Flower

文字の大きさ
13 / 591
5月

13.ドリアンドラ

しおりを挟む
ぐずついた私の気持ちそのままのように見える低く重い雲が垂れ込める暗い空の金曜日の朝。雨が降りそうだけどいまのところは曇天なだけだが、私の方が今にも突っ伏して泣き出しそう。
何故なら、私の気持ちはとんでもなく複雑な気分。
あり得ないと思うけど、もしかしてここ数日が自分の気のせいだったのなんて思わずにはいられない。
何でかって?
そりゃ、目の前を見たらそう思うでしょ。
私の前には今までの数日がなかった事の様に、朝から満面のニッコリ笑顔で挨拶して、当たり前のように私の前の席に座る香苗の姿。余りの状況の変化に香苗の新しい華やぎ仲間も目を丸くしている。でも、話し方を聞けば分かる。自分が正義、私が可哀想になったから香苗が優しくしてあげると言ってる様なものなのだ。

くそ、香苗の奴、高校2年にして新しい方式を会得したのか。こう来るとは私にも分からなかった。

ね、ほらカナ優しいでしょといわんばかりのその行動が、もう理解の範疇を遥かに飛び越えて私にじわじわダメージを与えてくる。

「ねぇ、マキ~ぃ。」

くそー、香苗の猫なで声が癇に障る。
何ナノ?この変化。
きっと他の子が香苗の連続自慢話に飽きたってこともあるんだろうけど、もしかしたら昨日の本を拾ってあげた話が香苗の中では美談に変換されでもしてるのかもしれない。本気で落ちてた本を拾ってあげたって信じてるとしか、段々思えなくなってきた。それにしても昨日までの態度と今日のこの状況は、まともに考えてもおかし過ぎる。同じ事を感じているのだろう、あの子信じられないといたげな視線が四方から刺さるのにも香苗は全くお構いなしだ。ある意味凄い。ここまで来ると、空気を読めないのも天才なのかもしれない。

でも私はもう、あんたには付き合ってらんないよ。

香苗の態度の豹変にも、私は何だか今までにない気持ちで自分の本に眼を落とした。しつこい佳苗の猫なで声に返事も一言だって返事をしたくない。本当は今すぐ振り切って志賀さんのところに行きたい。視界の志賀さんも香苗の変わりっぷりに、驚いているのだろう普段は動じない読書の手が完全に止まっている。
ああ今日は志賀さんとの読書トークは我慢だ、香苗を連れて志賀さんの傍に行ったら彼女にまで迷惑をかけてしまうに違いない。必死に読書に勤しむのだ!

誰かを想うと言う事は時に炎にも似た揺ぎ無い意思を生じて…

『落陽の刻』は短編集だけど、大部分が同じ高校を舞台にしている。高校生の主人公と幼馴染みの交流や、主人公と母親の物語もある。主人公は母子家庭で母親の友人の青年の物語もって、高校生の主人公を別な視点で表現していたりもする。母子家庭であることで周囲から差別のような扱いをされる主人公を幼馴染みや親友が支えてくれて、新しい未知を信じようとする主人公の変化の流れが自分達の年頃の感じかたそのままで本当に私がその立場になったみたいにドキドキしながら最初は読み進めていた。読み直しながら最初は表現が少し硬いといった香坂君の事を考える。主人公の凛とした佇まいは香坂君に良く似ていると私は思う。自分と似ているから、香坂君も好きなんじゃないかななんて考えてみたりもする。
色々考えながら香坂君の背中を眺める。
今の私の混乱して張りつめている気分を緩めてくれるような綺麗な微笑みが心に浮かぶ。
長い睫毛に紅茶色の瞳。
まるでミルクみたいに綺麗な白い肌。
同級生とは一線を引いたような姿は、やっぱりこの小説に出てくる主人公の姿に似ている感じ。
杖をついていても凛と背筋の延びた綺麗な姿に、穏やかにそれでも高くもなく低くもない、きちんと通る涼やかな声。足が悪いとか病弱だとかクラスメイトから差別されても怯みもしないで真っ直ぐに前を見る強い瞳。

「ねぇ~マキ~~???」

あァ、どうして自分の想像くらい好きなように存分に耽っていられないのかなぁ?

そう言えばあの時確かに香坂君は「宮井さん」って私の事を呼んでくれた。確かに彼から呼ばれた。私の事、ちゃんと覚えていてくれたんだ。
煩わしい事はおいておいて自分の心が少しでも明るくなる事を考えたい。香苗の甘え声を意識から押し退けるようにして私は、その綺麗な後姿をボンヤリと眺める。

同じ作家さんが好きかぁ、本当に良かった。この作家さんの本を読んでて良かった。

しおりを挟む
感想 236

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...