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6月

51.クチナシ

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6月最後の月曜の夜、期末テストがもう目の前に迫っていて勉強をしてはいたけど段々飽きてきちゃって最終的に部屋の掃除を始めてしまった。何で勉強してると、こんな関係ないことばかりしたくなるのか分からない。
ああ、集中力のない自分が悲しいとか思いながらついつい掃除はエスカレートしてクローゼットの奥までゴソゴソと掃除を始めてしまった。

断捨離とかって言うけどさあ、クローゼットの中ってもうワケわかんないなぁ。

何かの参考にしたかったのか取っておいた雑誌の束。きっとお菓子の作り方を見たかったのだろう雑誌の切り抜き。ママがキチンとアルバムにしているのとは別に撮ったのか貰ったのかした子供の頃の写真、小さい頃にもらった友達からのメモ手紙。最近貰った綺麗な便箋の手紙。

う~ん…めちゃくちゃだ。

頭をクローゼットに突っ込んで四つん這いでゴソゴソやってると、まるでタイムカプセルでも見ているかのような感じで私はなんだか可笑しくなる。
ふとクローゼットのかなり奥で綺麗な白い花の模様が描かれた小さな箱を見つけて私は手に取った。よく見たことのある葉っぱの形と真っ白な5枚の花弁の花。

これって、ああ、苺の花だ。

何で分かったか首をかしげるけど、古くて手にザラザラするその古ぼけた缶は記憶の中に小さな漣を立てる。開けようとするとキシキシと軋む音を立てて、蓋が微かな抵抗するのが感じる。
やっとのことで無理やり開いた箱の中には写真が何枚か入っていた。眺めると全部高校生の雪ちゃんが写っていた。ママから借りたアルバムの写真と同じ頃合いの雪ちゃんが何枚もある。
今は何時でもヘラッとしてる雪ちゃんは、写真の中では凄く不機嫌そうで無愛想だ。ママがアルバムに入れていた写真は普通に微笑んでいるのに、缶の中の写真は1つも1枚も笑っていない。

これ全部…センセと鳥飼さんと一緒……だ。

やっぱり土志田先生は今と全く変わらない飄々とした顔だけどヤンチャそうな様子で写っているし、鳥飼さんは少し今よりきつい表情で何時もそっぽを向いている。それと一緒の雪ちゃんも笑顔がない不機嫌な顔ばかりだ。
でも何処からどう見ても3人一緒で写っているし、季節も違うし制服以外の私服で写っているのもある。

これどうしたんだろう?

私は他の数枚を眺めるけど、他のもどう見ても私にはわからない。それにママから借りたのと違うのは、笑顔でないだけでなく私が入り込んだ写真が一枚もない事だ。

これって…もしかして、雪ちゃんの物かも…。

そう思った瞬間凄く納得できた私は、古ぼけた苺の花の缶を眺める。雪ちゃんが園芸好きなのはわかってるけど、流石にこれって可愛すぎる缶だなと考えながら缶を撫でた。何でか撫でていると記憶の奥に漣が、幾つも起きて何かが思い出せそうな気がする。缶のこの手触りも何でか知っている気がするのだ。
そう思いながら私は、不機嫌そうな顔で並ぶ高校生の雪ちゃんを眺める。

何で何時もの雪ちゃんと違うの?

私が今知っている雪ちゃんは、のほほんとして何時も私を見てはヘラッと暢気な笑顔を投げてくる。こんな険しくて不機嫌そうな雪ちゃんに、私は本当に四六時中まとわりついていたんだろうか?そんなことしたら怒られそうな気配の雪ちゃんの写真に、私は思わず首を傾げる。

まー
 
確かそう雪ちゃんは、最初に私を呼んだ。


私は缶を撫でながら写真を眺め、微かな記憶を手繰りよせる。確かにあの頃の雪ちゃんは、香坂君よりもずっと冷たくて誰も寄せ付けなかった。ここに住んでからもパパもママも近寄りがたい雰囲気で寄せ付けず、時々見る昔から友達の2人以外の誰とも話をしなかったんだ。私は凄くお喋りな子だったから、それが凄く不思議で鬱陶しいって顔をする雪ちゃんの後を何時もしつこく付いて回っていた。

ねえ、何でお話しないの?

何時もの如くそんな事を唐突に雪ちゃんに言った私は、完全に雪ちゃんに無視されてしまった。高校の制服姿のさっさと足の長い彼に置いてかれて、気がつくと見たことのない場所に独りぼっちになっていた。辺りを見回しても見慣れた家も道もない、その驚きに私は道路の真ん中で声をあげて泣き出したんだった。

おい、雪、チビが。
あっ、まー。

同じ制服の背の大きな人の1人が振り返り雪ちゃんに声をかけて、驚いた雪ちゃんが慌てて戻ってきて困ったようにしゃがみこむ。雪ちゃんが慌てながら泣くなよと言い困った顔で覗きこんでくる。
その時初めて私は初めて真正面から雪ちゃんの顔を見ることができたんだ。私は泣いていた事も忘れ、ベショベショの顔で感動したように雪ちゃんに話しかける。

雪ちゃん、綺麗なお目めだね、まーの目真っ黒なのに雪ちゃんのお目めコーチャの色だよ?

私が力一杯に興奮して雪ちゃんの瞳の色を誉めると、彼は驚いたように私を見つめて突然笑いだした。それに戻ってきてくれた他の背の大きい雪ちゃんの2人の友達が、笑いこける雪ちゃんの姿に目を丸くしている。

何だよ?雪、どうした?
だ、だって、今までビービー泣いてた癖に突然人の目見て、紅茶色って、ワケわかんないな、まーは

何時までも止まらない雪ちゃんの笑いに、つられて笑いだした私に大きな背の雪ちゃんの友達まで笑いだす。あの雪ちゃんの背の高い2人の友達が、土志田先生と鳥飼さんだったんだなぁと思い出した記憶に私は納得する。



ふっと物思いから戻った私は、無理やり空けた箱の蓋に見たことのある筆跡を見つけた。

≪私はあまりにも幸せ≫

それはよく知っているある雪ちゃんの流れるように達筆な筆跡で私は少し戸惑った。
何だか見ちゃいけないものを見たって言うか、どうしてこの箱を私は持っていたんだろう。全然記憶にないけと、私は大事にしようってクローゼットの中に隠したんだと思うけど理由までは思い出せない。私はその箱の中をまじまじと見つめて思わず首をひねっていた。

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