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10月

閑話36.真見塚孝

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宮井麻希子は本人は自覚がないが、とんでもない巻き込まれ体質でその上周囲を巻き込む。しかも、大概巻き込んだ上に騒動を飲み込んで、結果的に良い方に向かう。正直底力がどこまでの能力なのか孝には疑問だ。もしかしたら底無しの能力なのかも知れないが、意図的にそう根回しをする訳でもないのが末恐ろしい。今回も1学期にはあんなにバラバラだと思っていたのに、文化祭の準備があるとはいえこんなに皆が参加して力をあわせるとは思わなかった。学級委員も兼任なので他の生徒に聞いてみると、宮井が協力しない人には差し入れは渡りませんと宣言したのも一役かっているようだ。

纏まりがいいのは楽だけどお菓子の差し入れ1つでここまで団結ってのも巻き込み体質の本領発揮だよな。

確かに2年目で去年より勝手が分かっているから、協力しやすいだろうが普通はクラスに1人か2人は非協力的な生徒がいるものだ。ところが、一番協力しなさそうな香坂と若瀬を設計班に引き込んだのは、宮井が頭良いもんねの一言で丸め込んだからと言える。そんなことが考えなしで出来る宮井は、やはり観察力が一際高くて周囲をよく見ているのだと思う。物思いに耽りながら歩くなんて事はそうそうないのだが、宮井の事を考えたせいか予想より物思いに耽っていたらしい。孝が気がついた時には目の前に自校の制服を着た少女の背中があった。



※※※



ここ最近になって巻き込まれ体質の宮井のお陰で、早紀との関係は以前と似たものになった。歳を重ねた分の遠慮は確かにあるが、早紀にも以前の笑顔が戻って来たのに孝は正直宮井に感謝もしている。宮井が別け隔てなく誰とも接している姿に、自分が1人で家の都合に振り回されて早紀を遠ざけている意味が分からなくなったのだ。そう今の状況で真見塚家に騒動があっても、志賀早紀には何の関係もないし気を使う意味すらない。これで、真見塚家に関連することが早紀にも何かあるなら兎も角、大体にしてそんな事を孝が考える事の方が早計すぎて笑えてくる。そんなわけで昨日のアクシデントを噛み潰して、孝は門の前で巨大なピクニックボックスを持った早紀の姿に苦笑した。次第に弁当が巨大化してるが、あの量を何時から作ったのだろう。早紀には負担ではないのだろうか。

「おはよう、孝君。」
「おはよう、早紀。また、智美の分迄お弁当作ったのか?」

呆れ半分で甘やかしすぎるなよと言う孝に、早紀はにこやかに笑って孝の分もあると告げる。思わず苦笑いして早紀の持つピクニックのような弁当を孝が受け取る。真見塚家は合気道や古武術道場を代々続けているから朝の修練があるのだが、その朝早い真見塚家に孝の分もお弁当を作りますと早紀は態々声をかけに来てくれていて孝の弁当は最近自宅では準備されない。それがわかっているからこその苦笑だが、最近は孝の分だけ他の容器にしないといけないのが更に一手間で心苦しい。それを思い出すと昨日の出来事が頭に蘇って孝は、疲れたような溜め息をついてしまった。自分が悪いのだが、それでもこんな羽目に陥るとは流石巻き込み体質の傍にいるだけある。とは言え昨日のアクシデントは宮井は何一つ関わっていないのだが。溜め息に気がついた早紀が心配そうに見上げる。

「寝不足?生徒会の仕事でもしてたの?」
「いや、昨日少しアクシデントがあって、そのせい。」

孝のアクシデントという言葉に、更に早紀の表情が心配に曇る。

「アクシデントって?怪我とかじゃないのよね?」
「ああ、何でかな人にぶつかっちゃって相手のスマホの液晶を割っちゃったんだ。」

合気道をやっている孝が、早々人とぶつかって物を壊すなんて話は珍しいことなのだ。それもこれも文化祭シーズンで普段より忙しい上に、最近の意味の分からない告白騒動も含まれているに違いない。

「最近、中々一緒に食べれなくて皆心配してる。」
「参るよ、本当。何で最近急にこうなんだろうな。」

最近の急激な告白の意図は孝には考えてもちっとも理解できない。どうして急に皆が色気付いたのか、正直苛立ちすら感じているのだ。早紀には苛立っている姿を見せたくはないが、付き合いが長い分孝の感情の起伏は分かってしまうのだろう。

幼馴染みってこういう時には困りものだな。

心の中でそう呟きながら視線を前に向けた瞬間、孝は目にしたものに微かにだが表情を険しく歪ませた。

「おはよう、真見塚君、一緒に学校行かない?」

告白は学校内だけだが、まさか登下校に出没する女子がいるとは思わなかった。しかも、彼女は昨日のアクシデントの相手で無下に断る事も出来ないのを知っていて、早紀の事はまるで空気みたいに見ていない。

「小坂さん、何で?」

確かに今から向かう学校迄の道のりを一緒に行こうと言われたら、別に良いよと答えるしかない。早紀を完全無視して話しかけてくる彼女に呆気にとられながら、孝は自分を挟んで反対側を歩く早紀の顔を見下ろす。常識から考えたら、小坂の挨拶もないやり方はとても非常識だ。本当ならそれを叱責するのが普通なのに、それをできない弱さが結局は早紀との壁を知りつつなにもしなかった孝の弱さなのだ。麻希子のように間違ってるのは間違っている、相手が何を考えているか問いかける事も出来ない。

情けないな、こんな時に何も出来ないなんて。

早紀には変な気を使わないでシンプルに接すると誓ったのに、横を俯いて歩く早紀をそのままにしてしまう自分が情けない。それでも、黙って隣を歩いてくれる早紀に申し訳なくなった。

「ごめん、早紀。」

乗降口で謝りながら弁当を手渡す孝に、早紀は少しだけ微笑んで受け取りながらいいのと呟いた。人が望まない扱いをされているのにこんな風に謝ることしか出来ない自分が酷く歯痒い。だけど、早紀を登校中ずっと無視して話し続けた小坂真冬は、孝の予想を越えて難物だった。
ここ最近はすっかりお昼に参加できないでいた孝が、とんでもなく不機嫌な顔で久々に階段を上がる。楽しげな4人笑い声が聞こたのに孝は正直不公平だと言いたい気分で、真正面にいた宮井と目が合う。

「なんかあったの?」

思わず問いかける宮井に、珍しく不満満載の顔だと自分でも知りながら孝は早紀の隣に座った。孝は今朝の事も含めて訳が分からないと呟きながら、事の次第を話す。孝は昨日欲しい本があって駅前の書店まで足を運んでいた。その帰り道に物思いに一瞬気をとられ、偶然小坂真冬とぶつかって彼女はスマホを落としてしまったのだ。スマホの液晶が割れたからと次の休みに携帯会社迄一緒に行くことにして、連絡先を知らないと困るから電話番号を交換したのだった。ところが、彼女に連絡を教えた途端そこから延々と真夜中過ぎまでLINEが来るとも知らないし、長いこと振り回されるとは思わなかったのだ。孝は必ず毎朝4時には起きて朝の修練をするので、結果として今日はほぼ寝ていないのだ。

「訳が分からないよ、一晩中ホームの写真の夏椿の話とか。もう寝るのとか、もう少し話したいとか。」

それに振り回されて寝不足の孝は朝から不機嫌なのに、更に追い討ちを小坂はかけてくる。朝一緒に行こうと声をかけられたのは、流石にかなり驚いたのだ。昔からずっとここら辺に住んでる孝は同じ学区の子は大体覚えているから、記憶にない小坂真冬は違う学区の筈だ。

「えっ、こわっ!」

須藤が正直な感想を口にして、孝が素直に僕の方が怖いと言う。しかも、今日はそれから休み時間毎に教室の扉の辺りから彼女が見ていて、孝も流石に気分が悪くて仕方がない。

「こわぁ、ガチのストーカーじゃん。真見塚。」
「ストーカーって自覚ないっていうけどね、がんばれ孝。」

他人事みたいに言う須藤と香坂に、孝は不機嫌な顔で溜め息をつく。スマホの液晶は割れているのは事実だから明日は、一緒に携帯会社に行かなきゃならないのが苦痛でしょうがない。2人っきりで携帯会社迄行ったら相手は違う意味でとりそうだよねと思わず口にした宮井に、孝は驚いて目を丸くした。

「違う意味ッてなんだ?!宮井!」
「決まってるじゃん、デートだって思うってことだよ、ね?麻希子。」
「うーん、何かそう考えそうな気配だよね。」

孝の顔が今更だがハッキリと青ざめる。ただでさえ今の状況でもうんざりなのに、彼女にこれ以上生活を脅かされるのはごめん被りたい。

「誰かもう一人男の子と一緒にいけばいいんじゃない?」

何気なくいう香坂に、孝は心底感謝したくなる。確かに誰かと一緒に行けば、相手も流石にデートだとは思えない。おまけに携帯を変えるのには付き合える。それでも、新しい携帯に電話番号を移されると、電話番号が相手には残ってしまう問題はあるのだが。関係ない顔でサンドイッチを食べている香坂の肩にポンと孝が手を置いたのに、香坂が仕方がないなぁって顔をした。

「いいけど、喫茶店で奢って貰うよ?」

それくらいならお安いご用だと孝は心の中で呟いていた。



※※※


金曜日、我慢の限界が着た。何せここのところの毎日はおかしすぎる。文化祭まで残り2週間だというのにこの可笑しな色気付いたのが、止まらないのだ。しかも、毎日毎日毎回同じように判で押した告白に、こちらとしても全く同じ言葉を繰り返している。情報共有してくれたらいいのにと考えてしまう自分は薄情なのだろうかとも思うが、正直ウンザリしていた。

「真見塚君、私あなたの事が好きです!」

またこの台詞だ。正直自分の何処が好きなのか教えて欲しい。

「悪いけど、僕は好きな人がいるんだ。」

しかも小坂真冬以降というか、食い下がってお友達から攻撃か増えていた。孝はその食い下がってお友達が、本音では一番理解できない。自然と友達になったのなら兎も角好きな人がいると答えて、なら友達という答えはおかしいと思う。

「なら、お。」
「もういい加減にしてくれないか?!」

思わず教室の入り口でそう声をあらげた孝に、クラスの皆が目を丸くする。一番の存在にして欲しかった気持ちは分かるが、四六時中追い回されてこの会話を繰り返す身になって欲しい。

「皆に伝えてくれればいい。僕にだって好きな人くらいいるって!」

思わず苛立ち紛れにそう言うと、相手が目を丸くしたのがわかった。これで呼び出されなくなるなら満足だ。友人と過ごす時間もとられ、同じ言葉を何度繰り返したか。女の子達は流石にスゴスゴと皆散り散りになったが、一度頂点に達した不機嫌は引っ込めようがない。不貞腐れた顔で席に戻り座る孝を皆が腫れ物を触るみたいに眺めている。隣の席で宮井が何かをゴソゴソしてるなと思ったら、唐突に訳の分からないことをいいだした。

「ねぇ孝君、アーンして。」
「はぁ?!」
「不機嫌満載で答えなくてもいいから口開けて」

それが乙女が言う言葉かと思うが、宮井は追い討ちをかけるように口を開けろと要求する。渋々口を開けて見せると、宮井は孝の口に何か棒のようなものを捩じ込んだ。感覚はブロックタイプの総合栄養食だが、味はナッツとドライフルーツが一気に口の中に広がる。正直美味しい。一人でモグモグしていると、いつの間にか香坂やらクラスメイトもくれと催促している。

「ビスコッティっていうの?ドライフルーツ入ってる?」
「こっちのアーモンド?」

ワイワイしてる仲間を眺めていると、不機嫌でいる方が馬鹿馬鹿しくなってくる。本当に宮井の巻き込み方は半端なものじゃない。

「全く、宮井には敵わないよ。」
「え?かなうも何も、お腹へると不機嫌になるじゃん。」
「子供じゃあるまいし。」

それにしてもお菓子でクラスメイトを操るのは如何なものかと思うが、まあこうなると気にするのも馬鹿馬鹿しいことだ。そう考えはしたのだが、目の前の早紀の表情が思わしくないのに孝は気がついた。恐らく孝が怒声混じりに追い返した女子の事を気にかけているのだろうけど、孝としてはこのまま告白されなくなるのが一番なのだと考えてしまうのだった。
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