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第一章:召喚 ― 世界の終わりと新たな使命
第3話:エテルナ世界での目覚めと使命
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意識がゆっくりと戻ってくる。まるで深い眠りから目覚めるように、玲奈の心は現実へと引き戻されていった。
最初に感じたのは、柔らかな光だった。瞼の向こうに温かく優しい光が差し込んでいる。それは地球で見慣れた太陽の光とは違う、もっと神秘的で美しい光だった。
次に感じたのは、肌に触れる上質な生地の感触だった。シーツは絹のようになめらかで、まるで雲の上に横たわっているような心地よさがある。
「ここ、どこ?」
玲奈はゆっくりと目を開けた。天井を見上げると、そこには息を呑むような美しさが広がっていた。
ドーム型の高い天井には、美しいフレスコ画が描かれている。天使たちが舞い踊る様子が表現されていて、その一つ一つが生きているかのような躍動感を持っている。金色と青色を基調とした色彩は、見る者の心を神聖な気持ちにさせる。
玲奈は体を起こして周りを見回した。そこは白い大理石でできた美しい部屋だった。壁面には精緻な彫刻が施されていて、古代の職人たちの技術の高さを物語っている。
部屋の東側には大きなステンドグラスの窓があり、そこから差し込む光が床に色とりどりの光の模様を作っている。赤、青、緑、黄色。様々な色の光が部屋の中を彩って、まるで宝石箱の中にいるような美しさだった。
「夢...じゃないんだ」
玲奈は自分の体を見下ろして驚いた。いつの間にか、白いドレスのような服を着ている。それは中世の貴族の服のような上品なデザインで、スカート部分は足首まであり、袖は長めになっている。
生地は絹のような質感で、胸元には美しい刺繍が施されている。細かい金糸で花の模様が描かれていて、光の角度によってきらきらと輝く。明らかに高級品で、手作りの温かみを感じさせる。
「本当に異世界に来たんだ...」
玲奈は立ち上がって、部屋の中を歩き回った。足音が大理石の床に響いて、その音さえも美しく聞こえる。
家具もすべてが美術品のように美しかった。ベッドは天蓋付きの豪華なもので、カーテンは薄い水色の絹でできている。机は古い木材で作られているが、細部まで丁寧に彫刻が施されている。
壁には古い絵画が飾られていて、その中には見たこともない風景や人物が描かれている。一つの絵画に、玲奈は特に心を奪われた。それは美しい庭園を描いた絵で、色とりどりの花々が咲き乱れている。
その庭園の中央には噴水があって、水が美しいアーチを描いて踊っている。そして、その庭園を歩く人影が描かれていた。その人影は優雅で美しく、まるで絵の中から今にも出てきそうなほどリアルだった。
「きっと、神様が愛された人なんだろうな」
玲奈はそう思いながら、絵をじっと見つめた。
窓に近づくと、外の景色が見えた。そこには、地球では見たことのない美しい世界が広がっていた。
まず目に飛び込んできたのは、広大な庭園だった。そこには見たこともない花々が咲いている。花の色や形も地球では見たことがないもので、まるで宝石のような輝きを放っている。青い花は空よりも深い青色で、赤い花は炎のような美しさを持っている。
庭園の中には小川が流れていて、その水は水晶のように透明だった。小川に架かる橋は白い石でできていて、まるで雲の上に架かっているかのような幻想的な美しさがある。
庭園の向こうには森が広がっていて、木々の緑は地球の森よりもはるかに深く美しい。そして、その森の向こうに小さな町が見える。建物の様式は明らかに現代日本とは違っていて、まるでヨーロッパの中世のような雰囲気だった。
でも、ヨーロッパの建物とも少し違う。もっと幻想的で、魔法的な美しさを持っている。塔の先端は金色に輝き、屋根は虹色の瓦でできているように見える。
空の色も地球とは違っていた。青い空なのは同じだが、もっと透明感があって、深い青色をしている。雲も、もっと美しい形をしていて、まるで絵画の中の雲のようだった。
そして、空には見たことのない鳥たちが飛んでいる。羽根が虹色に輝いていて、飛ぶ様子がとても優雅だった。その鳥たちの鳴き声も美しくて、まるで歌を歌っているかのようだった。
「すごい...本当に美しい世界」
玲奈は感動で声を震わせた。
その時、扉がノックされた。
「どうぞ」
玲奈は反射的に答えた。扉がゆっくりと開いて、現れたのは威厳のある中年の男性だった。
身長は180センチほどで、がっしりとした体格をしている。白髪交じりの髪は丁寧に整えられていて、深い緑の瞳が印象的だった。神官のような白い服を着ていて、その胸元には金色の十字架のような印がある。
男性の顔には深い皺が刻まれているが、それは苦労の皺ではなく、長年の経験と知恵を表す皺だった。目元には優しさがあって、父親のような暖かさを感じさせる。
「お目覚めになりましたね」
男性は丁寧に頭を下げた。その仕草には品格があり、長年の修行を積んだ人特有の静けさがあった。声も深くて落ち着いていて、聞いているだけで心が安らぐような響きがある。
「あの、あなたは?」
玲奈は警戒しながらも、礼儀正しく聞いた。この人からは悪意を感じない。むしろ、深い慈愛を感じる。まるで、長い間玲奈のことを心配していてくれたかのような、そんな暖かさがある。
「私はミカエル。この神殿の司祭長を務めております」
男性は丁寧に自己紹介した。
「神殿?」
「はい。ここはエテルナ世界の聖なる神殿です」
「エテルナ世界...」
玲奈は神社で聞いた神様の言葉を思い出した。確かに、エテルナという世界に来ると言われていた。
「エテルナ...永遠という意味ですね」
「その通りです。あなたは賢い方ですね」
ミカエルが微笑む。その笑顔は本当に暖かくて、玲奈の緊張を和らげる。
「あの、私、確か神社で...」
「覚えておられますね。あなたは私どもが呼び寄せたのです」
ミカエルは部屋の中の椅子を指差した。
「どうぞ、お座りください。詳しく説明させていただきます」
玲奈は指示された椅子に座った。椅子も美しい作りで、座り心地が良い。クッションは柔らかくて、まるで雲の上に座っているような感覚だった。
ミカエルも向かいの椅子に座り、玲奈の目をまっすぐ見つめた。
「まず、この世界に来ていただいたことを、心からお礼申し上げます」
「いえ、私の方こそ...でも、まだ状況がよく分からなくて」
「当然です。順を追って説明いたします」
ミカエルは穏やかな声で話し始めた。
「玲奈さん、あなたには特別な使命があります」
「使命...」
「信じられないかもしれませんが、この世界は愛によって創られました」
ミカエルは厳粛な表情で続ける。
「創世神アリエル様が、愛する人のために創られた世界なのです」
「神様が、恋をしたの?」
玲奈の瞳が輝いた。神様の恋。なんてロマンチックな話だろう。昨日自分が言った「恋は世界を変える」という言葉が、まさに現実になっている。
「はい。アリエル様は深く、純粋に愛されました。その愛があまりにも美しく強かったため、愛する人のために一つの世界を創造されたのです」
ミカエルは窓の方を向いた。
「この美しい世界のすべてが、愛によって生まれたのです。花々、森、空、川、すべてが愛の産物なのです」
「素敵...」
玲奈は感動していた。愛によって創られた世界。自分が昨日言った言葉が、まさに現実になっている。
「しかし...」
ミカエルの表情が曇った。
「その愛する人は、既にこの世にはおられません」
「それって...」
玲奈の胸が痛んだ。愛する人を失うことの悲しみを、自分のことのように感じる。
「アリエル様は深い悲しみに沈まれました。愛する人がいない世界に、もはや意味を見出せなくなってしまわれたのです」
「そんな...神様がそんなに悲しまれるなんて」
「そして、その悲しみによって、この世界は崩壊し始めているのです」
ミカエルは重々しく告白した。
「崩壊?」
「神様の恋が終わったために、世界が終わろうとしているのです」
玲奈は息を呑んだ。
「本当だったんだ...恋が終わると世界が終わるって」
昨日自分が言った言葉が、まさか現実になるとは思わなかった。でも、今それが目の前の現実として提示されている。
「最初は小さな変化でした。花の色が少しずつ薄くなり、鳥たちの歌声が悲しげになり、人々の笑顔が少なくなっていきました」
ミカエルは悲しそうに続ける。
「そして今、崩壊は加速しています。このままでは、数ヶ月のうちにこの世界は完全に消失してしまうでしょう」
「そんなことが...でも、どうして私が?」
「あなたは昨日、神社で祈りをささげられましたね」
「はい」
玲奈は頷いた。
「『世界のどこかで恋が終わって困っている人がいたら、私がその恋を引き受けてもいいです』と」
「はい、確かに言いました」
玲奈は確信を持って答えた。心の底からの純粋な願いだった。
「その純粋な心を、アリエル様は受け取られました」
ミカエルは立ち上がって、玲奈の前に膝をついた。その姿勢は、心からの敬意を表していた。
「玲奈さん、あなたには特別な力があります。純粋で強い愛の心を持っている」
「私に?」
玲奈は自分を指差した。
「はい。あなたに、神様の代わりに恋をしていただきたいのです」
「代わりに?」
玲奈は理解に苦しんでいた。
「アリエル様が愛された人の記憶を継承していただき、その恋を再び紡いでもらいたいのです」
「記憶を継承?」
「はい。特別な儀式によって、神様の愛された人の記憶と感情をあなたに移します。そして、あなたにはその人として、新たな恋を始めていただくのです」
玲奈は混乱していた。
「でも、それって演技ということですか?」
「最初はそうかもしれません。しかし、愛とは不思議なものです。演じているうちに、本物になることがあります」
ミカエルは優しく微笑んだ。
「そして、あなたには本物の愛を育む力があると、私たちは信じています」
「でも、私、普通の高校生ですよ?そんな大それたこと...」
「あなたなら大丈夫です。昨日の祈りを聞いて、確信いたしました」
ミカエルは真剣な眼差しで玲奈を見つめる。
「世界を救えるのは、あなただけなのです」
「世界を救う...」
玲奈は再び窓の外を見た。美しい景色が広がっている。緑豊かな森と、遠くに見える町。そこには人々の生活があり、きっと愛し合う人たちもいるだろう。家族、恋人、友人。様々な形の愛がそこにはある。
「この世界の人たちも、みんな私と同じように生きているんですよね」
「はい。そして、皆あなたの決断を待っています」
玲奈は振り返った。
「もし私がその使命を引き受けなかったら?」
「世界は崩壊し、すべてが終わってしまいます。愛し合う人たちも、家族も、すべてが失われてしまうのです」
ミカエルの声は重かった。
「どれほどの人々がこの世界で生きているのですか?」
「数百万の人々が暮らしています。そして、それぞれに愛する人がいて、大切な思い出があります」
玲奈は深く息を吸った。数百万の人々の命と幸せが、自分の決断にかかっている。これは重大な責任だった。でも、心の中では既に答えが出ている。
困っている人を放っておけない。それが玲奈の性格だった。目の前に助けを求めている人がいれば、必ず手を差し伸べる。たとえそれが自分にとって大変なことでも。
「分かりました」
「玲奈さん...」
「私、やります。その使命、引き受けます」
玲奈の瞳が決意に満ちていた。
「恋って、人を幸せにするものでしょ?だったら、世界だって幸せにできるはず。それに、困っている人を放っておけないんです」
ミカエルは安堵の表情を浮かべた。
「ありがとうございます。しかし、簡単な道のりではありません。神様の恋を代役として演じることの難しさ、そして...」
「そして?」
「あなた自身の心にも、大きな変化が起こるかもしれません。他人の記憶と感情を受け入れることで、あなたの心は複雑になるでしょう」
玲奈は少し不安になったが、すぐに微笑んだ。
「大丈夫です。私、人を幸せにするのが好きなんです。それに...」
玲奈は少し恥ずかしそうに続けた。
「もしかしたら私も、素敵な恋ができるかもしれないし」
「そうですね。きっと、あなたにとっても特別な体験になるでしょう」
ミカエルは暖かく微笑んだ。
「明日から、あなたの新しい生活が始まります」
「新しい生活...」
玲奈は胸が高鳴るのを感じた。不安もあるけれど、それよりも期待の方が大きかった。
「あの、一つだけ教えてください」
「何でしょうか」
「神様が愛された人って、どんな人だったんですか?」
ミカエルは少し悲しそうな表情を浮かべた。
「それは、記憶を継承された時に分かります。しかし、一つだけ言えることは...」
「はい」
「とても美しい魂を持った人でした。あなたのように」
玲奈は頬を赤らめた。
「私なんて、まだまだです」
「いえ、あなたには人を愛する力があります。それが何よりも大切なのです」
ミカエルは立ち上がった。
「明日、記憶継承の儀式を行います。そして、あなたは神様の愛された人として、新たな恋を始めることになるのです」
「相手の方は...どなたなんですか?」
玲奈は恥ずかしそうに聞いた。
「それも明日分かります。しかし、とても素晴らしい方です。あなたなら、きっと愛することができるでしょう」
ミカエルは意味深に微笑んだ。
「今日はゆっくりお休みください。明日からは、忙しくなりますから」
「はい、ありがとうございます」
ミカエルが部屋を出ていくと、玲奈は一人になった。窓の外を見ると、夕日がエテルナの空を美しく染めている。地球で見る夕日よりもはるかに美しく、まるで絵画のような美しさだった。
「明日から、新しい人生が始まるんだ」
玲奈は胸に手を当てた。心臓が高鳴っている。期待と不安が入り交じっているが、それよりも強いのは使命感だった。
「世界を救う...私にできるかな」
でも、やると決めたのだ。困っている人を助けるために、自分にできることをしよう。
そして、もしかしたら自分も素敵な恋ができるかもしれない。その期待も、玲奈の心を温かくしていた。
夜が更けて、エテルナの美しい星空が部屋を照らし始めた。玲奈の新しい物語が、いよいよ始まろうとしていた。
最初に感じたのは、柔らかな光だった。瞼の向こうに温かく優しい光が差し込んでいる。それは地球で見慣れた太陽の光とは違う、もっと神秘的で美しい光だった。
次に感じたのは、肌に触れる上質な生地の感触だった。シーツは絹のようになめらかで、まるで雲の上に横たわっているような心地よさがある。
「ここ、どこ?」
玲奈はゆっくりと目を開けた。天井を見上げると、そこには息を呑むような美しさが広がっていた。
ドーム型の高い天井には、美しいフレスコ画が描かれている。天使たちが舞い踊る様子が表現されていて、その一つ一つが生きているかのような躍動感を持っている。金色と青色を基調とした色彩は、見る者の心を神聖な気持ちにさせる。
玲奈は体を起こして周りを見回した。そこは白い大理石でできた美しい部屋だった。壁面には精緻な彫刻が施されていて、古代の職人たちの技術の高さを物語っている。
部屋の東側には大きなステンドグラスの窓があり、そこから差し込む光が床に色とりどりの光の模様を作っている。赤、青、緑、黄色。様々な色の光が部屋の中を彩って、まるで宝石箱の中にいるような美しさだった。
「夢...じゃないんだ」
玲奈は自分の体を見下ろして驚いた。いつの間にか、白いドレスのような服を着ている。それは中世の貴族の服のような上品なデザインで、スカート部分は足首まであり、袖は長めになっている。
生地は絹のような質感で、胸元には美しい刺繍が施されている。細かい金糸で花の模様が描かれていて、光の角度によってきらきらと輝く。明らかに高級品で、手作りの温かみを感じさせる。
「本当に異世界に来たんだ...」
玲奈は立ち上がって、部屋の中を歩き回った。足音が大理石の床に響いて、その音さえも美しく聞こえる。
家具もすべてが美術品のように美しかった。ベッドは天蓋付きの豪華なもので、カーテンは薄い水色の絹でできている。机は古い木材で作られているが、細部まで丁寧に彫刻が施されている。
壁には古い絵画が飾られていて、その中には見たこともない風景や人物が描かれている。一つの絵画に、玲奈は特に心を奪われた。それは美しい庭園を描いた絵で、色とりどりの花々が咲き乱れている。
その庭園の中央には噴水があって、水が美しいアーチを描いて踊っている。そして、その庭園を歩く人影が描かれていた。その人影は優雅で美しく、まるで絵の中から今にも出てきそうなほどリアルだった。
「きっと、神様が愛された人なんだろうな」
玲奈はそう思いながら、絵をじっと見つめた。
窓に近づくと、外の景色が見えた。そこには、地球では見たことのない美しい世界が広がっていた。
まず目に飛び込んできたのは、広大な庭園だった。そこには見たこともない花々が咲いている。花の色や形も地球では見たことがないもので、まるで宝石のような輝きを放っている。青い花は空よりも深い青色で、赤い花は炎のような美しさを持っている。
庭園の中には小川が流れていて、その水は水晶のように透明だった。小川に架かる橋は白い石でできていて、まるで雲の上に架かっているかのような幻想的な美しさがある。
庭園の向こうには森が広がっていて、木々の緑は地球の森よりもはるかに深く美しい。そして、その森の向こうに小さな町が見える。建物の様式は明らかに現代日本とは違っていて、まるでヨーロッパの中世のような雰囲気だった。
でも、ヨーロッパの建物とも少し違う。もっと幻想的で、魔法的な美しさを持っている。塔の先端は金色に輝き、屋根は虹色の瓦でできているように見える。
空の色も地球とは違っていた。青い空なのは同じだが、もっと透明感があって、深い青色をしている。雲も、もっと美しい形をしていて、まるで絵画の中の雲のようだった。
そして、空には見たことのない鳥たちが飛んでいる。羽根が虹色に輝いていて、飛ぶ様子がとても優雅だった。その鳥たちの鳴き声も美しくて、まるで歌を歌っているかのようだった。
「すごい...本当に美しい世界」
玲奈は感動で声を震わせた。
その時、扉がノックされた。
「どうぞ」
玲奈は反射的に答えた。扉がゆっくりと開いて、現れたのは威厳のある中年の男性だった。
身長は180センチほどで、がっしりとした体格をしている。白髪交じりの髪は丁寧に整えられていて、深い緑の瞳が印象的だった。神官のような白い服を着ていて、その胸元には金色の十字架のような印がある。
男性の顔には深い皺が刻まれているが、それは苦労の皺ではなく、長年の経験と知恵を表す皺だった。目元には優しさがあって、父親のような暖かさを感じさせる。
「お目覚めになりましたね」
男性は丁寧に頭を下げた。その仕草には品格があり、長年の修行を積んだ人特有の静けさがあった。声も深くて落ち着いていて、聞いているだけで心が安らぐような響きがある。
「あの、あなたは?」
玲奈は警戒しながらも、礼儀正しく聞いた。この人からは悪意を感じない。むしろ、深い慈愛を感じる。まるで、長い間玲奈のことを心配していてくれたかのような、そんな暖かさがある。
「私はミカエル。この神殿の司祭長を務めております」
男性は丁寧に自己紹介した。
「神殿?」
「はい。ここはエテルナ世界の聖なる神殿です」
「エテルナ世界...」
玲奈は神社で聞いた神様の言葉を思い出した。確かに、エテルナという世界に来ると言われていた。
「エテルナ...永遠という意味ですね」
「その通りです。あなたは賢い方ですね」
ミカエルが微笑む。その笑顔は本当に暖かくて、玲奈の緊張を和らげる。
「あの、私、確か神社で...」
「覚えておられますね。あなたは私どもが呼び寄せたのです」
ミカエルは部屋の中の椅子を指差した。
「どうぞ、お座りください。詳しく説明させていただきます」
玲奈は指示された椅子に座った。椅子も美しい作りで、座り心地が良い。クッションは柔らかくて、まるで雲の上に座っているような感覚だった。
ミカエルも向かいの椅子に座り、玲奈の目をまっすぐ見つめた。
「まず、この世界に来ていただいたことを、心からお礼申し上げます」
「いえ、私の方こそ...でも、まだ状況がよく分からなくて」
「当然です。順を追って説明いたします」
ミカエルは穏やかな声で話し始めた。
「玲奈さん、あなたには特別な使命があります」
「使命...」
「信じられないかもしれませんが、この世界は愛によって創られました」
ミカエルは厳粛な表情で続ける。
「創世神アリエル様が、愛する人のために創られた世界なのです」
「神様が、恋をしたの?」
玲奈の瞳が輝いた。神様の恋。なんてロマンチックな話だろう。昨日自分が言った「恋は世界を変える」という言葉が、まさに現実になっている。
「はい。アリエル様は深く、純粋に愛されました。その愛があまりにも美しく強かったため、愛する人のために一つの世界を創造されたのです」
ミカエルは窓の方を向いた。
「この美しい世界のすべてが、愛によって生まれたのです。花々、森、空、川、すべてが愛の産物なのです」
「素敵...」
玲奈は感動していた。愛によって創られた世界。自分が昨日言った言葉が、まさに現実になっている。
「しかし...」
ミカエルの表情が曇った。
「その愛する人は、既にこの世にはおられません」
「それって...」
玲奈の胸が痛んだ。愛する人を失うことの悲しみを、自分のことのように感じる。
「アリエル様は深い悲しみに沈まれました。愛する人がいない世界に、もはや意味を見出せなくなってしまわれたのです」
「そんな...神様がそんなに悲しまれるなんて」
「そして、その悲しみによって、この世界は崩壊し始めているのです」
ミカエルは重々しく告白した。
「崩壊?」
「神様の恋が終わったために、世界が終わろうとしているのです」
玲奈は息を呑んだ。
「本当だったんだ...恋が終わると世界が終わるって」
昨日自分が言った言葉が、まさか現実になるとは思わなかった。でも、今それが目の前の現実として提示されている。
「最初は小さな変化でした。花の色が少しずつ薄くなり、鳥たちの歌声が悲しげになり、人々の笑顔が少なくなっていきました」
ミカエルは悲しそうに続ける。
「そして今、崩壊は加速しています。このままでは、数ヶ月のうちにこの世界は完全に消失してしまうでしょう」
「そんなことが...でも、どうして私が?」
「あなたは昨日、神社で祈りをささげられましたね」
「はい」
玲奈は頷いた。
「『世界のどこかで恋が終わって困っている人がいたら、私がその恋を引き受けてもいいです』と」
「はい、確かに言いました」
玲奈は確信を持って答えた。心の底からの純粋な願いだった。
「その純粋な心を、アリエル様は受け取られました」
ミカエルは立ち上がって、玲奈の前に膝をついた。その姿勢は、心からの敬意を表していた。
「玲奈さん、あなたには特別な力があります。純粋で強い愛の心を持っている」
「私に?」
玲奈は自分を指差した。
「はい。あなたに、神様の代わりに恋をしていただきたいのです」
「代わりに?」
玲奈は理解に苦しんでいた。
「アリエル様が愛された人の記憶を継承していただき、その恋を再び紡いでもらいたいのです」
「記憶を継承?」
「はい。特別な儀式によって、神様の愛された人の記憶と感情をあなたに移します。そして、あなたにはその人として、新たな恋を始めていただくのです」
玲奈は混乱していた。
「でも、それって演技ということですか?」
「最初はそうかもしれません。しかし、愛とは不思議なものです。演じているうちに、本物になることがあります」
ミカエルは優しく微笑んだ。
「そして、あなたには本物の愛を育む力があると、私たちは信じています」
「でも、私、普通の高校生ですよ?そんな大それたこと...」
「あなたなら大丈夫です。昨日の祈りを聞いて、確信いたしました」
ミカエルは真剣な眼差しで玲奈を見つめる。
「世界を救えるのは、あなただけなのです」
「世界を救う...」
玲奈は再び窓の外を見た。美しい景色が広がっている。緑豊かな森と、遠くに見える町。そこには人々の生活があり、きっと愛し合う人たちもいるだろう。家族、恋人、友人。様々な形の愛がそこにはある。
「この世界の人たちも、みんな私と同じように生きているんですよね」
「はい。そして、皆あなたの決断を待っています」
玲奈は振り返った。
「もし私がその使命を引き受けなかったら?」
「世界は崩壊し、すべてが終わってしまいます。愛し合う人たちも、家族も、すべてが失われてしまうのです」
ミカエルの声は重かった。
「どれほどの人々がこの世界で生きているのですか?」
「数百万の人々が暮らしています。そして、それぞれに愛する人がいて、大切な思い出があります」
玲奈は深く息を吸った。数百万の人々の命と幸せが、自分の決断にかかっている。これは重大な責任だった。でも、心の中では既に答えが出ている。
困っている人を放っておけない。それが玲奈の性格だった。目の前に助けを求めている人がいれば、必ず手を差し伸べる。たとえそれが自分にとって大変なことでも。
「分かりました」
「玲奈さん...」
「私、やります。その使命、引き受けます」
玲奈の瞳が決意に満ちていた。
「恋って、人を幸せにするものでしょ?だったら、世界だって幸せにできるはず。それに、困っている人を放っておけないんです」
ミカエルは安堵の表情を浮かべた。
「ありがとうございます。しかし、簡単な道のりではありません。神様の恋を代役として演じることの難しさ、そして...」
「そして?」
「あなた自身の心にも、大きな変化が起こるかもしれません。他人の記憶と感情を受け入れることで、あなたの心は複雑になるでしょう」
玲奈は少し不安になったが、すぐに微笑んだ。
「大丈夫です。私、人を幸せにするのが好きなんです。それに...」
玲奈は少し恥ずかしそうに続けた。
「もしかしたら私も、素敵な恋ができるかもしれないし」
「そうですね。きっと、あなたにとっても特別な体験になるでしょう」
ミカエルは暖かく微笑んだ。
「明日から、あなたの新しい生活が始まります」
「新しい生活...」
玲奈は胸が高鳴るのを感じた。不安もあるけれど、それよりも期待の方が大きかった。
「あの、一つだけ教えてください」
「何でしょうか」
「神様が愛された人って、どんな人だったんですか?」
ミカエルは少し悲しそうな表情を浮かべた。
「それは、記憶を継承された時に分かります。しかし、一つだけ言えることは...」
「はい」
「とても美しい魂を持った人でした。あなたのように」
玲奈は頬を赤らめた。
「私なんて、まだまだです」
「いえ、あなたには人を愛する力があります。それが何よりも大切なのです」
ミカエルは立ち上がった。
「明日、記憶継承の儀式を行います。そして、あなたは神様の愛された人として、新たな恋を始めることになるのです」
「相手の方は...どなたなんですか?」
玲奈は恥ずかしそうに聞いた。
「それも明日分かります。しかし、とても素晴らしい方です。あなたなら、きっと愛することができるでしょう」
ミカエルは意味深に微笑んだ。
「今日はゆっくりお休みください。明日からは、忙しくなりますから」
「はい、ありがとうございます」
ミカエルが部屋を出ていくと、玲奈は一人になった。窓の外を見ると、夕日がエテルナの空を美しく染めている。地球で見る夕日よりもはるかに美しく、まるで絵画のような美しさだった。
「明日から、新しい人生が始まるんだ」
玲奈は胸に手を当てた。心臓が高鳴っている。期待と不安が入り交じっているが、それよりも強いのは使命感だった。
「世界を救う...私にできるかな」
でも、やると決めたのだ。困っている人を助けるために、自分にできることをしよう。
そして、もしかしたら自分も素敵な恋ができるかもしれない。その期待も、玲奈の心を温かくしていた。
夜が更けて、エテルナの美しい星空が部屋を照らし始めた。玲奈の新しい物語が、いよいよ始まろうとしていた。
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私の願いは一瞬にして踏みにじられました。
母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、
婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。
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子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。
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それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、
冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。
没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。
これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。
※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ
※わんこが繋ぐ恋物語です
※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ
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