Flower

文字の大きさ
67 / 591
7月

58.エノテラ

しおりを挟む
7月7日の月曜日、七夕だって言うのに天候はどんよりとしていて、夜半に星が見えるかどうかは微妙とお天気予報のお姉さんもションボリ顔だった。お陰で私の何だか気持ちは浮かない。
香坂君の背中は相変わらず遠いし、その上お昼タイムになってから姿が見えない。おまけに、私の中でも雪ちゃんの事も今1つすっきりしない。色々思い出しそうになった事がハッキリしてなくて私の自身がただ苛々するみたいな感じだ。そろそろテストも帰ってきそうだし、その後の三者面談とかも考えてしまうから苛立つのかな?こうなったら気分転換にでっかいケーキでも焼いてやろうかなんて訳の分からない現実逃避を考えてる。

そんな最中、フッと窓辺を見ると早紀ちゃんの姿がなかった。珍しくご飯の前に早紀ちゃんは「今日はちょっとごめんね」って出て行っちゃったので、他のクラスの子とお昼タイムをした。でも、昼休みもあと少しで次の授業まではそんなに時間はないし、早紀ちゃんからそんなにかかる用事があるって言う話も聞いていない。
少し、空いたままの席に気持ちが不安になった。
それがどうしてかは分からない。でも、何処かで同じような不安を感じた事があるような気がしたのはどうしてだろう。私は強ばった顔のままその席を見つめていた。

不意に教室の後ろ側の扉からきゃぁきゃぁと言う甲高い聞きなれた声が響いて木内梓や梓の友達達が変な盛り上がり方をしながら姿を現す。最後についてくるみたいに俯いた香苗と一瞬視線があったが、香苗は慌てたように私から視線をそらした。私はその姿に不安がまた強くなるのを感じるのを知りながら、黙って彼女達を眺めた。何が楽しいのか新しい恋人でもできたのか、木内梓が高潮して少し興奮したように笑いたてる。一緒になって笑えと言わんばかりの声に、香苗が声引き摺られるようにひきつった笑顔を浮かべるのが見えた。
ザワザワと心の中がどんどん不安を掻き立てるのを感じながら、私はふと息をついて無理矢理木内梓達から視線を反らす。見ていたら不安がどんどん強くなりそうで怖かったけど、空っぽの早紀ちゃんの席を見る方がもっと怖いことに気がつく。

早紀ちゃんは戻ってこない。

普段だったらとっくに席について本を読むか、授業の準備をして教科書を出しているはずだ。このまま早紀ちゃんが戻らなかったら、授業が始まる5分前になったら探しに行こう。
そう決心した時、教室の後ろのドアにその姿が見えた。歩きづらそうに足を庇う早紀ちゃんは保健室に行ってきたのか、右膝に大きな絆創膏を貼って足首を包帯で固定している。その早紀ちゃんを支えるようにして手を貸している険しい顔をした真見塚君。何かがあったのだろうけど、真見塚君の凛々しいその姿は結構様になっていて少し羨ましい。
咄嗟に歩み寄った先で早紀ちゃんが小さな声で「ありがとう」といいながら真見塚君を意味ありげな視線で見上げる。彼も微かに私の方を見ながら静かに口を開いた。

「気を付けなよ?」

何故私の方を向いて真見塚君が言うのかが、私には分からなくて私はポカンと真見塚君を見つめる。目の前でその声に小さく頷く早紀ちゃんは、真見塚君と一緒で嬉しい出来事のはずなのに凄く暗い表情だった。
何時も自由な心・そうあるはずの彼女の気持ちが、まるで何かに絡みつかれてるみたいな重苦しさで何時もより霞んで見える。その意味はまだ私には解らない。それでも、早紀ちゃんと真見塚君の距離が以前より縮まったのはいいことのような気がした私は早紀ちゃんの事を見上げ微笑みかける。すると、早紀ちゃんは凄く困ったように私の顔を真正面から見つめ返していた。

何が起きたのか私にはちっとも分からなかった。知らない間に香坂君が杖をつきながら、席に戻ったのも気がつかなかったし、早紀ちゃんが席に戻ってから俯いてしまったのが何故なのかも分からない。クスクスと遠くから聞こえる木内梓の甲高い笑い声がひどく耳について、私は不安がまた心の中で広がったのに気がついていた。

「何でもないの、転んだだけ。」

その後何度聞いても早紀ちゃんはそう言って微笑むだけで、私にはなにも話してくれなかった。何か起きているんだと心の何処かが言っているのに、早紀ちゃんの笑顔は何時もとかわりなく穏やかで私はどうしたらいいのかわからなくなってしまう。

私は早紀ちゃんの友達だよね?親友だよね?

話してほしいと思うけど微笑んだ早紀ちゃんは、話してはくれなさそうで少し悲しくなる。友達だから頼ってほしいと私が思うのは間違いなんだろうか?それとも私は頼りにはならない程度の間なんだろうかって勝手に悪く考えてしまったりする。それが少し顔を見て分かったのだろうか、早紀ちゃんは尚更優しく微笑みかけて大丈夫よと囁く。それに腹をたてて早紀ちゃんに何があったのかを問い詰めることが出来てたら、ちょっとは違ったのだろうか。
そんな気持ちを代弁するみたいに、七夕の夜だと言うことも忘れて重苦しい雲から雨が振りだしていた。
しおりを挟む
感想 236

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...