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二度目の6月

402.ルリハコベ

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6月14日 水曜日
追想に耽っているわけではないんだけど、どうしたらお迎えは終了になるのかなぁ。三浦さんがもう来ないっていうのは証明しようがないし、邪魔しなきゃいいならいいんじゃないかって考えてるのは私だけみたいだし。そこのところはヤッパリ難しい、少なくとも雪ちゃんが時短勤務している間は続くような気もする。まあ、あと一月っていうと夏休みになるし、夏休みは講習はあるけど大概日中の話だしね。
そんなわけで今日も、お迎えが当然の事のように雪ちゃんが学校にやって来てる。見たら既にLINEに園庭にいるからと入っていて私は慌ててスクールバックを肩に、皆から一足先に帰途につく。帰りにお茶する時とか部活はどうするのかって?お昼までにLINEでその旨連絡しています、じゃないとずっと園庭とかで雪ちゃんに待たれそう。そうなったらその後がただじゃすまないと思うのは何故?
しかも今日はかなり間の悪いことに昇降口を出た途端に、五十嵐君に背後から駆け寄られて捕まってしまった。最近ではだいぶクラスに馴染んで変化してきた五十嵐君なんだけど、相変わらずこういうところは変わらない。ある意味なつかれている感っていうのは私としてもなくはないけど、今は絶対タイミング悪~い!!

「宮井さん、一緒に帰ろ?」
「あ、私お迎え来てるんで!」
「お迎え?小学生じゃあるまいし、そんな……。」

園庭に向かって逃げるように早足で動きながら答えた私に全く平然とついてきてしまう。うえーん、足の長さのせいもあって、全然引き離せなかったよぉ。笑顔でそう言った五十嵐君の目の前には、はい当然の雪ちゃんが既に冷え冷えとした顔で立ってます。それに園庭の植え込みのポットに眺めてた雪ちゃんの姿に、五十嵐君は野性動物が毛を逆立てたみたいな変わり身の早さ。流石野生のアライグマ、臨戦態勢が早い!じゃなくて。並ぶと背の高い雪ちゃんと十センチくらい低い五十嵐君、そしてゆきちゃんより三十センチも小さい私。本気であと五センチ伸びないかなぁ……

「君は、なに君だったかな?」
「五十嵐です。五十嵐海翔。」
「ああ、ドラマに出てるらしいね?」

見たことないけどサラッと満面の大人の微笑みで雪ちゃんが言う。絶対雪ちゃん、この間私が説明してあげたの記憶にあるのに聞いてる!絶対嫌み言うために聞いてる!ひえぇブラック雪ちゃんが降臨!と、止めるのどうしたらいいんだろうと私は正直困ってるんだけど。臨戦態勢の五十嵐君が身構えながら口を開く。

「そちらは?名前。」
「宇野智雪といいます。」
「宮井さんのなんなんですか?」
「この間君の保護者さんが言ってなかった?彼氏だけど。」

ひゃあ!サラッと彼氏宣言!っていうか、地味にだけど今まで彼氏宣言するようなこともなかったんだけど、他人にこういう宣言って初めてだよね。照れちゃう!ママにはお付き合いしてますっては話したけど。あ、違う、今はそんな場合じゃなかったんだった。五十嵐君は、まるで喧嘩を売るような挑みかかる視線で口を開く。

「随分年が離れてるように見えますけど?」
「君になにか問題がある?」

うん、確かにそうなんだよね。十一歳も離れてるのは確かだけど、そこはちゃんとお互いの理解の上でお付き合いしてるわけです。って、私まで心の中とはいえ、五十嵐君に反論している。それにしても園庭に隠れてるけど、こんなところですることじゃないと思うよ?!

「……年齢相応の方が付き合いやすいとおもいますけど。」
「年が離れている分の経験がいかせない程子供じゃないんでね、それも含めてきちんとお付き合いしてるんだよ。」

雪ちゃんの子供扱いにカチンと来たみたいに五十嵐君の顔が険悪になる。うええ、どうしよう?まだ探ってるけど雪ちゃんには、あまり喧嘩は売らない方が………

「それでも一緒に過ごせる時間がとれないのはきついですよね?社会人と学生じゃ。」

あっ!駄目それ!一番雪ちゃんが嫌な系統!!思った時には遅かった。ブラック雪ちゃんの満面の微笑みが、すうっと氷の微笑に塗り変わる。それには気がつかない五十嵐君に向かって、雪ちゃんが静かに口を開く。

「質より量にこだわるような恋愛じゃないから。」

そう言いながらそれが怒気だとは知らない五十嵐君に、平然とした風で雪ちゃんは目を細めていう。

「五十嵐君も大人になったら理解できるんじゃないかな?もう少し大人の色気がでて、NISEIDOUやPANEDOLLの広告に無条件で出られるようになればね。」

その言葉に五十嵐君が目を丸くしている。NISEIDOUやPANEDOLLって大手の化粧品メーカーだけど、最近なんかで見たなぁ。あ、源川先輩がポスターやったやつだ!NISEIDOUの方は一番最初の駅に貼ってあった女の人とのポスターで、PANEDOLLって方は男性のスキンケア化粧品で水に濡れながらちょっと睨むみたいに見てるやつだった。あっという間にポスターは盗難されちゃってて、久保ちゃんが悔しがってたんだよね。そういえば同じ事務所にいるらしい五十嵐君も広告の話があったのかな?でも雪ちゃん今無条件って言った?なんで知ってるの?それは兎も角五十嵐君が言葉を失ったのに、雪ちゃんはにこやかにそれじゃあと私の手をとって歩き出す。んん?これで決着??よくわからなかったけど、まあ、いいのかな?
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