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10月

153.ブバルディア

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10月10日の日曜日。朝一番雪ちゃんのお家に寄ってご飯を作って衛と雪ちゃんと交流を持ってから、私は学校に急ぎ足で向かっていた。本当は雪ちゃんとユックリしたいんだけど、文化祭は待ってくれないから学校に行くしかない。衣装は後少しで出来上がるけど、今度は遮光のための準備をしないといけないし、可能なところは進めないといけないんだ。途中のしきりに使う簾状の間仕切りを、ビニール紐だと重さが足りないから何か工夫できないかも検討しないと。学校に着いた時にはもう既に半分くらい人が集まっていて、試しに板をたててみたりして遮光の具合を試している。

うわ、思った以上に暗そう!

壁にかけた板のせいで、教室内が暗室みたいになってる。でも、人の気配が多いからあっつい!って私が言うと、奥の方で笑いが起きた。それにしても皆文化祭に向けての情熱が半端ないなあ。

「麻希。」
「あ、おはよう、智美君。」
「冷たいのと生暖かいのとどっちが怖い?」

って突然何を言い出すかと思えば、怖いって聞かれてもそれが何でもたらされるのかが分かんないじゃん。冷たいのと生暖かいのって何?もう少しヒントくれないと答えらんないと不貞腐れる。風とかだと冷たい場所で生暖かい風が吹き付けたら不気味だし、逆に暖かい場所で冷たい風も不気味じゃない?そう答えると智美君は通路だからなぁと、1人で納得して若瀬くんに向き直る。私は大道具班の男の子に一番邪魔にならない場所が何処か聞くと、設計班のとこかなぁって答えられてしまってスゴスゴと戻ってくるはめになった。

「ん?なんかした?麻希。」
「んー、ここが一番邪魔じゃないって言われたから。」

そういって持ってきた巨大なバスケットを二人の前にドンと置いて、皆に声をかける。そう、今日はお菓子を作ってきたのだ。午前中だけ作業って言ってたから、おやつにいいかなって。保冷剤入りだからバスケットは少しひんやりしてるけど、中身が潰れてないのを祈りながら開く。良かった、崩れてないや。

「1人1個は必ず当たるように作ってきてるから。手が空いたらどうぞ。」
「凄い!エクレア作れるんだ!宮井さん。」
「本気で作ってきたんだ?麻希。」

だから焼くのは簡単だけど、崩れるのがやなだけなんだってばって智美君にもう一度説明する羽目になる。親交が薄かった子とも文化祭の準備を通して、改めて交流したりしてこういうのが文化祭の楽しみなのかも。エクレアは中は今回はカスタードだけだけど、上にかけるチョコはモカとミルクの2種類。個数としては全員分だけど、今日来ない子も居るだろうから間に合う筈だ。ワイワイしてるところに孝君と早紀ちゃんが戻ってきて、エクレアに顔を輝かせる。

「凄い、麻希ちゃんお手製?」
「うん、1人1個ね。」

一端手を止めて皆で休憩にしていると、センセが丁度顔を出したので中から1つ選んで手渡すと目を丸くした。勿論差し入れも購入なら請求書を出さないとならないけど、これは私の手作りだからそこはクリアなのだ。考えてみると学生の支出は全部請求なんて変なルールだけど、普通の経営って言うのはそういうもんなのかもしれない。因みに先生が何か自分のクラスに差し入れをするのはセーフなので、期日が近くなってくると先生がジュースの差し入れをくれたりもする。それも楽しみのひとつなのかもしれない。

「凄いなぁ、手製か?宮井。」
「うん、そんなに難しくないよ。」

皆が宮井さんだからだよ~って笑っているけど、本当にそんなに難しい訳じゃないんだよなぁ。簡単に作る気ならホットケーキミックスだって使えちゃうんだよって言ったら、女の子達の目の色が変わった。女の子にとってはお菓子作りってある意味ステータスらしい、私は一気に女の子のレシピ教えて攻撃に飲まれる。ええ?ホットケーキミックスで作れるってそんなに大きい?あまりの女の子の騒ぎに男子達とセンセが一緒になって笑ってる。案外ホットケーキミックスって万能で、大概の製菓材料が均等に混じってるみたいなものだから何にでも使えちゃったりするんだ。パンでもクッキーでも、スコーンだって出来る。混ぜるものさえ調整すればチーズケーキもガトーショコラも作れるんだ。粉からふるうのが面倒くさい人はホットケーキミックスを活用しちゃえば、随分お手軽にお菓子作りが出来るんじゃないかな。女の子にあれは?これは?って聞かれて、出来るよって答えるとキャーキャーしてる。

「喫茶の方がよかったんじゃないか?」

センセがエクレアのチョコのついた指を舐めながら言ってるのに、智美君が僕もそう思うと同意しているのが聞こえた。いや、だけど喫茶で甘味だけって結構集客力が弱いんだよね。興奮して動き回ると甘味も欲しくなるけど、きっと塩分とかも欲しくなるじゃない?他に何店舗か喫茶が重なると重複メニューはきついし、先輩がかき氷店舗を出すって言ってたのを聞いたから3階の一番端っこに来る前に他のとこに絶対お客さんはとられると思う。そう答えた私にセンセが感心したみたいに、腕を組んだ。

「宮井は案外経営者向きだな。」

え?思わず私がキョトンとすると、そういうことを考えてえて経営してないとダメなんだってセンセが言う。お店をただ出店するだけじゃなくて、環境とか集客力とか考えて利益が出る方法でお店をするのが経営なんだって。そんなことを話してるセンセに、私の頭の中は『茶樹』のマスターさんが浮かぶ。マスターさんは普段はそういうことを考えてるんだろうなぁ。


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