Flower

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6月

30.ミント

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朝からシトシトシトシト雨降りの月曜日は、気が滅入ってしまう。日ごろの私の美徳も効能がないのか、今日は香坂君が体調が悪いらしくお休みだ。

あァ、いないと知っただけで気分の半分が盛り下がってしまう。

その癖、一番苦手で一番成績の悪かったテストが颯爽と先陣をきって帰ってくるし、私はもう散々だ。赤点でなかっただけましだけど、誰か簡単に数学を理解できる方法を編み出してくれないかなぁと思う。神様って言うのは本当に温情とかって言う言葉を知らないんじゃないだろうかと染々私は思う。生物が思ったより良かったのと国語と世界史は予想通りだから、まあここまでは良しとはする。
教室の窓越しに何時までもシトシトと降り続ける雨の様子を教室の真ん中から眺めても面白みはないし、ジメッとした室内の空気に授業を受ける気持ちまで重く床に沈んでいく見たいな気がする。出来る事なら大声を上げて、この気持ちを振り払ってしまいたいと思うのは私だけではない筈だ。

通常授業はテストが終わったせいで少し皆も気が抜けている様で、色々なところで欠伸は飛んでるし授業と関係ないことをしている子も何人かいる。そんな事を考えながらくるくるとノートの隅に線を描き落書きをしていた私の視線に、横の席からきれいに折りたたんだメモ用紙が投げ込まれる。
何かと思ってその独特の折り目をキチンと開くと、罫線の引かれたメモ用紙に丸々とした独特の香苗の文字が躍ってる。

≪今日、一緒にカラオケ行こうよ?この間のメンツで。カナ≫

一瞬唖然として、直後にどーっと気持ちが塞がった。
今日香苗が久々に登校したのは分かっていた。でも、LINEをブロックして以来交流もないし、あっちも近づいてこないから完全に私も気を抜いていた。

この間のメンツってまたあの気色悪い男達と合コン?って言うより、それ以前に何時こんな風に話せるほどに仲直りしたんだっけ?あの子私に半端ない罵声LINEしてなかったっけ?

頭の中であの時の凄く苛々したタバコ臭くてうっとおしい空気を思い出してしまった上に、あの気味の悪い香苗の彼氏の事を思い出してげんなりする。

もしかして、あの時何処かに連れていけなかったから、また誘えって言われて誘ってるのかな?同じタバコの香りでも鳥飼さんみたいに微かに香るくらいで、もっと紳士的だったりとか、優しかったりとかしてくれればいいのに。どうせ狙っているのは、女子高生と遊んで最後にいかがわしいことをするだけじゃないのだろうか?

それは前回と同じく新しいお友達の木内梓とか、その友人と行けばいいのにと正直に思う。香苗が私を連れて行きたいのは、結局は香苗の見知った私のほうが自分が操作しやすいからなんだろうし、あの男に言われて香苗がいい顔見せようと連れていきたいのだとしか今の私には思えない。

あァ、私には彼女の思考はやっぱり理解できない。

私はそのメモの下に申し訳ないけど返事を書いた。だって自分のメモを使うのも嫌だったんだ、普通嫌いな人からの投げ込の手紙に自分のお気に入りのメモなんか出したくないよ。それで、同じように折りなおして同じ道筋に帰した。

私いかない。誘わないで。

それだけの言葉に何を感じるかは私にはわからないけど、それを開いた時の香苗の表情は、何だかあっさりと想像できる。手紙が申し訳ないことにクラスの子達の手で香苗に向かっていくのを眺め、教室の中に漂うのと同じ重くて湿ったような深い溜息を深々とついていた。


休憩時間になって早々に早紀ちゃんの傍に行こうと歩き出す私の視界の隅で、香苗と一緒の木内梓のきつい視線が睨んでくるのが分かる。睨まれるような事なんて私は何1つしていないのに、あの子達の視線は何でこんなに心に刺さるんだろう。お昼のお弁当も何時もより味気なくてモソモソしていると、早紀ちゃんが心配そうにどうしたのって顔を見つめる。

「うん…あのねぇさっき香苗からカラオケに行こうってメモが来たんだけどね。」
「うん、行くの?」
「ううん、行かない。カラオケに香苗の彼氏が来るから、行かないよ。」

香苗の彼氏と聞いた途端早紀ちゃんの顔が怒りを滲ませるのに気がつく。早紀ちゃんは話に香苗の彼氏が出てくると、確実に不機嫌になるようになった。それくらい早紀ちゃんの感情表現が前より豊かになったと思えばいいのか、それともそのくらい早紀ちゃんが怒る理由があるのか私にも分からない。

そう言えば、何で早紀ちゃんがここまで怒るのかなぁ

「早紀ちゃん、何でそこまで怒ってくれるの?」

あ、しまった、また思わずそのまま聞いちゃった。早紀ちゃんは一瞬私の質問に驚いたように、自分のお弁当を見下ろしたまま凍りついてしまった。聞かなきゃよかったなぁって私が自己嫌悪し始めた頃、早紀ちゃんがポツリポツリと雨の音に消えてしまいそうな声で理由を教えてくれた。

「小さい頃、近くの公園で知らない男の人に腕を捕まれて物陰に連れ込まれそうになったの。」
「えっ?!」

早紀ちゃんの小さい頃なんて、本当に日本人形みたいに可愛い女の子だったに違いない。その先を聞いてしまっていいのかオタオタしている私に、早紀ちゃんは慌てたように何もなかったのよと訂正した。

「知り合いの人達が近くにいて直ぐ助けてくれて何もなかったんだけど、凄く怖かったからワンワンその場で大泣きしたわ。泣きじゃくって歩けないくらい恐かったの。」

ああ、その気持ち凄く良く分かる。私も雪ちゃんが助けてくれなかったらどうなったんだろうって本当に怖かったから、小さい時だったらもっともっと怖かったに違いない。だから、そういうこと平気でする人嫌いなのと、小さく呟いた早紀ちゃんの申し訳なさそうな表情に私が不思議そうな顔をするのに彼女が消え入りそうな声で呟く。

「だから、麻希ちゃんを怖い目に合わせるような人も、凄くヤで、自分が会ったことないくせに勝手に怒ったりして。」

ああ、早紀ちゃんは私のために怒ってくれてるのに、それが自分勝手だって自己嫌悪してるんだって分かった。私はそれが分かって早紀ちゃんにニッコリと笑いかけ、怒ってくれてありがとう、私は早紀ちゃんが怒ってくれて凄く嬉しいって正直に伝えていた。
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