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第1話:片方だけのイヤホン
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実家の自分の部屋で、蒼井陽は小さな引き出しの奥から、それを見つけた。
白いコードの先に、片方だけのイヤホン。右耳用の、小さな音の出口。
指先でそっと持ち上げると、プラスチックの軽さが懐かしい重さを運んでくる。もう片方はどこにあるのだろう。いや、それは知っている。きっと、みなみが持っているはずだ。あの日から、ずっと。
陽は床に座り込み、そのイヤホンを手のひらに乗せた。24歳になった今でも、高校生の頃と同じように、心臓が少し早鐘を打つ。
母の声が一階から聞こえてくる。夕飯の準備をしているようだ。年末の帰省で、久しぶりに実家で過ごす夜。掃除をしていたはずの部屋で、陽は動けなくなっていた。
スマートフォンを取り出し、音楽アプリを開く。最近はワイヤレスイヤホンばかり使っていて、コードのあるものなど触れていない。でも、このイヤホンだけは特別だった。
そっと右耳に装着する。音は出ない。当然だ。相手がいなければ、音楽は始まらない。
陽の目は、机の上の小さな写真立てに向かった。高校の文化祭で撮った、みなみとのツーショット。二人とも、片耳にイヤホンを付けている。
あの頃、二人で聴いていた曲を思い出す。空、もうすぐ雨。イヤホン越しの君へ。放課後スローモーション。どれも、今でも歌えるほど覚えている。
でも、最後に二人で聴いた曲は何だっただろう。
陽は立ち上がり、窓の外を見つめた。雪が降り始めている。高校卒業から6年。大学を出て、今は出版社で働いている。それなりに充実した日々を送っているはずなのに、この片耳イヤホンを見つけた瞬間、胸の奥で何かが動いた。
忘れたはずの感情。伝えられなかった言葉。別れた夜の、みなみの涙。
陽は深く息を吸い込んだ。きっと、向き合わなければいけない時が来たのだろう。
イヤホンを握りしめ、陽は過去への扉を、静かに開いた。
白いコードの先に、片方だけのイヤホン。右耳用の、小さな音の出口。
指先でそっと持ち上げると、プラスチックの軽さが懐かしい重さを運んでくる。もう片方はどこにあるのだろう。いや、それは知っている。きっと、みなみが持っているはずだ。あの日から、ずっと。
陽は床に座り込み、そのイヤホンを手のひらに乗せた。24歳になった今でも、高校生の頃と同じように、心臓が少し早鐘を打つ。
母の声が一階から聞こえてくる。夕飯の準備をしているようだ。年末の帰省で、久しぶりに実家で過ごす夜。掃除をしていたはずの部屋で、陽は動けなくなっていた。
スマートフォンを取り出し、音楽アプリを開く。最近はワイヤレスイヤホンばかり使っていて、コードのあるものなど触れていない。でも、このイヤホンだけは特別だった。
そっと右耳に装着する。音は出ない。当然だ。相手がいなければ、音楽は始まらない。
陽の目は、机の上の小さな写真立てに向かった。高校の文化祭で撮った、みなみとのツーショット。二人とも、片耳にイヤホンを付けている。
あの頃、二人で聴いていた曲を思い出す。空、もうすぐ雨。イヤホン越しの君へ。放課後スローモーション。どれも、今でも歌えるほど覚えている。
でも、最後に二人で聴いた曲は何だっただろう。
陽は立ち上がり、窓の外を見つめた。雪が降り始めている。高校卒業から6年。大学を出て、今は出版社で働いている。それなりに充実した日々を送っているはずなのに、この片耳イヤホンを見つけた瞬間、胸の奥で何かが動いた。
忘れたはずの感情。伝えられなかった言葉。別れた夜の、みなみの涙。
陽は深く息を吸い込んだ。きっと、向き合わなければいけない時が来たのだろう。
イヤホンを握りしめ、陽は過去への扉を、静かに開いた。
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