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12月
閑話49.宇野智雪
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「竜胆は偽名かも?本当ですか?」
久々に直接出会った外崎宏太は少し疲れたような顔色で、『茶樹』のソファーにふんぞり返るようにして座る。何時ものカウンターの定位置でないのは酷く珍しい事だが、実は慣れた店内なら何処でも本当は問題がないらしい。しかも、今からする話はあまり楽しげな話でもないから、奥のソファーはやむを得ないのだろう。
「何だか近隣ちょこまかしてるから、ついでに調べてやろうとしたが可笑しなもんでなぁ。」
「おかしい?」
「おお、10年位前迄は簡単に調べがつくんだが、その先は煙のようにだな…。」
ヒラヒラと降られた手が白旗を模している。しかし、10年と聞いて雪は驚きに目を丸くして、その相手の顔を見つめた。確かに竜胆貴理子について調べて欲しいと頼んだのは自分だが、この短期間でどうするとそこまで調べられるのか。目の前の盲目の男の情報網には、雪も驚かされてばかりだ。以前麻希子に絡んだチンピラモドキを調べてもらった時も、知り合いだったとは言っていたが詳細すぎる情報に驚いた。今回の竜胆貴理子のことは、何か調べていた外崎の周囲に既に竜胆貴理子が耳に入っていたからのようではあるが10年まで遡れたと言うことなのだ。
竜胆貴理子がフリーライターとしてのペンネームの可能性はあるが、そうなると外崎が船舶事故の訴訟の時に竜胆という名前を聞く可能性はない。訴訟でその名前を告げたということは、公的に認められた名前の筈だ。それに船舶のプログラミングをするということは、それだけの知識を何処かで身につけた筈。それすらも見つからないとはどう言うことなのだろう。
「結婚とかで名前が変わったとかは?」
「雪、お前俺がそんなことくらい気がつかないボンクラだと思ってんのか?ん?」
思わず口にしたが、確かにそんなことくらい気がつかない外崎ではないのは明らかだ。素直にすみませんと言うと、彼は珍しく疲れの滲む溜め息を漏らす。
「疲れてますね。」
「ん?まぁなぁ、俺も人間だってことだな。」
掠れた声に眉を潜めると外崎は首を回すようにしながら、微かな苦い笑みを浮かべる。
「トラウマが戻ってきやがって、こっちの調べもんも煙に巻かれてるとこだ、全く難題だな。」
「戻って?」
外崎の言うトラウマは恐らく顔や体の怪我の事だ。仕事柄知っているが、外崎は怪我をおって数時間倒れた状態で放置されていた。目を見えず声も出せない状態で口から血を吐き出し必死に呼吸をしながら、同時に同じ空間に怪我をおわせた人間がいるかもしれない恐怖。相手が戻ってくれば確実に殺されるとわかっているのに、その場から身動きもできない恐怖に堪える。それは気の狂いかねない時間だっただろう。
「女に恨まれると身の破滅だぞ?雪。」
「女?」
怪我をおわせたのは男なのに、外崎はニヤリと人を食ったような笑顔を浮かべてそういう。外崎は女に恨まれたから、男に襲われたとでも言いたいのだろうか。だが、雪には竜胆に恨まれるようなことは何一つ思い浮かばない。
「元女房……ああ、あのバカもその口だったな。なぁクボ、あいつまだ生きてるか?」
不意に思い出したように乗り出してマスターに声をかける外崎に、マスターの久保田は白磁のティーポットの手入れをしながら穏やかに声を返す。
「最近話題になってるよ。彼も悲鳴をあげるくらいに元気らしい、トノも見習わないとね。」
「はっ悲鳴?リエに悲鳴をあげさせられたか?俺は悲鳴なんぞあげる喉じゃねえしなぁ。」
リエという人物は知らないし2人にしか分からない内容の会話だが、外崎がニヤニヤしているところを見れば自分にもわかる人間の話なのだろう。と考えた瞬間以前、外崎に身元を調べてもらった矢根尾とか言う男の事だと、雪も思い至る。元女房に恨まれてと言うのが外崎も同じと言うのは引っ掛かりはするが、少なくともまともな生活は送っていなさそうな矢根尾の様子だけは分かった。それにしても外崎のトラウマが戻ってきたというのが酷く気にかかる。
「外崎さん、あんまり危ない橋は渡らないで下さいよ?」
思わず雪がかけた言葉に、驚いたように外崎が真顔になって雪に顔を向けた。
「何だ、随分優しいな?俺を好きになっちゃったか?ん?」
「馬鹿ですか?友達の心配くらいしますよ。」
「おお、そうか、俺ぁいつの間にか友達になってたか?ん?」
まるっきり相変わらずの人を食ったような口調だが、何処かほんの少し喜んでいるようにも聞こえる。それに雪が気がつくと外崎は話を変えるように、顔を向け口を開く。
「調べてたらな、ちぃと気になることがあってな。ちなみに竜胆っつう女は今幾つくらいだ?」
「30代後半ですかね?」
「まあ、女は化粧で化けるからあれだが、俺が見たことのある竜胆とか言うねえちゃんも30後半位だったんだよなぁ。」
船舶訴訟の時に見たと言うのであれば、少なくとも8年前の事だ。とは言え女性の見た目は案外化粧の仕方一つで変わるから、それほど珍しい事とは思えない。しかし、外崎の気になることは別の事らしかった。
「お前の話だと政治家関係に強いって話だが、ねえちゃんがそれよりずっと食い付きのいいニュースがあるの知ってるか?」
雪は再び目を丸くして彼の顔を眺める。雪の知っている彼女の書いた記事は概ね政治家の汚職や利権絡みのもので、何をどう調べるとその結論に辿り着くのか分からないが外崎の情報には何か特有の傾向が見えるらしい。
「何ですか?食い付きのいい話って。」
少し迷うような気配を見せた外崎は、諦めたように口を開き先を続ける。
「1番は火事だ、しかも何人も死んでるような火事。」
一瞬その言葉に雪の表情が曇り、見えていない筈の外崎が眉を動かすのが分かった。そして、外崎が更に口にした言葉に、雪は言葉を失う。
「恐らくな、お前んちの火事も調べてるぞ、雪。」
唖然としている雪の気配を感じ取ったのか、頻繁に警察にも出入りして情報収集してるようだしなと呟く。予想外の言葉に言葉を失っている雪に、外崎は手探りでアイスコーヒーをとると苦笑い混じりに口を開いた。雪が唖然としているのは竜胆の事だけではないのだ。外崎がいつの間にか自分の両親の事件まで知っていることに、雪は面食らって呆然としている。
「わりぃな、知ってるとは思ってなかったんだろ?雪。」
「え、ええ、そうですね。正直驚きました。」
「色々とな耳にはいる立場だと、大きな事件ってのは案外身近でなぁ…。可笑しなもんだな。」
外崎は呟くように歴史に残るようなホテルの大火災から、数年前の放火が原因の家族が焼死する事件までを指を折って数える。全国的なものからここ近郊の火災まで含めてしまえば、人が死ぬような火事なんて実際は指折りでは足りない筈だ。
「だけど最も気にしてるのは、ありゃ20年以上も前だったかな?ホテルの大火災のようでな。何度も何度も調べ直して、生存者を探し歩いてるようだ。」
23年前のホテルの大火災は、雪も子供の頃にテレビで見た記憶がある。燃え初めて数日火が消えず、松明のように何時までも燃え続けるホテルの映像を見た覚えがあるのだ。確かにあの火災には、奇跡的に無傷で助かった人間がいたような気がする。
「それと僕らが何か関係があるんですか?」
「分からんなぁ。何しろ生存者の名前すらハッキリしねぇからな。ああ、今度はそっち方面から調べてみるかな。」
そっち方面がなんなのかは疑問だが、新しい情報の糸が外崎には見えた様子だ。それにしても竜胆貴理子に関しては、どんどんと予想外の方向に進みつつある。彼女が何が狙いかは全く掴めないのに、ジリジリと周囲を探り回っている気配だけがするのは雪には不快で仕方がない。
※※※
「という話。」
電話口でかいつまんで外崎から聞いた情報を告げた瞬間、電話の相手は思わぬ反応を示した。電話口の向こうで信哉が、息を飲むのが分かる。そうして躊躇いがちに聞いてきたのは、こちらの予想外のポイントだった。
『…ホテル火災って23年前のやつか?雪。』
そんな戸惑いに満ちた幼馴染みの声は普段は聞いたことのないもので、雪は思わず眉を潜めた。あの女が信哉に会いたがっていた理由が、予想とは違う方面から繋がった気がする。てっきり竜胆貴理子は合気道か何かの方面から、鳥飼澪に会いたがっているのかと思ったのだ。何しろ信哉のペンネームは実母の名で、彼の母親の澪は合気道の書籍の幾つかに写真が残っている位の女傑。政治家の関係はないだろうが結びつけるには、そちらの方が容易そうだったのだ。
「だと思うけど、生存者に知り合いでも?」
思わず冗談めかして返してみたが、信哉の重苦しい雰囲気は一向に変わらない。やがて信哉は電話口にも聞こえる深い溜め息をついた。どうやら、信哉は信哉で少しこの質問に辿り着くの予期していた風だ。
『ああ、唯一の生存者を知ってる。お前も会ったことがあるよ、雪。武兄の事だ。』
想定外の名前に思わず唖然とする。五代武は信哉が幼い頃から兄のように付き合いのあった人間で、信哉の家によく遊びに来ているような人物だった。信哉が武兄と呼ぶ位の親密な関係で、信哉の母親が交通事故で亡くなった時に色々と信哉の手助けをしてくれた人でもある。
五代武は顔立ちはややきつい目元をした印象だが、何時も人懐っこい笑顔で子供好きするタイプの男だった。信哉を含めて3人揃って絡んで遊んでもらった事だってある。ただ、その五代武は数年前に事故で亡くなっているのだ。
『…そっちでは探してる理由は分かってるのか?』
「いや、こっちの調べてくれてる方では、武さんの事まで調べられてない。」
そうかと呟くような声が言う。まさか、そんな身近なところに生存者がいるなんてと思うと、外崎が口にした言葉が脳裏を過る。大きな事件ってのは案外身近でな…そう外崎は言ったが、確かにあまりにも身近過ぎて言葉を失ってしまう。しかも、自分の火事も調べているというが、それとホテル火災がどう関係するのか全く想像もつかないのだ。竜胆には竜胆なりの情報があって、何かしら関係が見いだせているのかもしれない。そう考えると昼間に感じた不快感は更ににじりよって来ているような気がした。
久々に直接出会った外崎宏太は少し疲れたような顔色で、『茶樹』のソファーにふんぞり返るようにして座る。何時ものカウンターの定位置でないのは酷く珍しい事だが、実は慣れた店内なら何処でも本当は問題がないらしい。しかも、今からする話はあまり楽しげな話でもないから、奥のソファーはやむを得ないのだろう。
「何だか近隣ちょこまかしてるから、ついでに調べてやろうとしたが可笑しなもんでなぁ。」
「おかしい?」
「おお、10年位前迄は簡単に調べがつくんだが、その先は煙のようにだな…。」
ヒラヒラと降られた手が白旗を模している。しかし、10年と聞いて雪は驚きに目を丸くして、その相手の顔を見つめた。確かに竜胆貴理子について調べて欲しいと頼んだのは自分だが、この短期間でどうするとそこまで調べられるのか。目の前の盲目の男の情報網には、雪も驚かされてばかりだ。以前麻希子に絡んだチンピラモドキを調べてもらった時も、知り合いだったとは言っていたが詳細すぎる情報に驚いた。今回の竜胆貴理子のことは、何か調べていた外崎の周囲に既に竜胆貴理子が耳に入っていたからのようではあるが10年まで遡れたと言うことなのだ。
竜胆貴理子がフリーライターとしてのペンネームの可能性はあるが、そうなると外崎が船舶事故の訴訟の時に竜胆という名前を聞く可能性はない。訴訟でその名前を告げたということは、公的に認められた名前の筈だ。それに船舶のプログラミングをするということは、それだけの知識を何処かで身につけた筈。それすらも見つからないとはどう言うことなのだろう。
「結婚とかで名前が変わったとかは?」
「雪、お前俺がそんなことくらい気がつかないボンクラだと思ってんのか?ん?」
思わず口にしたが、確かにそんなことくらい気がつかない外崎ではないのは明らかだ。素直にすみませんと言うと、彼は珍しく疲れの滲む溜め息を漏らす。
「疲れてますね。」
「ん?まぁなぁ、俺も人間だってことだな。」
掠れた声に眉を潜めると外崎は首を回すようにしながら、微かな苦い笑みを浮かべる。
「トラウマが戻ってきやがって、こっちの調べもんも煙に巻かれてるとこだ、全く難題だな。」
「戻って?」
外崎の言うトラウマは恐らく顔や体の怪我の事だ。仕事柄知っているが、外崎は怪我をおって数時間倒れた状態で放置されていた。目を見えず声も出せない状態で口から血を吐き出し必死に呼吸をしながら、同時に同じ空間に怪我をおわせた人間がいるかもしれない恐怖。相手が戻ってくれば確実に殺されるとわかっているのに、その場から身動きもできない恐怖に堪える。それは気の狂いかねない時間だっただろう。
「女に恨まれると身の破滅だぞ?雪。」
「女?」
怪我をおわせたのは男なのに、外崎はニヤリと人を食ったような笑顔を浮かべてそういう。外崎は女に恨まれたから、男に襲われたとでも言いたいのだろうか。だが、雪には竜胆に恨まれるようなことは何一つ思い浮かばない。
「元女房……ああ、あのバカもその口だったな。なぁクボ、あいつまだ生きてるか?」
不意に思い出したように乗り出してマスターに声をかける外崎に、マスターの久保田は白磁のティーポットの手入れをしながら穏やかに声を返す。
「最近話題になってるよ。彼も悲鳴をあげるくらいに元気らしい、トノも見習わないとね。」
「はっ悲鳴?リエに悲鳴をあげさせられたか?俺は悲鳴なんぞあげる喉じゃねえしなぁ。」
リエという人物は知らないし2人にしか分からない内容の会話だが、外崎がニヤニヤしているところを見れば自分にもわかる人間の話なのだろう。と考えた瞬間以前、外崎に身元を調べてもらった矢根尾とか言う男の事だと、雪も思い至る。元女房に恨まれてと言うのが外崎も同じと言うのは引っ掛かりはするが、少なくともまともな生活は送っていなさそうな矢根尾の様子だけは分かった。それにしても外崎のトラウマが戻ってきたというのが酷く気にかかる。
「外崎さん、あんまり危ない橋は渡らないで下さいよ?」
思わず雪がかけた言葉に、驚いたように外崎が真顔になって雪に顔を向けた。
「何だ、随分優しいな?俺を好きになっちゃったか?ん?」
「馬鹿ですか?友達の心配くらいしますよ。」
「おお、そうか、俺ぁいつの間にか友達になってたか?ん?」
まるっきり相変わらずの人を食ったような口調だが、何処かほんの少し喜んでいるようにも聞こえる。それに雪が気がつくと外崎は話を変えるように、顔を向け口を開く。
「調べてたらな、ちぃと気になることがあってな。ちなみに竜胆っつう女は今幾つくらいだ?」
「30代後半ですかね?」
「まあ、女は化粧で化けるからあれだが、俺が見たことのある竜胆とか言うねえちゃんも30後半位だったんだよなぁ。」
船舶訴訟の時に見たと言うのであれば、少なくとも8年前の事だ。とは言え女性の見た目は案外化粧の仕方一つで変わるから、それほど珍しい事とは思えない。しかし、外崎の気になることは別の事らしかった。
「お前の話だと政治家関係に強いって話だが、ねえちゃんがそれよりずっと食い付きのいいニュースがあるの知ってるか?」
雪は再び目を丸くして彼の顔を眺める。雪の知っている彼女の書いた記事は概ね政治家の汚職や利権絡みのもので、何をどう調べるとその結論に辿り着くのか分からないが外崎の情報には何か特有の傾向が見えるらしい。
「何ですか?食い付きのいい話って。」
少し迷うような気配を見せた外崎は、諦めたように口を開き先を続ける。
「1番は火事だ、しかも何人も死んでるような火事。」
一瞬その言葉に雪の表情が曇り、見えていない筈の外崎が眉を動かすのが分かった。そして、外崎が更に口にした言葉に、雪は言葉を失う。
「恐らくな、お前んちの火事も調べてるぞ、雪。」
唖然としている雪の気配を感じ取ったのか、頻繁に警察にも出入りして情報収集してるようだしなと呟く。予想外の言葉に言葉を失っている雪に、外崎は手探りでアイスコーヒーをとると苦笑い混じりに口を開いた。雪が唖然としているのは竜胆の事だけではないのだ。外崎がいつの間にか自分の両親の事件まで知っていることに、雪は面食らって呆然としている。
「わりぃな、知ってるとは思ってなかったんだろ?雪。」
「え、ええ、そうですね。正直驚きました。」
「色々とな耳にはいる立場だと、大きな事件ってのは案外身近でなぁ…。可笑しなもんだな。」
外崎は呟くように歴史に残るようなホテルの大火災から、数年前の放火が原因の家族が焼死する事件までを指を折って数える。全国的なものからここ近郊の火災まで含めてしまえば、人が死ぬような火事なんて実際は指折りでは足りない筈だ。
「だけど最も気にしてるのは、ありゃ20年以上も前だったかな?ホテルの大火災のようでな。何度も何度も調べ直して、生存者を探し歩いてるようだ。」
23年前のホテルの大火災は、雪も子供の頃にテレビで見た記憶がある。燃え初めて数日火が消えず、松明のように何時までも燃え続けるホテルの映像を見た覚えがあるのだ。確かにあの火災には、奇跡的に無傷で助かった人間がいたような気がする。
「それと僕らが何か関係があるんですか?」
「分からんなぁ。何しろ生存者の名前すらハッキリしねぇからな。ああ、今度はそっち方面から調べてみるかな。」
そっち方面がなんなのかは疑問だが、新しい情報の糸が外崎には見えた様子だ。それにしても竜胆貴理子に関しては、どんどんと予想外の方向に進みつつある。彼女が何が狙いかは全く掴めないのに、ジリジリと周囲を探り回っている気配だけがするのは雪には不快で仕方がない。
※※※
「という話。」
電話口でかいつまんで外崎から聞いた情報を告げた瞬間、電話の相手は思わぬ反応を示した。電話口の向こうで信哉が、息を飲むのが分かる。そうして躊躇いがちに聞いてきたのは、こちらの予想外のポイントだった。
『…ホテル火災って23年前のやつか?雪。』
そんな戸惑いに満ちた幼馴染みの声は普段は聞いたことのないもので、雪は思わず眉を潜めた。あの女が信哉に会いたがっていた理由が、予想とは違う方面から繋がった気がする。てっきり竜胆貴理子は合気道か何かの方面から、鳥飼澪に会いたがっているのかと思ったのだ。何しろ信哉のペンネームは実母の名で、彼の母親の澪は合気道の書籍の幾つかに写真が残っている位の女傑。政治家の関係はないだろうが結びつけるには、そちらの方が容易そうだったのだ。
「だと思うけど、生存者に知り合いでも?」
思わず冗談めかして返してみたが、信哉の重苦しい雰囲気は一向に変わらない。やがて信哉は電話口にも聞こえる深い溜め息をついた。どうやら、信哉は信哉で少しこの質問に辿り着くの予期していた風だ。
『ああ、唯一の生存者を知ってる。お前も会ったことがあるよ、雪。武兄の事だ。』
想定外の名前に思わず唖然とする。五代武は信哉が幼い頃から兄のように付き合いのあった人間で、信哉の家によく遊びに来ているような人物だった。信哉が武兄と呼ぶ位の親密な関係で、信哉の母親が交通事故で亡くなった時に色々と信哉の手助けをしてくれた人でもある。
五代武は顔立ちはややきつい目元をした印象だが、何時も人懐っこい笑顔で子供好きするタイプの男だった。信哉を含めて3人揃って絡んで遊んでもらった事だってある。ただ、その五代武は数年前に事故で亡くなっているのだ。
『…そっちでは探してる理由は分かってるのか?』
「いや、こっちの調べてくれてる方では、武さんの事まで調べられてない。」
そうかと呟くような声が言う。まさか、そんな身近なところに生存者がいるなんてと思うと、外崎が口にした言葉が脳裏を過る。大きな事件ってのは案外身近でな…そう外崎は言ったが、確かにあまりにも身近過ぎて言葉を失ってしまう。しかも、自分の火事も調べているというが、それとホテル火災がどう関係するのか全く想像もつかないのだ。竜胆には竜胆なりの情報があって、何かしら関係が見いだせているのかもしれない。そう考えると昼間に感じた不快感は更ににじりよって来ているような気がした。
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