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4月

349.コデマリ

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4月24日 月曜日
五十嵐君は初めて今朝は学校に姿を見せてなかった。これがお仕事のせいなのか体調不良なのかはまだハッキリしない。朝練のセンセの顔はまだ所々絆創膏だけど、センセは元々体育の先生だし柔道部の顧問だし。あの時の騒ぎは知っていても詳細を知っているのは私達と五十嵐君なので、それほど騒ぎにはなっていないのかなと思っていたら……そうでもなかった……登校した早々に久保ちゃんが不機嫌極まりない顔で私や早紀ちゃん・香苗に話しかけてくる。

「五十嵐、今日来ないね。先生にちゃんと謝ったのかな?」

何で知ってるのって言ったら何人かヤッパリ見てたらしくて、五十嵐君のファンがした事を見て相当驚いたらしい。しかもその時の五十嵐君の態度も見ていたわけで。うーん、何か宜しくない方向だなぁこれ。しかも普段なら優雅でおしとやかな早紀ちゃんが、あまり静止する様子がない。上品に微笑んでいるけど全く久保ちゃんと香苗の会話を、諌めるつもりがないみたいなの。あ、これってもしかして実は早紀ちゃんも結構腹をたてているってことなのかも……。でも、うーん、このままの雰囲気じゃ本気で宜しくないなぁ。

「麻希子はほんとお人好しだな。」

智美君が私の顔を見てそんな風に溜め息をつく。だって、こんな雰囲気よくないでしょ?五十嵐君だって悪いことしたんならキチンと謝るべきだし、このままフェードアウトはよくないことだよね。でもこんな雰囲気の中に来るのって、しんどいよ?しんどいの我慢するのってもっとしんどいよ?

「……麻希子って、心底天然だよね、自分が一番巻き込まれてんのに。」
「でも、実際話しかけられるだけで、五十嵐君が本当はどんな人かよくわかってないし。」
「宮井ちゃん…マジ天使。」

皆から目茶苦茶頭を撫でられているんだけども、ちょっと止めてーっ!朝から髪がぐちゃぐちゃになるし背が縮みそうなんだけど!何で皆で頭撫で回してるのーっ!アウアウしてたらセンセが呆れたように仲良いなぁお前らと背後から呟く。

「あ、センセ、五十嵐君って体調不良?」
「遅刻だ。三限からくる。」

あ、そうなんだ。と言うことはお仕事で遅刻ってことなんだと分かったので、こうなったらと休憩時間にお弁当に引き込む事を提案してみる。ところがこれに関しては何でか難色を示す人ばっかり。なら、私だけでもと言ったら余計に却下されたの……。もーどうしろと言うんだっ、香苗も智美君も一緒になって。

「弁当が減るのは困る。」
「先生に謝ってないなら、絶対やだ!」

香苗って普段は悌さんって呼ぶ癖に・そんな恨めしげな視線で見上げても、香苗ってばツーンって顔するし。智美君だってお弁当の量が減るのがやだってだけじゃん!

「なら、先生に謝ってもらうのを優先してお弁当にしたら?ね?麻希ちゃん。」

流石早紀ちゃん!巨大お弁当は早紀ちゃんのだしセンセに謝るの優先で早紀ちゃんに押されたのと、あんまりごねると今日のバナナパウンドはあげませんって脅迫したのが効いた!
そんな訳で三限から登校した五十嵐君を、私は颯爽とお昼休み開始早々に確保しました。普段私から話しかけて捕まえることがないから、五十嵐君は驚いたみたいに目を丸くして大人しく手を引かれるまま私についてくる。

「み、宮井さん?何処に連れていく気?」
「うん、まず大事な事済まそ!」

有無を言わさず五十嵐君を私が連れ込んだのは言うまでもなく、センセが主の生徒指導室。センセは書類仕事をしながら引っ張り込まれた五十嵐君と私を見上げて、何だ?と呆れ顔で声をあげた。センセの顔に貼られた絆創膏に、五十嵐君が困ったように視線を反らすのが分かる。

「何だ、宮井。五十嵐。」
「センセ、火傷の調子どう?」

たいしたことないと呑気に言うセンセに五十嵐君はまだそっぽを向いたままで、私はムウッと言う顔で彼の顔を見上げた。

「五十嵐君がやったことじゃないけど、五十嵐君もあの女の人達を焚き付けたでしょ?ちゃんと謝った方がいいよ。」
「俺は別に……。」
「焚き付けてたよ、だって五十嵐君センセを困らせてやるって顔したもの。」

あの時ファンの女の子の背後に回った彼の顔を私は見てたから、それは正直よくないことだって思う。それにファンの女の子をセンセの前にして自分が後ろに回ったのも、私はよくないことだと思うんだよね。あれってファンの女の子をわざとセンセに向かって進ませたみたいに見えたんだよ?センセは相手が女性だし、生徒にだって手をあげないんだから抵抗しないって知っててやったよね。そう私が言うと五十嵐君は、私の言葉に驚いたみたいに黙りこんだ。

「間違ってる?間違ってたら私も謝るよ。」
「宮井、別に謝らなくてもいい。」
「センセは良くても、よくないよ。」

ムウッて顔で私がセンセに反論すると、五十嵐君は暫く俯いていたけど、初めてセンセの顔を真っ正面から見上げた。センセはケロッとしてて気にもかけてないって顔だけど、ヤッパリこのまま謝らないで学校に来てたらクラスの子達やセンセの事が好きな子達の印象はかなり悪いと思うんだよ。勿論ナアナアがいいわけじゃなくて、ちゃんと悪い事は悪いって認めて謝らないと。センセが目が見えなくなってたりしたら、こんなんじゃすまなかったんだって思うと尚更だ。

「……彼女らを調子に乗らせるような事だと分かってて、言いました。すみませんでした。」

五十嵐君はそう素直に言うと頭を下げた。センセは少し驚いた風だったけど溜め息混じりに、分かった・今後は校内での行動には注意するようにとだけ言う。私はその様子に安堵したように五十嵐君に向かって笑いかけると、今度は何とか友情が育めるよう中庭に向かって彼の腕を引っ張り始めていた。
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