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4月

352.シャガ

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4月27日 木曜日
今日も穏やかなまま終わるかなと願っていたんだけど、運命は反抗することが好きらしい。とはいえ五十嵐君のことではなくて、今日は部活動の最中の話。クラスの中とは違って三学年入り乱れているわけで、まだ今月一杯は仮入部なものだから新入生や今まで他の部活にいた子達が見に来るんだよね。実はうちの学校って三年間絶対に同じ部活とは決まっていない。勿論運動部で変わるって言うと、チームだったりする競技はレギュラーになれない可能性は高いんだけど。でも個人競技で競技大会に出なくてもやりたいってのは自由なわけなんだよね、三年になってから水泳とかテニスに入る子もいるし、今までは運動部だったけど三年はレギュラーでもないから文化部に入りたいって子もいるんだ。受験目的で部活をしないって子もいるみたいだけど、そう言うのも内申点にかかわるから論文部に入るって子も多いみたい。勿論それは特例で大概は私みたいに三年間、同じ部活にいるのが普通だよ?でも、転部は個人の自由なわけ。そんな私も何でか茶道部と家庭部の子達に散々勧誘されてたりする。家庭部はなんとなく分からないでもないけど、何故か去年のレシピの件のせいか茶道部からの勧誘が激しい。
そんなわけで今日も美術部を覗きに来た子の対応で、須藤部長は忙しそうに今も走り回っている。本当に美術をやりたいならいいけど、智美君狙いは却下されますよー。それに美術部なのに、最初はキャンバス張りからですからねー。そんな私の横では智美君が当然のように、鉛筆一本で写真のようなシマエナガを描き続けている訳で。

「他の題材ないの?智美君。」
「だって可愛いだろ?シマエナガ。なんならエゾモモンガ描くか?」

もう絶対嫌味で描いてる、私に対する嫌がらせだ。しかも智美君てばカメラアイ・フル活用の超絶技巧だから、余計腹立つ。流石に部活なんだから一回は静物のデッサンもしてよっていったら、目の前のものをほんの五分で描き上げられてシマエナガに戻られた。だって他の人と違って智美君はほんの一目で観察終わりだから、後は黙々とキャンバスに描くだけなんだもん!早いに決まってるし!!普通の人は何度も何度も対象を見て、形や質感を捉えないと描けないんだし!!しかも、他の子達がよくあるパースとりに荒い線で形をとったりすることも、智美君は不要なんだもん。突然静物の何処からでも描きはじめられて、しかも全然形は歪まない。聞いたら智美君の頭の中では、画像をキャンバスとかスケッチブックの上に転写してあって上から線をなぞってるみたいな感じらしい。なんかそれって凄く羨ましい……。そう言えばこの間顧問の矢吹先生が久々に姿を見せて、智美君の素描を絶賛して帰ったんですが。

「だから何?!」

え?と思わず振り返ると香苗が怒りに顔色を変えているのが見えた。目の前には一年生の男の子と女の子、香苗の背後には柴犬のような如月亨君が困惑顔で立っている。

「え、だから……。」
「だから何?!美術に取り組むのに、そんなの障害でもなんでもないでしょ。私にそんなこと話した意味はなんなの?」

香苗のが完全に怒っているのに私は驚いて立ち上がると如月君を気遣うように背にして、香苗の肩を叩く。

「香苗、どうしたの?落ち着きなよ。」
「くだらない噂話が好きみたいだけど、そう言うのが楽しいと思ってるなら大間違いなんだからね。いつか大人になって痛い目にあうんだから、今から少しは考えて話なさいよ。」

どうやら一年生の子達が如月君の事で噂話をしてたみたい。どの学年も頭のいい子って先ずはこういう目に遭うのかなぁ?ね?って如月君をナデナデして、香苗に一息つかせる。イーゼルの前にドッカリ座った香苗に、如月君は耳の垂れた子犬になっていて少し可愛い。

「如月君が気にすることないよ、噂話なんでしょ?」
「全くどいつもこいつも噂話をされる方の身になれっての。」
「香苗は身に染みてるから、自分の理由でおこってるだけだ。気にするな、如月。」
「でも、本当のことだし。」

あ、噂話とはいえ本当の事を話されてたんだ?って私が呑気に言うと、如月君は僕妾の子だから昔からよく言われるんですと呟いた。どうやら妾の子で金を出して貰って学校に通ってると昔からよく苛められていたらしい如月君は、最近実のお父さんが公職選挙法の違反とかで逮捕されたんだって。あ、なんかニュースを見たような見ないような。でも、如月君のお母さんはこれを期にお父さんと縁を切って、母子家庭の生活を建て直したんだって。

「……偉いじゃないか、それで何でお前が謝る?」
「偉い?」
「お母さん偉いね、如月君との生活を一番にしてくれてるんでしょ?凄いね!」

私と智美君の言葉に如月君は目を丸くして、ポカーンとしている。だって、お妾さんってのも大変だったろうけどさ、母子家庭の生活をキチンと建て直したんだってことはそれだけお母さんが頑張ったってことでしょ?それを馬鹿にされる事なんてないし、それで謝らなきゃならないことはないよね。友人が多い訳ではなさそうだけど、ちゃんとそういうことを理解してくれる同級生もいる筈だよって話す。そうしたら何故か如月君は、柴犬のようなウルウルした瞳で私達を見つめていた。
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