土志田センセがでっかい金色のヤカンをもって歩いてるのを想像して、3人に笑いの発作が起きて転げ回る。香苗が笑いすぎてひーひーしながら机にぶつかったもんだから、机の上においてた写真が何枚か床に滑り落ちた。
「あ、ごめん!」
「あ、いいよ、私が出しっぱなしたったの。」
広い集めてくれる香苗の目が丸くなって、思い出したように私の顔を見上げる。
「聞きたかったんだけど、これって土志田の高校の時の写真なの?!」
香苗の勢いにそっか3人の内の一人はセンセだったって思い出す。別に今の3人で隠す事でもないから他の何枚かもテーブルに持ってくると、香苗のキラキラした瞳がとんでもなく可愛い。
「土志田、若い!」
「うちらと同じ年くらいの辺りの写真だよ。前に学校で見たやつが一番新しいの。」
鞄の中の手帳から抜き出す写真を3人で眺める。
「信哉さんてば、全部不機嫌そう。」
「鳥飼さんも自分で凄い顔で写ってるだろ?って言ってたよ。」
「土志田、可愛い……。」
香苗の感涙ものの感想が可笑しくて、早紀ちゃんと私が笑う。何気なく全部広げてみると、桜の時期や水辺にいるのや撮った期間が分かる気がする。
「これって学校の前の桜じゃないかな?桜が咲いてるから、まだ1年生かな?」
香苗が取り上げた写真には背後に桜が咲いていて、雪ちゃんは横顔だけだし、鳥飼さんに至っては土志田センセに掴まれて顔自体伏せてしまっている。それでも楽しげだ。
「こっちは春先かしら、花壇がパンジーみたい。」
次の写真は多分同級生がとったのかセンセが2人を両腕で掴んでいるのに雪ちゃんも鳥飼さんも不機嫌顔だ。
「次はこれじゃない?応援練習っぽい。土志田超ふざけてる。」
背が高い3人がそれぞれに前を向いている写真は、校内の中庭で毎年する応援団の練習風景のようだ。真剣なのか不機嫌なのか鳥飼さんと雪ちゃんは真顔なのに、土志田センセだけおちゃらけてて思わず笑ってしまう。
「あ。これ5月じゃない?5月最初、確か他校と柔道部が交流試合するのよね。」
早紀ちゃんが取り上げた写真は3人が階段状の座席に並んで座って振り返っている。不機嫌そうな鳥飼さんと、何かアピールしている柔道着の土志田センセ。雪ちゃんも笑顔ではないけど、カメラに視線を向けてる。
「これが次かな?」
紫陽花が咲き始めたその写真に、一瞬私は背筋がヒヤリとするのがわかった。その写真の雪ちゃんの瞳がそれまでの写真と違う。不機嫌な鳥飼さんの隣で無反応に立つ雪ちゃんの瞳が、昨日みたいに感情の欠片も見えない。
「これ、次よね?多分学校でで写してるけど、やだ、期末テストのはりだしよね?これ。」
「え?名前見える?」
早紀ちゃんと香苗が覗きこんでいる写真の雪ちゃんの瞳もやっぱり凍ったまま、張り付けたような仮面みたいな無表情だ。不機嫌そうな鳥飼さんの方がよっぽど感情の起伏が見える。
「ねぇ宮井智雪って麻希子の雪ちゃん?」
「うぇ?」
「すっごーい!学年2番!!」
え?なに?そうなのと雪ちゃんの瞳が気になりながらもついつい覗きこむ。ほんとだ!期末テストの学年順位に2番に宮井智雪ってある!
「3番って鳥飼さんだよね?」
3番鳥飼信哉って書いてあるのに私達は大盛り上がりする。流石に全部見える訳じゃないけど、土志田センセが笑いながら自分の順番を指で示している。指は5と4だから45か54なんだろうけど、なんだセンセ結構頭いいんだ。真ん中とか言ってた癖に、裏切ったなと内心考える。そうやって順番にしていくと雪ちゃんの瞳が凍っていたのは、6月位から10月の4ヶ月位なのが分かった。しかも、どんどん目の色が暗く無表情になっていく雪ちゃんは、カメラに写されるのを凄く嫌がっているように見える。撮った人が皆バラバラなんだと分かる写真の中で、確実に雪ちゃんの顔色が悪くなっていくのは見ていて本当は辛い。でも、早紀ちゃんも香苗もそこまでは気がつかないみたいで、私は正直ホッとしていた。
「土志田、高校の時何時も笑ってて可愛い…。」
「香苗ちゃん、土志田先生は今も笑ってる方だよ?」
「いや、そういうことじゃなくて、若い時の顔が可愛いなぁって。」
「土志田センセ、私服だとずっと若く見えるよ?流石に28だもん。」
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