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第一章:召喚 ― 世界の終わりと新たな使命
第2話:神社での祈りと異世界召喚
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翌日の放課後、玲奈は一人で地元の小さな神社を訪れた。昨夜から胸の奥で感じていた不思議な予感が、彼女の足を自然とその場所へ向かわせていた。
神社に向かう道は緩やかな上り坂になっていて、両側には昔ながらの住宅が立ち並んでいる。午後の陽光が石畳を照らし、所々に散った桜の花びらが風に舞っている。歩きながら、玲奈は昨日の友人たちとの会話を思い返していた。
「恋は世界を変える...」
自分で言った言葉だったが、なぜかその言葉が心の奥深くで響き続けている。まるで、ずっと昔から知っていた真実のような感覚だった。
神社までの道のりは約十五分。途中には小さな商店街があって、昔ながらの個人商店が軒を連ねている。八百屋のおばあさんが店先で野菜を並べ、和菓子屋からは甘い香りが漂ってくる。どの店も地域の人たちとの長いつながりを大切にしていて、温かい雰囲気に満ちている。
「こんにちは」
玲奈は通りすがりの人たちに挨拶をしながら歩いた。この街で生まれ育った彼女にとって、ここは特別な場所だった。子供の頃から慣れ親しんだ風景、優しい人たち。でも今日は、いつもと何かが違うような気がした。
空の色が少し違って見える。雲の形がいつもより美しく、鳥たちの鳴き声も心に響く。まるで世界全体が、何か特別なことを待っているかのような雰囲気だった。
神社に到着すると、玲奈は深呼吸をした。ここは子供の頃からよく来ている場所で、困った時や願い事がある時に足を向ける特別な場所だった。小さな神社だが、地域の人たちに愛され続けている歴史ある神社だ。
鳥居の前で一礼してから境内に入る。鳥居をくぐると、空気が変わったような感覚になる。都市部の喧騒から離れて、静寂と神聖な雰囲気に包まれる。今日は平日の夕方ということもあって、参拝者は他にいない。
境内までの石段を上りながら、玲奈は心を静めていく。一段一段を丁寧に上りながら、日常の雑念を取り払っていく。純粋な気持ちで神様と向き合いたかった。
石段は全部で二十段ほどある。普段なら一気に駆け上がるところだが、今日はなぜかゆっくりと上りたい気分だった。各段に刻まれた歳月の痕跡を感じながら、一歩一歩確実に上っていく。
神社は小さいながらも、丁寧に手入れされていた。境内は静寂に包まれていて、桜の花びらが石畳に散っている。風が吹くたびに花びらがひらひらと舞い上がり、まるで神様が玲奈を歓迎してくれているかのようだった。
本殿は古い建物だが、威厳と美しさを保っている。屋根の曲線は優雅で、細部の彫刻も見事だった。長い間、多くの人たちの祈りを受け止めてきた建物の持つ、独特の雰囲気がある。
玲奈は手水舎で手と口を清めてから、本殿の前に立った。賽銭箱にお金を入れて、鈴を鳴らす。その音が境内に響いて、静寂をより深いものにしていく。
「こんにちは」
玲奈は本殿に向かって深々と頭を下げた。手を合わせて、目を閉じる。心の中で、神様への挨拶をする。
「いつもお世話になっております。今日も一日、無事に過ごすことができました。ありがとうございます」
まずは感謝の気持ちを伝える。これは玲奈の習慣だった。願い事をする前に、必ず感謝の気持ちを伝える。今日という日を無事に過ごせたこと、家族が健康でいること、友人たちと楽しい時間を過ごせること。当たり前のように思えることも、実はとても貴重で感謝すべきことなのだ。
風が吹いて、桜の花びらがより多く舞い散った。玲奈の髪や制服にも花びらが付着して、彼女を桜色に染めていく。
「えーっと、今日は特別なお願いがあるわけじゃないんですけど...」
玲奈は少し躊躇してから続けた。心の中で、どう表現すればいいのか迷っている。自分でもよく分からない感情を、どう言葉にすればいいのだろう。
「でも、昨日友達と話していて思ったことがあるんです。恋って、本当に素敵なものですよね」
玲奈の声は次第に確信に満ちたものになっていく。
「もし本当に恋が世界を変えることができるなら、私にもそんな恋をさせてください」
風がさらに強く吹いて、桜の花びらが舞い上がる。まるで玲奈の言葉に反応しているかのようだった。花びらの一枚が玲奈の頬に触れて、優しく頬を撫でていく。
「人を幸せにできる、そんな恋がしたいんです。相手の人も、私も、そして周りのみんなも幸せになれるような恋。お互いを大切に思って、相手の幸せを心から願えるような関係を築きたいんです」
玲奈は心を込めて祈った。この想いは、ただの憧れではない。もっと深い、魂の奥底からの願いだった。まるで、自分がそのために生まれてきたかのような感覚。
「私、恋愛経験はあまりありません。でも、愛することの素晴らしさは分かります。家族を見ていても、友人たちを見ていても、愛し合うことで人は強くなり、優しくなれるんだって分かります」
玲奈の声は次第に熱を帯びてきた。
「だから、もし世界のどこかで恋が終わって困っている人がいたら、私がその恋を引き受けてもいいです」
その言葉を口にした瞬間、玲奈の心の奥で何かが動いた。まるで、長い間眠っていた何かが目覚めたような感覚。
「だって、恋って幸せなものでしょ?悲しい恋なんて、あってはいけないと思うんです。愛し合うことで悲しまなければならないなんて、そんなのおかしいです」
玲奈の目には涙が浮かんでいた。それは悲しみの涙ではなく、強い想いから溢れ出た涙だった。
「誰かが愛する人を失って悲しんでいるなら、私がその人の代わりに愛します。誰かが愛されずに寂しい思いをしているなら、私がその人を愛します。愛って、きっとそういうものですよね」
その時、突然強い風が吹いた。玲奈の髪が激しく舞い上がり、制服のスカートも翻る。でも、この風は普通の風ではなかった。まるで意志を持っているかのような、神秘的な力を感じる。
「あれ?」
空を見上げると、さっきまで晴れていた空が急に暗くなっている。雲が異常な速さで集まってきて、まるで時間が早送りされているかのようだった。でも、これは普通の雲ではない。どこか幻想的で、現実離れした美しさを持っている。
雲は金色に輝いていて、その中から柔らかな光が差し込んできている。夕日の光とは明らかに違う、もっと神秘的で聖なる光だった。
「雨が降るのかな」
玲奈は慌てて鞄を抱えた。でも、雨が降る気配はない。むしろ、空気が電気を帯びたような感覚がある。何か特別なことが起こる前兆のような、緊張感に満ちた空気。
その時、本殿の奥から不思議な光が差し込んできた。
「え?」
玲奈は目を見開く。光は金色で、まるで太陽そのもののような暖かさを持っていた。でも、太陽の光とは明らかに違う。もっと神秘的で、聖なる感じがする。光の中には、微かに人の形が見えるような気がした。
光はだんだん強くなって、玲奈の体を包み込む。最初は眩しくて目を閉じそうになったが、不思議と心地よい感覚だった。まるで、母親の腕の中にいるような安心感。
「これ、何?」
恐怖よりも好奇心が勝っていた。光は暖かくて、なぜか懐かしい感じがする。まるで、ずっと昔に体験したことがあるような感覚だった。記憶の奥底で、誰かが優しく微笑んでいるような映像が浮かんでくる。
光の中で、玲奈は美しい映像を見た。広大な庭園、空に浮かぶ城、そして深い悲しみに暮れる美しい人影。その人は光に包まれていて、神々しい雰囲気を持っていた。きっと神様なのだろう。
そして、その神様が愛した人の姿も見えた。愛された人は、この世のものとは思えないほど美しかった。でも、その美しさは外見だけではない。魂の美しさ、心の純粋さが外にあふれ出ているような、そんな美しさだった。
神様がこの人を愛したのも分かる。こんなに美しい魂を持った人なら、誰もが愛さずにはいられないだろう。でも、その人はもうこの世にはいない。神様の深い悲しみが、玲奈の心にも伝わってくる。
「神様...こんなに悲しんでいるんだ」
玲奈の目から涙がこぼれ落ちた。他人の悲しみを、まるで自分のことのように感じてしまう。これが玲奈の特質だった。共感能力が人よりもずっと強く、他人の感情を自分の感情として受け取ってしまう。
「もしかして、神様が私の願いを聞いてくれたの?」
玲奈がそう思った瞬間、光がさらに強くなった。周囲の景色が光に包まれて見えなくなる。でも、恐怖はない。むしろ、期待感で胸が高鳴っている。
『あなたの願いを聞き入れましょう。純粋な心を持つ少女よ』
光の中から、優しくて慈愛に満ちた声が聞こえてきた。それは確かに神様の声だった。威厳がありながらも、深い愛情に満ちている。
「神様...」
玲奈は光の中で声を震わせた。
『この世界には、あなたのような人が必要なのです。愛することの素晴らしさを知り、他人の幸せを心から願える人。そして、自分を犠牲にしてでも、他人を救おうとする勇気を持った人』
「私なんて、まだまだです」
玲奈は光の中で答えた。
『いえ、あなたは特別な存在です。あなたの心には、世界を変える力があります。その力を使って、失われた愛を取り戻してください』
「失われた愛?」
『私が愛した人は、もうこの世にはいません。でも、その魂は別の形で存在しています。あなたに、その人への愛を託します』
玲奈は理解できずにいた。でも、心の奥底では受け入れている自分がいた。これが自分の使命なのだ、という確信があった。
『あなたは、愛によって創られた世界を救うことができます。そのために、別の世界に来ていただきたいのです』
「別の世界?」
『エテルナという世界です。そこで、あなたには新しい恋を始めていただきます。失われた愛を取り戻すために』
「うわあああ!」
体が浮き上がるような感覚。重力から解放されて、まるで雲の上を歩いているような感じだった。でも、落下しているのではない。むしろ、上昇している感覚。空に向かって、光に導かれて上がっていく。
玲奈は目を開けようとしたが、あまりの光の強さに目を開けていられない。でも、心の目では周囲の様子がはっきりと見えた。自分が金色の光の中を移動していること、現実の世界から別の世界へと移動していることが分かった。
「これって、まさか...異世界転移?」
玲奈は小説や漫画でよく見るシチュエーションを思い出した。でも、これは現実に起こっていることだった。体のすべての細胞が、それを実感として受け取っている。
光の中を移動しながら、玲奈は不思議な安心感に包まれていた。これは正しいことなのだ、という確信があった。自分が生まれてきた理由、自分に与えられた使命。すべてがつながっているような気がした。
『心配はいりません。あなたは一人ではありません。きっと、素晴らしい出会いが待っています』
神様の声が、玲奈の心を慰めるように響く。
『愛とは何か、真の幸せとは何かを、あなたはそこで学ぶでしょう。そして、あなた自身も真の愛を見つけることができるはずです』
「私も、愛を見つけることができるんですか?」
『はい。あなたの純粋な心なら、きっと本物の愛を育むことができるでしょう。代役から始まった恋が、本物になることもあるのです』
玲奈の心は期待で満たされた。世界を救うという大きな使命と同時に、自分自身の幸せも見つけることができるかもしれない。
光はさらに強くなり、玲奈の意識は次第に遠のいていく。最後に聞こえたのは、神様の温かい声だった。
『頑張って、玲奈。あなたなら、きっとできます』
そして、玲奈の意識は光の中に溶けていった。
神社には、散り続ける桜の花びらだけが残された。風が吹いて、花びらが舞い上がる。まるで、玲奈の旅立ちを祝福しているかのように。
空は再び青く晴れ渡り、雲は何事もなかったかのように流れていく。でも、確かに奇跡が起こったのだ。一人の少女が、愛によって創られた世界を救うために、新たな世界へと旅立っていったのだ。
桜の花びらが最後の一枚、ひらりと舞い散った時、すべてが静寂に包まれた。玲奈の新しい物語が、いよいよ始まろうとしていた。
神社に向かう道は緩やかな上り坂になっていて、両側には昔ながらの住宅が立ち並んでいる。午後の陽光が石畳を照らし、所々に散った桜の花びらが風に舞っている。歩きながら、玲奈は昨日の友人たちとの会話を思い返していた。
「恋は世界を変える...」
自分で言った言葉だったが、なぜかその言葉が心の奥深くで響き続けている。まるで、ずっと昔から知っていた真実のような感覚だった。
神社までの道のりは約十五分。途中には小さな商店街があって、昔ながらの個人商店が軒を連ねている。八百屋のおばあさんが店先で野菜を並べ、和菓子屋からは甘い香りが漂ってくる。どの店も地域の人たちとの長いつながりを大切にしていて、温かい雰囲気に満ちている。
「こんにちは」
玲奈は通りすがりの人たちに挨拶をしながら歩いた。この街で生まれ育った彼女にとって、ここは特別な場所だった。子供の頃から慣れ親しんだ風景、優しい人たち。でも今日は、いつもと何かが違うような気がした。
空の色が少し違って見える。雲の形がいつもより美しく、鳥たちの鳴き声も心に響く。まるで世界全体が、何か特別なことを待っているかのような雰囲気だった。
神社に到着すると、玲奈は深呼吸をした。ここは子供の頃からよく来ている場所で、困った時や願い事がある時に足を向ける特別な場所だった。小さな神社だが、地域の人たちに愛され続けている歴史ある神社だ。
鳥居の前で一礼してから境内に入る。鳥居をくぐると、空気が変わったような感覚になる。都市部の喧騒から離れて、静寂と神聖な雰囲気に包まれる。今日は平日の夕方ということもあって、参拝者は他にいない。
境内までの石段を上りながら、玲奈は心を静めていく。一段一段を丁寧に上りながら、日常の雑念を取り払っていく。純粋な気持ちで神様と向き合いたかった。
石段は全部で二十段ほどある。普段なら一気に駆け上がるところだが、今日はなぜかゆっくりと上りたい気分だった。各段に刻まれた歳月の痕跡を感じながら、一歩一歩確実に上っていく。
神社は小さいながらも、丁寧に手入れされていた。境内は静寂に包まれていて、桜の花びらが石畳に散っている。風が吹くたびに花びらがひらひらと舞い上がり、まるで神様が玲奈を歓迎してくれているかのようだった。
本殿は古い建物だが、威厳と美しさを保っている。屋根の曲線は優雅で、細部の彫刻も見事だった。長い間、多くの人たちの祈りを受け止めてきた建物の持つ、独特の雰囲気がある。
玲奈は手水舎で手と口を清めてから、本殿の前に立った。賽銭箱にお金を入れて、鈴を鳴らす。その音が境内に響いて、静寂をより深いものにしていく。
「こんにちは」
玲奈は本殿に向かって深々と頭を下げた。手を合わせて、目を閉じる。心の中で、神様への挨拶をする。
「いつもお世話になっております。今日も一日、無事に過ごすことができました。ありがとうございます」
まずは感謝の気持ちを伝える。これは玲奈の習慣だった。願い事をする前に、必ず感謝の気持ちを伝える。今日という日を無事に過ごせたこと、家族が健康でいること、友人たちと楽しい時間を過ごせること。当たり前のように思えることも、実はとても貴重で感謝すべきことなのだ。
風が吹いて、桜の花びらがより多く舞い散った。玲奈の髪や制服にも花びらが付着して、彼女を桜色に染めていく。
「えーっと、今日は特別なお願いがあるわけじゃないんですけど...」
玲奈は少し躊躇してから続けた。心の中で、どう表現すればいいのか迷っている。自分でもよく分からない感情を、どう言葉にすればいいのだろう。
「でも、昨日友達と話していて思ったことがあるんです。恋って、本当に素敵なものですよね」
玲奈の声は次第に確信に満ちたものになっていく。
「もし本当に恋が世界を変えることができるなら、私にもそんな恋をさせてください」
風がさらに強く吹いて、桜の花びらが舞い上がる。まるで玲奈の言葉に反応しているかのようだった。花びらの一枚が玲奈の頬に触れて、優しく頬を撫でていく。
「人を幸せにできる、そんな恋がしたいんです。相手の人も、私も、そして周りのみんなも幸せになれるような恋。お互いを大切に思って、相手の幸せを心から願えるような関係を築きたいんです」
玲奈は心を込めて祈った。この想いは、ただの憧れではない。もっと深い、魂の奥底からの願いだった。まるで、自分がそのために生まれてきたかのような感覚。
「私、恋愛経験はあまりありません。でも、愛することの素晴らしさは分かります。家族を見ていても、友人たちを見ていても、愛し合うことで人は強くなり、優しくなれるんだって分かります」
玲奈の声は次第に熱を帯びてきた。
「だから、もし世界のどこかで恋が終わって困っている人がいたら、私がその恋を引き受けてもいいです」
その言葉を口にした瞬間、玲奈の心の奥で何かが動いた。まるで、長い間眠っていた何かが目覚めたような感覚。
「だって、恋って幸せなものでしょ?悲しい恋なんて、あってはいけないと思うんです。愛し合うことで悲しまなければならないなんて、そんなのおかしいです」
玲奈の目には涙が浮かんでいた。それは悲しみの涙ではなく、強い想いから溢れ出た涙だった。
「誰かが愛する人を失って悲しんでいるなら、私がその人の代わりに愛します。誰かが愛されずに寂しい思いをしているなら、私がその人を愛します。愛って、きっとそういうものですよね」
その時、突然強い風が吹いた。玲奈の髪が激しく舞い上がり、制服のスカートも翻る。でも、この風は普通の風ではなかった。まるで意志を持っているかのような、神秘的な力を感じる。
「あれ?」
空を見上げると、さっきまで晴れていた空が急に暗くなっている。雲が異常な速さで集まってきて、まるで時間が早送りされているかのようだった。でも、これは普通の雲ではない。どこか幻想的で、現実離れした美しさを持っている。
雲は金色に輝いていて、その中から柔らかな光が差し込んできている。夕日の光とは明らかに違う、もっと神秘的で聖なる光だった。
「雨が降るのかな」
玲奈は慌てて鞄を抱えた。でも、雨が降る気配はない。むしろ、空気が電気を帯びたような感覚がある。何か特別なことが起こる前兆のような、緊張感に満ちた空気。
その時、本殿の奥から不思議な光が差し込んできた。
「え?」
玲奈は目を見開く。光は金色で、まるで太陽そのもののような暖かさを持っていた。でも、太陽の光とは明らかに違う。もっと神秘的で、聖なる感じがする。光の中には、微かに人の形が見えるような気がした。
光はだんだん強くなって、玲奈の体を包み込む。最初は眩しくて目を閉じそうになったが、不思議と心地よい感覚だった。まるで、母親の腕の中にいるような安心感。
「これ、何?」
恐怖よりも好奇心が勝っていた。光は暖かくて、なぜか懐かしい感じがする。まるで、ずっと昔に体験したことがあるような感覚だった。記憶の奥底で、誰かが優しく微笑んでいるような映像が浮かんでくる。
光の中で、玲奈は美しい映像を見た。広大な庭園、空に浮かぶ城、そして深い悲しみに暮れる美しい人影。その人は光に包まれていて、神々しい雰囲気を持っていた。きっと神様なのだろう。
そして、その神様が愛した人の姿も見えた。愛された人は、この世のものとは思えないほど美しかった。でも、その美しさは外見だけではない。魂の美しさ、心の純粋さが外にあふれ出ているような、そんな美しさだった。
神様がこの人を愛したのも分かる。こんなに美しい魂を持った人なら、誰もが愛さずにはいられないだろう。でも、その人はもうこの世にはいない。神様の深い悲しみが、玲奈の心にも伝わってくる。
「神様...こんなに悲しんでいるんだ」
玲奈の目から涙がこぼれ落ちた。他人の悲しみを、まるで自分のことのように感じてしまう。これが玲奈の特質だった。共感能力が人よりもずっと強く、他人の感情を自分の感情として受け取ってしまう。
「もしかして、神様が私の願いを聞いてくれたの?」
玲奈がそう思った瞬間、光がさらに強くなった。周囲の景色が光に包まれて見えなくなる。でも、恐怖はない。むしろ、期待感で胸が高鳴っている。
『あなたの願いを聞き入れましょう。純粋な心を持つ少女よ』
光の中から、優しくて慈愛に満ちた声が聞こえてきた。それは確かに神様の声だった。威厳がありながらも、深い愛情に満ちている。
「神様...」
玲奈は光の中で声を震わせた。
『この世界には、あなたのような人が必要なのです。愛することの素晴らしさを知り、他人の幸せを心から願える人。そして、自分を犠牲にしてでも、他人を救おうとする勇気を持った人』
「私なんて、まだまだです」
玲奈は光の中で答えた。
『いえ、あなたは特別な存在です。あなたの心には、世界を変える力があります。その力を使って、失われた愛を取り戻してください』
「失われた愛?」
『私が愛した人は、もうこの世にはいません。でも、その魂は別の形で存在しています。あなたに、その人への愛を託します』
玲奈は理解できずにいた。でも、心の奥底では受け入れている自分がいた。これが自分の使命なのだ、という確信があった。
『あなたは、愛によって創られた世界を救うことができます。そのために、別の世界に来ていただきたいのです』
「別の世界?」
『エテルナという世界です。そこで、あなたには新しい恋を始めていただきます。失われた愛を取り戻すために』
「うわあああ!」
体が浮き上がるような感覚。重力から解放されて、まるで雲の上を歩いているような感じだった。でも、落下しているのではない。むしろ、上昇している感覚。空に向かって、光に導かれて上がっていく。
玲奈は目を開けようとしたが、あまりの光の強さに目を開けていられない。でも、心の目では周囲の様子がはっきりと見えた。自分が金色の光の中を移動していること、現実の世界から別の世界へと移動していることが分かった。
「これって、まさか...異世界転移?」
玲奈は小説や漫画でよく見るシチュエーションを思い出した。でも、これは現実に起こっていることだった。体のすべての細胞が、それを実感として受け取っている。
光の中を移動しながら、玲奈は不思議な安心感に包まれていた。これは正しいことなのだ、という確信があった。自分が生まれてきた理由、自分に与えられた使命。すべてがつながっているような気がした。
『心配はいりません。あなたは一人ではありません。きっと、素晴らしい出会いが待っています』
神様の声が、玲奈の心を慰めるように響く。
『愛とは何か、真の幸せとは何かを、あなたはそこで学ぶでしょう。そして、あなた自身も真の愛を見つけることができるはずです』
「私も、愛を見つけることができるんですか?」
『はい。あなたの純粋な心なら、きっと本物の愛を育むことができるでしょう。代役から始まった恋が、本物になることもあるのです』
玲奈の心は期待で満たされた。世界を救うという大きな使命と同時に、自分自身の幸せも見つけることができるかもしれない。
光はさらに強くなり、玲奈の意識は次第に遠のいていく。最後に聞こえたのは、神様の温かい声だった。
『頑張って、玲奈。あなたなら、きっとできます』
そして、玲奈の意識は光の中に溶けていった。
神社には、散り続ける桜の花びらだけが残された。風が吹いて、花びらが舞い上がる。まるで、玲奈の旅立ちを祝福しているかのように。
空は再び青く晴れ渡り、雲は何事もなかったかのように流れていく。でも、確かに奇跡が起こったのだ。一人の少女が、愛によって創られた世界を救うために、新たな世界へと旅立っていったのだ。
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