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9月

114.スパティフィラム

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9月1日月曜日
始業式の後まだ残暑で居心地の悪い教室の中で、土志田センセがあまり感情の感じさせない口調で木内梓の急な転校の話をする。言葉のまま話を聞いている清らかな心の子が、このクラスの中にどれくらいいるだろう。
大体の子には既にLINEで木内梓の校内での私との騒動は知れ渡っているし、その後木内梓が家出したのもバレてる。家出の話がバレたのは私のせいじゃなくて、木内梓の母親が出席番号順に電話を掛けてそれぞれの子と親を怒鳴り付けたせいだった。早紀ちゃんのお家にも電話は来てたみたいだけど、早紀ちゃんは取らずに早紀ちゃんのお兄ちゃんが取ったそうだ。お兄ちゃんがいるって初めて聞いたけど、若い男の人には怒鳴らなかったってところが木内梓の母親らしい。
木内梓の母親は娘が誰と仲がいいのか、全然知らなかったみたいだ。しかも、男子にまで電話をかけたってところが、余計に話を広げたんだと思う。他のクラスの子と仲のいい子だっているし、大体にして木内梓の友達の大部分は他のクラスだ。大人が普通にすることではないなって思うけど、こうなっては私にもどうでもいい。
家出していた木内梓はラブホテルから出て来たところを、センセと両親に見つかったって誰かが噂している。そこに雪ちゃんもいたんだと思うけど、見た人は知らない訳で。木内梓が男複数とホテルにいたとか、木内梓の母親の浮気相手が一緒だったとか噂の尾ひれはドンドン膨らんでる。こんな状況じゃ学校で挨拶も無理だろうし、挨拶どころか書類の提出に来た母親が泣きわめいたなんて追加の話が流れてて学校に来るどころではない。

自業自得って思うけど、可哀想でもあるよなぁ。

転校がここら辺だと塾の繋がりがあるから、生活しにくいだろうなって正直考える。上品な淑女って訳じゃないけど、少なくともあのお母さんとソックリに育たないようにって木内梓は考えられるかな。でも、気がつかなかったらきっとお母さんとソックリに育っていきそうな気がする。

「改めて、それぞれ生活態度には気を付けるように。」

土志田センセは動揺した様子もなく話を終えて、今日の予定を終了したと溜め息を溢しながら背筋を伸ばす。

「よーし、終わり。日直。」
「きりーつ、れーい。」

間延びした日直の号令の声にあわせて、立ち上がり頭を下げる私達を見回しながら土志田センセも頭を下げた。
私のとこにはセンセは謝罪までしに来てるけど、他の家族からの電話も一杯来たんだろうなぁって考えると少し可哀想なのはセンセだよなって考えちゃう。だって、悪くもないことであんな風に頭を下げなくちゃならないんだもん。指導するって役目があるのは事実だけど、私たちが勝手にしてしまったこともセンセが責任をとらなきゃならないのかな。それって何かおかしいと思うのは私だけなのかな。

「宮井?」

でも、自分のしたことは自分で責任をとらなきゃいけないんじゃないのかな?約束を守るのってそういうことじゃないのかなって私は思う。

「宮井。」

ポコと頭に乗せられた名簿に、私は我にかえって目の前のセンセを見上げた。私より多分30センチは高いセンセを間近で見上げると、首が仰け反りそうだ。

「あれ?センセなんで目の前?」

呆れたようにセンセが笑う。私の前には早紀ちゃんと香苗の姿もあって、教室の中は半分以上の生徒はもういない。

「ボーッと固まってるから、具合でも悪くなったかと思ったじゃないか。」
「あー、センセって大変な仕事だなって考え事してたんだ。」

土志田センセは声をあげて笑うと、ポンポンと私の頭を撫でる。

「そう思うなら、2学期は穏やかに頼む。特に文化祭とかな。」
「センセみたいに伝説になるようなこと出来ないよ。」

その言葉にギクリとしたような視線が、私を見下ろすのに気がつく。あれ?これって内緒の話?センセがあまり触れてほしくなさそうな顔をしてるのに、香苗と早紀ちゃんが不思議そうに眺めてる。

「宮井。」
「センセ、今度高校の時のアルバムとか見せてよ。」

私の唐突な言葉にセンセが少し呆れ顔になるのが分かった。でも、考えてみると雪ちゃんの家には雪ちゃんのアルバムは高校の卒業アルバムだけだ。他の子供の頃の写真は燃えて無くなっちゃったし、あの箱の写真だってたった10枚くらいだ。

「卒業アルバム以外の写真がみたいだけだから。ね?センセ、お願い。」

拝んだ私の様子にセンセは、見せれるのがあったらなと笑う。そうしてほれと私達を追い出しにかかったところを見ると、センセはこれからも何か仕事があるんだと分かった。私は早紀ちゃんと香苗と連れだって教室から出ると、話ながら並んで歩きだす。廊下にはまだ何人か生徒が残って、グループをつくって話をしてるのがチラホラ見える。中には香苗の事を肩越しに見てヒソヒソ話す人もいるけど、香苗は気にするようでもなく早紀ちゃんに話しかけていて。

香苗自身が一番変わったのかもしれない。

そんな風に私は香苗を見て思っていた。
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