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10月

161.ツルコケモモ

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10月18日 月曜日
木村君の行方は何も分からないまま、何も心の慰めになるような情報もなく週が明けてしまった。朝の土志田センセの顔は何時になく険しいままで、センセ達も何も分からないままなのが分かる。心痛を和らげる方法もないこの状況で、文化祭の準備も中断のままだ。智美君が休んでいるのも何だか不安感を煽るけど、早紀ちゃんがLINEで風邪ひいたと言っているって話してくれたから少しは安心。でも、教室の中は何時もと違う不安感に飲み込まれているように、ヒッソリと静かなんだ。

「木村君、早く見つかるといいのにね。」

私がお弁当をつつきながら呟くと、早紀ちゃんも溜め息混じりに頷く。隣の孝君が考え込んでいるのに気がついて、私達が何かあったのって問いかける。孝君は少し戸惑うみたいにお弁当から視線を上げた。

「ここ数日で道場の門下生が来なくて、確認したら行方不明になってたんだ。関係はないけど、少し気になって。」
「行方不明って家出とか?」
「独り暮らしだからハッキリは分からないけど、理由もないし家出するような理由がない。」

行方不明って伝染するものなの?世の中には色々知らないことがあるものだけど、こんな風に当たり前じゃないことが起きると変なことを考えてしまう。昔話って言うかお伽噺にそういうのがあるよね。ハーメルンの笛吹だっけ?笛を吹いてネズミを駆除してくれた男に対価を払わなかったら、男は再び笛を吹いて子供を連れ去ってしまった話。今時ネズミ退治って話はないけど、もしかして何かをするために対価を必要とする出来事があるだろうか。なんてそんな話が現実に起こっているみたいな不快感が、私だけでなく周囲の皆に広がっている。

「門下生って歳幾つなの?真見塚。」
「一人は大学生で、一人はサラリーマンで二十代後半かな。」

香苗の言葉に何気なく答えた孝君に、行方不明が一人じゃないのが分かってしまって愕然とした。自分の生活する場所の周りでそんなことが起きているなんて、常識でそういうのって余り起こらないなんて考えてた私には頭を金槌で殴られたみたいな気分。どの人もいなくなる理由がないなんて、尚更気持ちが悪い。そんなことを考えながら、何だか何時もよりも美味しくないお弁当を食べる。孝君の道場の人と木村君の行方不明は別なんだろうけど、自分達の身の回りでそんなことが起きているだけで日常が変わってしまう。

「木村君、何事もなく見つかってくれるといいんだけど。」

どうにかして話題を切り替えたくても皆の気持ちがそれを考えているから、どうしようもない。センセ達の固い表情で明るい情報が入ってないことも、進展がないことも聞かなくても分かる。


文化祭の準備はしてもいいことになったけど、独りで下校をしないように土志田センセから言われた。どうしても独りで帰るしかない子は、作業をしないで明るい早い内に帰宅するよう言われる。仕方がない事なんだけど、誰もが何となく不安顔で文化祭なんてしてていいのかなって顔色だ。その気持ちもわからなくもないけど、文化祭まで後2週間ないのも事実なんだ。凄く薄情な気もするけど900人以上いる生徒の一人の事で、文化祭がどうなるのかって言われると正直答えは難しい。私達にとっては身近なこの出来事も、1年生や3年生にとって身近かと言うとそうでもないんだと思う。薄情とかそういう訳じゃなくて、だってこれが3年生の誰かの話だとしたら私達に迄噂が回ってくるのは大分後の事になるんじゃないかな。いっつも一緒に居ることの多かった浦野君は、悩んでいるみたいに黙りこんで部活に行ってしまった。香苗と2人でベランダに並んで部活動の様子を眺めるけど、何時もの活気は出せそうにもない。

「浦野が話してた女の人がいる家って、三浦のお化け屋敷のことみたいよ。」
「ええ?!あのお化け屋敷に何か関係あるの?」

三浦のお化け屋敷って言うのはここら辺の子供なら誰もが知ってる有名な話だ。元々は三浦さんって言うお金持ちのお屋敷だったんだけど、そこの息子が突然おかしくなって夜な夜な男の人は殺して女の人は連れていくとか言う話。お家の人は息子が怖くて逃げ出して、ほんの何ヵ月かでお屋敷は廃墟みたいになったって言うんだけど。最初の綺麗な姿を見たことがないし、近寄ると連れてかれるって皆も言うから高い塀の向こうのお屋敷なんて誰も見たことがない。近隣の子供なら傍の道を通るのも怖がる肝試しスポットにもならない場所だ。木村君は確か中学の終わりにここら辺に越してきた子だから、あんまりその話は聞いてないのかもしれない。浦野君は早紀ちゃんや孝君と同じ小学校だから、この話はよく知ってる筈だ。

「お化け屋敷にいるなんて、幽霊かな?」
「分かんないけど、木村があすこに行ったのに一度は浦野も一緒に行ったみたい。」

ええ?よく行けるよ、と私が青ざめながら校庭を見下ろす。浦野君は何時もより青ざめた顔をしながら、何事もなかったかのようにランニングを続けていた。
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