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6月

26.マトリカリア

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昨日帰ってあの人のハンカチをそのまま持ってきてしまったことに気がつく、でも涙でグショグショだったから返さなくて良かった。私は直ぐに洗って綺麗にアイロンをかけたハンカチを見下ろす。

綺麗な男の人だったなぁ。

普通にあんな人が存在して、世の中を歩いてるんだと思うと驚いてしまう。しかも、同級生と知り合いなんだって言うのも驚き。

年は雪ちゃんくらいかなぁ?




夜の間、ハンカチはあの匂袋の隣に置いておいたので、仄かにあの良い香りがして凄く得した気分だ。あ、今度私のハンカチを傍に置いておこう。うん、今までしなかったのが勿体なかった。それにお礼に簡単だけど紅茶とジャムを使ったドロップクッキーも焼いておいたので、綺麗にラッピングして準備万端だ。問題はこれをどうやって真見塚君に渡すかなんだけど。
翌日そんな事を頭で考えながらタイミングよく昇降口で会った早紀ちゃんと一緒に廊下を歩いていたら、何というタイミングのよさ!
いい所に前を歩く真見塚君を発見した。

「あ、真見塚君!!!昨日はありがとう!」

私の大きな声に驚いたように足を止めて振り返った真見塚君は、何時もの優等生のすました顔だ。それが昨日のことなんか知りませんよって取り澄ましていて私が可笑しくて笑うと、真見塚君は少し頬を染めて不機嫌そうに表情を変えた。

「別に…あの人に言われたら仕方ないだけだから。」
「でもありがと。」
「別にいいよ。」
「でね、このハンカチ返すのどうしたらいいかな?後、お礼もしたいし。」

あ、そうか、といいながら澄ましていた真見塚君が、私の言葉にあの人の事を考えているのだろう表情を柔らかく変える。やっぱりあの人の話になると真見塚君は少し違う人みたいだ。
そこまで気がついたときに私は横にいるはずの早紀ちゃんの様子に気がついた。何時もの穏やかに微笑んでいる早紀ちゃんじゃなく、困ったような嬉しいような見たことのない不思議な表情。

あれ?

固まっちゃったみたいに無言になった早紀ちゃんの視線は、私の肩越しからじっと真っ直ぐに真見塚君の様子を見つめている。その視線は私でも理由の分かる視線だった。私が日差しの中で香坂君の背中を見ているのと、よく似ている視線。その視線はついついその人を目で追ってしまうし、思わぬ何か見たりすると嬉しくなるんだ。

「僕が返しておくよ。それで良い?後…余り人に言わないで欲しいんだ、あの人は…そう言うの嫌がる人だから。」
「うん、わかったよ?あのねぇ中にお礼のクッキーがあるんだ、2つあるから真見塚君1つ食べてね。」
「えっ!僕に?…えっと、ありがとう。」
「こちらそこ、送ってくれてありがとう、……ねぇ、あの人って真見塚君のお兄さん?」

何気ない私の言葉に、ギョッとした真見塚君の澄ました顔が完全に崩れる。その下から出てきたのは、それは凄く嬉しそうなのに知られるのはとっても困るみたいな不思議な表情だった。見たことのない真見塚君の表情に、私の背中でそれを見た早紀ちゃんが息を呑んだのが分かる。何時ものカッコつけてるみたいな取り澄ました顔よりずっとその表情の方が好感が持てて、その表情だったら私も結構好きだな~って思う。

「……そんな感じだよ、尊敬してる人なんだ。」

困ったようにいう真見塚君に、もう一度お礼のクッキーも一緒に手渡して御礼を伝えてねと言うと真見塚君は微かに困った顔をしながらも頷いて私の手からそれを受け取った。ホントは会って渡したいところだけど先の言い方だと私が会いたいっていっても嫌がりそうだし、何より横にいる早紀ちゃんの様子も気になったから今日は諦めておく。だって、家の直ぐ傍の公園であったんなら、また会う機会も有りそうだし。
そんな一時、まるで集まる喜びみたいホンワカした空気を滲ませる会話の後で、真見塚君の歩み去る姿を横目に何時の間にやら誰の目でも分かるくらい真っ赤になってる早紀ちゃんを見つめた。

「…早紀ちゃんって…真見塚君が好きなんだ?」

私の言葉にオロオロ慌てふためく早紀ちゃんの姿に、あの私が香坂君を見ていると思っていた視線は香坂君じゃなく話しかけていた真見塚君の方を見てたんだと気がついた。そう言われてみたら早紀ちゃんは席が真見塚君の2つ真後ろだから普段は彼の姿は見えないし、私が気がつく時は必ず香坂君に彼が話しかけに立ち止まっていたんだった。

「あ・あの……、あのね…今は話とかあんまりしないけど…真見塚君と私、幼馴染なの。で…。」

早紀ちゃんがらしくないほどに、あたふたしながら言い訳をしているのが凄く可愛い。真っ赤になって言い訳をしていても可愛い早紀ちゃんを見て、同じ真っ赤でも私もこういう風に見えてればいいのにな、なんて不謹慎な事を考えてしまう。

「ふぅん・それでいっつも見てるんだ?」
「えっ?!私そんなにわかるくらい見てる?!分かっちゃう?!」

驚いたように私の手を掴んで、ばれちゃってるかな?って必死に聞いてくる早紀ちゃんが今までになく身近で可愛くて、思わず私は声を上げて笑い出していた。

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