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12月

222.サルビア セージ

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12月18日 土曜日
智美君みたいな知恵があるわけでもないし、何にせよ連絡をとらない事には始まらないって決意した私は鬱陶しいだろうなって理解しつつ電話をかけることにした。何回も何回もリダイアルしても一向にとる気配もないし、留守番電話にもならないけどそれでもかけ続けてみる。その執念はちょっと竜胆さんぽいなぁなんて思ったりもして、竜胆さんて色々一人で調べててちょっとだけ尊敬したりして。流石にこんなにかけ続けて、智美君は傍にスマホを置いてる訳じゃないのかと諦めかけた瞬間。不機嫌な声が電話の向こうから響いた。

『いい加減しつこい!』
「智美君?!」
『誰に向かってかけてるかも忘れて、こんなにかけるのか?』

すんごい不機嫌そうだけど、声は思ったより元気そう。私は少しホッとした声で、元気?って問いかける。智美君は少し黙りこんで、私の言葉に何て返そうか考えてるみたいだ。

『何かようか?』
「智美君が元気か知りたかったの。」
『元気だよ、声で分かるだろ?』

智美君の不機嫌な声だけど何処か困っているように聞こえて、私は元気なさそうに聞こえるよって素直に話しかける。その言葉に智美君は、また少しの間黙りこんだ。

『……クラスの皆変わりない?』
「皆元気ないよ、智美君の事が心配だから。」
『はぁ?』

智美君は意味が分からないと言いたげに疑問の声をあげた。多分智美君は本当に自分が心配されてるなんて思ってないんだなって、その声から私にも分かる。何でかな、学校の友達が智美君を心配するなんて思ってもないって感じなんだ。

「皆、智美君を心配してるよ、近藤君も若瀬君も。それにね、黒木君達も謝りたいって言ってる。」

また、暫くの無言。凄く不思議だけど智美君は頭がよくて色々な事を知ってるのに、こういう友達とか同級生っていう事に関しては何も知らないみたいな事がある。今更だけど知らないって思うと、色々と納得出来る事も幾つかあるんだ。

「智美君は頭が凄く良いのに、同級生とか友達になると何も知らないみたいだね。」
『…知らない……。』

智美君が何時になく困惑したみたいに、小さく呟くのが聞こえる。そうして智美君は囁くように、電話の向こうで独り言みたいに話し出す。

『僕にはそういうことを知る必要があるって、礼慈が言ったんだ。だから、僕は別に気にしないって言ったのに、礼慈が必死に高校に通わせようとした……。』

礼慈さんって夏休みに学校に来た人って問いかけると、智美君はそうって素直に呟く。礼慈さんって人が智美君が前に家の者って言った人なんだろうし、白檀の匂袋を作った人なんだろうなって何となく理解できる。智美君にとって礼慈さんは家族愛みたいなので繋がってるんだろうなって、智美君の声で何となく感じた。だって、智美君がこんな風に相手の事を話すのを、私は初めて聞いたから。

『アイツは生真面目過ぎるんだよ、僕の成長なんて対して役にもたたないのに。』
「役にたたなくないよ?だって、智美君が知らないことを沢山知って欲しいから、色々としてくれたんでしょ?優しい人なんだね。」
『麻希はそういうとこが礼慈に似てる。』
「そうなの?」

私の声に智美君が少し笑うのが聞こえる。あの黒髪の和服の人と私に似てるところがあるなんて、ちょっと信じられないけど智美君にはそう感じるんだなぁ。智美君は暫く黙ると、小さな声で私に問いかける。

『なぁ、麻希。今までで凄く後悔してることあるか?』

そう問いかけられて私の頭に浮かんだのは、雪ちゃんの顔だった。雪ちゃんとした大切な約束を忘れたと言った嘘つきな自分、それで凄く傷ついた雪ちゃんの作り笑い。

「うん、あるよ、出来ることなら戻って変えたいくらい後悔してる。」
『でも、戻れないし変えられないよな?』
「うん、変えれないよ。」

頭のいい智美君がこんな問いかけをするなんて、私には思いもよらないことだった。だって、後悔してても戻らないなんて、智美君には簡単に理解できそうなことだもの。でも、同時にその言葉に何故か昨日のセンセの言葉を思い出した。センセではなく土志田さんの顔で、時間が必要なんだって言ってた事。智美君が頭が幾らよくても、感情が追い付かないんじゃないかなって。それって、礼慈さんって人に何かあったってことなのかな。でも、そう問いかけたらいけないんだろうか。

「何か後悔してるの?智美君は。」

また無言。問いかけなくても答えは分かる。智美君は今凄く後悔してて、それが自分で上手く処理できないんだ。

『自分が………するべき事を…もっと的確に出来ていたら、……今みたいな事にならなかった筈なんだ……。』

聞いたことのない小さな智美君の声は震えているようで、同時に泣いているように聞こえる。

「礼慈さんに…何かあったの?」
『アイツは…僕が……巻き込まれたせいで、目が…見えなくなった…、僕が、喧嘩なんかで…あそこにいなければ……。』

智美君は電話の向こうで泣いていた。あの事件の時に怪我をした人はそんなにいないと思っていたけど、智美君を迎えに来た礼慈さんが巻き込まれたらしいっていうのは理解できる。何処まで近付いたかは分からないけど、智美君が生徒指導室にいるのは知ってたんだろう。足の悪い智美君をよく知っている礼慈さんはきっと、かなり近くまで行ったのかもしれない。爆弾のせいで目を怪我したのだとしたら、智美君がショックを受けるのは仕方がないと思う。だって、あの日に限って智美君は、喧嘩なんかで生徒指導室に残されたんだもの。智美君のせいじゃないなんて綺麗事を言っても、智美君が納得出来る筈がないのは分かってる。だって、その嫌な記憶が薄れることがない智美君だから、こうして苦しんでるんだって知ってるから。

「智美君、あのね、嫌な記憶だけドンドン貯めてくとダメになりそうになるんだって…。」
『嫌な…記憶?』
「うん、その人ね、悪い人を捕まえるために悪い人のことばかり沢山記憶したんだって。そうしたら、耐えられなくなってダメになりそうになったんだって。」

智美君は黙ったまま私の話を聞いている。雪ちゃんのお父さんが感じた辛い気持ちは、智美君が今感じてるのと少し似てる気がした。辛くて苦しくて後悔してて、でも、それだけじゃ智美君はおかしくなってしまう気がする。

「でも、幸せな記憶が一つ増えたら、少し楽になったんだって。だから、智美君は礼慈さんとこれから沢山幸せな記憶を作らないと…って。」
『幸せな…記憶。』
「礼慈さんが智美君に知って欲しかったことを、智美君が身につけたよって教えてあげたら。礼慈さんも幸せだよね?」

また暫くの無言の後で、微かに智美君が笑うのが聞こえた。うう、私の能天気な頭では上手く伝えられないから、頓珍漢な話になっちゃったかな。智美君が後悔してる姿を見せてたら、礼慈さんだって暗くなっちゃうよって言いたいんだけど。あ、そっちの方が伝わりやすかったかな?そうアタフタしてたら電話の向こうで智美君が呟いた。

『本当、麻希は礼慈に似てる。』







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