90 / 591
7月
76.エリンジウム
しおりを挟む
夏休み6日目の金曜日、今日も相変わらず夏期講習。しかも今日は早紀ちゃんも孝君も選択してないので、一人ぼっちだ。いや、友達が他にいない訳じゃないよ?話すくらいの子は何人かいるからね?なんて、一人でいいわけをして見るけど、やっぱり早紀ちゃんがいないのは少し寂しい。香苗の件はまだ何も出来てなくて、正直自分でもどう考えていいか分からないでいる。LINEのブロックをはずしてしまえば簡単に連絡はできるけど、連絡して何て言うんだろう?
大人の人達が危ない人だから別れろっていってるよ?
そんな事を言われて香苗は納得できるだろうか。もし私が香苗の立場だったら、そんな言葉では納得しないような気がする。好きだったらなおさら納得しない気が、私にはしてしまうのだ。悩みながらも一先ず明日が休みなのだけが嬉しいなんて思った時点で、これって夏休みって言えるんだろうか。帰宅途中に何時もの『茶樹』に気晴らしに寄ると久々に鳥飼さんを見つけた。鳥飼さんがカウンターに座っているのは、ちょっと珍しくて傍に行ってしまう。
「こんにちわぁ。」
「やぁ、こんにちは。あれ?学校?」
「夏期講習です~…。」
私のげんなりした表情に鳥飼さんが可笑しそうに笑う。そう言えば鳥飼さんは頭がよかったって土志田センセが言ってたから夏期講習とかでなかったのかなってチラッと考えてしまった。
「朝から講習かい?大変だ。」
にこやかに微笑みかけられて、思わず雪ちゃんみたいにヘラッと笑ってしまう。
う~ん、やっぱりこうしてみるとカッコいいよねー。彼女とかやっぱりいるんだろうか。でも、何か鳥飼さんって表立って自分から表現するような熱愛するっていうより言うより秘めたる愛とか、無言の愛なんて言葉が似合いそうな気がしちゃうのは美形過ぎるからの偏見なのかなぁ?隣に座っていいか聞くと鳥飼さんは笑顔で頷いてくれる。
「鳥飼さんって彼女とかいるんですか?」
「えぇ?!い・いきなり何かと思えば。」
あァ、また思ったことがすぐ口から出てしまった。どうして私ってこうなのかなぁ?少し反省しながら隣に座る私に、鳥飼さんは珈琲を飲みながら苦笑いだ。子供だなぁって呆れられてる気がしてショボンとしている私に、松尾さんのお姉さんだと言うウエイトレスさんが微笑みながらグラスを渡してくれる。カウンター越しのマスターさんまで、何だか少し笑っている気がするのは気のせいだろうか。
鳥飼さんが細くて長い指で開いていた本をユックリと閉じて、横に置いたのを何気なく私は眺める。鳥飼さんは凄く綺麗な手をしてるなぁ、雪ちゃんとは少し違うんだななんて感心していた私は鳥飼さんの置い本の表紙に暫し考え込んだ。
あれ?
その表紙見たことがある。でも、まだその本は私持っていないなって頭が言う。視線を落とした手元にある真新しい本に私の視線は吸い寄せられた。
「あの、それ…。」
「ん?」
真新しいハードカバーの本は、少し前に早紀ちゃんと一緒に私が本屋で予約しておいた本の表紙だ。でも、発売日までまだ暫くしあるって早紀ちゃんとこのお店で話して。あれ?何でここににもうその本があるの?鳥飼さんはどこで買ったの?そう思った瞬間、不意に頭の中で繋がるものがあった気がした。雪ちゃんは出版社に勤めていて、鳥飼さんにお仕事を頼んだって言った。鳥飼さんは園芸はしないし、割合他の大人と違う時間帯で生活してる。それに、発売日前の新刊をすでに半分以上のページを捲って、特にじっくり読んでいる風でもない。それに自分が勤めている出版社の本じゃないのに雪ちゃんは、私に態々本を買ってこの本読んでみてと奨めたんだった。
「鳥飼さんって…もしかしてもしかして…≪鳥飼澪≫?」
ギョッとしたように鳥飼さんが顔色を変える。
「やっぱり鳥飼澪先生なんですかっ?!!」
確信に思わず店内に響き渡る大声で言った私に、思わぬほど大慌てで鳥飼さんは私の言葉を遮った。
しんじらんない!
こんな身近に好きな作家さん?!!!
ハワハワして私はもう超大興奮なのに、鳥飼さんは凄く秘密にしたいみたい。何でか分からないんだけど、とんでもなく一生懸命に内緒にしておいて欲しいってお願いされてしまった。ちっとも理由が分からないんだけど、何かこんなに格好いい鳥飼さんに凄く一生懸命お願いされていると妙な気分。お願いだから誰にも秘密にと何度も頭を下げられてしまうのに、私はキョトンとしてしまう。
「何で、内緒なんですか?」
自分で書いたものが本になってこうやって沢山の人に読まれてるのにどうして内緒なんだろうって正直首を傾げてしまう。そんな私に鳥飼さんは困ったように笑うと、私には隠すのを諦めたように見える仕草で肩を竦めた。
「実は半分冗談でその名前を使ったんだ、まさかそのままずっと使い続けると思わなかったしね。」
「私も友達もずっと女の人だろうって思ってました。」
素直に言うと「だろうね、よく言われる」と鳥飼さんが、本の表紙の名前を何だか懐かしそうに見える視線で眺める。私はその視線が少し悲しそうにも見えて黙りこんだまま、鳥飼さんの様子を見つめた。
「母の名前だからね。澪は。」
その言葉に早紀ちゃんから詳しく聞いた話しが、頭の中に甦って心臓がドキンとするのが分かった。孝君のお母さんとは別の人だっていう鳥飼さんのお母さん。お母さんの名前を使っちゃったからバレるのが恥ずかしいのかな?
「お母さんにバレちゃうから内緒ですか?」
そんな理由だなんて少し子供っぽいななんて微笑ましく思いながら言うと、鳥飼さんは少し驚いたように私を見たけど穏やかに微笑んだ。そう言えば、早紀ちゃんの話で鳥飼さんは高校の時少し孝君のお家に預けられたって話していた。一緒に住んでいないのかな?そう言えばお買い物も一人でしてたけど、どうなんだろう?
「ふふ、そうだね、そんなところだな。」
本当は早紀ちゃんや智美君にも教えたいけど、そこまでお願いされると言えなくなっちゃう。結局、綺麗な顔に根負けして絶対言いませんなんて約束してしまったけど、実は惜しかった気がしてならなかったのはココだけの話だ。あ、でも、雪ちゃんとか知ってる人はどうなんだろう、そこは考えなかったななんて後から思ってしまっていた。
大人の人達が危ない人だから別れろっていってるよ?
そんな事を言われて香苗は納得できるだろうか。もし私が香苗の立場だったら、そんな言葉では納得しないような気がする。好きだったらなおさら納得しない気が、私にはしてしまうのだ。悩みながらも一先ず明日が休みなのだけが嬉しいなんて思った時点で、これって夏休みって言えるんだろうか。帰宅途中に何時もの『茶樹』に気晴らしに寄ると久々に鳥飼さんを見つけた。鳥飼さんがカウンターに座っているのは、ちょっと珍しくて傍に行ってしまう。
「こんにちわぁ。」
「やぁ、こんにちは。あれ?学校?」
「夏期講習です~…。」
私のげんなりした表情に鳥飼さんが可笑しそうに笑う。そう言えば鳥飼さんは頭がよかったって土志田センセが言ってたから夏期講習とかでなかったのかなってチラッと考えてしまった。
「朝から講習かい?大変だ。」
にこやかに微笑みかけられて、思わず雪ちゃんみたいにヘラッと笑ってしまう。
う~ん、やっぱりこうしてみるとカッコいいよねー。彼女とかやっぱりいるんだろうか。でも、何か鳥飼さんって表立って自分から表現するような熱愛するっていうより言うより秘めたる愛とか、無言の愛なんて言葉が似合いそうな気がしちゃうのは美形過ぎるからの偏見なのかなぁ?隣に座っていいか聞くと鳥飼さんは笑顔で頷いてくれる。
「鳥飼さんって彼女とかいるんですか?」
「えぇ?!い・いきなり何かと思えば。」
あァ、また思ったことがすぐ口から出てしまった。どうして私ってこうなのかなぁ?少し反省しながら隣に座る私に、鳥飼さんは珈琲を飲みながら苦笑いだ。子供だなぁって呆れられてる気がしてショボンとしている私に、松尾さんのお姉さんだと言うウエイトレスさんが微笑みながらグラスを渡してくれる。カウンター越しのマスターさんまで、何だか少し笑っている気がするのは気のせいだろうか。
鳥飼さんが細くて長い指で開いていた本をユックリと閉じて、横に置いたのを何気なく私は眺める。鳥飼さんは凄く綺麗な手をしてるなぁ、雪ちゃんとは少し違うんだななんて感心していた私は鳥飼さんの置い本の表紙に暫し考え込んだ。
あれ?
その表紙見たことがある。でも、まだその本は私持っていないなって頭が言う。視線を落とした手元にある真新しい本に私の視線は吸い寄せられた。
「あの、それ…。」
「ん?」
真新しいハードカバーの本は、少し前に早紀ちゃんと一緒に私が本屋で予約しておいた本の表紙だ。でも、発売日までまだ暫くしあるって早紀ちゃんとこのお店で話して。あれ?何でここににもうその本があるの?鳥飼さんはどこで買ったの?そう思った瞬間、不意に頭の中で繋がるものがあった気がした。雪ちゃんは出版社に勤めていて、鳥飼さんにお仕事を頼んだって言った。鳥飼さんは園芸はしないし、割合他の大人と違う時間帯で生活してる。それに、発売日前の新刊をすでに半分以上のページを捲って、特にじっくり読んでいる風でもない。それに自分が勤めている出版社の本じゃないのに雪ちゃんは、私に態々本を買ってこの本読んでみてと奨めたんだった。
「鳥飼さんって…もしかしてもしかして…≪鳥飼澪≫?」
ギョッとしたように鳥飼さんが顔色を変える。
「やっぱり鳥飼澪先生なんですかっ?!!」
確信に思わず店内に響き渡る大声で言った私に、思わぬほど大慌てで鳥飼さんは私の言葉を遮った。
しんじらんない!
こんな身近に好きな作家さん?!!!
ハワハワして私はもう超大興奮なのに、鳥飼さんは凄く秘密にしたいみたい。何でか分からないんだけど、とんでもなく一生懸命に内緒にしておいて欲しいってお願いされてしまった。ちっとも理由が分からないんだけど、何かこんなに格好いい鳥飼さんに凄く一生懸命お願いされていると妙な気分。お願いだから誰にも秘密にと何度も頭を下げられてしまうのに、私はキョトンとしてしまう。
「何で、内緒なんですか?」
自分で書いたものが本になってこうやって沢山の人に読まれてるのにどうして内緒なんだろうって正直首を傾げてしまう。そんな私に鳥飼さんは困ったように笑うと、私には隠すのを諦めたように見える仕草で肩を竦めた。
「実は半分冗談でその名前を使ったんだ、まさかそのままずっと使い続けると思わなかったしね。」
「私も友達もずっと女の人だろうって思ってました。」
素直に言うと「だろうね、よく言われる」と鳥飼さんが、本の表紙の名前を何だか懐かしそうに見える視線で眺める。私はその視線が少し悲しそうにも見えて黙りこんだまま、鳥飼さんの様子を見つめた。
「母の名前だからね。澪は。」
その言葉に早紀ちゃんから詳しく聞いた話しが、頭の中に甦って心臓がドキンとするのが分かった。孝君のお母さんとは別の人だっていう鳥飼さんのお母さん。お母さんの名前を使っちゃったからバレるのが恥ずかしいのかな?
「お母さんにバレちゃうから内緒ですか?」
そんな理由だなんて少し子供っぽいななんて微笑ましく思いながら言うと、鳥飼さんは少し驚いたように私を見たけど穏やかに微笑んだ。そう言えば、早紀ちゃんの話で鳥飼さんは高校の時少し孝君のお家に預けられたって話していた。一緒に住んでいないのかな?そう言えばお買い物も一人でしてたけど、どうなんだろう?
「ふふ、そうだね、そんなところだな。」
本当は早紀ちゃんや智美君にも教えたいけど、そこまでお願いされると言えなくなっちゃう。結局、綺麗な顔に根負けして絶対言いませんなんて約束してしまったけど、実は惜しかった気がしてならなかったのはココだけの話だ。あ、でも、雪ちゃんとか知ってる人はどうなんだろう、そこは考えなかったななんて後から思ってしまっていた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
91
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる