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7月

閑話14.香坂智美

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自分が普通と違う育ちなのは、等の昔に理解していた。普通とは何かと知るずっと前から、自分は普通でない環境で特殊に育てられた子供だ。自分が異端の子だと周囲から教えられる前に、自分が異端なのだと自力で理解してしまったのだからしょうがない。智美は一度目にしたものは二度と忘れない、つまりは自分が異端だと知ったら二度と忘れないのだ。

「だからさあ、僕が普通でないのは僕が決めた訳じゃないし、僕がどうにか出来るものでもない訳。」

香坂智美には両親がいない。ついでに言えば唯一血縁のあった曾祖父が7年前に他界して、兄弟もいない智美は謂わば天涯孤独といえる立場だ。
とは言え世の中に同じような立場の子供が、どれくらいいるか知ってるだろうか?里親のいない子供だけでも、およそ3万人。勿論親がいるのに施設に入っている子供もいるから、一概には言えないだろうが1700万人分の3万人。つまりはおよそ600人に1人。大規模な小学校に1人位なら、親のいない子供が居てもおかしくない計算。これは子供だけの割合で計算している訳で、大人になれば寿命なんて制約もあって、天涯孤独に近い人間なんて割合結構いてもなんてことない。大体にして天涯孤独の人間だって、若ければ結婚出来て伴侶がいれば子供が出来る可能性がある。そうすれば、なんの事はない天涯孤独も終了と言うわけだ。そう考えれば、まだ17歳で天涯孤独確定とは言えないと理屈を捏ねる。

「と言うことは、別段僕が親がいるいないは重要視する必要はない訳だ。」

大概普通でない環境で育てられたものだから、智美の屁理屈も堂に入ったものだ。智美がこの環境に置かれてから、11年間彼の世話役も兼任している友村礼慈はその屁理屈を慣れたように聞き流す。

「まあ、智美さんの言いたいことはさておき。」
「さておかれても困る。つまりは僕の事は僕が決めるだろ?それなのに礼慈が学校に行ってどうする訳?」

賑やかに笑顔を敷きながら礼慈が、糸のように細められた目で智美を真正面から眺める。普段から和装が多い礼慈はピシリと背筋を伸ばし、椅子に座る智美の前に正座していた。畳じきの和室なのに智美が椅子なのは智美がこの屋敷の主であることと同時に、彼が幼い時に交通事故で正座はできない為だ。

「智美さん。」
「何だよ?」
「日本国憲法では、成人として認められるのは20歳以上からです。」

完全に笑顔なのに実は既に礼慈が笑っていないのが、長い付き合いの智美には理解できた。

「あなたはまだ17歳。私は20歳になって、あなたの後見役をキチンと手続きをして引き継ぎました。私はあなたにとって法的にも保護者の役割です。」

面倒くさ、と心の中で呟く。礼儀作法に煩いとは言え礼慈は、智美にとっては親代わりで同時に兄弟のようなものだ。礼慈が後見人になったからこそ、智美は高校に通うことが出来るようになった。礼慈が智美には同じ年頃の友人が必要だと押しきらなければ、高校には通えなかったのだ。とは言え礼慈が学校の智美の様子を気にしすぎるほど気にしているのは分かっていても、保護者として学校に来るのは話が違う。自分で直接連絡を受けるためにスマホまで買って、何気なく操作の習得もかねてクラスメイトの真見塚孝と連絡先を交換して満足したのが間違いだった。孝からLINEにしておけば、電話も出来るしメッセージのやり取りも出来ると教えられたのがつい先日の事。確かに緊急の電話もスマホに来る様に土志田先生とはけりをつけておいたが、まさか封書で連絡が来ているとは考えもしなかった。

「だから、編入試験も期末も学年1番なんだから、礼慈が行ってなんの話があるのさ?」
「智美さんの学校での素行を伺います。」

一学期は三者面談はなく、問題は二学期の三者面談だとたかを括っていたのだ。まさか入学以降で個別に呼び出しがかかるとは思っても見なかった。しかも呼び出しの理由が、自分のテストの点数が発端だとは。満点をとったが故に、思いもよらない進路指導が降ってくるなんて誰が思う。

学校には学校の思惑があって、大学進学率なんてメンツにこだわるからこんなことになるんだよな。しかも、僕がかなり特例だったのも分かってる。それにしたって入学して2ヶ月で面談なんて

止めてくれと思うがどう止めても礼慈は折れる気はなさそうで、智美は深々と溜め息をつく。幸いなのは学校が夏休みだから、そんなに人気がなく担任と会えること位だ。智美は面談に関しては、これ以上譲歩を求めるのは諦めることに決めた。


※※※


何で、こんなに夏休みなのに生徒がいるわけ?

正直、智美は面食らって学校の喧騒を眺めた。夏休みにはいって人気がない筈だとたかを括っていたのに、ほぼ平日と変わりがない。部活動はともかく、各教室で勉強している生徒までいるのに呆れる。

「あ、智美君。」
「え?!」

教室の1つで見慣れた顔を見つけ、思わず歩み寄る。蒸し暑く感じる教室の中に、早紀と麻希子が並んで座っていて何時もと違う顔ぶれをも見える。早紀が珍しそうに智美を見上げ口を開く。

「智美君も講習受けに来たの?」
「いいや、ちょっと面談しに着たんだけど?早紀は補習?赤点だっけ?」

そう言えば赤点の補習もあると聞いたけど、この人数が補習とは思えない。一応この高校は第三高校と言う名前でも、私立並みに学力が高いので有名ではあるらしいから夏期講習と言うやつなのだろうと考える。冗談半分てはあるが、赤点疑惑をかけられて早紀が不満げに目を細める。

「夏期講習だよ?智美君。補習な分けないでしょー?」
「あぁ、そうなんだ?麻希も一緒か。」

やっぱり夏期講習か。授業もうけて夏期講習もうけるなんて、世の中の子供はどれだけ勉強がしたいんだろうと内心思う。名前で呼ばれるのにまだ慣れないのか麻希子が、プルプルしながら真っ赤になっていて小動物みたいだと笑う。

「ホントに宮井さんって直ぐ赤くなっちゃうんだね?女の子っぽくて可愛いよね?早紀。」
「私も一応女の子なんだけど?智美君。どうせ褒めるなら同意を求めないで褒めなよ。」

どちらかと言うと日本人形のような容姿をした早紀は、性格と言うか内面が自分に似ているのだと智美は思う。そのつもりはなくても自分の周囲に、一定の区域分けをして対応を変えてしまう。友人か親友か、他人と判断すれば対応はするが、けして深入りはしない。

「早紀も少し麻希を見習うといいんじゃない?」
「言われなくてもわかってますけど?智美君こそ、少しクラスに馴染むように麻希ちゃんの優しさを見習うといいよ?」
「な、何で私なの~!二人とも!」

いや、ほんと小動物みたい、クリクリの真ん丸い大きな目で困ったように2人を交互に見る姿なんて、まさにそんな感じだ。反応が面白いので智美は、ついこの2人にちょっかいを出してしまうのだ。少し無駄話をしてから智美がそれじゃあねとノンビリ歩いて離れながら、そう言えば2人の連絡先はまだ聞いてなかったなと思い返していた。


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