シンデレラになりたい私の話

毬谷 朝一

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海の姫は空を望む

第33話

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「これより儀式を始めます。前へ。」


王城の奥深く、限られた人のみが訪れることの出来る場所に私達はいた。儀式を進める教皇、立太子するソレイユ、王ナルシサスに王妃マリア、そして第二王子である私。


王城の奥深くにあるそこは、城の中だというのにまるで広い洞窟のようだった。

狭いようで広く、薄暗いようで煌めきを放つ不思議な空間は荘厳な教会を模しているようで、中央の祭壇には大きな魔法陣があり教皇が立っている。


祭壇の周りは水に囲まれていて、通路と祭壇だけが水に浮いていた。いや、祭壇も少し水に浸かっている。清らかな湧き水と海の水が混ざった不思議な水で満たされている空間は冷たく恐ろしく、どこか優しかった。


王は右端、王妃は左端、その他である私は は一番奥に立ち、祭壇に繋がる道を進むソレイユを見守る。


頭にルドベキアの冠、立派なマントと長い宝剣を手に堂々と歩を進めるソレイユは、教皇のいる祭壇へ辿り着くと、水の湧き出ている小さな噴水に宝剣を突き刺した。


『王は国の隷なり 我が手に公平 我が手に幸福を 護りが国を治めるように 祝福が国に渡るように 次代を守る盾となろう』


反響するソレイユの声に共鳴するように、水はざわざわと音を立てる。



『『契を結ぶは星と水』』




『『海に願い 太陽を崇めよ』』




『 『 その血に誓いを 』 』




『『覚悟を』』


水の中から聞こえる女性のような男性のような声は、頭の奥まで響いていた。軽やかでいて威厳を感じさせるその声に緊張しながらも、ソレイユは突き立てた宝剣をに指を滑らせ、ぽたぽたと血を流した。その血が水と混ざった時、大きな影が水の中から飛び出し飛沫をあげた。きらりと光が目の前を覆い、思わず目を瞑る。もう一度目を開けた時、影は再び水の中へ飛び込んで姿を見ることはできなかった。


『『誓はなされた 励めよ、水の子』』


大きな声が嬉しそうに響くと、辺りは静寂に包まれた。渦巻いていた濃い魔力はすっきりと消え、ほうっと皆が息をつく。


ソレイユ、王、王妃、教皇、私の順で外に出ると、彼らはすぐにソレイユを取り囲み、口々に褒めたたえながら早足で廊下を進んで行った。私に目もくれず歩いている彼らを祝うように、道中の使用人達は拍手で称えた。


辺りは和やかで暖かな祝福で包まれていた、私を除いて。私に出来ることは、邪魔をせず目立たないよう部屋に戻ることだけだ。


そうっと立ち去る私の背中からは暖かな笑い声が響いていたが、早足でその場から去った。


声をかけられるはずもなく、私はひとり部屋に戻った。
苦しい呼吸は副作用だろうか、それとも存在ごと消されたようなあの空気のせいだろうか。


頭のどこかでそんなことを考えながら、私はこっそりと準備を進めた。我慢していた副作用もそろそろ限界に近い。ふらふらとおぼつかない足元は、今にも倒れそうだ。


外はもう暗い。昼頃に始まった儀式は1時間程に思えたが、半日以上経っていたらしい。
私は夕食もそこそこに、黒いローブを羽織って庭に出た。カッツェからこの貰ったローブは、目くらましの魔法がかかっている。夜闇でこの瞳は目立つので、目くらましの魔法で隠すのだ。


庭に漏れる笑い声は、ソレイユの立太子を祝う食事会の声のようだった。私は聞こえないふりをしながら、こっそりと街におりていった。


夜の街は普段と違う表情を見せていた。昼間の喧騒は少し穏やかに、緩やかな空気をまとっている。もう少しその優しい空気を楽しんでいたかったが、鋭い痛みが私の胸を貫いた。私は急いでジャックとレディが暮らす家に向かう。可愛らしい家にたどり着き、コンコン、と扉をノックするも返事がない。窓から見える部屋の中は真っ暗だ。留守にしているらしい。


きっと迷々亭にいるのだろう。私は荒い呼吸を整えながら、小走りで迷々亭に向かった。


灯りがともっている迷々亭の中からは、懐かしい豪快な笑い声が漏れて聞こえている。私は霞む目でドアノブを掴むと、中へ入った。


暖かな笑い声が私の耳をくすぐる。緊張が解けてほっと息をもらすと、私の体は糸が切れたようにどさりと床に落ちた。


笑い声が止んで、誰かの声が私に向かっているのがわかる。遠くで私を呼んでいる声に返事をしようとするも、喉から漏れるのは声にもならない小さな呼吸だけだった。




ああ、遅かったか。もう、意識が



────────────────────




カランカランと音を立てる迷々亭の扉に意識を向けると、そこには黒いローブを纏った小さな体が荒い呼吸でたっていた。見覚えのある黒いローブは、確かライラがいつも着ていたものだ。


「……ライラか?」


こんな時間にいるなんて珍しい。そう思って椅子から立ち上がったその時、ライラらしき人物はどさりと床に崩れ落ちた。

慌てて駆け寄って体を抱き抱えると、ローブから覗く顔色が酷く悪いことがわかった。


「おい、しっかりしろ。」


いつか見た光景だな、とぼんやり思いつつも、俺は何事かとこちらの様子を見る奴らの方へライラを運んで行った。


「アル、それライラだよね?なんでまた、こんな時間に……」


ヘルが心配そうにライラを見つめている。レディは椅子から転げ落ちそうになりながらライラに近づき、急いで祝福で癒し始める。


「……そうだ、ライラの副作用は普通の薬じゃ治らないんだった……最近来ないから、体に毒が溜まっていたんだろうね。忙しかったのかな?それ以外にも、体にすっごい負担がかかってるよ。……ちょっと休ませてあげた方がいいかも。」



幾分か顔色の良くなったライラに安堵しながら、俺は迷々亭の上にある居住空間にライラを運んだ。ベッドをこころよく貸してくれたリーナに礼を言い、そっとライラを寝かせた。……少し痩せて疲れたような顔で眠るライラの髪を整えていると、レディが下から上がってくる。


「……今日、ここで寝てもいいってリーナが言ってた。皆ここで雑魚寝するつもりらしいよ。……うるさくしたらライラが起きちゃうのに……」


全員ここで寝るつもりなのか。笑いが込み上げてくるのを抑えながら、俺は2階へ上がってくる奴らに向けて呆れた顔を作った。


「あ、明日ライラに花冠渡さなきゃ!作ったはいいけど来なかったから、渡せなかったんだよね!」


ウキウキとした様子のヘルはライラを覗き込んだ。普段はうるさいくらいに騒ぐ奴らだが、今日はライラに遠慮しているようで小声で酒盛りをしている。




「……早く起きるといいけどね。」


寝支度をしながら酒を飲む奴らの音に紛れ、小さな声でカッツェが呟いた。心配そうなその声が、他の奴らと何処か違うことを考えているように聞こえて少し引っかかったが、ヴェレナに絡まれて酒を飲んでいるうちにすぐ忘れてしまった。




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