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1月
閑話59.源川仁聖
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目下自分は誰よりも大事な人と気持ちが通じて、尚且つ告白どころではなくプロポーズ迄済ませ学校には秘密だが同棲中。密かに胸元にはペンダントトップのふりで、マリッジリングを日々身に付けている。そんな訳で、一年前の自分のように浮き草みたいに流れてもいられないし、不特定多数の女の子相手にチャラチャラしてなんかいられない。何しろ永遠を誓った相手のために、早く一人前の男として自立しないとならない。
で、何で逆にこうなる?
正直以前より格段に呼び出しは増えるし、女子の強い色目が肌に刺さる。幼馴染みの宮内慶太郎や坂本真希に言わせると、前の軽薄で頼りない感じより今の方が彼氏としてポイントが高いとか。周囲の基準ってほんと訳がわからない。当人は何もかわりないつもりなのに、一人に一途愛を捧げている仁聖の方が女の子的には格好がいいものらしいのだ。
そんな状況で時々元住んでいた叔父のマンションの郵便ポストを確認に帰ると、溢れんばかりの手紙に遭遇してギョッとする。勿論普通の仁聖宛の郵便物は転送にしてあるが、叔父宛の郵便物を確認に行っているのに入っているのは住所も消印もない仁聖宛のラブレターなのだ。
That's crazy……なんなの、これ?
うんざりしながらスポーツバックにそれを突っ込んで、呆れた溜め息をついてしまう。勿論これらを無視して捨てるのもありだが、捨てるにしても今の仁聖としては恋心にも一応の理解はあるのだ。気持ちにカード程度の返事を返すくらいの優しさがないわけでもない。それにしても気持ちを伝えるだけなら兎も角、半分位が仁聖が本命が居てもいいから付き合って欲しいなのは流石にどうかなとは思う。そんなことを考えながら歩き出すと、視界の先にホワホワした呑気そうな後ろ姿が目に入った。
※※※
宮井麻希子の存在は正直なところ、大分前に友人の川端駿三に白の君が初めて友人を作ったと聞いた辺りで存在だけは知っていた。白の君って言うのは下の学年で有名な美少女のことで、うちの学年で言えば坂本真希みたいなものだが向こうの方は真希とは容姿は兎も角タイプが違う。坂本真希は一見すると見た目は大和撫子だが、性格は漢の一言で言い表す事が出来る。方や白の君は完全な大和撫子で、良家のお嬢様といった表現がよく似合う。まあ、気楽に恋愛のタイプだった仁聖にとっては全く関わりのない存在だが、ファンクラブの川端にしてみれば衝撃の出来事だったらしい。その白の君が高校で初めての友人にしたのが、宮井麻希子という少女だ。
身長は150センチ台、小柄で華奢。肩にかかる髪は少し栗色がかった黒、猫っ毛なのかフンワリしていて撫で心地は良さそうだ。でも何より印象的なのはその瞳だった。たまに目にすることはあったが、初めて真正面から顔を見たのは確か文化祭直前の事。全校集会か何かの後の事だったが、振り返った彼女と目があったのだ。振り返って真っ直ぐに自分を見たクリンとした黒い瞳。その大きい瞳は純粋そうで、小動物みたいだなと率直に思う。別段異性として興味があったわけでもないし、当時は既に今の一途な恋愛中の仁聖にしてみれば何となく目で追う程度のものだった。だけど、宮井麻希子という人間は、見ているうちに意外と興味をそそられる人間だったのだ。
他の女子と違って目があって仁聖が微笑みかけても、向こうは全く他の女子と反応が違う。キョトンとするか誰か他の人を見てるんですか?とでも言う顔をするのだ。そういう反応をする人間を見たことがなかったから、仁聖にとって彼女の反応は新鮮だった。男子と接触がなくて免疫がないのかと思えば、クラスメイトの男子と二人で仲良さそうに話していたりもする。女子同士でキャッキャしてる時だってあるが、時々人を見透かすような瞳をして見せるのだ。
そうして何度か何気なく話しかけてみたら、彼女は真っ直ぐに仁聖の顔を見ても全く怯みもしない。大概の女子は仁聖が普通に話しかけても、何故か必ず視線を反らす。何でか知らないが昔から、真正面から顔を見て話すのは坂本真希位なものなのだ。だから、仁聖の顔を怯まず真っ直ぐ見てくるなんて珍しい。同時に真ん丸な瞳で真っ直ぐ見てくる姿が、記憶の中で似てると思ったエゾモモンガと重なっておかしくなってしまう。
※※※
「よく会うなぁ、モモ。」
思わず背中にかけた声に宮井は驚いて飛び上がりながら、勢いよく振り返った。もうその反応が小動物過ぎて可笑しくて仕方がないが、それはこっちの言葉ですと顔に書いてあるみたいに出ている。宮井は素直すぎるのか顔を見ていれば大概の考えがわかるし、動きも反応も小動物で可愛い。それを教えたら真希まで宮井の反応が面白すぎて、今のお気に入りなのだ。
「モモの家ってここら辺なのか?」
「いえ、知り合いの家がこっちで、家から歩くとここら辺通るんです。」
「知り合いの家ってあの溺愛彼氏?」
そう、実はこんなちっちゃくて恋愛には疎そうにも見えて、宮井には年上の彼氏がいる。その彼氏は仁聖の恋人の仕事上の関係者だったりもするのだが、この小動物加減に頭を撫でていたら狼みたいに噛みつかれてしまった。しかも溺愛され過ぎて、当の宮井には自覚がないのが余計おかしい。あの溺愛彼氏もこれでは報われないだろうなと、仁聖は余計におかしくなってしまう。
「そんなに表に出てますか?」
仁聖の言葉に神妙に聞いてくる宮井に、あれだけ寄るな触るなのオーラを発していて全く気がつかれていないのじゃ彼氏さんには残念だろうなと思う。自分も同じようなものだが、愛される方にも自覚が薄いんじゃないだろうか。おかしくてつい自分が気がついたことを言うと、宮井は驚いたように目を丸くしている。
「まあ、俺もそんな気分になることあるから、モモの彼氏の気持ちがわかるのかもな。」
「そうなんですか?」
素直に納得した風でそう答える宮井に、これじゃあの彼氏も苦労するなと苦笑が浮かんでしまう。しかし、正月そうそうこんな風に家まで来るなんて、満更その愛情が通じていない訳でもなさそうだ。宮井は少しずつ愛情を理解する段階というところなんだろう、街中でキスはしていたが恐らくその先はまだまだというところと見える。そんなことを考えていたら何処に行くのかと問いかけられ、正直に恭平の家に戻るところと答えた。
「部活…じゃないですよね?」
仁聖がスポーツバックを肩にしていたから、部活から帰ってきたのかと思った風だ。とはいえ流石に3年は引退しているのにも気がついたのだろう。まさか、ラブレターとも言えず適当に中身を答える。
「ああ、これ?前の家に残ってた荷物はこんでんの。」
「あ、大学生になるから独り暮らしなんですか。」
凄い素直に自分の言葉を信じられて、何だか逆にモモ、お前純粋過ぎだけど大丈夫?と聞きたくなる。大学生になるから独り暮らしなら、3月近い引っ越しが多いし大体にしてこの程度の荷物を歩いて運ぶような引っ越しは如何なものか。大概の女子なら女の家に泊まる気なの?位は言いそうだ。宮井は自分に対するイメージが他の女子とは全く違うようで、そこも仁聖としては気に入っている理由の1つだ。宮井は自分がチャラチャラしてた辺りのイメージもちゃんとあるのに、それを今の自分に全く重ねないで今の自分だけを見て話す事の出来る人間なのだ。しかも、納得した大学生の話しで素直にもう合格してるんですねと来た。その通りだけどお前本当に純真だな、モモ。
「宮井って本当素直っていうか純真だよな。……そっか、それいいな、今度聞かれたらそう答える。」
え?ってことは今の私の返答は的はずれってことでしょうか?大学生が的はずれ?専門学校とか?っていうか宮井って言うんならモモを止めてください。と宮井の顔が正直に言っている。
「先輩って将来何になりたいんですか?」
「建築士。」
「ええ?!そうなんだ!」
何で今驚いたよ?と仁聖が笑うと、宮井はやっぱり至って素直に言う。
「なんか、絶対源川先輩って芸能人とかモデルとか華々しい職業を選びそうで。」
「はは、よく言われてる。でも、そういうの興味ないんだよな、顔なんて親の遺伝子だし。まあ、両親とも美形だったのは確かだけどな。」
自分で言いますかという顔で見上げる宮井は、少し神妙な顔をしてそうなると大学ですかと問いかけてくる。そう工学部ねと答えると工学部って……頭良さそうですねと呟く。来年は宮井も受験生だから少し考えることもあるんだろう。
※※※
「ちょっと!仁聖!」
3学期早々、受験を終えている自分と受験を断念した真希は、生徒会役員選挙やら何やらと毎日登校中だ。別段登校してまで何かするわけでもないので、ほぼ午前中で帰宅なのだが真希の方は受験断念を報告に言ったせいで教師達から追いかけ回されている。その話かと思ったのに内容は予期しないものだった。
「はぁ?!なんでモモに行った?!」
同じ学年で夏前に告白を断った保住結衣が、突然宮井を中庭に呼び出し難癖をつけていたというのだ。意味が分からずポカーンとすると、顔を近づけた真希が声を潜めてあんた噂になりすぎなのよと呟く。
「噂って恭平とのことだろ?なんでモモなんだよ?」
「馬鹿ね、あんた外でモモちゃんと会ったでしょ?」
何処でそんなのを見てるんだと呆れると、クリスマス辺りに映画館の前で2人っきりだったと噂がたったという。いや、あの時向こうはあの溺愛彼氏と一緒だったし、こっちはこっちでプロポーズ直後で指輪を買いに行っていたんだが。そう思うが噂は仁聖と2年の宮井が付き合ってるに変わったらしい。しかも、それを直に見たと保住が激怒しているとか。
It doesn't make sense.保住はどれだけ俺の行動範囲にいるわけ?
そういえば以前も夏にあの映画館で恭平と一緒の時に出会ったんだったと、仁聖の口から溜め息が溢れる。それにしても既に一度断られているのに、何故今更宮井に絡む必要があるのだろう。
「だって、真希だって見たろ?断ったの。」
「女はねぇ、恋心を抱いた相手に嫉妬する訳じゃないの。その相手の女に敵意をぶつけるもんなのよ?」
「ええ?!意味わかんない。」
「あんたが律儀に手紙ありがとう、でも好きな人がいるからごめんとカードを送れば送った分だけ、あんたの大切な人に敵意を持つもんなのよ。」
マジで?!そう言うと真希は、大概は行動には至らないけど、保住は行動するわねと言う。いやいや、本当に宮井が恋人なら兎も角、あっちはあっちで俺よりはるかに怖い溺愛彼氏がいるんだぞ?!あの彼氏絶対俺より強かに計画性が高いと思うから、虐めたなんてばれたら恐ろしい目に遭うのは保住のような気がする。とは言え、校内での虐めに溺愛彼氏の出番までいくにはかなり時間がかかるだろうし、言い掛かりで虐められるなんてあのプルプル震える瞳が目に浮かぶ。
「うーん、かといって付き合ってないって言ってもなぁ。」
「まあね、あんた本命がいるって断ってるしね。」
「なに2人で唸ってるんだ?」
「慶太郎、いいところに来たわ!可愛い後輩が誤解で虐められてるのよ!それを食い止める妙案を出して!」
考えてじゃないところが、真希だ。幼馴染みでこちらも推薦入学が決まっている宮内慶太郎が、詳細も聞かされないまま真希の言葉に首を捻る。
「可愛い後輩だと言えばいいだろ?可愛がってるから、虐めるなって。」
「馬鹿正直か、お前。」
宮井じゃあるまいし馬鹿正直にそう言って、どうやって虐めを食い止めろと言うんだよと言いたい仁聖に真希が流石と目を輝かせた。
「それよ!仁聖!」
「はぁ?!」
「可愛がってる子を虐めたら、俺は面白くないなって宣言すればいいのよ!モモちゃん虐めたら、俺は許さないからって。」
ええー?そんなんで保住に効くのかなぁと仁聖が正直思っていたのは、まあここだけの話だ。
そんな画策をした2日後、まさかこの話が本当になるとは思ってもいなかった。というよりまさか保住がそんなアホな実力行使をしているとは、ちっとも考えなかったのだ。
昇降口に入って教室棟に向けて歩き出した途端、視界の先に保住の取り巻き集団と手前に2年の白の君とモモ。保住達は意地悪い笑みを浮かべていて、その手前の白の君が何故か激怒している。
「いいよ、気にしなくて、早紀ちゃん!私大丈夫だよ!」
「大丈夫じゃないわ!」
白の君ってあんな怒りかたするんだなぁなんて感心してしまうが、引き留めようとしている宮井は小柄すぎて腕にぶら下がってるみたいで可愛い。
「なんの騒ぎ?モモ。」
「あーッ源川先輩、おはようございます。」
なんかもう大混乱って顔で白の君を引き留めながら、それでもキチンと挨拶をする宮井は偉い。まるで小動物を愛でるというより妹とかを愛でてる気分になるなぁ、しかし、随分と簡単に引き摺られてる。と何気なく考えながらその足元を見た瞬間、あ、と思考が止まった。
なんでモモ内履き履いてないで、白の君に引き摺られてるんだ?
そう考えた瞬間。
視界の理由に気がついて、仁聖は心底呆れ返ってしまう。
いやいや、保住、お前一回俺にお断りされてるよね?何でしかも、俺のお気に入りのモモをいたぶって遊んでるわけ?しかも、この様子ではモモの方が充分状況を理解してて、おさめようと大人の対応だよ?
思わず白の君と宮井の頭をポンポンと撫でて引き留めると、悪かったなと低く大人っぽい柔らかい声で呟く。そして何でか顔を付き合わせてキャイキャイしている保住に向かって、真っ直ぐに足を向けた。
俺のお気に入りってのを強調しとけって言われたっけ。
保住はあんまり人の話を聞かないタイプだから、ここは一先ず退路を立ってこっちに集中させるしかない。ニッコリ愛想よく微笑みかけながら、頭の上に腕をついて腰を屈める。最近はこんな風にモーションかけてないから、どこまで効果的なんだかは微妙。でも、少なくとも保住はボーッと俺の顔を見上げて頬を染めたから、こっちの話は聞こえてそうだ。爽やかな微笑みに少しだけ悲しそうに視線を低くして、保住の顔を覗きこみ詰問にならないように囁く。
「俺ね?俺が可愛がってる子とかものとか、大事にしてくれない子は好みじゃないな、分かる?ね?結衣。」
暗にモモは俺のお気に入りなんだよ?大事にしない奴は嫌いなんだと言ってやると、案外素直に保住が目を丸くしてから頬を染めて視線を伏せた。
これって聞いてんのかなぁ?聞いてないのかなぁ?
分かんないんだよね、本当のところはさと心で呟く。以前はまあ恋愛ごっこだったからか適当に流してたんだけど、こんなんでよく俺って女の子と上手く付き合えてたよなって今は思う。相手がどう考えてるかなんてどうでもよくて、話してたから本気で聞いてくれてるかなんて考えもしなかった。とは言え今回は仁聖のせいで、関係のない宮井がまた虐められるのは嫌だし仕方がないから、もう少しだけ顔を覗きこむようにして微笑みかけてみる。
「ね?結衣、分かった?約束できる?大事にするって。」
真っ赤になって激しく頷く保住に、ならいいかと仁聖は手を離す。辺りの女の子達まで真っ赤になっているのには、あれ?俺の説得そんなに怖かった?って思うけど。それにしても背後の宮井の表情がなんてこったと言っているのは、正直仁聖にも何でなんだかよく分からない部分ではあった。
で、何で逆にこうなる?
正直以前より格段に呼び出しは増えるし、女子の強い色目が肌に刺さる。幼馴染みの宮内慶太郎や坂本真希に言わせると、前の軽薄で頼りない感じより今の方が彼氏としてポイントが高いとか。周囲の基準ってほんと訳がわからない。当人は何もかわりないつもりなのに、一人に一途愛を捧げている仁聖の方が女の子的には格好がいいものらしいのだ。
そんな状況で時々元住んでいた叔父のマンションの郵便ポストを確認に帰ると、溢れんばかりの手紙に遭遇してギョッとする。勿論普通の仁聖宛の郵便物は転送にしてあるが、叔父宛の郵便物を確認に行っているのに入っているのは住所も消印もない仁聖宛のラブレターなのだ。
That's crazy……なんなの、これ?
うんざりしながらスポーツバックにそれを突っ込んで、呆れた溜め息をついてしまう。勿論これらを無視して捨てるのもありだが、捨てるにしても今の仁聖としては恋心にも一応の理解はあるのだ。気持ちにカード程度の返事を返すくらいの優しさがないわけでもない。それにしても気持ちを伝えるだけなら兎も角、半分位が仁聖が本命が居てもいいから付き合って欲しいなのは流石にどうかなとは思う。そんなことを考えながら歩き出すと、視界の先にホワホワした呑気そうな後ろ姿が目に入った。
※※※
宮井麻希子の存在は正直なところ、大分前に友人の川端駿三に白の君が初めて友人を作ったと聞いた辺りで存在だけは知っていた。白の君って言うのは下の学年で有名な美少女のことで、うちの学年で言えば坂本真希みたいなものだが向こうの方は真希とは容姿は兎も角タイプが違う。坂本真希は一見すると見た目は大和撫子だが、性格は漢の一言で言い表す事が出来る。方や白の君は完全な大和撫子で、良家のお嬢様といった表現がよく似合う。まあ、気楽に恋愛のタイプだった仁聖にとっては全く関わりのない存在だが、ファンクラブの川端にしてみれば衝撃の出来事だったらしい。その白の君が高校で初めての友人にしたのが、宮井麻希子という少女だ。
身長は150センチ台、小柄で華奢。肩にかかる髪は少し栗色がかった黒、猫っ毛なのかフンワリしていて撫で心地は良さそうだ。でも何より印象的なのはその瞳だった。たまに目にすることはあったが、初めて真正面から顔を見たのは確か文化祭直前の事。全校集会か何かの後の事だったが、振り返った彼女と目があったのだ。振り返って真っ直ぐに自分を見たクリンとした黒い瞳。その大きい瞳は純粋そうで、小動物みたいだなと率直に思う。別段異性として興味があったわけでもないし、当時は既に今の一途な恋愛中の仁聖にしてみれば何となく目で追う程度のものだった。だけど、宮井麻希子という人間は、見ているうちに意外と興味をそそられる人間だったのだ。
他の女子と違って目があって仁聖が微笑みかけても、向こうは全く他の女子と反応が違う。キョトンとするか誰か他の人を見てるんですか?とでも言う顔をするのだ。そういう反応をする人間を見たことがなかったから、仁聖にとって彼女の反応は新鮮だった。男子と接触がなくて免疫がないのかと思えば、クラスメイトの男子と二人で仲良さそうに話していたりもする。女子同士でキャッキャしてる時だってあるが、時々人を見透かすような瞳をして見せるのだ。
そうして何度か何気なく話しかけてみたら、彼女は真っ直ぐに仁聖の顔を見ても全く怯みもしない。大概の女子は仁聖が普通に話しかけても、何故か必ず視線を反らす。何でか知らないが昔から、真正面から顔を見て話すのは坂本真希位なものなのだ。だから、仁聖の顔を怯まず真っ直ぐ見てくるなんて珍しい。同時に真ん丸な瞳で真っ直ぐ見てくる姿が、記憶の中で似てると思ったエゾモモンガと重なっておかしくなってしまう。
※※※
「よく会うなぁ、モモ。」
思わず背中にかけた声に宮井は驚いて飛び上がりながら、勢いよく振り返った。もうその反応が小動物過ぎて可笑しくて仕方がないが、それはこっちの言葉ですと顔に書いてあるみたいに出ている。宮井は素直すぎるのか顔を見ていれば大概の考えがわかるし、動きも反応も小動物で可愛い。それを教えたら真希まで宮井の反応が面白すぎて、今のお気に入りなのだ。
「モモの家ってここら辺なのか?」
「いえ、知り合いの家がこっちで、家から歩くとここら辺通るんです。」
「知り合いの家ってあの溺愛彼氏?」
そう、実はこんなちっちゃくて恋愛には疎そうにも見えて、宮井には年上の彼氏がいる。その彼氏は仁聖の恋人の仕事上の関係者だったりもするのだが、この小動物加減に頭を撫でていたら狼みたいに噛みつかれてしまった。しかも溺愛され過ぎて、当の宮井には自覚がないのが余計おかしい。あの溺愛彼氏もこれでは報われないだろうなと、仁聖は余計におかしくなってしまう。
「そんなに表に出てますか?」
仁聖の言葉に神妙に聞いてくる宮井に、あれだけ寄るな触るなのオーラを発していて全く気がつかれていないのじゃ彼氏さんには残念だろうなと思う。自分も同じようなものだが、愛される方にも自覚が薄いんじゃないだろうか。おかしくてつい自分が気がついたことを言うと、宮井は驚いたように目を丸くしている。
「まあ、俺もそんな気分になることあるから、モモの彼氏の気持ちがわかるのかもな。」
「そうなんですか?」
素直に納得した風でそう答える宮井に、これじゃあの彼氏も苦労するなと苦笑が浮かんでしまう。しかし、正月そうそうこんな風に家まで来るなんて、満更その愛情が通じていない訳でもなさそうだ。宮井は少しずつ愛情を理解する段階というところなんだろう、街中でキスはしていたが恐らくその先はまだまだというところと見える。そんなことを考えていたら何処に行くのかと問いかけられ、正直に恭平の家に戻るところと答えた。
「部活…じゃないですよね?」
仁聖がスポーツバックを肩にしていたから、部活から帰ってきたのかと思った風だ。とはいえ流石に3年は引退しているのにも気がついたのだろう。まさか、ラブレターとも言えず適当に中身を答える。
「ああ、これ?前の家に残ってた荷物はこんでんの。」
「あ、大学生になるから独り暮らしなんですか。」
凄い素直に自分の言葉を信じられて、何だか逆にモモ、お前純粋過ぎだけど大丈夫?と聞きたくなる。大学生になるから独り暮らしなら、3月近い引っ越しが多いし大体にしてこの程度の荷物を歩いて運ぶような引っ越しは如何なものか。大概の女子なら女の家に泊まる気なの?位は言いそうだ。宮井は自分に対するイメージが他の女子とは全く違うようで、そこも仁聖としては気に入っている理由の1つだ。宮井は自分がチャラチャラしてた辺りのイメージもちゃんとあるのに、それを今の自分に全く重ねないで今の自分だけを見て話す事の出来る人間なのだ。しかも、納得した大学生の話しで素直にもう合格してるんですねと来た。その通りだけどお前本当に純真だな、モモ。
「宮井って本当素直っていうか純真だよな。……そっか、それいいな、今度聞かれたらそう答える。」
え?ってことは今の私の返答は的はずれってことでしょうか?大学生が的はずれ?専門学校とか?っていうか宮井って言うんならモモを止めてください。と宮井の顔が正直に言っている。
「先輩って将来何になりたいんですか?」
「建築士。」
「ええ?!そうなんだ!」
何で今驚いたよ?と仁聖が笑うと、宮井はやっぱり至って素直に言う。
「なんか、絶対源川先輩って芸能人とかモデルとか華々しい職業を選びそうで。」
「はは、よく言われてる。でも、そういうの興味ないんだよな、顔なんて親の遺伝子だし。まあ、両親とも美形だったのは確かだけどな。」
自分で言いますかという顔で見上げる宮井は、少し神妙な顔をしてそうなると大学ですかと問いかけてくる。そう工学部ねと答えると工学部って……頭良さそうですねと呟く。来年は宮井も受験生だから少し考えることもあるんだろう。
※※※
「ちょっと!仁聖!」
3学期早々、受験を終えている自分と受験を断念した真希は、生徒会役員選挙やら何やらと毎日登校中だ。別段登校してまで何かするわけでもないので、ほぼ午前中で帰宅なのだが真希の方は受験断念を報告に言ったせいで教師達から追いかけ回されている。その話かと思ったのに内容は予期しないものだった。
「はぁ?!なんでモモに行った?!」
同じ学年で夏前に告白を断った保住結衣が、突然宮井を中庭に呼び出し難癖をつけていたというのだ。意味が分からずポカーンとすると、顔を近づけた真希が声を潜めてあんた噂になりすぎなのよと呟く。
「噂って恭平とのことだろ?なんでモモなんだよ?」
「馬鹿ね、あんた外でモモちゃんと会ったでしょ?」
何処でそんなのを見てるんだと呆れると、クリスマス辺りに映画館の前で2人っきりだったと噂がたったという。いや、あの時向こうはあの溺愛彼氏と一緒だったし、こっちはこっちでプロポーズ直後で指輪を買いに行っていたんだが。そう思うが噂は仁聖と2年の宮井が付き合ってるに変わったらしい。しかも、それを直に見たと保住が激怒しているとか。
It doesn't make sense.保住はどれだけ俺の行動範囲にいるわけ?
そういえば以前も夏にあの映画館で恭平と一緒の時に出会ったんだったと、仁聖の口から溜め息が溢れる。それにしても既に一度断られているのに、何故今更宮井に絡む必要があるのだろう。
「だって、真希だって見たろ?断ったの。」
「女はねぇ、恋心を抱いた相手に嫉妬する訳じゃないの。その相手の女に敵意をぶつけるもんなのよ?」
「ええ?!意味わかんない。」
「あんたが律儀に手紙ありがとう、でも好きな人がいるからごめんとカードを送れば送った分だけ、あんたの大切な人に敵意を持つもんなのよ。」
マジで?!そう言うと真希は、大概は行動には至らないけど、保住は行動するわねと言う。いやいや、本当に宮井が恋人なら兎も角、あっちはあっちで俺よりはるかに怖い溺愛彼氏がいるんだぞ?!あの彼氏絶対俺より強かに計画性が高いと思うから、虐めたなんてばれたら恐ろしい目に遭うのは保住のような気がする。とは言え、校内での虐めに溺愛彼氏の出番までいくにはかなり時間がかかるだろうし、言い掛かりで虐められるなんてあのプルプル震える瞳が目に浮かぶ。
「うーん、かといって付き合ってないって言ってもなぁ。」
「まあね、あんた本命がいるって断ってるしね。」
「なに2人で唸ってるんだ?」
「慶太郎、いいところに来たわ!可愛い後輩が誤解で虐められてるのよ!それを食い止める妙案を出して!」
考えてじゃないところが、真希だ。幼馴染みでこちらも推薦入学が決まっている宮内慶太郎が、詳細も聞かされないまま真希の言葉に首を捻る。
「可愛い後輩だと言えばいいだろ?可愛がってるから、虐めるなって。」
「馬鹿正直か、お前。」
宮井じゃあるまいし馬鹿正直にそう言って、どうやって虐めを食い止めろと言うんだよと言いたい仁聖に真希が流石と目を輝かせた。
「それよ!仁聖!」
「はぁ?!」
「可愛がってる子を虐めたら、俺は面白くないなって宣言すればいいのよ!モモちゃん虐めたら、俺は許さないからって。」
ええー?そんなんで保住に効くのかなぁと仁聖が正直思っていたのは、まあここだけの話だ。
そんな画策をした2日後、まさかこの話が本当になるとは思ってもいなかった。というよりまさか保住がそんなアホな実力行使をしているとは、ちっとも考えなかったのだ。
昇降口に入って教室棟に向けて歩き出した途端、視界の先に保住の取り巻き集団と手前に2年の白の君とモモ。保住達は意地悪い笑みを浮かべていて、その手前の白の君が何故か激怒している。
「いいよ、気にしなくて、早紀ちゃん!私大丈夫だよ!」
「大丈夫じゃないわ!」
白の君ってあんな怒りかたするんだなぁなんて感心してしまうが、引き留めようとしている宮井は小柄すぎて腕にぶら下がってるみたいで可愛い。
「なんの騒ぎ?モモ。」
「あーッ源川先輩、おはようございます。」
なんかもう大混乱って顔で白の君を引き留めながら、それでもキチンと挨拶をする宮井は偉い。まるで小動物を愛でるというより妹とかを愛でてる気分になるなぁ、しかし、随分と簡単に引き摺られてる。と何気なく考えながらその足元を見た瞬間、あ、と思考が止まった。
なんでモモ内履き履いてないで、白の君に引き摺られてるんだ?
そう考えた瞬間。
視界の理由に気がついて、仁聖は心底呆れ返ってしまう。
いやいや、保住、お前一回俺にお断りされてるよね?何でしかも、俺のお気に入りのモモをいたぶって遊んでるわけ?しかも、この様子ではモモの方が充分状況を理解してて、おさめようと大人の対応だよ?
思わず白の君と宮井の頭をポンポンと撫でて引き留めると、悪かったなと低く大人っぽい柔らかい声で呟く。そして何でか顔を付き合わせてキャイキャイしている保住に向かって、真っ直ぐに足を向けた。
俺のお気に入りってのを強調しとけって言われたっけ。
保住はあんまり人の話を聞かないタイプだから、ここは一先ず退路を立ってこっちに集中させるしかない。ニッコリ愛想よく微笑みかけながら、頭の上に腕をついて腰を屈める。最近はこんな風にモーションかけてないから、どこまで効果的なんだかは微妙。でも、少なくとも保住はボーッと俺の顔を見上げて頬を染めたから、こっちの話は聞こえてそうだ。爽やかな微笑みに少しだけ悲しそうに視線を低くして、保住の顔を覗きこみ詰問にならないように囁く。
「俺ね?俺が可愛がってる子とかものとか、大事にしてくれない子は好みじゃないな、分かる?ね?結衣。」
暗にモモは俺のお気に入りなんだよ?大事にしない奴は嫌いなんだと言ってやると、案外素直に保住が目を丸くしてから頬を染めて視線を伏せた。
これって聞いてんのかなぁ?聞いてないのかなぁ?
分かんないんだよね、本当のところはさと心で呟く。以前はまあ恋愛ごっこだったからか適当に流してたんだけど、こんなんでよく俺って女の子と上手く付き合えてたよなって今は思う。相手がどう考えてるかなんてどうでもよくて、話してたから本気で聞いてくれてるかなんて考えもしなかった。とは言え今回は仁聖のせいで、関係のない宮井がまた虐められるのは嫌だし仕方がないから、もう少しだけ顔を覗きこむようにして微笑みかけてみる。
「ね?結衣、分かった?約束できる?大事にするって。」
真っ赤になって激しく頷く保住に、ならいいかと仁聖は手を離す。辺りの女の子達まで真っ赤になっているのには、あれ?俺の説得そんなに怖かった?って思うけど。それにしても背後の宮井の表情がなんてこったと言っているのは、正直仁聖にも何でなんだかよく分からない部分ではあった。
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この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
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全3章、1日1章更新、完結済
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