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7月

閑話15.須藤香苗

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眩い夏の陽射しの下、自分達がしている事は酷く後ろめたい暗い事だと香苗は思う。多勢に無勢でたった一人の志賀を囲んで突き飛ばしたり蹴ったりして、それが楽しいみたいにキャーキャー嗤う。自分がやってなくても、香苗がその輪に加わっているのは事実だ。加わっている半分の子は、今抜けると今度は自分がやられるのが怖いだけ。それが分かって香苗は気が重くなるのが分かる。暑さのせいか体が酷く怠いのに、食欲もなくて吐き気すらする。そんなことを考えている香苗の肩に唐突に手が触れ、その手の主が自分の横をすり抜けた。木内の手が早紀の肩にかかりかけた瞬間、横をすり抜けた真見塚君の手がそれを掴む。まるで香苗の目には汚いものでも触ったと言うように、彼の手が梓の手をパッと離したのが見えた。

「ま、真見塚君?!」

梓の甲高い声が耳に障るのを無視して、真見塚君は王子様のように颯爽と歩み寄ると志賀の腕を取る。志賀が驚いたように視線をあげて彼を見つめて、彼は完璧な王子様の微笑みで香苗達を振り返った。

「木内さん、志賀さんとの話は終わったろ?志賀さんに話があるから、もういい加減解放してくれないかな?」

困惑した梓達が顔を見合わせる。それはそうだ、真見塚君に志賀を虐めてるなんてバレたら、彼女達の恋心は台無しになってしまう。心の中で彼が来たことにホッとすると同時に、可哀想だけど彼に助けられた志賀はもっと虐められるに違いないと香苗は思った。茂木とも矢根尾ともエッチしたけど、梓が好きなのは真見塚君だ。中学から好きで毎年チョコだってあげてるのに、真見塚君はそういうことに奥手なのか誰にも応じてない。梓にとって真見塚君は、清廉潔白な完全無欠の王子様なんだ。

そして、その予想は嫌な形で更に予想通りだった。


きっとそんなに一度に虐めが酷くなるなんて志賀の方も思いもしなかった筈だ。真見塚君が虐めの真っ最中に割って入ったのが、梓の怒りを一気に高めたらしい。梓はここのところ茂木から貰った煙草を持ち歩いていたのは、一緒にいた香苗も知っている。香苗もすすめられたけど、一度吸ってみたけど噎せてしまって大変だった。梓は気に入ったみたいで時折隠れて吸ってるみたいだけど、そんな女の子に王子様は振り向かないって心の中で思うのは香苗の自由だ。
でもまさか梓が校内で煙草を出すとは思ってなかった。しかも、堂々と火をつけて、大人ぶって咥え煙草で志賀を見ている。その後ろ姿を見て、香苗も他の数人も嫌な予感にたじろいだ。

校内で喫煙なんて教師にバレたらどうするの?

志賀の唖然とした顔に、自分達と同じ考えが浮かんでるのが分かる。問題なのは自分達も梓側にいるって言うことだ。志賀はただ巻き込まれただけでも、私達は梓の仲間で同罪になりかねない。
目の前で梓が可笑しそうに笑って、突然志賀の腕をつかんだかと思うと左の手の甲にその先を押し付けた。志賀の鋭い悲鳴に、取り巻きをしていた女の子達が怯えて後退る。自分がしたことに梓自身が怯えを見せ志賀がそのまま手を押さえてしゃがみこむのに、「死んじゃえ、バーカ」と捨て台詞と一緒に蹴りつける。志賀が屋上に倒れこんだのに女の子達が怯えて階段をかけ降りだし、香苗もそれに習った。

志賀がここまでされることって何だったの?

怖くなっているのに周りがキャーキャー嗤うのが香苗は信じられない。それでも、志賀の手には確実に自分達のした事が残ってると気がついた子が、オズオズと梓にもう止めようと言い出した。

「はぁ?何でよ?あいつ、平気で真見塚君に媚び売ってんじゃん。」
「でも、志賀に言いつけられたら、その、困るし。」
「私ももういい加減止めた方が…。」

クラスメイトが言っている方が正論だ。でも、梓が聞かないのは分かっていると、香苗は重くのしかかるような気持ちで考える。しかも、数日前クラスのもう一人の王子様の香坂君にまで苦言を呈されては、女子達の結束力は落ちるし士気も下がるのは当然だ。


翌日、白いガーゼを当てた手で思い切り梓の頬をひっぱたいた志賀に香苗も麻希子も真見塚君も呆然とその姿を見つめた。それが予期しない行動だったんだろう梓も呆然としてその場に立ち竦んでいる。

「な……。」
「あなたって痛みを知らないでしょう?だから、私なりにお返ししただけよ、木内さん。」

志賀は颯爽とした顔でそういいきると、少し痛みに顔をしかめながらまるで香坂君みたいに凄く冷ややかな声で言葉を繋いだ。志賀は右利きなのに態々痛む左手を使ったのは、香苗でも少し格好いいと認めざるをえない。

「これで、お相子でしょ?それにね、須藤さん、友達を獲られたって言うなら自分で自分の魅力で獲り返したらどうなの?」

辛辣な言葉が目の前で志賀の口から香苗に向かって投げつけられる。それは、梓が勝手に付け加えた事だったけど、未だブロックされたと分かっているLINEにメッセージを打ち続けている香苗には棘のように突き刺さった。


※※※



「麻希、でいい?」
「じゃ麻希ちゃんも智美君ね?」

香坂君と志賀が楽しそうに笑いながら当然のように、麻希子を顔を見つめながら話している。楽しそうに笑いながら何回もお互いの名前を呼ぶ練習をしながら、3人で並んで歩き出す。その後、真見塚君が加わって、何故か巻き込まれた真見塚君もこれからは孝君と盛り上がっているのが見えた。
子供のように笑いながら四人で歩いている姿は、普通の高校生で純粋で綺麗だ。それを見つめている自分は、どんどん汚れておかしくなっている。体は何時までも怠くて吐き気が止まらないのに、香苗は気がついていた。恐ろしい現実が高校生の筈の自分を、彼女達と完全に線を引いてしまったみたいだ。何気なくさっきLINEを見ると、今晩ここに来いとメッセージがあった。

《色っぽい格好で来ること、この間買ってやったの履いてこい。》

嫌だと言いたいのに、言うと怒り出す矢根尾が怖かった。今ではどうやってこんなフシダラな下着を買えるんだろう、どうやってこんなハシタナイ服を揃えるんだろうと正直思っている。しかも、エッチな大人の玩具もドンドン矢根尾が準備してきて、香苗が嫌がると服に隠れる場所を殴ってきた。その矢根尾の手慣れた感じが、香苗には酷く恐ろしい。
逃げだしたくて暫く連絡をしなかったら、矢根尾は平気で自宅に来て親の前に現れた。しかも親に向かって「塾の講師をしております」と、平然と告げたのだ。呆然とする香苗の前で矢根尾は社会人の顔で、両親に「須藤さんはもう少しきちんと勉強しないといけない」と説明して信用すら勝ち取った。既に香苗には、自宅と言う逃げ場すらないのだ。

大人しく香苗は矢根尾の言うとおりに、フシダラな下着をつけてハシタナイ服を着て矢根尾が待つカラオケボックスに行く。最近は普通カラオケボックスでしてはいけない事を、矢根尾が無理矢理させるようになって香苗は嫌でたまらなかった。目の前に茂木や貞友が居ても、矢根尾は平気で香苗に悪戯をする。暫くして香苗は、茂木と貞友は矢根尾がこうするのを期待しているんだと気がついて失望した。

梓がここにいないだけ、まだまし。

香苗はそう暗い思いで考える。暗いカラオケボックスは無法地帯だ。まるで玩具にされて、それを無理矢理喜ぶように教えられているみたいだ。もう止めたくても矢根尾がエッチの最中に香苗の写真を何枚も撮っていて、それをばら蒔かれるのも怖い。だから、逃げ場のない香苗にはこれに慣れるしかなかった。

誰か助けて。

そう考えた時一番に浮かんだのは、麻希子の顔だった。麻希子と一緒の時はこんな事起こるなんて1つも考えたことはなかったのに、今の香苗は地獄にでも落ちてしまったみたいだ。LINEは何時までも既読にもならないのは、まともな世界の麻希子には地獄の中からじゃ電波が届かないのかもね。そう苦く考えた時ふと困ったら話せと言ってくれた声が甦る。


※※※


学校に行けば土志田先生に会えるけど、香苗は期末の赤点の補習もサボっていた。前半の講習が終わればきっと両親に連絡が来ると分かっても、倦怠感と吐き気が時折襲ってくるから行く気にもなれない。
明るい陽射しに目が眩んで、座り込みたくなる。何度も学校の電話番号を開いている自分に、香苗は訳もなく泣きたくなっている自分に気がつく。

先生、本当に助けてくれる?

困ったら相談に来いと言ってくれたのは、土志田先生だけだった。今の香苗は困り果てている。現実に自分に何が起きているか分かって、香苗は困り果てて立ち尽くしているのだ。何気なく手が電話番号を押して、呼び出し音がなる。

『はい、都立第三高校です。』

これで何度目なのかわからない、ただのいたずら電話だ。無言のままでいると相手は呆れたように溜め息をついて、電話は切られる。香苗は無意識にもう一度電話番号を押す。

『はい、都立第三高校。』
「あ。」

思わずその声に自分の口から声が溢れ、香苗は慌てて口を塞いだ。たった一声で土志田先生に自分だと分かるはずもないが、それでも胸がバクバクと打ち付ける。暫くの無言でそのまま、他の先生と同じでいたずら電話と切られるのだと思った。

『お前、須藤だな。どうした?何かあったか?』

ユッタリと問いかける優しい声に、香苗は泣き出しそうになる。困ってるの助けてと言いたいのに、言ってもきっと先生は警察とかに言うくらいしか考えられない筈だ。そうなったら自分はおしまいなんだ。

『須藤?』

助けてと心の中で呟きながら香苗は電話を切る。そして、不安に呑まれたまま香苗は病院に向かって、俯きながら歩きだしていた。
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